労働法

2018年4月24日 (火)

野川忍教授「労働法」

明治大学の野川忍教授から新著「労働法」(日本評論社)を送っていただきました。

ありがとうございます。

本文1051頁の大著です。
債権法改正から、労契法20条の最新の判例(大阪地裁 日本郵便労契法20条事件)まで網羅されています。

「はしがき」に、政策の理論的基盤を提供し、これに精緻な解釈論を加える政策法学としての体系書と、憲法の理念に立脚して労働者の権利擁護を重視する理念法学の流れの中で、本書は「マージナルポジションにある」とされています。

「労働法の生成」の章で、「資本主義の成立と労働関係」の説明の中で、イギリスの工場制生産体制の確立の中で、エンゲルスや、ロバート・オーウェン、サンシモン、マルクスの名前が出てきて、注に廣松渉が引用されているのは、労働法の教科書としては珍しいです。

知人の町田悠生子弁護士が協力者として名前があげられています。




https://www.amazon.co.jp/%E5%8A%B4%E5%83%8D%E6%B3%95-%E9%87%8E%E5%B7%9D-%E5%BF%8D/dp/4535523088/ref=pd_lpo_sbs_14_img_0?_encoding=UTF8&psc=1&refRID=AS6PDD9WT8SBG0ZMRS6Q

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

2018年2月22日 (木)

日本郵便(労契法20条)事件 大阪地裁判決

■大阪地裁平成30年2月21日判決 勝訴
 東京地裁判決に続いての大阪地裁での労働者勝訴判決です。
https://www.asahi.com/articles/ASL2P5SDFL2PPTIL026.html

 東京と大阪の原告は違いますが、郵政産業労働者ユニオンの組合員らが原告で、労働組合が運動として総力をあげて取り組んでいる裁判です。


■「扶養手当」請求を認めたインパクト
 大阪地裁判決の最大の特徴は、「扶養手当」の有期社員への不支給を労契法20条違反として違法と判断したことです。東京地裁では原告に該当者がいなかったので請求していませんでした。
 しかも、配置転換などの異動の範囲が異なる正社員との間で比較しても、不合理で違法となるとしています
 この判決は、日本郵便に働く有期契約労働者だけでなく、他の民間企業で働く有期契約労働者にも当てはまるものです。多くの民間企業で、扶養手当、家族手当を支給しています。労働者の生活保障をはかる趣旨です。ですので、この判旨が確定すれば、扶養手当や家族手当については正社員だけでなく有期契約労働者にも支払うべきことになります。


■年末年始勤務手当、住居手当、扶養手当の「全額」支給
 大阪地裁判決は、年賀状配達する年末年始勤務手当も全額の支給を命じ、住居手当は新人事制度導入から不合理な格差だとして全額の支給を命じています。他方、東京地裁判決は、年末年始金手当と住居手当について、8割、6割の損害しか認めなかったのですが、全額を損害として認めています(東京地裁では扶養手当は該当者がいないので請求していなかった)。
参考:東京地裁判決について
http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2017/09/post-c586.html


■「比較対象正社員」について
 大阪地裁判決の特徴的な判断理由部分は次の部分だと思います。
 有期契約労働者と比較対象すべき正社員について大阪地裁判決は次のように述べます。
「同一の使用者に雇用される無期契約労働者の中に、職務の内容等が異なる複数の職員群が存在する場合において、有期契約労働者と無期契約労働者の中のある職員群との間で労働条件んの相違が不合理ではないときであったとしても、別の無期契約労働者の中の職員群との間で期間の定めがあることによる労働条件の相違が不合理であるならば、当該労働条件の相違は同条の反することになると解される。したがって、有期契約労働者の側において、必ずしも同一の使用者に雇用される無期契約労働者全体ではなく、そのうちの特定の職員群との間で労働条件に不合理な相違があるか否かも検討することも可能である。」
 つまり、比較すべき正社員は、有期契約労働者が主張する一定の職員群との比較で検討することが可能であるとします。東京地裁判決は、同旨ですが、有期契約労働者が主張する「類似した職務を担当する正社員」と比較すると述べていました。
 大阪地裁判決は、これに続けて
「もっとも、労契法20条は、不合理性の判断における考慮要素の一つとして『職務の内容及び配置の変更の範囲』を挙げているところ、職務の内容や配置の変更の範囲があり得る労働者の労働条件については、必ずしも現在従事している職務のみに基づいて設定されるものではなく、雇用関係が長期間継続することを前提として、将来従事する可能性があるであろう様々な職務や地位の内容等を踏まえて設定されている場合が多いと考えられるから、そのような場合に単に現在従事している職務のみに基づいて比較対象者を限定することは妥当ではなく、労働者が従事し得る部署や職務等の範囲が共通する一定の職員群と比較しなければならないと解される。」
 このような観点に基づいて、転居と伴う配転がなく、主任以上への昇格がない新一般職制度が導入される前は、配置転換や昇任昇格があるとされた旧一般職(職種)と比較すべきであり、新一般職制度が導入された平成26年4月1日以降は、新一般職と比較すべきとしました。


