裁判

2010年7月 4日 (日)

首都圏建設アスベスト訴訟 森裕之教授証言

■建設作業従事者のアスベスト被害

石綿が含まれる建材を使用したことで、石綿疾患(肺がん、中皮腫、石綿肺等)に罹患した建設作業者(大工、配管工、解体工等)が、国と石綿建材メーカーに対して損害賠償を求めた裁判が続いています。東京地裁(1次訴訟、2次訴訟)の合計原告は約300名です。

■森裕之教授の証人尋問

立命館大学の森裕之教授(財政学・都市経済論)に、日本での建設アスベスト被害と国・建材メーカーの責任について証人尋問(120分)が東京地裁で実施されました。

公共経済学の立場から我が国のアスベスト建材の被害拡大と政府と企業の責任について、詳細の意見書を作成していただき、それを踏まえて詳細に証言していただきました。

日本が輸入した石綿のうち7割が建材に使用され、我が国では建設業に大量の石綿疾患被害者が発生していることを数値に基づいて明らかにされています。

■ダブル・スタンダード

特に、アスクなどの日本の代表的石綿建材製造企業が、石綿規制が厳しい海外には、ノンアスベストの製品を輸出しながら、規制がなかった日本では石綿含有建材を従来どおり新製品も含めて販売していることを、会社側の資料に基づき明らかにされました。

アスベスト代替化は可能であり、きちんと公的規制があれば、アスベスト代替品開発を企業に促し、早期の脱アスベスト化は可能であったと証言されました。

この証言には、裁判長や右陪席裁判官が、頷きながらメモをとっていたのが、印象的でした。

■訴訟は中盤の山場を迎えて

泉南アスベスト訴訟で敗訴した国は、3名の証人申請をしてきました。原告側は、後半戦の原告患者・遺族による被害立証にはいっていきます。いよいよ後半戦に入っていくことになります。生存している患者原告も重症の石綿疾患です。一日も早い判決、解決が求められています。

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2009年9月29日 (火)

リゾートソリューション(旧エタニットパイプ) アスベスト訴訟解決

リゾートソリューション株式会社(旧エタニットパイプ)の高松工場で働いた労働者とその家族のアスベスト被害の損害賠償請求事件について、控訴期限の9月28日、解決の合意をしました。双方とも控訴をしないでの解決です。

会社は、高松地裁の判決を真摯に受け止め社会的責任を認め原告ら全員に謝罪をし、和解金(約5億4200万円)を原告らに全員に一括して支払うという内容です。

時事通信記事

http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2009092900996

読売新聞記事

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/kagawa/news/20090929-OYT8T01337.htm

現在の裁判所の損害賠償の水準を踏まえた解決になったと思います。

高松地裁判決は、時効対象となった2名の原告について、会社の時効援用は権利の濫用だとして、時効消滅を排斥して、原告を救済した点では高く評価できます。

ただ、昭和33年以前に退職した労働者については石綿肺の予見可能性がなかったとして、また家族原告らについては、工場からの飛散した石綿粉じんによる健康被害の可能性は否定しがたいといいながら、具体的ば曝露の実態が証拠上明らかにでないとして請求棄却した点は、原告らにとっては当然、不満でした。

しかし、控訴審で争うと、さらに訴訟が長引くことになり、高齢となった原告らの救済が遅れることになります。早期解決を優先しての解決です。1審判決直後に合意による解決ができて、ほんとうに良かったと思います。

原告団・弁護団声明

「seimei09928.rtf」をダウンロード

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2009年9月16日 (水)

リゾートソリューション アスベスト訴訟 9.14勝訴判決 高松地裁

■高松地裁のアスベスト訴訟 勝訴

リゾートソリューション(旧日本エタニットパイプ)の高松工場で働いていた元労働者29名と労働者の妻4名が、アスベスト被害にあったとして会社を訴えた裁判で元労働者25名の勝訴判決が出されました。

昭和33年から、アスベスト(石綿)の危険性は予見できたとして、会社に元労働者に対する安全配慮義務違反を認めました。石綿肺の重傷度(管理区分)に応じて1000万円から2500万円までの損害賠償を命じました。

