フリーランス新法と労働組合
会社は雇用関係にはないとして団交拒否をすることが多いだろう。しかし、労組法上の労働者性があることはINAXメンテナンス事件最高裁判決、ビクターサービスエンジニアリング事件最高裁判決で決着済みだ。
ハマチャンこと濱口桂一郎さんから、「労働市場仲介ビジネスの法政策-職業紹介法・職業安定法の一世紀」(JILPT 労働政策レポート14)を送ってもらいました。
労働者側の実務弁護士には余りなじみのないのが職業紹介法などの労働市場法です。こういうと派遣労働者の相談にのっている労働側弁護士に怒られるけど、「労働市場法全体」として法政策をどう考えるかというのはなかなか発想として出てこないのが私です。
職業紹介というと、昔のエリア・カザン監督でマーロン・ブランド主演の映画「波止場」でのマフィアが港湾労働者を職業紹介(手配師)で支配していた悪役、日本だって人買い、手配師でたこ部屋、中間搾取の悪の権化というのが昭和までのイメージでした。
ところが、この規制緩和の時代には、労働市場仲介ビジネとして昇竜の極みで、労働仲介ビジネスとして大変な事業規模を誇るようになったとの認識しかありませんでした。
お送りいただいた本は393頁に及ぶ大著。とても読めないですが、最後に今国会で成立予定のフリーランス新法との関連が触れられていました。
同法12条で「募集情報の的確な表示」つまり「虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示はしてはならない」が入ったことが指摘されています。特定業務委託事業者(=仲介ビジネス)に募集情報の的確性を義務付けて、厚生労働大臣が指針を示し、違反した場合には適当な措置をとることができる。
これは新しい情報社会立法として注目すべきとのことだそうだ。
実務法律家としては、私法的効力はない業法という性格だろうと考えるので、さて今後どう活用できるか、と考えてしまう。ただし、厚生労働大臣の枠内での紛争あっせん手続においては、解決の基準として生きることにはなるのでしょう。
以前から注目してきたフリーランス保護法案が2月24日に国会に上程されました。
https://www.cas.go.jp/jp/houan/211.html
「フリーランス」を「特定受託事業者」と名付けて、次のように定義しています。
特定受託事業者とは、業務委託の相手方である事業者であって、
①個人であって従業員を使用しないもの
②法人であって一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの
特定受託事業者で、事業者と定義することの問題点について去年10月のパブコメのときに指摘しました。懸念は、この法律で「特定受託事業者」であるとされた個人は、あるいは特定受託事業者であるとして公正取引委員会や厚生労働大臣に申し出た個人が、「労働者ではない」とされてしまうのではないかという点です。
http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2022/10/post-57c1d9.html
実務的には、それぞれ別概念であって別の行政機関が法適用の可否を別個に取り扱い、法適用を判断するので問題ないということになるのかもしれません。しかし、労基法上の労働者としてハードルがあると、易きに流れて、「ではフリーランスで」ということにならないのかが心配です。
とはいえ、この新法は是非必要だと痛感します。
フリーランス・トラブル110番(厚労省委託事業)の相談を担当すると、「これは労基法上の労働者だ」と思う相談も多くありますが、労働法を私が有利に解釈しても、労基法上の労働者とは言えないケースも珍しくありません。労基署が労働者ではないので賃金未払い労基法違反で指導できないといったん言われ110番を紹介されて相談する人も多い。じゃあ民事で裁判所に少額訴訟や本人訴訟を、といってもフリーランスの個人で訴訟を出すのも難しい。それでフリーランスのトラブル110番に相談して、和解あっせん手続の利用が急増している。
さて、この法案では、公正取引委員会だけでなく、厚生労働大臣(実際は都道府県労働局)も勧告、命令などができる。命令に違反した場合には罰則もあるものです。厚生労働大臣の管轄になるというのは画期的だと思います。
規制内容は大別すると「取引の適正化」と「就業環境の整備」です。
「取引の適正化」
(1) 給付の内容等の明示(3条)
給付の内容、報酬額等を書面又は電磁的方法により明示しなければならない。
(2) 報酬の支払期日設定(4条)
特定業務委託事業者は給付を受託した日から60日以内に報酬を支払わなければならない。再委託の場合には、発注元から支払いをう ける期日から30日以内)
(3) 遵守事項(5条)
① 特定受託事業者に責めに帰すべき事由がないのに給付の受領拒絶
② 特定受託事業者に責めに帰すべき事由がないのに報酬額を減ずる
③ 特定受託事業者に責めに帰すべき事由がないのに返品すること
④ 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を定めること