■「正社員の長期雇用を図るインセンティブ」について
 東京地裁は、正社員を優遇することで有為な人材の長期的確保を図る趣旨や、長期雇用へのインセンティブを付与することを、その他の事情として取り上げて、それを根拠に損害賠償を6割や8割に減額しています。
 これに対して、大阪地裁判決は、次のように修正しています。
「被告が主張するような正社員の待遇を手厚くすることで有為な人材の長期的確保を図るという事情も相応の理由がある」としながら、年末年始勤務手当の支給の趣旨目的の中では飽くまで補助的なものに止まる」と排斥しています。住居手当についても、」「被告が主張する長期雇用へのインセンティブという要素や社宅に入居できる者と入居でなきない者との処遇の公平を計る要素などが存在することも否定できない」としつつも、「住居手当が支給される趣旨目的は、主として、配転に伴う住宅に係る費用負担の軽減という点にあると考えられ」「新一般職は、本件契約社員と同様に、転居を伴う配転が予定されていないにもかかわらず、住居手当が支給されていること」から、有期契約労働者への住居手当の不支給を違法としました。

 扶養手当については、「労働者及びその扶養家族の生活を保障するために、基本給を補完するものとして付与される生活保障給としての性質を有し」「職務の内容等の相違によってその支給の必要性の程度が大きく左右されるものではないこと」などから、「歴史的経緯等被告が挙げる事情を考慮しても、正社員に対してのみ扶養手当が支給され、原告ら有期契約労働者に支給されないこという相違は不合理といわざるを得ない」
 他方、大阪地裁判決も、夏期年末手当(いわゆる賞与)については、正社員へのインセンティブを持つものとして、使用者側の裁量が広いとして、格差の不合理性を否定しています。


■「格差全額」の損害認定について

 大阪地裁は、年末年始勤務手当、住居手当及び扶養手当の不支給を不合理な労働条件んの相違として、「これらが支給されてにないこと自体が不合理であり、不法行為を構成する」として、「支給額に相当する損害が生じたものと認める」として、全額を損害としました。
  民法709条は、不法行為責任を「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と定めています。労契法20条は、不合理な労働条件の相違を禁止しているのですから、有期契約労働者の労契法20条によって保護された利益を侵害されたことは明らかですから、不法行為責任を全額認めるのは当然でしょう。


■大きな「追い風」
 東京地裁判決に対しては、原告と被告双方が控訴して、現在、東京高等裁判所にて審理中です。次回の4月の期日で結審する予定であり、遅くとも夏頃には高裁判決が言い渡されると思います。労働者側にとって、大きな弾みがつきました。
 それだけでなく、有期契約労働者の格差是正にとっって大きな追い風になります。これも労働組合のとりくみがあってこそです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

2018年2月 3日 (土)

賃金等請求権の消滅時効の在り方について

 現行民法(債権関係)は改正されて、2020年4月1日から施行されます。最も大きな改正点は消滅時効の改正です。
 厚生労働省労働政策審議会の「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」第2回(2018年2月2日)にて労使法律家のヒアリングがあり、労働者側として私も意見を述べてきました。
  http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000189823.html
 
 当日の議事録は後日、公表されますが、当日の私の意見原稿を下記に掲載しておきます。
(前提/問題の所在)
 民法の一般債権は、今までは「債権者が権利を行使することができる時から10年」で時効消滅しました(旧民法166条)。しかし、今回の改正で次のようになります。
  ■改正民法166条
  ① 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
  ② 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
 ①は、知ったかどうかが起算点なので「主観的時効「、②を「客観的時効」といいます。要するに、知ってから5年で時効となるという新しいルールが導入されます。
 旧民法では、給料は短期1年で時効で消滅するとされていました。
  ■現行民法174条3号 短期消滅時効
   月又はこれより短い期間によって定めた使用人の給料に係る債権
 この短期消滅時効は廃止されます。
 この旧民法時代、1年では短すぎるとして、次のとおり労働者保護のために労働基準法は給料の時効を2年(退職金は5年)としていました。
  ■労働基準法(時効)
  第115条 この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
 
  ところが民法改正により、労働者保護の労基法(時効2年)より、民法の時効制度(5年、10年)の方が長期化して、労基法の方が2年の短期消滅時効としており、労働者の保護にかける状態が生じる(逆転現象)。さて、労基法115条をどうするか。
-------------------------
 
