労働法

2023年4月28日 (金)

フリーランス新法と労働組合



4月28日に参院議員本会議でフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が成立。実効性等にまだまだ課題が多いが、「ないよりまし」で全会一致で成立。第二東京弁護士会の厚労省委託事業の相談も担当しているが、数多くの相談が寄せられている。中出も、運輸業が相談件数がトップだ。

昨日「軽貨物ドライバー」の労働組合の活動家と、新法の成立後の労働組合としての取り組みについて話しあった。軽貨物のドライバーからの相談が増えており、労働組合として新法が活用可能か、労働運動の方向性についてについて意見交換した。

私は、下請会社と業務委託契約書を締結している軽貨物ドライバーのほとんどは、「労働組合法上の労働者」と認められるので、まずは下請会社との間で労働組合の団交権を確立することが必要。軽貨物ドライバーを組織する労働組合として委託者である会社に団体交渉を申し入れて団交での解決を求めるべきだ。


会社は雇用関係にはないとして団交拒否をすることが多いだろう。しかし、労組法上の労働者性があることはINAXメンテナンス事件最高裁判決、ビクターサービスエンジニアリング事件最高裁判決で決着済みだ。

そこで、労働組合としては、フリーランス新法の紛争解決手続ではなく、労働関係調整法に基づいて労働委員会のあっせん、調停の手続を活用するべきだろう。フリーランス新法では個人受託事業者としての個別的解決をするにすぎない。

東京都労働委員会では、あっせん手続は公益委員だけでなく労働委員会事務局あっせん手続も活用できる。ここでは弁護士を代理人につけずとも労働組合主体で手続をすすめられる。このルートでの解決実績を労働組合が積み重ねていこうと。

労働組合は、フリーランス新法を必要に応じて活用しつつ、中心はドライバーを組織して労使関係として解決を目指すべきだ。しかも、労働関係調整法は、労働組合が主体となって調停やあっせんを労働委員会に申請することができ、ドライバー個人だけで手続をする必要はない。この手続で個別事件として解決しつつ労働組合としての解決実績をつくることができる。

そして、IT技術を活用した業務遂行上の指揮監督関係があるケースがあれば、労基法上(労契法上)の労働者性を認めさせる訴訟提起を含めて取り組みを強化しよう。

さらに下請会社だけではなく、大手元請、ヤマトやAmazonを相手に使用者性を認めさせ、最終的には労働協約締結まで目指す。ヨーロッパの労働運動はそこまで戦っている。

軽貨物ドライバーを含めた「労基法上の労働者性」の確立のための法改正は、このような労働運動の強化と全国的な軽貨物ドライバーの労働組合を強化した先にあるはずだ。
労働組合の意識的、全国的な取り組みを期待したい。

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2023年4月13日 (木)

「労働市場仲介ビジネスの法政策 濱口桂一郎著

ハマチャンこと濱口桂一郎さんから、「労働市場仲介ビジネスの法政策-職業紹介法・職業安定法の一世紀」(JILPT 労働政策レポート14)を送ってもらいました。

労働者側の実務弁護士には余りなじみのないのが職業紹介法などの労働市場法です。こういうと派遣労働者の相談にのっている労働側弁護士に怒られるけど、「労働市場法全体」として法政策をどう考えるかというのはなかなか発想として出てこないのが私です。

職業紹介というと、昔のエリア・カザン監督でマーロン・ブランド主演の映画「波止場」でのマフィアが港湾労働者を職業紹介(手配師)で支配していた悪役、日本だって人買い、手配師でたこ部屋、中間搾取の悪の権化というのが昭和までのイメージでした。

ところが、この規制緩和の時代には、労働市場仲介ビジネとして昇竜の極みで、労働仲介ビジネスとして大変な事業規模を誇るようになったとの認識しかありませんでした。

 

お送りいただいた本は393頁に及ぶ大著。とても読めないですが、最後に今国会で成立予定のフリーランス新法との関連が触れられていました。

同法12条で「募集情報の的確な表示」つまり「虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示はしてはならない」が入ったことが指摘されています。特定業務委託事業者(=仲介ビジネス)に募集情報の的確性を義務付けて、厚生労働大臣が指針を示し、違反した場合には適当な措置をとることができる。

これは新しい情報社会立法として注目すべきとのことだそうだ。

実務法律家としては、私法的効力はない業法という性格だろうと考えるので、さて今後どう活用できるか、と考えてしまう。ただし、厚生労働大臣の枠内での紛争あっせん手続においては、解決の基準として生きることにはなるのでしょう。

 

 

 

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2023年2月26日 (日)

「フリーランス保護法」案の国会上程

以前から注目してきたフリーランス保護法案が2月24日に国会に上程されました。

https://www.cas.go.jp/jp/houan/211.html

「フリーランス」を「特定受託事業者」と名付けて、次のように定義しています。

特定受託事業者とは、業務委託の相手方である事業者であって、
①個人であって従業員を使用しないもの
②法人であって一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの

 特定受託事業者で、事業者と定義することの問題点について去年10月のパブコメのときに指摘しました。懸念は、この法律で「特定受託事業者」であるとされた個人は、あるいは特定受託事業者であるとして公正取引委員会や厚生労働大臣に申し出た個人が、「労働者ではない」とされてしまうのではないかという点です。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2022/10/post-57c1d9.html

実務的には、それぞれ別概念であって別の行政機関が法適用の可否を別個に取り扱い、法適用を判断するので問題ないということになるのかもしれません。しかし、労基法上の労働者としてハードルがあると、易きに流れて、「ではフリーランスで」ということにならないのかが心配です。

とはいえ、この新法は是非必要だと痛感します。

フリーランス・トラブル110番(厚労省委託事業)の相談を担当すると、「これは労基法上の労働者だ」と思う相談も多くありますが、労働法を私が有利に解釈しても、労基法上の労働者とは言えないケースも珍しくありません。労基署が労働者ではないので賃金未払い労基法違反で指導できないといったん言われ110番を紹介されて相談する人も多い。じゃあ民事で裁判所に少額訴訟や本人訴訟を、といってもフリーランスの個人で訴訟を出すのも難しい。それでフリーランスのトラブル110番に相談して、和解あっせん手続の利用が急増している。