しかし、昭和33年以前に退職していた労働者4名については請求棄却です。ただ、2名の時効対象者については、会社の時効援用を権利濫用として退けました。

また、4名の労働者の妻が、夫のアスベスト(石綿)粉じんにまみれた作業着を洗濯したことによってアスベスト疾患に罹患したという点は、工場からのアスベスト粉じんによる被害である可能性は否定しきれないが、証拠上は明白でないこと、また、近隣曝露や作業着の洗濯などの間接曝露によって家族に被害がでると予見できる時期は昭和50年だとして、安全配慮義務ないし不法行為責任(民法709条)、工作物責任(民法717条)を否定しました。

不服の点はありますが、集団訴訟で、裁判上の最高水準の損害賠償金額、時効についての権利濫用を認めた点など、画期的な勝訴判決です。

判決要旨

「etapaihanketu090914.pdf」をダウンロード

声明

「seimei09914.jtd」をダウンロード

■会社の責任を断罪と全面解決

29名の原告のうち半数は遺族原告であり、提訴後に患者生存原告のうち4名が死亡されており、生存原告は現在12名となってしまっています。命あるうちの早期の解決をする責任が企業にはあると思います。

命あるうちの早期解決を求めて、判決を契機にして、原告団は全面解決をもとめて要請行動や交渉を続けているところです。一日も早い解決を目指しています。

■ちなみに予見可能性の時期

高松地裁判決は、企業の石綿粉じんの危険性の予見可能性を昭和33年としました。その根拠は当時の労働省が「職業病予防のための労働環境の改善等の促進について」「労働環境における職業病予防に関する技術指針」(昭和33年5月26日付基発338号)を発していたことを根拠にしています。

他方で、戦前からの国の石綿粉じんの危険性を調査した結果は重要としながら、これが公刊されていないことから、企業の予見可能性の証拠としてはできないとしています。他方では、国の予見可能性については、昭和33年より遡ることを示唆していることになります。

国家賠償請求訴訟では、国の予見可能性はもっと早くからということになります。古い時代の国家賠償請求を求めている泉南アスベスト国家賠償請求について、大阪地裁はどう判断するか、注目されます。

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2009年8月 9日 (日)

個別労働紛争事件の増加と民事第1審事件

■労働関係訴と労働審判の新件数

個別労働紛争に関する手続別新受件数が概要が分かりました。
平成20年度(平成20年4月~平成21年3月)には、2417件と平成19年度の1.5倍も増加しています。労働事件が急増しています。

  訴訟 仮処分 労働審判 総数
平成15年度 2443 704   3147
平成16年度 2449 627   3076
平成17年度 2317 626   2943
平成18年度 2006 424 1163 3593
平成19年度 2149 377 1563 4089
平成20年度 2559 458 2417 5434

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■民事訴訟全体の中での労働関係訴訟と労働審判の位置づけ

最高裁は、裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第3回)を発表しています。これを読む機会がありました。

http://www.courts.go.jp/about/siryo/jinsoku/hokoku/03/hokokusyo.html

労働関係訴訟というのは、民事訴訟事件の極く一部でマイナーな件数だと思っていましたが、この報告書を読んで必ずしもそうではないと感じました。

平成20年の地裁民事第1審訴訟の事件数は19万2246件で、そのうち5割近くが過払い金返還訴訟と思われるということです。その過払金等の返還訴訟を除くと8万7256件となり労働関係訴訟は2131件だそうです。売買代金訴訟3139件、交通事故損害賠償訴訟7435件、医療過誤訴訟は955件です。

労働関係訴訟2131件、労働審判2052件を合計すると4183件となりますから、両者を合計すると売買代金訴訟や交通事故訴訟に準じる規模となります。

民事訴訟は、過払金返還訴訟以外は減少傾向にありました。しかし、労働審判手続のように利用しやすい司法手続が導入されれば訴訟事件は劇的に増加するようです。

上記報告書では、医療過誤、建築関係、知財、労働関係の各訴訟類型ごとの概要を掲載しています。これを一般民事事件と比較すると面白い特徴が見えます。4類型とも当事者の対決が激しく、判決(対席)の割合も高く上訴率も高いにもかかわらず、同時に和解率が高いのが特徴なのです。和解率が高いのは、訴訟代理人の存在が大きいのではないでしょうか。