はじめに結論を申し上げます。
 労働基準法115条につては、この法律に定める請求権の時効は民法による。ただし、年次有給休暇請求権についての時効は2年とするとすべきと考えます。
 以下、理由を述べます。
第1 給料の時効期間について
      旧民法174条3号によると給料は1年の短期消滅時効になります。しかし、労基法115条は、労働者保護の観点から、2年に延長しています。これは工場法が災害扶助の請求が2年であったことにあわせたようです。
 
   民法の短期消滅時効制度の廃止が、法制審の審議を経て民法が改正されました。
   結果、賃金請求権も一般債権として、主観的時効5年、客観的時効10年となり、労働者保護法の労基法115条の方が短期という「逆転現象」が生じます。
      労基法115条をどう改正すべきか。
 
   まず、民法の短期消滅時効廃止の理由を確認しておくことが重要です。
 
    民法改正法制審部会の審議によれば
   職業別の3年、2年、1年の短期消滅時効の区分を設けることの合理性に疑問がある。実務的にも、どの区分に属するか逐一判断しなければならず煩雑である上、その判断も容易でない例も少なくなく、実務的にも統一的に扱うべきである(法制審部会資料14-1の1頁)。また、職業別の区分については身分の名残ともいうべき前近代的な遺制であるとの法制審部会討議でも指摘されていた(法制審部会討議第12回6頁)。
 
 さらに、もともと旧法の短期消滅時効は、立法論として批判が強かった制度です。
      我妻榮教授は、昭和40年発行の「新訂民法総則」の教科書で、
 
    「これらの債権者にとっては、少額の債権について現在の煩瑣な裁判手続を利用することは、極めて困難であるだけでなく、これらの債権者中には資力が乏しいため、現在のように多額の出費を要する裁判手続に訴えることの不可能な者も少なくない。現在の訴訟手続は、実際上、多くの無産階級の者から権利保護の機会を奪っていることは否定すべからざる事実であって、時効に関してだけいうべきことではない。しかし、短期消滅時効制度において、とくにその感を深くする」
 
     つまり、社会的弱者の保護にかけるという指摘です。この我妻教授が指摘される実情は、現在においても大きく異ならないというべきです。労基法115条の改正についても、この権利行使の障壁の格差、社会的弱者の保護を念頭において検討すべきなのです。
 
第2 退職金請求権について
 
   退職金請求権については、旧民法では同法174条3号に当たらないから、原則10年の消滅時効期間と民法では解釈さることになりますが、最高裁判所判決(昭和49年11月8日-九州運送事件・判例時報764号92頁)により、労基法115条の適用されると解釈されました。
 
   しかし、退職金請求権については2年では短すぎると批判が強くあり、退職金が高額で支払いに時間がかかる場合があることや労働者の請求も容易でないため、昭和62年に労基法が改正されて5年に延長されました(昭和63年4月1日施行)。
 
   期間が5年とされたのは、「中小企業退職金共済制度による退職金や、厚生年金保険法による厚生年金基金制度による給付の消滅時効が5年であること」が参考にされた(平賀俊行・改正労働基準法298頁)。平賀氏は、労働省労働基準局長をつとめた方です。退職金請求については、毎月支払われる給料よりもより時効期間を長期として保護しようというのがその趣旨であったことが重要です。民法より、短い消滅時効期間を定めることができるという趣旨と理解すべきではありません。
 
   したがって、今回の民法改正により、主観的時効5年、客観的時効10年とされたことから、退職金請求権についても、その労働者にとって老後の生活を支える重要な生活の糧であるから、この改正民法を適用するのが労基法の趣旨から見ても当然です。
第3 起算点問題について(主観的時効と客観的時効の二本立て問題)
      次に起算点について意見を述べます。主観的時効の起算点と客観的時効の起算点の二つになることの問題です。
    今回の民法改正の特徴は、主観的時効と客観的時効の二本立てにしたことです。この二本立てにすることについては、法制審部会において、その適否について相当な議論がなされています。最終的に主観的時効5年の二本立てにすることでまとまり、国会で成立したものです。この点ついては、法制審部会の議論を確認することが重要です。
 
  法制審部会では、短期消滅時効の廃止に伴い、すべての債権につき消滅時効期間を一律10年とすることは、債務者にとって長すぎて酷な結果となるため、主観的時効5年を挿入して債権者(権利者)の利益との調整を図ったものです。この議論に当たっては、主観的時効の起算点(権利の行使をすることができることを知った時)の意義と、客観的時効の起算点の二つになることの不安定さが問題として議論されています。
 