⑤ 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制させること
⑥ 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
⑦ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること
「就業環境の整備」
(1) 募集情報の虚偽表示等の禁止(12条)
(2) 育児介護の配慮義務(13条)
(3) ハラスメント行為に係る相談体制等の措置義務(14条)①セクハラ、②マタハラ、③パワハラ等
(4) 継続的業務委託を解除する場合30日前予告及び理由の開示義務(16条)
※契約期間満了後の更新しない場合も含む
今まで「真のフリーランス」(労働者とはいえない場合)の保護法がなかったのですから、十分でないとはいえ上記の遵守事項等が定められることは大きな前進です。特に、報酬の60日以内支払いや解除(更新拒否含む)の予告や理由の開示は紛争解決の手がかりになります。しかも、厚生労働大臣の管轄になっているのは大きな前進だとおもいます。全国の労働局が対応することになるからです。「事業者」だけど、特定受託事業者の対応を労働局ができるという道が開けたことになります。
とはいえ、厚生労働大臣が扱うものは「就業環境の整備」であって、募集情報の虚偽表示等、ハラスメント、解除の予告については勧告ができる(育児介護の配慮義務13条は除外)。ただし、勧告違反者に対する命令についてはハラスメント(14条)が除かれているようだ(19条)。
これは育児介護休業やハラスメントは労基法上の労働者が前提となっているから、厚労大臣は手を出さないということでしょうかねえ。でも12条や16条は勧告するということであれば、これを除外する必要はないように思います。「遵守事項」についても、厚生労働大臣(労働局)も取り扱うようにしても良いと思います。
これから国会での審議が行われるわけですが、労基法上の労働者性に範囲を狭めることがないように運用するなどの答弁での歯止めを獲得するなり、実効性を高める方策を強化するなど、より良い法律になるように国会議員、労働組合や関係団体が頑張らなければならないと思います。
先日、出版労連の秋季年末闘争権利討論集会にて「働き方改革法で労働時間短縮は可能か-労働運動の課題」ということで話をしてきました。参加されていた北健一さんに1時間の講演を要領よくまとめてもらいました。出版労連の機関誌10月日に掲載されています。私が手を加えたものを掲載しておきます。
出版労連学習会 働き方改革関連法にて「労働時間短縮」が実現できるか。
「働き方改革」と労働組合の課題 弁護士 水口洋介
「働き方改革」法案は6月29日、残念ながら大きな問題を含んでまま国会で成立しました。一番大きい問題は高度プロフェッショナル制度(高プロ)という「働かせ方放題」の制度が入ったことです。他方、今日はふれませんが、いわゆる同一労働同一賃金の原則、正確には「雇用形態による不合理な格差是正」も法律に含まれ、これは活用できる点もあります。
立法趣旨である「長時間労働の是正」という目標は正しいですし、実現を促進すべきものですが、法律の内容は微温的かつ実効性に乏しいものです。ただし、問題点はあるが、活用できる部分がある。少しでも使える法律が成立したら、使えるものは積極的に使い、悪い部分は職場への導入を阻止して、職場での働き方の改善を進めるのが労働組合の任務です。
政府は、日本も時短が進んで1800時間未満を達成したと言いますが、これは実態にあっていません。先日亡くなった関西大名誉教授の森岡孝二先生も『働き過ぎに斃れて』で書かれているように、正社員の労働時間の実態は不払い(サービス)残業も加えると年2000時間を大きく超える長時間労働が続いています。こちらが実態です。
新自由主義の経済学者らは、「高プロは、時間ではなく成果を基準にした新しい賃金制度だ」と言います。その根本にある発想は、労働者が残業代欲しさにダラダラ残業しているから、長時間労働が是正されない。そこで、高プロを導入して、労働時間を長くしても残業代がなければ、無駄に残業をせず、労働時間が短縮されるというものでしょう。
しかし、残業が発生する原因を労使にアンケート調査した結果は、労使とも、①顧客の臨時的な、過剰な要求に対応しなければならない。②業務量に対して人員が不足している、と答えています。つまり、労働者が残業代欲しさにだらだらと残業することが原因だとは、労働者のみならず、使用者も言っているのです。この①と②とを何とかしないと、企業間競争、労働者間競争のなか、長時間労働にまい進せざるを得ない。
私は1986年に弁護士になりました。そのころから長時間労働は変わっていません。NHK出身の放送ディレクター、熊谷徹さんの『ドイツ人はなぜ、1年に150日休んでも仕事が回るのか』によると、ドイツでは1日8時間の原則が厳格で罰則が厳しい。