さて、この法案では、公正取引委員会だけでなく、厚生労働大臣(実際は都道府県労働局)も勧告、命令などができる。命令に違反した場合には罰則もあるものです。厚生労働大臣の管轄になるというのは画期的だと思います。

規制内容は大別すると「取引の適正化」と「就業環境の整備」です。

「取引の適正化」

(1) 給付の内容等の明示(3条)
  給付の内容、報酬額等を書面又は電磁的方法により明示しなければならない。

(2) 報酬の支払期日設定(4条)
 特定業務委託事業者は給付を受託した日から60日以内に報酬を支払わなければならない。再委託の場合には、発注元から支払いをう ける期日から30日以内)

(3)  遵守事項(5条)
① 特定受託事業者に責めに帰すべき事由がないのに給付の受領拒絶
② 特定受託事業者に責めに帰すべき事由がないのに報酬額を減ずる
③ 特定受託事業者に責めに帰すべき事由がないのに返品すること
④ 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を定めること
⑤ 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制させること
⑥ 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
⑦ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること

「就業環境の整備」

(1) 募集情報の虚偽表示等の禁止(12条)
(2) 育児介護の配慮義務(13条)
(3) ハラスメント行為に係る相談体制等の措置義務(14条)①セクハラ、②マタハラ、③パワハラ等
(4) 継続的業務委託を解除する場合30日前予告及び理由の開示義務(16条)
  ※契約期間満了後の更新しない場合も含む

 今まで「真のフリーランス」(労働者とはいえない場合)の保護法がなかったのですから、十分でないとはいえ上記の遵守事項等が定められることは大きな前進です。特に、報酬の60日以内支払いや解除(更新拒否含む)の予告や理由の開示は紛争解決の手がかりになります。しかも、厚生労働大臣の管轄になっているのは大きな前進だとおもいます。全国の労働局が対応することになるからです。「事業者」だけど、特定受託事業者の対応を労働局ができるという道が開けたことになります。

 とはいえ、厚生労働大臣が扱うものは「就業環境の整備」であって、募集情報の虚偽表示等、ハラスメント、解除の予告については勧告ができる(育児介護の配慮義務13条は除外)。ただし、勧告違反者に対する命令についてはハラスメント(14条)が除かれているようだ(19条)。

 これは育児介護休業やハラスメントは労基法上の労働者が前提となっているから、厚労大臣は手を出さないということでしょうかねえ。でも12条や16条は勧告するということであれば、これを除外する必要はないように思います。「遵守事項」についても、厚生労働大臣(労働局)も取り扱うようにしても良いと思います。

 

  これから国会での審議が行われるわけですが、労基法上の労働者性に範囲を狭めることがないように運用するなどの答弁での歯止めを獲得するなり、実効性を高める方策を強化するなど、より良い法律になるように国会議員、労働組合や関係団体が頑張らなければならないと思います。

 

 

 

 

 

 

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2018年10月 7日 (日)

働き方開殻関連法の労組向け学習会(出版労連)

 先日、出版労連の秋季年末闘争権利討論集会にて「働き方改革法で労働時間短縮は可能か-労働運動の課題」ということで話をしてきました。参加されていた北健一さんに1時間の講演を要領よくまとめてもらいました。出版労連の機関誌10月日に掲載されています。私が手を加えたものを掲載しておきます。

 「働き方改革関連法」というと、「過労死推進の高度プロフェッショナル制度」や「過労死許容水準の上限規制」という問題点が指摘されて、弊害のみが注目されました。成立前は、よりよい立法を求めるために当然のことです。

 しかし、問題点もあるが、成立してしまった以上、労働条件改善のために役立つ部分を労働組合いは、最大限活用して、労働時間短縮を目指すことが本来の任務だと思います。往々にして「悪法だ」と決めつけてしまって内容をよく見ないという傾向の労働組合を散見します。

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出版労連学習会 働き方改革関連法にて「労働時間短縮」が実現できるか。

「働き方改革」と労働組合の課題    弁護士 水口洋介

 「働き方改革」法案は6月29日、残念ながら大きな問題を含んでまま国会で成立しました。一番大きい問題は高度プロフェッショナル制度(高プロ)という「働かせ方放題」の制度が入ったことです。他方、今日はふれませんが、いわゆる同一労働同一賃金の原則、正確には「雇用形態による不合理な格差是正」も法律に含まれ、これは活用できる点もあります。

 立法趣旨である「長時間労働の是正」という目標は正しいですし、実現を促進すべきものですが、法律の内容は微温的かつ実効性に乏しいものです。ただし、問題点はあるが、活用できる部分がある。少しでも使える法律が成立したら、使えるものは積極的に使い、悪い部分は職場への導入を阻止して、職場での働き方の改善を進めるのが労働組合の任務です。

 

 政府は、日本も時短が進んで1800時間未満を達成したと言いますが、これは実態にあっていません。先日亡くなった関西大名誉教授の森岡孝二先生も『働き過ぎに斃れて』で書かれているように、正社員の労働時間の実態は不払い(サービス)残業も加えると年2000時間を大きく超える長時間労働が続いています。こちらが実態です。

新自由主義の経済学者らは、「高プロは、時間ではなく成果を基準にした新しい賃金制度だ」と言います。その根本にある発想は、労働者が残業代欲しさにダラダラ残業しているから、長時間労働が是正されない。そこで、高プロを導入して、労働時間を長くしても残業代がなければ、無駄に残業をせず、労働時間が短縮されるというものでしょう。

しかし、残業が発生する原因を労使にアンケート調査した結果は、労使とも、①顧客の臨時的な、過剰な要求に対応しなければならない。②業務量に対して人員が不足している、と答えています。つまり、労働者が残業代欲しさにだらだらと残業することが原因だとは、労働者のみならず、使用者も言っているのです。この①と②とを何とかしないと、企業間競争、労働者間競争のなか、長時間労働にまい進せざるを得ない。