  この主観的時効の起算点の意義については、次のようにまとめられています。
 
  中間試案では、「債権発生の原因及び債務者を知った時」とされていたが、「権利を行使することができることを知った時」に変更された。その趣旨は、債権発生の原因や債務者の存在を認識することを含み、さらに違法性の認識を踏まえた権利行使ができることについての具体的な認識を含む趣旨である。
           「ここでの「知った時」とはというのは、不法行為に関する民法724条前段の「知った」と同じ意味であり、実質的な権利行使が可能である。その権利行使が可能な程度に事実を知った、ということになります」(法制審議会部会第92回会議 議事録22頁。合田関係官の発言)
 
    通常の賃金請求権(退職金請求権)は就業規則などで弁済期が定まっており、労働者も当然、これを知っている場合が圧倒的多数です。したがって、主観的時効であっても起算点も明確です。

    労基法上のその他の請求権についても、労働者が権利を行使できることを知らないにもかかわらず、消滅時効にかからせる合理性はありません。
 
 また、時間外・休日労働に対する割増賃金について、例えば管理監督職について就業規則の定めが労基法に違反しており、本来支払わなければならないのに労働者に支払っていない場合にも、労働者が当該措置が違法であると知った時から時効進行をすることも問題はありません。労基法違反をしてた使用者に消滅時効による賃金支払義務の消滅という「利益」を付与する合理性は見当たりません。
 
 債務者(使用者)の不安定な立場については、客観的時効10年ルールで画一的に救済できることになります。それが今回の民法改正の趣旨なのです。労働者保護の労基法の趣旨から、この民法改正の考え方を生かすことこそが求められて、これを修正する必要はありません。
 

 現在、政府は働き方改革として、長時間残業の規制を政策目標として掲げています。長時間残業を規制するために、消滅時効を改正民法に従って長期化することは、使用者に長時間残業を規制するという協力なインセンティブ(制裁?)を当たることになり、政府の「働き方改革」と一致します。
第4 年次有給休暇請求権について

    年次有休休暇請求権については、一般の債権とは性質が異なり、何よりも年次有給休暇の完全取得を図る必要性があり、繰り越しを5年と認めることは、有給取得を促進することにはなりません。よって、労働組合などの意見を聞いた上で、年休については、現行2年の繰り越しを維持すべきです。
------------------------
 経営側は、経営法曹会議の弁護士が3名、労働側は私と古川景一弁護士と2名です。経営側は必死に、労基法115条の時効2年(退職手当5年)は変更する必要がないと訴えていました。ただ、労働者保護の労基法が民法より短い時効期間を規定するって、法制度としては明らかな矛盾であり、まじめに法律の筋を通すなら労基法115条は民法にあわせるべきでしょう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

2017年11月25日 (土)

5時から頑張る日本人-日本人は労働時間短縮が可能か?

日本で労働時間短縮は可能か?
「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人」(熊谷徹著SB新書)を読みました。

https://www.amazon.co.jp/dp/B00W4NB3IO/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1
昔、日本でも「5時から男」って言葉があった(1988年流行語大賞・高田純次)。ただ、これは仕事が終わってから生き生きと遊びにいく日本人サラリーマンのこと。この本の「5時から頑張る」とは残業を頑張るという意味です。

著者は1959年生まれ。早大卒業後NHKに入局して記者として8年間働き、1990年からはドイツで27年生活し働いているジャーナリスト。ドイツの生活実感から日本の「働き方」を批判します。

ドイツ人は午後5時まで働き残業をしない。日本人は午後5時から頑張って残業する。ドイツは「時短先進国」で年労働時間1371時間。「長時間労働大国」日本は年労働時間1719時間である。

でも、ドイツ経済は現在絶好調であり、労働生産性は日本より46%も多い。2016年の1人当たりGDPを比べるとドイツ(4万2902ドル=約486万円)が日本(3万8917ドル=約451万円)を上回る。
ドイツでは有給休暇を100%消化することや2~3週間のまとまった長期休暇を取ることが、当然の権利として認められ、実行されている。
著者は過労自殺を生み出す電通を厳しく批判し、ドイツではあのような働き方はあり得ないと批判しています。NHKで働いていたころ、著者も日本流の長時間労働にあけくれ、締め切り間際に、不眠不休の長時間労働に従事したという。

最近、NHK女性記者が過労死したことが報道された。ドイツでは「原稿より健康」と言われて、テレビ放送局でも一日最長10時間の規制は守られているという。また、就業時間以外に仕事のメールを部下に送るのは禁止されており、これは休暇中も同様だという。有給休暇とは別に病気欠勤制度が区別され、ドイツでは有給の病気休暇制度が用意されている。

日本とは、まったくの「別世界」です。


ドイツとは「国民性」も「文化」も違うのだから、「日本では無理だとあきらめる」のが多くの日本人でしょう。しかし、ドイツに住む著者は「違う」
と言います。日本でも本当の「働き方改革」を行えば、労働時間短縮は実現できると。