ドイツでも昔から短かったわけではありません。1970年代に労働運動がストも含めて週40時間制を獲得。1985年には金属産業の産別IGメタルが大闘争をして、週38時間制を獲得します。産別が強く、労働協約で獲得しているのです。法律では週48時間で、一日最大10時間まで上限(6ヵ月でならして8時間になることが必要)です。この場合には一日2時間の残業は許されます。また、勤務間インターバルが11時間と設定されています。
このような働き方は、消費者や顧客にとっては不便ですが、顧客も我慢する。それはお互いさまだからです。「短時間労働でいい、人生の意味は休暇にあるんだ」という価値観が浸透しているのです(ただ抜け道はあって、フリーの独立契約者に外注し、そこにしわ寄せがいっているようですが)。
日本には、ドイツのような強力な産別労働組合はありません。そこで、法律規制を行うことが重要です。そこで、今回の法改正です。これまでは36協定を結びさえすれば、上限を何時間にしようと罰則はありませんでした。それが36協定を結んだ場合の「残業の上限」が「原則月45時間、年360時間」となりました。「年720時間以下、単月100時間未満、複数月平均80時間以下」を上限に特別条項を結べますが、これの特別条項は、通常想定されない臨時的な事情などの「特別の例外」の場合です。
出版業界では、教科書改定期の繁忙さや雑誌発行に伴う〆切り間際の忙しさの実情を聞きました。労働者の側には36協定を締結する義務はありません。拒むこともできる。それを〝武器〟に会社と交渉し、働き方の改善を進めていくことが必要です。
労働時間の把握を客観的に(タイムカードやパソコンの起動の記録等)行わなければいけないということも、労働安全衛生法改正で入りました。自己申告制など労働時間把握がルーズなら、労使で協議して客観的な方法に改善すべきです。勤務間インターバル制度は法律上、努力目標ですが、運用として許容されている職場は多いと思うので、労使で合意し制度化することが推奨されます。
年次有給休暇の使用者(会社)による付与制度もできました。現状の日本では、6ヵ月間継続勤務し労働日の8割以上出勤すると10日間の有給休暇が与えられ、就職から6年6ヵ月で上限の20日間になりますが、取得(消化)率は47%にとどまっています。
今回、10日以上の年次有給休暇が残っている労働者に、毎年5日間、使用者が有給休暇をいつ取るかを指定することができるようになりました(使用者の時季指定義務、労基法39条7項)。来年の4月1日施行なので、組合は各職場の希望を集約し、会社が一方的に指定するのではなく、労働者の希望を踏まえて指定するよう取り組まなければなりません。高プロの対象業務は今後省令で決まりますが、研究者、金融アナリスト、ディーラーなどが挙げられ、出版のなかには入ってこないんじゃないかと思っています。高プロ導入には労使委員会の5分の4の賛成が要件なので、組合が委員を送り込んでいれば阻止できます。ただ今後、対象業務が広がり、年収要件も引き下げられる恐れがあります。
限界はさまざまありますが、「働き方改革関連法」は使える部分もあり、どう活用するかはそれぞれの労働組合の努力にかかっています。法律内容を確認した上で職場の実情にあわせて適用させ、時短に向けての業務の在り方を工夫し、少しでも労働時間を短くする方策を労使で検討しなければなりません。36協定の内容、有休指定のあり方、インターバルの導入、この秋から19春闘にかけ、一つでも成果を獲得していきましょう。
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(1) 賃金及び退職金債権などの賃金請求権については、改正民法166条1項のとおり、「権利を行使することができることを知った時から5年」(主観的時効5年)、「権利を行使することができる時から10年」(客観的時効10年)と労基法で定めるべき。(2) しかし年次有給休暇については、改正民法を適用するのではなく、労基法115条を改正して従前の消滅時効を2年間とすべき。
① 労基法39条所定の要件が充足されたときは、労働者は当然に年次有給休暇の権利を取得し、使用者はこれを与える義務を負う。
② 使用者に要求される義務とは、労働者がその権利として有する有給休暇を享受することを妨げてはならないと不作為を基本的内容とする義務にほかならない。
③ 労基法39条3項(現行法5項)の「請求」とは、労働者が年休をとる時季(時期)を指定したときは、使用者が時季指定変更権を行使しない限り、時季指定によって年次有給休暇が成立し、当該労働日における就労義務が消滅する。
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明治大学の野川忍教授から新著「労働法」(日本評論社)を送っていただきました。
ありがとうございます。