平成20年1月から12月までの地方裁判所の既済事件

訴訟類型 民事第1審
(過払金等以外)
医療
過誤
建築
関係
知財 労働
関係
事件数 87,256 955 23,835 559 2,131
平均審理期間 8.1月 24.7月 15.6月 13.1月 12.3月
審理期間が2年を超える事件の割合 5.8% 41.6% 33.4% 14.1% 8.5%
判決終局事件のうち対席事件の割合 62.2% 98.9% 97.2% 90.6% 89.6%
和解した割合 35.6% 51.1% 40.0% 44.7% 53.5%
双方訴訟代理人事件の割合 39.8% 85.1% 81.5% 73.9% 72.5%
上訴率 14.6% 36.9% 36.5% 41.7% 39.3%
平均期日回数 4.5回 11..8回 10.6回 8回 7.3回
平均争点整理期日回数 2.3回 8.4回 7.2回 6.1回 4.3回
争点整理実施率 37.60% 86.2% 82.0% 73.2% 69.2%
平均期日間隔 1.9月 2.1月 2.1月 1.6月 1.7月
人証調べ実施率 19.5% 60.0% 35.6% 11.8% 39.3%
平均人証数 0.5人. 1.9人 1.1人* 0.4人 1.3人
人証調べ実施事件の平均人証数 2.8人 3.1人 3.0人* 3.2人 3.4人
鑑定実施率 19.6% 4.6%

建築関係の*は、瑕疵が主張されている事件の数値

■労働訴訟は専門的知見を要する訴訟か否か。

司法改革論議の際に、裁判所は、労働関係訴訟は専門的知見が必要でなく、専門訴訟とは言えないと強く主張していました。(したがって、労働参審制等の新しい制度は不要である!)。この点が司法制度改革審議会労働検討会の一つの争点でした。
 しかし、本報告書では、どうやら最高裁も労働関係訴訟も一定の専門性があることを認めたようです。労働訴訟では合理性、相当性等のいわゆる「規範的要件」が問題となり、その前提として、「法令、判例、通達等に関する専門的知識、昇給制度や賃金制度等の雇用に実態等に関するりかいも必要となる。」と既済されています。そして、東京地裁の労働専門部では「専門的知識、審理方法等に関するノウハウが蓄積されている」として、その成果として平均審理期間が短縮していると評価しています。

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2009年7月20日 (月)

制度改革訴訟について(2)-裁判官の視点から

法律時報のつづきですが、「制度改革訴訟と弁護士の役割-裁判官の視点から」を、梶村太市弁護士(元裁判官、元早大教授)が論述されています。

■裁判官の習性

一般に裁判官は、判例学説が固まっていない分野の訴訟類型に対しては、判決による解決には慎重である。いわゆる政策形成訴訟なる概念をそもそも認めたがらない傾向にある。

当然のことながら、裁判官はまず当該事案に当てはまる条文の有無を考え、条文があればその文理解釈を試みる。拡張解釈や類推解釈には慎重である。裁判官はとにかく条文にこだわる習性があることは強調しておく必要があろう。

憲法76条3項は、「裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」としていますから。裁判官は、拡大解釈や類推解釈を、よほどのことがないかぎり、しようとしないというのは実務ではいやというほど感じています。要するに頭が固いというわけです。

■佐藤元判事-「半歩前進説」

佐藤歳二元判事は、「勝つべき者が勝つ民事裁判-事実認定における法曹の心構え」という論文の中で、次のようなことを指摘されているそうです。

現代型の訴訟では、原告弁護団は、「画期的判断を求める」などと主張することが多いが、このように「従来の考え方から一歩も二歩も出てくれ」」と求められても、裁判所はそう簡単に応ずることができないしまた応じるべきではなく、「従来の考え方を前提にして、少し工夫をすればあなたは半歩だけ前に出て行けるはずだ、ぜひ半歩でも出てくれ」という説得をした方が効果的であると論ずる

■瀬木判事-「司法の謙抑」説

梶村弁護士は、「裁判官は一般的に制度改革訴訟を含む政策形成訴訟の対応は慎重であり、そこでは司法の限界を見る見解が根強く残っている」と指摘されてます。その典型例として瀬木比呂志裁判官裁判官の次の論文を引用します。