ドイツでは、1日10時間を超える労働が法律で厳格に禁止されていることが大きい。ドイツの労働時間法は「1日8時間・週48時間」で「6ヶ月平均日8時間となること条件に1日最長10時間までしか働けない」制度です。
10時間を超えて働くことは、日本と違ってけっして許されない(適用除外の職種はありますが)。

ドイツでは、国が厳しく企業を監視します。この法律は厳格に適用されます。10時間を超えて労働者を働かせた場合、事業所監督局から最高1万5000ユーロ(約180万円)の罰金が会社に課せられます(場合によっては管理職にも適用)。これが建前だけでなく、実際に多くの企業が摘発されているそうです(病院など)。

さらに、ドイツは産業別労働組合の力が強く、法律よりさらに短い労働時間を定める労働協約が締結されています。例えば、金属産業であれば週35労働時間となっている。


日本では、「1日8時間しか働かないと言って、顧客からの注文を断ることはできない。断れば、競争会社に顧客を取られてしまう。」「年次有給休暇で長期間休むなんて。同僚に迷惑かけるので無理。」と考えるのが普通ですね。しかも、日本の労働組合は力が弱いし、頼りにならない。


でも、だからこそ日本では法律による横並びの規制が絶対必要です。
1日上限10時間とすることがは絶対必要です。10時間超えて働いたら企業や上司は必ず罰金を払うこととすれば、顧客が文句をいってきても法律だから仕方が無いと断れるでしょう。他の競争会社も厳格に同じ法律が適用されるから、同じ条件となります。

普通の企業で、労働者は1日8時間(上限10時間労働)では本当に仕事が回らないのでしょうかね。もし回らないとしたら、それは労働者1人当たりの業務量が過多にすぎるからでしょう。

人口減少時代となり、多くの女性にも労働市場で働いてもらわなければならない。少子化解消のため、子どもを産み育て易い労働社会環境を実現するために「ワーク・ライフ・バランス」は必要不可欠です。男女ともに労働時間短縮の実現こそ、日本社会と経済の発展と維持のために必要です。
顧客や経営者・労働者の自発的な「意識改革」を待っていては、永遠に実現しないでしょう。

法律で1日8時間・週40時間を定めるだけでなく、ドイツのように1日の上限時間を10時間とすべきです。

ところが、今の「働き方改革」の労基法改正案では、

時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定。

これでは何も変わりません。過労死ラインを超える80時間以上の労働を認めるなんて、あり得ないでしょう。

ドイツ人にできて、日本人にできないわけはありません。
ドイツ人も昔から労働時間が短かったわけではありません。1950年代は週50時間を超える労働時間だったそうです。1956年のメーデーでは、「土曜日のパパは僕のもの」というスローガン(「日曜日は神様のもの」ということで週休二日制の要求)が叫ばれました。ドイツの労働組合は週40時間労働時間を強く要求し続け、1984年に金属産業で7週間ものストライキという戦後最大の労働争議がおこり、産業別労働協約を獲得して、1995年には週35時間が実現されることとなったといいます。

労働組合の力が弱い日本では、法律による横並び規制しか道はありません。

労働時間の短縮は「国家」にとって、少子化という「国難」への対応、国力維持・経済発展のために必須であり、「国策」として推進すべき目標です。安部首相は国策や国難は得意なのに。


にもかかわらず、「働き方改革一括法案」の労働時間規制の水準は、悲しいかな「トホホ」の水準です。いつまでも変わらない、このままの日本で良いのか。

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

2017年9月18日 (月)

日本郵便事件(労契法20条)東京地裁判決

■東京地裁平成29年9月14日判決

 東京地裁民事第19部(春名茂裁判長)は、2017年9月14日、日本郵便(株)に対して、有期契約社員3名が労働条件の格差の是正を訴えていた訴訟にて、労働条件の格差の一部(手当)を労働契約法20条違反として、それぞれ4万、30万、50万円の損害賠償を会社に命じました。


■事案の概要


 原告3名は、有期契約社員(期間6ヶ月で契約更新されてきた時給制契約社員)で、2名は外務業務(通常郵便や小包を配達)に従事しており、1名は内務業務(夜間内務勤務)に従事しています。


 日本郵便(株)は、正社員20万人、有期契約社員19万人を雇用しており、原告らの同じ時給制契約社員は16万人います。


 正社員には支給されている手当が、有期契約社員には支給されていないものがあります。また、正社員には許される夏期冬期休暇や病気休暇(私傷病の場合でも有給で90日等)は契約社員は取得できません。これらの労働条件の格差を労契法20条違反であるとして訴えた裁判です。


■労契法20条の内容


 労働契約法20条は、有期労働契約による不合理な労働条件の格差を禁止した規定です。この規定は、正社員と有期契約社員との間に有期労働契約による労働条件の相違がある場合、①職務の内容、②職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情を考慮して、その相違が不合理であってはならいないとするものです。2013年4月1日に施行されています。