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「同一の使用者に雇用される無期契約労働者の中に、職務の内容等が異なる複数の職員群が存在する場合において、有期契約労働者と無期契約労働者の中のある職員群との間で労働条件んの相違が不合理ではないときであったとしても、別の無期契約労働者の中の職員群との間で期間の定めがあることによる労働条件の相違が不合理であるならば、当該労働条件の相違は同条の反することになると解される。したがって、有期契約労働者の側において、必ずしも同一の使用者に雇用される無期契約労働者全体ではなく、そのうちの特定の職員群との間で労働条件に不合理な相違があるか否かも検討することも可能である。」
「もっとも、労契法20条は、不合理性の判断における考慮要素の一つとして『職務の内容及び配置の変更の範囲』を挙げているところ、職務の内容や配置の変更の範囲があり得る労働者の労働条件については、必ずしも現在従事している職務のみに基づいて設定されるものではなく、雇用関係が長期間継続することを前提として、将来従事する可能性があるであろう様々な職務や地位の内容等を踏まえて設定されている場合が多いと考えられるから、そのような場合に単に現在従事している職務のみに基づいて比較対象者を限定することは妥当ではなく、労働者が従事し得る部署や職務等の範囲が共通する一定の職員群と比較しなければならないと解される。」
「被告が主張するような正社員の待遇を手厚くすることで有為な人材の長期的確保を図るという事情も相応の理由がある」としながら、年末年始勤務手当の支給の趣旨目的の中では飽くまで補助的なものに止まる」と排斥しています。住居手当についても、」「被告が主張する長期雇用へのインセンティブという要素や社宅に入居できる者と入居でなきない者との処遇の公平を計る要素などが存在することも否定できない」としつつも、「住居手当が支給される趣旨目的は、主として、配転に伴う住宅に係る費用負担の軽減という点にあると考えられ」「新一般職は、本件契約社員と同様に、転居を伴う配転が予定されていないにもかかわらず、住居手当が支給されていること」から、有期契約労働者への住居手当の不支給を違法としました。
扶養手当については、「労働者及びその扶養家族の生活を保障するために、基本給を補完するものとして付与される生活保障給としての性質を有し」「職務の内容等の相違によってその支給の必要性の程度が大きく左右されるものではないこと」などから、「歴史的経緯等被告が挙げる事情を考慮しても、正社員に対してのみ扶養手当が支給され、原告ら有期契約労働者に支給されないこという相違は不合理といわざるを得ない」
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職業別の3年、2年、1年の短期消滅時効の区分を設けることの合理性に疑問がある。実務的にも、どの区分に属するか逐一判断しなければならず煩雑である上、その判断も容易でない例も少なくなく、実務的にも統一的に扱うべきである(法制審部会資料14-1の1頁)。また、職業別の区分については身分の名残ともいうべき前近代的な遺制であるとの法制審部会討議でも指摘されていた(法制審部会討議第12回6頁)。
「これらの債権者にとっては、少額の債権について現在の煩瑣な裁判手続を利用することは、極めて困難であるだけでなく、これらの債権者中には資力が乏しいため、現在のように多額の出費を要する裁判手続に訴えることの不可能な者も少なくない。現在の訴訟手続は、実際上、多くの無産階級の者から権利保護の機会を奪っていることは否定すべからざる事実であって、時効に関してだけいうべきことではない。しかし、短期消滅時効制度において、とくにその感を深くする」
中間試案では、「債権発生の原因及び債務者を知った時」とされていたが、「権利を行使することができることを知った時」に変更された。その趣旨は、債権発生の原因や債務者の存在を認識することを含み、さらに違法性の認識を踏まえた権利行使ができることについての具体的な認識を含む趣旨である。「ここでの「知った時」とはというのは、不法行為に関する民法724条前段の「知った」と同じ意味であり、実質的な権利行使が可能である。その権利行使が可能な程度に事実を知った、ということになります」(法制審議会部会第92回会議 議事録22頁。合田関係官の発言)
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ドイツ人は午後5時まで働き残業をしない。日本人は午後5時から頑張って残業する。ドイツは「時短先進国」で年労働時間1371時間。「長時間労働大国」日本は年労働時間1719時間である。でも、ドイツ経済は現在絶好調であり、労働生産性は日本より46%も多い。2016年の1人当たりGDPを比べるとドイツ(4万2902ドル=約486万円)が日本(3万8917ドル=約451万円)を上回る。ドイツでは有給休暇を100%消化することや2~3週間のまとまった長期休暇を取ることが、当然の権利として認められ、実行されている。
時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定。
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