 私は1986年に弁護士になりました。そのころから長時間労働は変わっていません。NHK出身の放送ディレクター、熊谷徹さんの『ドイツ人はなぜ、1年に150日休んでも仕事が回るのか』によると、ドイツでは1日8時間の原則が厳格で罰則が厳しい。

 ドイツでも昔から短かったわけではありません。1970年代に労働運動がストも含めて週40時間制を獲得。1985年には金属産業の産別IGメタルが大闘争をして、週38時間制を獲得します。産別が強く、労働協約で獲得しているのです。法律では週48時間で、一日最大10時間まで上限(6ヵ月でならして8時間になることが必要)です。この場合には一日2時間の残業は許されます。また、勤務間インターバルが11時間と設定されています。

 このような働き方は、消費者や顧客にとっては不便ですが、顧客も我慢する。それはお互いさまだからです。「短時間労働でいい、人生の意味は休暇にあるんだ」という価値観が浸透しているのです(ただ抜け道はあって、フリーの独立契約者に外注し、そこにしわ寄せがいっているようですが)。

 日本には、ドイツのような強力な産別労働組合はありません。そこで、法律規制を行うことが重要です。そこで、今回の法改正です。これまでは36協定を結びさえすれば、上限を何時間にしようと罰則はありませんでした。それが36協定を結んだ場合の「残業の上限」が「原則月45時間、年360時間」となりました。「年720時間以下、単月100時間未満、複数月平均80時間以下」を上限に特別条項を結べますが、これの特別条項は、通常想定されない臨時的な事情などの「特別の例外」の場合です。

出版業界では、教科書改定期の繁忙さや雑誌発行に伴う〆切り間際の忙しさの実情を聞きました。労働者の側には36協定を締結する義務はありません。拒むこともできる。それを〝武器〟に会社と交渉し、働き方の改善を進めていくことが必要です。

労働時間の把握を客観的に(タイムカードやパソコンの起動の記録等)行わなければいけないということも、労働安全衛生法改正で入りました。自己申告制など労働時間把握がルーズなら、労使で協議して客観的な方法に改善すべきです。勤務間インターバル制度は法律上、努力目標ですが、運用として許容されている職場は多いと思うので、労使で合意し制度化することが推奨されます。


 年次有給休暇の使用者(会社)による付与制度もできました。現状の日本では、6ヵ月間継続勤務し労働日の8割以上出勤すると10日間の有給休暇が与えられ、就職から66ヵ月で上限の20日間になりますが、取得(消化)率は47%にとどまっています。



 今回、
10日以上の年次有給休暇が残っている労働者に、毎年5日間、使用者が有給休暇をいつ取るかを指定することができるようになりました(使用者の時季指定義務、労基法39条7項)。来年の4月1日施行なので、組合は各職場の希望を集約し、会社が一方的に指定するのではなく、労働者の希望を踏まえて指定するよう取り組まなければなりません。


 高プロの対象業務は今後省令で決まりますが、研究者、金融アナリスト、ディーラーなどが挙げられ、出版のなかには入ってこないんじゃないかと思っています。高プロ導入には労使委員会の5分の4の賛成が要件なので、組合が委員を送り込んでいれば阻止できます。ただ今後、対象業務が広がり、年収要件も引き下げられる恐れがあります。



 限界はさまざまありますが、「働き方改革関連法」は使える部分もあり、どう活用するかはそれぞれの労働組合の努力にかかっています。法律内容を確認した上で職場の実情にあわせて適用させ、時短に向けての業務の在り方を工夫し、少しでも労働時間を短くする方策を労使で検討しなければなりません。
36協定の内容、有休指定のあり方、インターバルの導入、この秋から19春闘にかけ、一つでも成果を獲得していきましょう。

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2018年6月 6日 (水)

改正民法「消滅時効」見直しと年次有給休暇請求権の時効

 現在の労基法115条は、この法律に規定する賃金その他の請求権は2年間で時効消滅する(ただし、退職金は5年間)と定めています。

 改正民法では、短期消滅時効(給料は1年)が廃止され、消滅時効期間10年は「主観的時効5年、客観的時効10年」に変更されます。労基法115条で定める2年の消滅時効より短縮されてしまいます。そこで、労基法115条の見直しが検討されています。
 この問題については以前にも次のブログに掲載しました(長文)。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2018/02/post-6a29.html

 私の意見は次のとおりです。
(1) 賃金及び退職金債権などの賃金請求権については、改正民法166条1項のとおり、「権利を行使することができることを知った時から5年」(主観的時効5年)、「権利を行使することができる時から10年」(客観的時効10年)と労基法で定めるべき。
(2)  しかし年次有給休暇については、改正民法を適用するのではなく、労基法115条を改正して従前の消滅時効を2年間とすべき。

 ところが、労基法115条そのものを削除すべきとの意見が出されています。

■労基法115条削除論

 その意見は、「労基法115条をすべて削除して、改正民法の消滅時効の定め(166条1項)を適用すべきであり、その結果、年次有給休暇請求権も主観的時効5年とすべきであるというのです。

 しかし、この問題は、次の二つの観点から議論すべきです。

 第1点は、純粋に民法解釈の問題として、年次有給休暇請求権に改正民法166条がそのまま適用されると解釈できるか、という点です。

 第2点は、年次有給休暇の完全取得を促進する観点にたって、年次有給休暇が5年間行使しなければ消滅しない(5年間繰り越しできる)としたほうが労働者は年休を完全取得するようになるか、という点です。こちらが本質的な問題ですが。


■民法解釈として

 労基法39条に定める年次有給休暇請求権(年休権)の法的性格は、最高裁判所判決(最高裁昭和48年3月2日-林野庁白石営林署事件)により、次のように解釈上確定しています。

① 労基法39条所定の要件が充足されたときは、労働者は当然に年次有給休暇の権利を取得し、使用者はこれを与える義務を負う。

② 使用者に要求される義務とは、労働者がその権利として有する有給休暇を享受することを妨げてはならないと不作為を基本的内容とする義務にほかならない。

③ 労基法39条3項(現行法5項)の「請求」とは、労働者が年休をとる時季(時期)を指定したときは、使用者が時季指定変更権を行使しない限り、時季指定によって年次有給休暇が成立し、当該労働日における就労義務が消滅する。