 ②の「職務の内容及び配置の変更の範囲」とは、わかりやすくいえば、人事異動の範囲という意味です。


■判決の特徴1(比較対象の正社員のとらえ方)


 本判決の第1の特徴は、比較対象となる正社員を、正社員全体ではなく、担当業務や異動の範囲が類似してる正社員と限定したことです。

 本件では、正社員の一般職(いわゆる平社員。「旧一般職」)は、主任や課長代理や課長に昇任すると就業規則上は定められていました。平成26年4月から導入された「新一般職」は、主任等に昇任することが予定されず転居を伴う配置転換もないコースとなりました。本判決は、比較対象の正社員を、平成26年3月以前は「旧一般職」、平成26年4月以降は「新一般職」としました。


■判決の特徴2(個別の労働条件ごとの不合理性の判断)


 第2の特徴は、個別の労働条件ごとに不合理性を判断したことです。
 年賀状の準備配達の繁忙期に仕事をすることの対価として支払われる年末年始勤務手当については、平成26年3月以前の旧一般職時代から不合理な労働条件の相違であるとして労契法20条違反としました。健康を保持するという趣旨である夏期冬期休暇及び病気休暇についても、同じく旧一般職時代から違法であるとしました。

 他方、住宅手当については、新一般職との比較、すなわち平成26年4月以降、転居を伴う配置転換がない新一般職のコース制が導入された後に労契法20条違反となるとしています。


■特徴3(割合的な損害認定)


 第3の特徴としては、年末年始勤務手当と住居手当について、正社員に対して長期雇用への動機付けの趣旨もあるので、その差額全額が損害になるわけではないとして、各8割、6割の支払を命じたています。

 実際には会社は人手不足を背景に「できるだけ長く働いてほしい」と契約社員に対しても奨励しており、このことを理由に損害額を減額することは納得がいきません。しかし、職務内容等の違いに応じて割合的損害を認定すること自体は積極的に評価できます。判決は、相違があること自体が不合理な場合には全損害の賠償を命じるが、労働条件の質や量による相違の大きさや程度により違法になる場合には割合的な損害を認定するといっています。


■特徴4(休暇制度などの制度の適用の不合理性)


 第4の特徴としては、夏期冬期休暇制度や病気休暇制度について、お盆や正月の国民意識や慣習、健康保持の観点からは正社員と差をもうけること自体が不合理だとして、新一般職導入前から不合理な相違であるとして違法とした点も大きな特徴です。


■判決の問題点と今後の課題


 判決の問題点としては、判決は、「賞与」については、労使交渉で合意していること、正社員に長期雇用への動機付けをして、将来の会社の中枢を担う役割を期待して手厚く遇することは人事施策上、合理的であること、また契約社員に一部とはいえ「臨時手当」を支給しているから、不合理ではないと判断しています。


 しかし、「期待する役割」という抽象的な理由で、労働条件の格差を合理化するのは安易すぎるでしょう。
 会社は控訴したようです。労働者側も敗訴部分を控訴する予定であり、東京高裁で不十分な点を克服することを目指します。


■郵政産業労働者ユニオンの成果


 本件は、有期契約社員を含めて組織している郵政産業労働者ユニオンの組合員が原告となって提訴した事件です。正社員との賃金体系や格差の実態を裁判所で主張立証するためには労働組合の取り組みが必要不可欠です。正社員と非正社員が共同してたたかった労働運動の成果です。

 労組が取り組む西日本訴訟が大阪地裁で係属しており、9月下旬には結審します。年末から年明けには判決が言い渡されるでしょう。この西日本訴訟では家族手当等も問題となっており、大阪地裁の判決が注目されます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

2017年6月22日 (木)

賃金債権の時効と民法(債権法)改正

民法の債権法改正が2017年5月26日に成立(同年6月2日公布)し、公布日から3年以内に施行されます。施行日は未定ですが、おそらく2020年1月1日か同年4月1日あたりが施行日になるのでしょう。

■改正債権法の消滅時効

改正によって旧民法の短期消滅時効が廃止されて、「給料の時効が1年」という定めが廃止されました。同時に、民法の消滅時効も、旧法では「権利を行使できるときから10年」だった消滅時効期間が、改正民法166条では、①「権利を行使することができることを知った時から5年」(主観的時効)又は②「権利を行使することができる時から10年間」(客観的時効)と改正されました。

■労働基準法115条の消滅時効は賃金2年
ところで、労基法115条は消滅時効については、「賃金2年」、「退職手当5年」と定めています。

労基法で賃金の消滅時効が2年と定められたのは、それまでは賃金(給料)については旧民法では1年の短期消滅時効があったため、労働者にとって短すぎるということで、労働者保護の観点から、賃金については旧民法1年の短期消滅時効を労基法で2年に延長したのです。