司法による社会社会的問題の救済は重要であるが、そこには一定の限界もあり、ことに、政治や行政の成熟、それによって実現されるべき広い視野からする社会的問題の規制、調整が伴わないままで司法による救済のみが突出すると、場合によっては社会にいびつな副作用をもたらす危険性もまた存在するということである(「民事訴訟実務と制度の焦点-実務家、研究者、法科大学院生と市民のために」

■弁護士の役割

裁判官が、一般には「司法の謙抑」説をもっており、せいぜい「半歩前進」説の立場にしかたたたないのが現実でしょう。

弁護士としては、そのような裁判官の習性を前提として、法律、判例に則した主張と、事実をあますところなく立証しつつ、制度改革訴訟や政策形成訴訟では、社会運動として判決によって行政や政治を変えるという運動を構築することが何よりも重要な役割になります。マスコミ・世論へのアピール、ロビイ活動を当事者と一緒に実行する力量が重要なのだと思います。

ところで、これらの政策形成訴訟において、もう一つの重大なハードル(障害)は、実は、中央官庁の官僚たちです。

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2009年7月 3日 (金)

制度改革訴訟について

■法律時報81巻8号(2009年7月号)

「制度改革訴訟と弁護士の役割」が特集されています。トンネルじん肺根絶訴訟も弁護団の須納瀬学弁護士が報告しています。

http://www.nippyo.co.jp/magazine/maga_houjiho.html

なお、制度改革訴訟については、以前、政策形成訴訟として取り上げたことがあります。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2007/12/post_f6ee.html

■制度改革訴訟

早稲田大学の淡路剛久教授が社会運動という視点から次の論文で整理されています。

「被害者救済から権利拡大へ」
 - 弁護士による社会運動としての「制度改革訴訟」」

弁護士は、基本的には訴訟活動を中核とし、一方で、世論の支持を背景に、立証活動を通じて勝訴判決を勝ち取る努力をするとともに、他方で、メディアを通じた世論形成、政治家へのロビーイング、立法提案などにより、被害者救済の普遍化、すなわり権利化をはかり、さらに被害の再発防止の仕組みをつくろうとする。これらは訴訟活動であるとともに、「法運動」ないし「社会運動」である。

■制度改革訴訟の歴史

淡路教授は、歴史的に3期に分けて振り返っています。

第1期は、「1960、70年代に展開された四大公害訴訟などの公害訴訟、あるいはスモン訴訟などの薬害訴訟は、被害者の被害を権利として救済することを目指した訴訟・運動」であったとします。(ちなみに、四大公害訴訟とは、熊本水俣病訴訟、新潟水俣病訴訟裁、イタイタイ病訴訟、四日市ぜんそく訴訟です。)

第2期は、「1970、80年代を中心に展開された「新しい権利」訴訟・運動は、環境権、嫌煙権、静穏権、入り浜権、納税者権、そして各種の人格権などの「新しい権利」の生成と確立を目指す訴訟と運動であった」とします。

そして、第3期として、現在があるという整理です。特に、第3期の特徴として、個別の被害から出発して、その権利を実現して制度改革につなげる指向が強くなっていると指摘されています。

第1期の公害訴訟や薬害訴訟のたたかいは、私が弁護士にあこがれた主要な理由でした。大学でも、これらを学ぶための自主的な勉強会が複数あり、弁護士や当事者の話しを聞きに行くという企画もけっこうありました。

■労働訴訟への活用

なお、この制度改革訴訟の取り組みを労働訴訟でも活用すべきです。労働訴訟は、集団的訴訟も、どうしても単産とか、ナショナルセンター別のものになってしまいます。

もっと、争点別の訴訟を幅広く取り組んで社会的にアピールするということに力を入れることも必要です。現在は、メーリングリストやインターネットで、全国的な情報交換が可能です。

同じ争点をもつ事件ごとの情報交換も、全国的な弁護団組織(労弁とか、自由法曹団)のメーリングリストで容易になっています。これらの情報交換や弁護団組織の討議によって、同一争点の訴訟を一斉提訴するなどで工夫すれば、大きな取り組みになると思います。

現に、違法派遣に関する訴訟や、名ばかり管理職などの訴訟で既に実践されつつあります。

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2009年5月20日 (水)