 つまり、労基法39条5項の「請求」とは、年休の時季を指定する権利(時季指定権)にほからないと解釈されています。

 この意味での「時季指定権」とは、債務者に一定の義務を負わせる「債権」ではなく、意思表示によって一定の法律状態を形成をする権利(「形成権」)であると解釈されています(菅野和夫教授など通説)。

 時季指定権が「形成権」だとすると、改正民法166条1項ではなく、同条2項の「債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間」が適用されることになります。しかし、20年も年休権が消滅時効にかからず繰り越しされるという極めて不合理な結果になります。

 ですから、「労基法115条を廃止して、改正民法を年次有給休暇請求権に適用すれば良い」という単純削除論は、解釈としては少し乱暴です。しかも、労基法39条違反は罰則規定(労基法119条1号)が適用されるので、年休権の消滅時効が民法解釈では一義的に定まらない(166条の1項なのか、2項なのか)ことは不適当です。なぜなら、罰規定の明確化の要請(罪刑法定主義)に反します。

 したがって、労基法115条を単純に削除するのではなく、労基法115条を改正民法にあわせて、賃金等の債権は主観的時効5年、客観的時効10年と定めて、年次有給休暇請求権の消滅時効期間を明確に労基法で定める必要があると思います。


■年休の消滅時効5年が完全取得を促進するのか否か

 次に、年次有給休暇の時効を5年等と長期化しても、年休を取得しにくい職場にしているのは使用者側なのだから、消滅時効の長期化の不利益を使用者は甘受すべきであるとの意見があります。

 確かに、年休がとりにくいのは、年休を取得する就労環境を整備していない使用者側に大きな責任があります。しかし、有給の消滅時効期間を長期化(5年の繰越し)を認めたとしても、今の日本の現状では完全取得は進まないように思います。

 逆に労働者側が「5年の繰越しが認められるのだから、今年、取得する必要はない」と考えて、年次有給休暇をその年に消化をせず、翌年に繰り越してしまい、結局はとれなくなるだけではないでしょうか。これではその年に有給休暇を消化するという年次有給休暇制度の原則に合致しないことになるのではないか。

 年次有給休暇の完全取得が進まない大きな理由の一つは、労働者が病気になったときのために年休を確保しておくからです。ですから、有給完全取得を推進するためには、ヨーロッパのように有給の病気休暇請求権(病休権)として年5日程度を法律で設けるべきです。

 また、ヨーロッパ諸国では、労働者の意見を聴取しつつ休暇の付与時期を決定する権限と義務を使用者に課しています。今後、日本でも病休権を認めて、欧州のような仕組みに変更する必要があると思います。

 以上の理由で、私は年次有給休暇請求権については、労基法115条削除ではなく、この条文を見直すことが必要だと思います。それを、2年とするのか、5年とするのが適切なのか、労働者や労働組合の意見を聞いて検討すべきでしょう。

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2018年4月24日 (火)

野川忍教授「労働法」

明治大学の野川忍教授から新著「労働法」(日本評論社)を送っていただきました。

ありがとうございます。

本文1051頁の大著です。
債権法改正から、労契法20条の最新の判例(大阪地裁 日本郵便労契法20条事件)まで網羅されています。

「はしがき」に、政策の理論的基盤を提供し、これに精緻な解釈論を加える政策法学としての体系書と、憲法の理念に立脚して労働者の権利擁護を重視する理念法学の流れの中で、本書は「マージナルポジションにある」とされています。

「労働法の生成」の章で、「資本主義の成立と労働関係」の説明の中で、イギリスの工場制生産体制の確立の中で、エンゲルスや、ロバート・オーウェン、サンシモン、マルクスの名前が出てきて、注に廣松渉が引用されているのは、労働法の教科書としては珍しいです。

知人の町田悠生子弁護士が協力者として名前があげられています。




https://www.amazon.co.jp/%E5%8A%B4%E5%83%8D%E6%B3%95-%E9%87%8E%E5%B7%9D-%E5%BF%8D/dp/4535523088/ref=pd_lpo_sbs_14_img_0?_encoding=UTF8&psc=1&refRID=AS6PDD9WT8SBG0ZMRS6Q

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2018年2月22日 (木)

日本郵便(労契法20条)事件 大阪地裁判決

■大阪地裁平成30年2月21日判決 勝訴
 東京地裁判決に続いての大阪地裁での労働者勝訴判決です。
https://www.asahi.com/articles/ASL2P5SDFL2PPTIL026.html

 東京と大阪の原告は違いますが、郵政産業労働者ユニオンの組合員らが原告で、労働組合が運動として総力をあげて取り組んでいる裁判です。


■「扶養手当」請求を認めたインパクト
 大阪地裁判決の最大の特徴は、「扶養手当」の有期社員への不支給を労契法20条違反として違法と判断したことです。東京地裁では原告に該当者がいなかったので請求していませんでした。
 しかも、配置転換などの異動の範囲が異なる正社員との間で比較しても、不合理で違法となるとしています
 この判決は、日本郵便に働く有期契約労働者だけでなく、他の民間企業で働く有期契約労働者にも当てはまるものです。多くの民間企業で、扶養手当、家族手当を支給しています。労働者の生活保障をはかる趣旨です。ですので、この判旨が確定すれば、扶養手当や家族手当については正社員だけでなく有期契約労働者にも支払うべきことになります。


■年末年始勤務手当、住居手当、扶養手当の「全額」支給
 大阪地裁判決は、年賀状配達する年末年始勤務手当も全額の支給を命じ、住居手当は新人事制度導入から不合理な格差だとして全額の支給を命じています。他方、東京地裁判決は、年末年始金手当と住居手当について、8割、6割の損害しか認めなかったのですが、全額を損害として認めています(東京地裁では扶養手当は該当者がいないので請求していなかった)。
参考:東京地裁判決について
http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2017/09/post-c586.html