昭和62年以前の労基法は、賃金について時効を2年とのみ規定して、退職手当を5年とは定められていませんでした。昭和48年に大分地方裁判所が退職手当は賃金にあたらず労基法115条の適用はないと判断しました。しかし、この事件で最高裁判所が「退職金も賃金にあたり労基法115条が適用され、消滅時効は2年だ」との判決を出しました(昭和49年11月8日判例時報764号92頁)。

この最高裁判決の後、昭和62年に、退職金が2年で消滅時効するのは労働者にとって酷であること、中小企業退職金共済制度や厚生年金制度による給付金の消滅時効が5年であることなどから、労基法115条が改正されて、退職手当については5年と改正されて、現行労基法115条となったのです。

■労基法と改正民法の逆転現象という矛盾
改正民法の消滅時効では、債権の消滅時効が5年(主観的時効)又は10年(客観的時
効)となるのに、労働者保護の目的とする労基法115条が賃金について2年と短くなり、労基法が労働者の権利を民法の水準から引き下げることになっります(逆転現象)。これは労基法115条の目的から見て矛盾(背理)です。

■法制審での審議では
この賃金債権の逆転現象については、法制審においても議論されています。
法制審では、委員である中井康之弁護士が「果たして労基法という基本的に労働者保護のための法体系において、特別法で短くすることができるのか。それは基本的にはできないという理解で検討を進めなければいけない」と指摘されています。
幹事である山川隆司教授(労働法)は、「基本的には労働政策審議会等で決めるべきことであろうと思います」と述べた上で、「時効期間の側面」と「起算点の側面」があり、時効期間の問題は中井委員が指摘されるとおりだが、「起算点については、賃金債権以外も含めて考え方をどうするか」が問題となると指摘しています。賃金債権以外というのは、労基法115条は年次有給休暇請求権などを意味します。
また、山川教授は、「一つ考慮するとしたら、労働関係では大量処理の必要と言いますか、賃金その他を含めて多数の債権・債務の管理が必要になる。その辺りは検討する必要」があると指摘されています。

■国会での審議

2017年4月25日の参議院法務委員会で、民進党の小川敏夫議員がこの労基法115条の問題について質問をしています。堀内詔子厚生労働大臣政務官は、「労働政策審議会において、専門家を含めた場において多面的に検証した上で更に議論を深める」旨を答弁しています。

同年5月9日の参議院法務委員会でも、共産党の仁比聡平議員が同様の質問をしており、土屋喜久厚生労働大臣官房審議官は、「今後、検討を行うに当たりましては、この国会における民法の改正案の御議論を踏まえつつ、その動向を踏まえつつ、あるいは施行期日等を踏まえながら、しっかりと検討してまいりたいというふうに考えております。」としています。

要するに、労働政策審議会において、改正民法施行前に労基法115条も改正する予定という趣旨でしょう。

■今後の労働政策審議会での議論でどうなるか

一番、簡単なのは、改正民法と同じく、賃金債権についても、主観的時効5年、客観的時効5年と労基法115条を改正することです。

ただし、検討すべき論点としては、賃金・退職金の未払いは労基法24条違反となり罰則(労基法120条1号)が適用される点をどう考えるかです。

消滅時効が完成するか否かは、刑罰の有無に直接に関係してきます。主観的時効の起算点が「権利を行使できることを知った時から」という主観的で不安定な時点ですから、使用者に罰則が課されるかどうかが「知った時」という主観的な事情によって左右されることになります。これは「刑罰規定の明確性」(罪刑法定主義・憲法31条)との関係で問題になります。そうすると、客観的起算点一本が適切ではないかとの考えも生じます。


客観的時効1本で10年だと長すぎるという問題も生じます。でも、客観的時効5年では民法との逆転現象は解消されない。
主観的時効を維持した場合では、例えば、管理監督職や裁量労働みなし時間制が争点となり、これを争う訴訟を3年~5年かけて最高裁判決で勝訴確定し、残業代未払いが違法とされる事件がよくあります。この場合には、その訴訟の原告以外の従業員は、判決が出てから初めて「権利行使ができるこを知った」ことになり、そこから裁判を提訴することができることになります。

早期の権利関係確定をさせる要請と改正民法と労基法が矛盾せず権利者を保護するバランスをとる労基法改正は結構、難しい論点がありそうです。
ただ賃金の消滅時効2年は改正されて、長期化することは不可避でしょう。賃金の消滅時効が5年に延長されても影響は絶大です。

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

2017年2月28日 (火)

労働者派遣法 鎌田耕一・諏訪康男編著 三省堂

鎌田耕一教授から、「労働者派遣法」を送ってもらいました。
鎌田先生ありがとうございます。立法過程に関与された労働法学者の著書は大変に参考になります。他の著者は、編者のほか、山川隆一教授、橋本陽子教授、竹内(奥野)寿教授です。