裁判員制度と企業の労務管理セミナー

■東京都労働相談情報センター池袋事務所にて

5月19日、使用者向けセミナーとして、「裁判員裁判と企業の労務管理セミナー」で同テーマについて講義をしてきました。

http://www.hataraku.metro.tokyo.jp/ibento/kyoiku/seminar/09003/index.html

100名くらいの企業の人事担当者の方々が参加されていました。盛況なのにおどろきました。労基法7条、裁判員法100条など基本的なことを解説しました。2時間のうち3分の1は、刑事裁判手続(無罪の推定の原則や検察官の立証責任)や、裁判員裁判の趣旨を話しました。そして、労働者が裁判員になった場合に、企業がどう対応すべきか、次のようなQをたてて話しました。私もこのテーマで話すのははじめてでした。

【Q】選任手続で、当社の労働者は、午前中で終了しました。にもかかわらず、午後、会社に戻らず、帰宅してしまいました。このような場合には、当該労働者を無断職場放棄として懲戒処分してもよろしいでしょうか。
【Q】派遣社員が裁判員で休むと言ってきました。認めなければならないのでしょうか。この場合に使用者は派遣先ですか、それとも派遣元でしょうか。
【Q】有給休暇の取得などの計算にあたって、裁判員裁判で欠勤した日を出勤したものとみなさなければならないのか。
【Q】賞与の出勤率の計算では、裁判員として欠勤した場合に欠勤控除して良いか。
【Q】労働者が裁判員裁判への出頭等の理由を会社に届け出ることは問題ないか。
【Q】裁判員裁判で休むという労働者に対して、裁判員になった証明書を見せろと言ったところ、裁判員法101条で禁じられていると言われたが、呼び出し状や証明を要求してはいけないのか。
【Q】わが社で、鈴木君が初めて裁判員裁判に選ばれました。社長が朝礼で、鈴木は裁判員になって、休むが、立派に務めを果たしてきて欲しいと激励をしたいと言っています。許されますか?
【Q】
裁判員裁判にて欠勤した場合に賃金を支払わなければならないのか。
【Q】当社では裁判員有給休暇制度を定めましたが、裁判員として裁判に参加した証明書の提出を義務づけたいと思いますが、証明書を裁判所は発行してくれるのでしょうか。
【Q】当社では裁判員の有給休暇制度を定めたのですが、労働者は裁判所から日当が出るそうです。有給なので、その日当を会社に納めろと請求しても良いでしょうか。
【Q】また、会社から有給をもらう労働者が日当を得るのは二重取りで許されず、日当は国に返還すべきと思いますがどうでしょうか。
【Q】
裁判員裁判で休暇を申し出た労働者に対して、業務の都合上で裁判員裁判を辞退するようにと指示することができるか。

【Q】労働者が裁判員で裁判所に出頭すると言ってきたので、年次有給休暇の申請をしろと命じたいと思いますが、問題ありませんか。

今日、使用したレジュメです。

「saibanintoroumukanri.doc」をダウンロード

■生協労連の「裁判員休暇制度」の労使協定書

ちなみに、裁判員の特別休暇制度の就業規則もテーマになりました。生協労連が「裁判員休暇制度」の労使協定書(労働協約)の案をインターネットで発表しています。大変に参考になりますので、次をご覧下さい。

http://cwu.jp/assertion-cms/files/2008/11/seisaku_014.pdf

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また、弁護士安西愈先生の「社員が裁判員に選ばれたらどうするか?」(労働調査会)を参考にさせていただきました。

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■無罪の推定

ちなみに、無罪の推定を説明をしたときに使用した図です。これは被告人・弁護側と、検察官を天秤にのせて、どっちの言い分が正しいかを考えるというのでは無罪の推定ではありません。最初から、被告人が無罪というように天秤は傾いています。他方の天秤に検察官が正しい証拠を積み重ねていき、被告人・弁護人が批判をしても、十分な重さがあるかどうかを見極めるのが裁判員の仕事というわけです。

Tenbin2

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2009年2月18日 (水)