■「比較対象正社員」について
 大阪地裁判決の特徴的な判断理由部分は次の部分だと思います。
 有期契約労働者と比較対象すべき正社員について大阪地裁判決は次のように述べます。
「同一の使用者に雇用される無期契約労働者の中に、職務の内容等が異なる複数の職員群が存在する場合において、有期契約労働者と無期契約労働者の中のある職員群との間で労働条件んの相違が不合理ではないときであったとしても、別の無期契約労働者の中の職員群との間で期間の定めがあることによる労働条件の相違が不合理であるならば、当該労働条件の相違は同条の反することになると解される。したがって、有期契約労働者の側において、必ずしも同一の使用者に雇用される無期契約労働者全体ではなく、そのうちの特定の職員群との間で労働条件に不合理な相違があるか否かも検討することも可能である。」
 つまり、比較すべき正社員は、有期契約労働者が主張する一定の職員群との比較で検討することが可能であるとします。東京地裁判決は、同旨ですが、有期契約労働者が主張する「類似した職務を担当する正社員」と比較すると述べていました。
 大阪地裁判決は、これに続けて
「もっとも、労契法20条は、不合理性の判断における考慮要素の一つとして『職務の内容及び配置の変更の範囲』を挙げているところ、職務の内容や配置の変更の範囲があり得る労働者の労働条件については、必ずしも現在従事している職務のみに基づいて設定されるものではなく、雇用関係が長期間継続することを前提として、将来従事する可能性があるであろう様々な職務や地位の内容等を踏まえて設定されている場合が多いと考えられるから、そのような場合に単に現在従事している職務のみに基づいて比較対象者を限定することは妥当ではなく、労働者が従事し得る部署や職務等の範囲が共通する一定の職員群と比較しなければならないと解される。」
 このような観点に基づいて、転居と伴う配転がなく、主任以上への昇格がない新一般職制度が導入される前は、配置転換や昇任昇格があるとされた旧一般職(職種)と比較すべきであり、新一般職制度が導入された平成26年4月1日以降は、新一般職と比較すべきとしました。


■「正社員の長期雇用を図るインセンティブ」について
 東京地裁は、正社員を優遇することで有為な人材の長期的確保を図る趣旨や、長期雇用へのインセンティブを付与することを、その他の事情として取り上げて、それを根拠に損害賠償を6割や8割に減額しています。
 これに対して、大阪地裁判決は、次のように修正しています。
「被告が主張するような正社員の待遇を手厚くすることで有為な人材の長期的確保を図るという事情も相応の理由がある」としながら、年末年始勤務手当の支給の趣旨目的の中では飽くまで補助的なものに止まる」と排斥しています。住居手当についても、」「被告が主張する長期雇用へのインセンティブという要素や社宅に入居できる者と入居でなきない者との処遇の公平を計る要素などが存在することも否定できない」としつつも、「住居手当が支給される趣旨目的は、主として、配転に伴う住宅に係る費用負担の軽減という点にあると考えられ」「新一般職は、本件契約社員と同様に、転居を伴う配転が予定されていないにもかかわらず、住居手当が支給されていること」から、有期契約労働者への住居手当の不支給を違法としました。

 扶養手当については、「労働者及びその扶養家族の生活を保障するために、基本給を補完するものとして付与される生活保障給としての性質を有し」「職務の内容等の相違によってその支給の必要性の程度が大きく左右されるものではないこと」などから、「歴史的経緯等被告が挙げる事情を考慮しても、正社員に対してのみ扶養手当が支給され、原告ら有期契約労働者に支給されないこという相違は不合理といわざるを得ない」
 他方、大阪地裁判決も、夏期年末手当(いわゆる賞与)については、正社員へのインセンティブを持つものとして、使用者側の裁量が広いとして、格差の不合理性を否定しています。


■「格差全額」の損害認定について

 大阪地裁は、年末年始勤務手当、住居手当及び扶養手当の不支給を不合理な労働条件んの相違として、「これらが支給されてにないこと自体が不合理であり、不法行為を構成する」として、「支給額に相当する損害が生じたものと認める」として、全額を損害としました。
  民法709条は、不法行為責任を「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と定めています。労契法20条は、不合理な労働条件の相違を禁止しているのですから、有期契約労働者の労契法20条によって保護された利益を侵害されたことは明らかですから、不法行為責任を全額認めるのは当然でしょう。


■大きな「追い風」
 東京地裁判決に対しては、原告と被告双方が控訴して、現在、東京高等裁判所にて審理中です。次回の4月の期日で結審する予定であり、遅くとも夏頃には高裁判決が言い渡されると思います。労働者側にとって、大きな弾みがつきました。
 それだけでなく、有期契約労働者の格差是正にとっって大きな追い風になります。これも労働組合のとりくみがあってこそです。

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2018年2月 3日 (土)

賃金等請求権の消滅時効の在り方について

 現行民法(債権関係)は改正されて、2020年4月1日から施行されます。最も大きな改正点は消滅時効の改正です。
 厚生労働省労働政策審議会の「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」第2回(2018年2月2日)にて労使法律家のヒアリングがあり、労働者側として私も意見を述べてきました。
  http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000189823.html
 
 当日の議事録は後日、公表されますが、当日の私の意見原稿を下記に掲載しておきます。
(前提/問題の所在)
 民法の一般債権は、今までは「債権者が権利を行使することができる時から10年」で時効消滅しました(旧民法166条)。しかし、今回の改正で次のようになります。
  ■改正民法166条
  ① 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
  ② 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
 ①は、知ったかどうかが起算点なので「主観的時効「、②を「客観的時効」といいます。要するに、知ってから5年で時効となるという新しいルールが導入されます。
 旧民法では、給料は短期1年で時効で消滅するとされていました。
  ■現行民法174条3号 短期消滅時効
   月又はこれより短い期間によって定めた使用人の給料に係る債権
 この短期消滅時効は廃止されます。
 この旧民法時代、1年では短すぎるとして、次のとおり労働者保護のために労働基準法は給料の時効を2年(退職金は5年)としていました。
  ■労働基準法(時効)
  第115条 この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
 
  ところが民法改正により、労働者保護の労基法(時効2年)より、民法の時効制度(5年、10年)の方が長期化して、労基法の方が2年の短期消滅時効としており、労働者の保護にかける状態が生じる(逆転現象)。さて、労基法115条をどうするか。
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はじめに結論を申し上げます。
 労働基準法115条につては、この法律に定める請求権の時効は民法による。ただし、年次有給休暇請求権についての時効は2年とするとすべきと考えます。
 以下、理由を述べます。
第1 給料の時効期間について
      旧民法174条3号によると給料は1年の短期消滅時効になります。しかし、労基法115条は、労働者保護の観点から、2年に延長しています。これは工場法が災害扶助の請求が2年であったことにあわせたようです。
 
   民法の短期消滅時効制度の廃止が、法制審の審議を経て民法が改正されました。
   結果、賃金請求権も一般債権として、主観的時効5年、客観的時効10年となり、労働者保護法の労基法115条の方が短期という「逆転現象」が生じます。
      労基法115条をどう改正すべきか。
 
   まず、民法の短期消滅時効廃止の理由を確認しておくことが重要です。
 
    民法改正法制審部会の審議によれば
   職業別の3年、2年、1年の短期消滅時効の区分を設けることの合理性に疑問がある。実務的にも、どの区分に属するか逐一判断しなければならず煩雑である上、その判断も容易でない例も少なくなく、実務的にも統一的に扱うべきである(法制審部会資料14-1の1頁)。また、職業別の区分については身分の名残ともいうべき前近代的な遺制であるとの法制審部会討議でも指摘されていた(法制審部会討議第12回6頁)。
 
 さらに、もともと旧法の短期消滅時効は、立法論として批判が強かった制度です。
      我妻榮教授は、昭和40年発行の「新訂民法総則」の教科書で、
 
    「これらの債権者にとっては、少額の債権について現在の煩瑣な裁判手続を利用することは、極めて困難であるだけでなく、これらの債権者中には資力が乏しいため、現在のように多額の出費を要する裁判手続に訴えることの不可能な者も少なくない。現在の訴訟手続は、実際上、多くの無産階級の者から権利保護の機会を奪っていることは否定すべからざる事実であって、時効に関してだけいうべきことではない。しかし、短期消滅時効制度において、とくにその感を深くする」
 
     つまり、社会的弱者の保護にかけるという指摘です。この我妻教授が指摘される実情は、現在においても大きく異ならないというべきです。労基法115条の改正についても、この権利行使の障壁の格差、社会的弱者の保護を念頭において検討すべきなのです。
 
第2 退職金請求権について
 
   退職金請求権については、旧民法では同法174条3号に当たらないから、原則10年の消滅時効期間と民法では解釈さることになりますが、最高裁判所判決(昭和49年11月8日-九州運送事件・判例時報764号92頁)により、労基法115条の適用されると解釈されました。
 
   しかし、退職金請求権については2年では短すぎると批判が強くあり、退職金が高額で支払いに時間がかかる場合があることや労働者の請求も容易でないため、昭和62年に労基法が改正されて5年に延長されました(昭和63年4月1日施行)。
 
   期間が5年とされたのは、「中小企業退職金共済制度による退職金や、厚生年金保険法による厚生年金基金制度による給付の消滅時効が5年であること」が参考にされた(平賀俊行・改正労働基準法298頁)。平賀氏は、労働省労働基準局長をつとめた方です。退職金請求については、毎月支払われる給料よりもより時効期間を長期として保護しようというのがその趣旨であったことが重要です。民法より、短い消滅時効期間を定めることができるという趣旨と理解すべきではありません。
 
   したがって、今回の民法改正により、主観的時効5年、客観的時効10年とされたことから、退職金請求権についても、その労働者にとって老後の生活を支える重要な生活の糧であるから、この改正民法を適用するのが労基法の趣旨から見ても当然です。
第3 起算点問題について(主観的時効と客観的時効の二本立て問題)
      次に起算点について意見を述べます。主観的時効の起算点と客観的時効の起算点の二つになることの問題です。
    今回の民法改正の特徴は、主観的時効と客観的時効の二本立てにしたことです。この二本立てにすることについては、法制審部会において、その適否について相当な議論がなされています。最終的に主観的時効5年の二本立てにすることでまとまり、国会で成立したものです。この点ついては、法制審部会の議論を確認することが重要です。
 
  法制審部会では、短期消滅時効の廃止に伴い、すべての債権につき消滅時効期間を一律10年とすることは、債務者にとって長すぎて酷な結果となるため、主観的時効5年を挿入して債権者(権利者)の利益との調整を図ったものです。この議論に当たっては、主観的時効の起算点(権利の行使をすることができることを知った時)の意義と、客観的時効の起算点の二つになることの不安定さが問題として議論されています。
 
  この主観的時効の起算点の意義については、次のようにまとめられています。
 
  中間試案では、「債権発生の原因及び債務者を知った時」とされていたが、「権利を行使することができることを知った時」に変更された。その趣旨は、債権発生の原因や債務者の存在を認識することを含み、さらに違法性の認識を踏まえた権利行使ができることについての具体的な認識を含む趣旨である。
           「ここでの「知った時」とはというのは、不法行為に関する民法724条前段の「知った」と同じ意味であり、実質的な権利行使が可能である。その権利行使が可能な程度に事実を知った、ということになります」(法制審議会部会第92回会議 議事録22頁。合田関係官の発言)
 
    通常の賃金請求権(退職金請求権)は就業規則などで弁済期が定まっており、労働者も当然、これを知っている場合が圧倒的多数です。したがって、主観的時効であっても起算点も明確です。

    労基法上のその他の請求権についても、労働者が権利を行使できることを知らないにもかかわらず、消滅時効にかからせる合理性はありません。
 
 また、時間外・休日労働に対する割増賃金について、例えば管理監督職について就業規則の定めが労基法に違反しており、本来支払わなければならないのに労働者に支払っていない場合にも、労働者が当該措置が違法であると知った時から時効進行をすることも問題はありません。労基法違反をしてた使用者に消滅時効による賃金支払義務の消滅という「利益」を付与する合理性は見当たりません。
 