東京新聞の「犯罪報道の見直し」

■東京新聞が裁判員裁判実施にあたって犯罪報道を見直す

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2009021502000080.html

東京新聞(中日新聞社)は、今年五月の裁判員制度開始を前に事件報道のあり方を見直し、「事件報道ガイドライン」を作成しました。事件報道の意義を再確認するとともに、可能な限り情報の出所を示すなど記事スタイルを一部修正。バランスの取れた事件報道を目指します。

捜査段階では、「容疑者=犯人」ではないという原則をあらためて確認し、これまで以上に容疑者側の取材に努めて言い分を掲載していきます。
(2008年2月15日)

この事件報道ガイドラインとはどういうものなのでしょうか。被疑者・被告人=有罪視報道を止めるのは当然です。ただ、「容疑者側を取材して努めて言い分を掲載する」というのは少し違うのではないかと思います。双方の言い分を、報道すれば良いというのではないように思います。証拠に基づかない「推測」記事が公判前にあふれかえる事態こそが、裁判員裁判による適正な裁判にとってマイナスになるのではないでしょうか。

なお、公判が開始されれば、裁判の公開が憲法で保障されている以上、法廷での出来事については、マスコミは原則として自由に報道できるのですから。

■捜査機関の情報漏洩に対する規制強化を

現在、警察から漏れた(リークされた)と思われる、被疑者の自供(自白)の有無及び自供(自白)の内容などが詳細にマスコミで報道されます。いわゆるサツ回りという取材からの情報でしょう。多くは、「捜査関係者によると、」という枕詞で報道されていますが、一般には、報道された自供(自白)を真実のものとして受け止めているのではないでしょうか。

しかし、具体的な捜査情報を漏らすことは、本来、公務員の守秘義務に反しています。記者がいろいろ捜査情報をさくぐろうとすることは規制できないでしょうが、この情報源は公務員ですから、守秘義務違反として厳しく追求すべきです。戒告や停職などの懲戒処分の対象とすべきでしょう。特定することは難しいとしても、懲戒処分の対象とすることを鮮明にすれば抑止効果は期待できるでしょうし、情報が漏れた場合には守秘義務違反として警察内の独立した監督機関(監察官)が、関係者に事情聴取すべきです。捜査にもマイナスになるし、そのようなリスクをおかしてリークする者は少なくなるでしょう。

■弁護人の場合は

弁護人も依頼者の秘密について守秘義務を負っています。したがって、担当刑事事件の内容については、原則として公表できません。しかし、現在のように有罪視報道がなされている場合には、被疑者・被告人の利益のために言い分を公表したほうが良いこともあります。このような場合であっても、被疑者・被告人の承諾を得なければ公表できません。被疑者段階、公判が開始された被告人段階の違いもあります。被疑者・被告人の承諾を得ることを前提としても、何をどこまで公表すべきかは、弁護人にとって極めて難しい判断になります。

被疑者・被告人が否認をしている場合には、被疑者・被告人の了承を得た上、言い分を公表したり、また目撃証人を探すために積極的に記者会見をする場合もあります。これは、被疑者・被告人の権利を擁護するための正当な刑事弁護活動です。

時に、マスコミンに注目される事件については、弁護人が取材攻勢にあうことがあります。また、周知のとおり、マスコミや世論から弁護人が激烈な社会的なバッシングを受けることも珍しくありません。

裁判員裁判が開始した場合、社会的に注目される事件につき、マスコミにどう対応すべきか、弁護人は、より慎重に検討しなければならないですね。弁護人が一人だけで判断するのは困難でしょう。複数の弁護人が討議できる体制が必要だと思います。

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2009年2月10日 (火)

信仰と裁判員裁判

■信仰と裁判員との衝突はありそうです

http://www.christiantoday.co.jp/main/society-news-806.html

今年5月21日から導入が始まる裁判員制度について、「さばいてはいけません。さばかれないためです」(マタイ7:1、新改訳聖書)などと聖書に書かれていることもあり、自らの判断が他人の死刑に関与する可能性もある同制度にどのように対応するべきか、キリスト教会では一つの課題となりそうだ。

同制度が宗教界で議論を呼んでいると報じた読売新聞によれば、日本アッセンブリーズ・オブ・ゴッド教団・神召キリスト教会(東京都北区)の山城晴夫牧師は、「様々な考え方があり得るが、非常に重い問題で、すぐには答えが出ない」と回答。まだ、明確な対応の仕方を見出せていないことを語った。