 債務者(使用者)の不安定な立場については、客観的時効10年ルールで画一的に救済できることになります。それが今回の民法改正の趣旨なのです。労働者保護の労基法の趣旨から、この民法改正の考え方を生かすことこそが求められて、これを修正する必要はありません。
 

 現在、政府は働き方改革として、長時間残業の規制を政策目標として掲げています。長時間残業を規制するために、消滅時効を改正民法に従って長期化することは、使用者に長時間残業を規制するという協力なインセンティブ(制裁?)を当たることになり、政府の「働き方改革」と一致します。
第4 年次有給休暇請求権について

    年次有休休暇請求権については、一般の債権とは性質が異なり、何よりも年次有給休暇の完全取得を図る必要性があり、繰り越しを5年と認めることは、有給取得を促進することにはなりません。よって、労働組合などの意見を聞いた上で、年休については、現行2年の繰り越しを維持すべきです。
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 経営側は、経営法曹会議の弁護士が3名、労働側は私と古川景一弁護士と2名です。経営側は必死に、労基法115条の時効2年(退職手当5年)は変更する必要がないと訴えていました。ただ、労働者保護の労基法が民法より短い時効期間を規定するって、法制度としては明らかな矛盾であり、まじめに法律の筋を通すなら労基法115条は民法にあわせるべきでしょう。

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2017年11月25日 (土)

5時から頑張る日本人-日本人は労働時間短縮が可能か?

日本で労働時間短縮は可能か?
「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人」(熊谷徹著SB新書)を読みました。

https://www.amazon.co.jp/dp/B00W4NB3IO/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1
昔、日本でも「5時から男」って言葉があった(1988年流行語大賞・高田純次)。ただ、これは仕事が終わってから生き生きと遊びにいく日本人サラリーマンのこと。この本の「5時から頑張る」とは残業を頑張るという意味です。

著者は1959年生まれ。早大卒業後NHKに入局して記者として8年間働き、1990年からはドイツで27年生活し働いているジャーナリスト。ドイツの生活実感から日本の「働き方」を批判します。

ドイツ人は午後5時まで働き残業をしない。日本人は午後5時から頑張って残業する。ドイツは「時短先進国」で年労働時間1371時間。「長時間労働大国」日本は年労働時間1719時間である。

でも、ドイツ経済は現在絶好調であり、労働生産性は日本より46%も多い。2016年の1人当たりGDPを比べるとドイツ(4万2902ドル=約486万円)が日本(3万8917ドル=約451万円)を上回る。
ドイツでは有給休暇を100%消化することや2~3週間のまとまった長期休暇を取ることが、当然の権利として認められ、実行されている。
著者は過労自殺を生み出す電通を厳しく批判し、ドイツではあのような働き方はあり得ないと批判しています。NHKで働いていたころ、著者も日本流の長時間労働にあけくれ、締め切り間際に、不眠不休の長時間労働に従事したという。

最近、NHK女性記者が過労死したことが報道された。ドイツでは「原稿より健康」と言われて、テレビ放送局でも一日最長10時間の規制は守られているという。また、就業時間以外に仕事のメールを部下に送るのは禁止されており、これは休暇中も同様だという。有給休暇とは別に病気欠勤制度が区別され、ドイツでは有給の病気休暇制度が用意されている。

日本とは、まったくの「別世界」です。


ドイツとは「国民性」も「文化」も違うのだから、「日本では無理だとあきらめる」のが多くの日本人でしょう。しかし、ドイツに住む著者は「違う」
と言います。日本でも本当の「働き方改革」を行えば、労働時間短縮は実現できると。


ドイツでは、1日10時間を超える労働が法律で厳格に禁止されていることが大きい。ドイツの労働時間法は「1日8時間・週48時間」で「6ヶ月平均日8時間となること条件に1日最長10時間までしか働けない」制度です。
10時間を超えて働くことは、日本と違ってけっして許されない(適用除外の職種はありますが)。

ドイツでは、国が厳しく企業を監視します。この法律は厳格に適用されます。10時間を超えて労働者を働かせた場合、事業所監督局から最高1万5000ユーロ(約180万円)の罰金が会社に課せられます(場合によっては管理職にも適用)。これが建前だけでなく、実際に多くの企業が摘発されているそうです(病院など)。

さらに、ドイツは産業別労働組合の力が強く、法律よりさらに短い労働時間を定める労働協約が締結されています。例えば、金属産業であれば週35労働時間となっている。


日本では、「1日8時間しか働かないと言って、顧客からの注文を断ることはできない。断れば、競争会社に顧客を取られてしまう。」「年次有給休暇で長期間休むなんて。同僚に迷惑かけるので無理。」と考えるのが普通ですね。しかも、日本の労働組合は力が弱いし、頼りにならない。


でも、だからこそ日本では法律による横並びの規制が絶対必要です。
1日上限10時間とすることがは絶対必要です。10時間超えて働いたら企業や上司は必ず罰金を払うこととすれば、顧客が文句をいってきても法律だから仕方が無いと断れるでしょう。他の競争会社も厳格に同じ法律が適用されるから、同じ条件となります。

普通の企業で、労働者は1日8時間(上限10時間労働)では本当に仕事が回らないのでしょうかね。もし回らないとしたら、それは労働者1人当たりの業務量が過多にすぎるからでしょう。

人口減少時代となり、多くの女性にも労働市場で働いてもらわなければならない。少子化解消のため、子どもを産み育て易い労働社会環境を実現するために「ワーク・ライフ・バランス」は必要不可欠です。男女ともに労働時間短縮の実現こそ、日本社会と経済の発展と維持のために必要です。
顧客や経営者・労働者の自発的な「意識改革」を待っていては、永遠に実現しないでしょう。

法律で1日8時間・週40時間を定めるだけでなく、ドイツのように1日の上限時間を10時間とすべきです。

ところが、今の「働き方改革」の労基法改正案では、

時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定。

これでは何も変わりません。過労死ラインを超える80時間以上の労働を認めるなんて、あり得ないでしょう。

ドイツ人にできて、日本人にできないわけはありません。
ドイツ人も昔から労働時間が短かったわけではありません。1950年代は週50時間を超える労働時間だったそうです。1956年のメーデーでは、「土曜日のパパは僕のもの」というスローガン(「日曜日は神様のもの」ということで週休二日制の要求)が叫ばれました。ドイツの労働組合は週40時間労働時間を強く要求し続け、1984年に金属産業で7週間ものストライキという戦後最大の労働争議がおこり、産業別労働協約を獲得して、1995年には週35時間が実現されることとなったといいます。

労働組合の力が弱い日本では、法律による横並び規制しか道はありません。

労働時間の短縮は「国家」にとって、少子化という「国難」への対応、国力維持・経済発展のために必須であり、「国策」として推進すべき目標です。安部首相は国策や国難は得意なのに。


にもかかわらず、「働き方改革一括法案」の労働時間規制の水準は、悲しいかな「トホホ」の水準です。いつまでも変わらない、このままの日本で良いのか。

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2017年9月18日 (月)

日本郵便事件(労契法20条)東京地裁判決

■東京地裁平成29年9月14日判決

 東京地裁民事第19部(春名茂裁判長)は、2017年9月14日、日本郵便(株)に対して、有期契約社員3名が労働条件の格差の是正を訴えていた訴訟にて、労働条件の格差の一部(手当)を労働契約法20条違反として、それぞれ4万、30万、50万円の損害賠償を会社に命じました。


■事案の概要


 原告3名は、有期契約社員(期間6ヶ月で契約更新されてきた時給制契約社員)で、2名は外務業務(通常郵便や小包を配達)に従事しており、1名は内務業務(夜間内務勤務)に従事しています。


 日本郵便(株)は、正社員20万人、有期契約社員19万人を雇用しており、原告らの同じ時給制契約社員は16万人います。


 正社員には支給されている手当が、有期契約社員には支給されていないものがあります。また、正社員には許される夏期冬期休暇や病気休暇(私傷病の場合でも有給で90日等)は契約社員は取得できません。これらの労働条件の格差を労契法20条違反であるとして訴えた裁判です。


■労契法20条の内容


 労働契約法20条は、有期労働契約による不合理な労働条件の格差を禁止した規定です。この規定は、正社員と有期契約社員との間に有期労働契約による労働条件の相違がある場合、①職務の内容、②職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情を考慮して、その相違が不合理であってはならいないとするものです。2013年4月1日に施行されています。

 ②の「職務の内容及び配置の変更の範囲」とは、わかりやすくいえば、人事異動の範囲という意味です。


■判決の特徴1(比較対象の正社員のとらえ方)


 本判決の第1の特徴は、比較対象となる正社員を、正社員全体ではなく、担当業務や異動の範囲が類似してる正社員と限定したことです。

 本件では、正社員の一般職(いわゆる平社員。「旧一般職」)は、主任や課長代理や課長に昇任すると就業規則上は定められていました。平成26年4月から導入された「新一般職」は、主任等に昇任することが予定されず転居を伴う配置転換もないコースとなりました。本判決は、比較対象の正社員を、平成26年3月以前は「旧一般職」、平成26年4月以降は「新一般職」としました。


■判決の特徴2(個別の労働条件ごとの不合理性の判断)


 第2の特徴は、個別の労働条件ごとに不合理性を判断したことです。
 年賀状の準備配達の繁忙期に仕事をすることの対価として支払われる年末年始勤務手当については、平成26年3月以前の旧一般職時代から不合理な労働条件の相違であるとして労契法20条違反としました。健康を保持するという趣旨である夏期冬期休暇及び病気休暇についても、同じく旧一般職時代から違法であるとしました。

 他方、住宅手当については、新一般職との比較、すなわち平成26年4月以降、転居を伴う配置転換がない新一般職のコース制が導入された後に労契法20条違反となるとしています。


■特徴3(割合的な損害認定)


 第3の特徴としては、年末年始勤務手当と住居手当について、正社員に対して長期雇用への動機付けの趣旨もあるので、その差額全額が損害になるわけではないとして、各8割、6割の支払を命じたています。

 実際には会社は人手不足を背景に「できるだけ長く働いてほしい」と契約社員に対しても奨励しており、このことを理由に損害額を減額することは納得がいきません。しかし、職務内容等の違いに応じて割合的損害を認定すること自体は積極的に評価できます。判決は、相違があること自体が不合理な場合には全損害の賠償を命じるが、労働条件の質や量による相違の大きさや程度により違法になる場合には割合的な損害を認定するといっています。


■特徴4(休暇制度などの制度の適用の不合理性)


 第4の特徴としては、夏期冬期休暇制度や病気休暇制度について、お盆や正月の国民意識や慣習、健康保持の観点からは正社員と差をもうけること自体が不合理だとして、新一般職導入前から不合理な相違であるとして違法とした点も大きな特徴です。


■判決の問題点と今後の課題


 判決の問題点としては、判決は、「賞与」については、労使交渉で合意していること、正社員に長期雇用への動機付けをして、将来の会社の中枢を担う役割を期待して手厚く遇することは人事施策上、合理的であること、また契約社員に一部とはいえ「臨時手当」を支給しているから、不合理ではないと判断しています。


 しかし、「期待する役割」という抽象的な理由で、労働条件の格差を合理化するのは安易すぎるでしょう。
 会社は控訴したようです。労働者側も敗訴部分を控訴する予定であり、東京高裁で不十分な点を克服することを目指します。


■郵政産業労働者ユニオンの成果


 本件は、有期契約社員を含めて組織している郵政産業労働者ユニオンの組合員が原告となって提訴した事件です。正社員との賃金体系や格差の実態を裁判所で主張立証するためには労働組合の取り組みが必要不可欠です。正社員と非正社員が共同してたたかった労働運動の成果です。

 労組が取り組む西日本訴訟が大阪地裁で係属しており、9月下旬には結審します。年末から年明けには判決が言い渡されるでしょう。この西日本訴訟では家族手当等も問題となっており、大阪地裁の判決が注目されます。

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