一方、カトリック中央協議会は同紙に対して、「私的な裁きは認められない」との立場を示したが、「法治国家の正式な裁判制度まで否定はしていない」と答えた。しかし、「被告の人権への配慮や国民の十分な理解が必要だと思う」と人権面での配慮の必要性を語った。

実際に裁判員が参加して行われる裁判は今年7月頃から始まる見通しで、同制度により国民が刑事裁判の審理・判決に参加することになる。同制度によって裁判所は今後、原則として裁判官3人、裁判員6人で構成されるようになり、裁判員は20歳以上の有権者から無作為に抽出して選任される。

同紙によれば、国民が刑事裁判に参加するという歴史が長い英国やドイツでは、聖職者の裁判への参加が法律で禁止されているという。一方、日本の同制度を定める「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(裁判員法)」では、宗教上の理由などにより「裁判参加で精神上の重大な不利益が生じる」と判断された場合は、辞退が認められることになっている。

アメリカ人、イギリス人、ドイツ人では、上記の聖書を根拠にして、陪審制や参審制に参加を拒否していないのでしょうねえ。そんな話は聞いたことがありません。キリスト教徒でもいろいろな考えがあるようです。

■法令上の義務と、信仰、思想良心の自由との衝突

この問題は、日の丸・君が代の卒業式等における教職員に対する起立斉唱命令と思想良心の自由の衝突と同じ問題といえます。

裁判員裁判への参加でなく、マリア像を踏めという義務であれば、当然、違憲です。これはマリア像を踏むという外形的行為が、信仰を直接否定する内容をもっているからです。

それでは、裁判員裁判に参加義務についてですが、裁判員裁判への参加義務は、直接的に信仰を否定せよとの内容とはいえません。しかし、上記聖書の一節を根拠とすれば、裁判員裁判への参加拒否は信仰の中核といえますから、その教義に反する行為を義務づけることになり(拒否に刑罰を科することは強制にほかなりません)、憲法20条を根拠に裁判員裁判の参加への義務は、この信者には免除されることになるでしょう。

とはいえ、これは個別の裁判員義務免除ですから、制度として裁判員裁判が違憲となるものではありません。

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2008年11月 2日 (日)

韓国 国民参与裁判について

■韓国 ソウル訪問

P1000015 ソウル中央地方法院

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先日、第二東京弁護士会の会務にて韓国のソウル弁護士会を訪問しました。その機会に、ソウル中央地方法院(=ソウル中央地裁)に訪問して、法院長(地裁所長)、刑事部の主任法官(裁判官)や、韓国の弁護士から韓国の国民参与裁判の実施状況をお聞きする機会を得ました。

■韓国の国民参与裁判

ノ・ムヒョン大統領の下での司法改革作業で施行された陪審制に似た制度です。

9人の陪審員が一般国民から選出されて有罪・無罪を評議した上で、評決する。
裁判官(法官)は、この評議に関与しない。ただし、陪審員が全員一致に至らない場合には、裁判官の意見を聞いた後に、多数決により評決する。
・陪審員は量刑についても評議して意見を述べる。
陪審員の評決(有罪・無罪、量刑)は裁判所を拘束しない。
・裁判所は陪審員の評決と異なる判決をする場合には理由を述べなければならない。
被告人は国民参与裁判か、通常の裁判官裁判を選択することができる。
・参与裁判対象事件は、殺人、強盗、強姦などの重大暴力犯罪と収賄事件等。

陪審員制度に近いですが、評決に拘束力なく、被告人に参与裁判か通常裁判かの選択権が認められることが特徴です。

日本の裁判員裁判は、裁判官と裁判員がともに合議体をつくり評議し評決をします。被告人に選択権がありません。

■韓国国民参与裁判の運用について

ソウル中央地方法院で、法官から次のような説明を受けました。

・韓国では、10月までに全国で46件の参与裁判の判決が出された。
・参与裁判を選択する率は非常に少ない。
・実際には、200件の参与裁判申立がなされ50件が参与裁判となっている(対象外事件の申立だったり、排除されている)。
・今までの46件のうち2件が裁判官が陪審員の評決と異なる判決を下した。
・その2件のうち1件は、陪審員は、3訴因のうち、2訴因を有罪、1訴因を無罪としたが、無罪について、法律の解釈を誤ったとして有罪とした。もう1件は、量刑が重すぎるので、量刑を軽くした。
・控訴率は80%で、破棄率は25%。

■ソウル各裁判所での参与裁判

ソウルは人口約1000万人(韓国の人口は約4800万人)。ところが、ソウルの裁判所(中央、東西南北の5地裁がある)では2件しか参与裁判がない。他の地裁に比較しても、参与裁判率は異常に低い。裁判官は、その原因について、次のように説明していた。

①弁護士は参与裁判について否定的である。弁護士が被告人に参与裁判でないほうが良いと説得して取りさげたケースがある。

②弁護士が参与裁判を嫌う理由としては、手間がかかるからということがある。

③被告人が参与裁判を躊躇する理由としては、量刑が重くなると危惧していると思われる。

■韓国弁護士の意見

ソウル弁護士会の弁護士に、国民参与裁判を被告人が選択しない理由を聞いたところ、次のような感想を聞かせてくれました。

「量刑が重いという不安が大きいために被告人が参与裁判を選択しないのが真相」「弁護士が非協力的なのではない。」そうです。

陪審員の量刑は、それまでの裁判官の量刑よりも重くなることは、裁判所も弁護士も指摘していた。

韓国の弁護士の一人は、「韓国の司法改革は、アメリカ一辺倒で短絡的だ。日本の裁判員裁判は実施まで長期間議論されたが、韓国ではアメリカが陪審制であるということで、一挙に議論もなく導入された。僕は何でもアメリカが良いという改革は反対だ。僕はアメリカは嫌いなんだ」と言っていました。日本の裁判員裁判反対派と同じことを言うので、笑っちゃいました。民族主義者は、どこの国でも一緒じゃあ。

■ソウルの裁判所宣伝ビデオ

ソウル中央法院で、裁判所の宣伝ビデオ(DVD)を見せて貰いました(日本語版)。

国民の皆さま、どうぞ、裁判所にお越し下さい。けっして無駄足だとは感じさせません。心配事を解決する道を提供します。がっかりさせません。

まるで、証券会社か農協の宣伝のようでした。

■日本の最高裁と対称的

以前、労働審判施行にあたって、日弁連が最高裁と協議をしたとき、「裁判員裁判に膨大な宣伝費を投入するのであれば、労働審判ももっと裁判所が宣伝して欲しい」と要請したことがあります。

すると、日本の最高裁担当課長は、「裁判員は裁判所に強制的に来て貰うのであるから理解を促進するために宣伝をする。他方、労働審判は紛争事件であるから、労働審判を宣伝するということは、事件を起こして裁判所に来てくれと言うことになるから、そのような宣伝はいかがなものか。」という旨を答えていました。

「お客さまに満足していただきます。」という感じの韓国の裁判所と、日本の裁判所とは対照的です。ちなみに、今は最高裁は労働審判を注目しているそうです。この手法を一般民事にも導入できないかと考えているのかもしれません。

■韓国の司法試験とサッカー事情

私は、2002年の日韓ワールドカップて韓国で試合を観たことがあります。ちょうど、光州市で、韓国対スペイン戦を観ました。ホン・ミョンボのPKをこの目で観たと、話したところ、韓国の弁護士とサッカー談義と司法試験の話になりました。

今年、「韓国では裁判官任官の7割が女性」であったとのこと。成績順に任官者が採用されるから女性の方が成績は良いから、任官者の7割が女性となるということです。2008年の任官者は、2006年のドイツワールドカップ年の司法試験合格者だとのことです。

韓国の弁護士は、「韓国ではサッカーのワールドカップがあると、男は試験勉強をせずに酒ばっかり飲み、サッカー応援にあけくれる。だから、ワールドカップイヤーは、女性が大量に合格し、必然的に任官者も女性が多くなる」と説明してくらました。

さらに、その弁護士は、「ワールドカップイヤーに司法試験に合格した男はダメだ」というのです。なぜかと問うと、「男の癖に、サッカーを応援しないで、司法試験の勉強をやっているようなヤツはダメ男だ」というのです。(笑い)

やはり、韓国人のサッカー熱はあついです。

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