Rdshahakenho


同書の第6編、第5章にて、「派遣労働契約の無期転換後の労働条件について」が論じられています。

労働契約法18条により、派遣社員の派遣元との労働契約が通算5年を超える場合に、派遣社員は無期転換を申し込めます。派遣元はこれに承諾したとみなされますから、無期派遣労働契約が成立することになります。そのとき(労契法施行後5年の2018年4月)が迫っています。

この点については、実はいろいろな見解が示されていますが、

本書(鎌田教授執筆)では、

①無期転換になったときには、従前の有期派遣労働契約と同一ですから、そのときの派遣先の労働条件と同一になる。

②しかし、無期転換の当時、派遣先との労働者派遣契約が終了して更新されなかった場合にどうなるか。これについては、派遣労働契約は終了することなく、派遣元会社は、他の派遣先を紹介することなどにより雇用を継続する義務を負う。単に従前の派遣先との労働者派遣契約が終了したというだけでは解雇できない

と解釈されています。

②については、派遣労働契約も終了するという使用者側弁護士の書いた本も読んだことがあります。しかし、派遣労働契約は継続するという著者の解釈は当然です。立法過程に関与した著者の解釈は重みがあるとおもいます。

ただ、②については、無期転換の契約が成立した時点で、労働者派遣契約が成立しても、成立した無期労働契約の労働条件(特に賃金)は、従前の派遣労働契約の賃金が契約内容になるかどうかという問題もあります。

私は、新たな派遣先が見つかるまでは、従前の有期派遣労働契約の賃金が保障されると解釈すべきだと思います。

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

2016年11月20日 (日)

「同一労働同一賃金の原則」について思う

 最近は、「同一労働同一賃金」について講演や学習会を頼まれることが増えています。これは、安倍総理が「働き方改革」として「同一労働同一賃金の原則」を実現すると表明したから俄然、関心が高まったということがあります。

■「同一労働同一賃金の原則」は男女差別を是正する法理

 私は、「同一労働同一賃金の原則」は男女差別是正の法理であって、非正規の労働条件の格差を是正する法理としては、「均等・均衡待遇の原則」と呼ぶ方が良いと思います。こういうと結構、質問、反論があります。例えば、「均衡」の考え方が不明確であるというふうに。


■「均等」と「均衡」

 私は、「均等」と「均衡」を相互対立的・排斥的な関係ととらえる必然性はないと思います。語義的には、「均衡」とは「釣り合いのとれていること」を意味します。また、「均等」は「複数の物事が互いに平等であること」という意味です。
 語感的には、「均衡」の方が広い概念と思われます。つまり、「均等」とは、ある物事について「釣り合い」をとるには「平等」でなければならない場合があるという意味に考えられるからです。
 「均衡」と言うと、あたかも「軟弱だ」とか「敵」であるかのように非難する論者もいます。昔、私が「均衡も均等も本質的な違いはないのではないか」と言ったら、「均等でなければならず、均衡で良いと言うのはおかしい」と非難されました。当時、丸子警報器事件の長野地裁上田支部判決が出されましたが、支部判決に対しても「均等と言いながら、2割の格差を認めた判決はおかしい」と非難していました。


■日本の法律は「均衡・均等」

 労働契約法3条2項が「職務の均衡を考慮」すること、パート労働法1条も「均衡のとれた待遇」と定め、労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律6条は、派遣労働者について「均等な待遇及び均衡のとれた待遇の実現を図る」と定めています。

 日本の労働法には、「同一労働同一賃金の原則」という「文言」は規定されていません(ILO第100号条約のことは後述します。)。だから日本の実定法解釈としては、出発点は「均衡」及び「均等」の理念だというべきでしょう。こう言うと、すぐまた「そもそもその実定法が怪しからんのだ」という人がいます。でも、それを言っても仕方がありません。現に存在している法律をどう解釈するのかが、実務家の仕事なんですから。(もちろん、立法の問題点と限界を指摘することが重要なのは認めますが。)


■非正規労働者の格差是正


 現時点の実定法の解釈としては、雇用形態が異なる非正規労働者の労働条件の改善・是正のための趣旨は、均衡及び均等の待遇確保を理念とすべきでしょう。これを定めた実定法は、労働契約法20条の有期契約による不合理な労働条件の禁止、そして、パート法8条のパート労働を理由とする不合理な労働条件の禁止と同法9条の通常の労働者と同視できる場合の差別的取り扱いの禁止などがあります。

 ただし、労働契約法20条の「不合理」の内容及び判断基準は明確ではありません。例えば、長澤運輸事件の東京地裁判決は、①職務の内容、②職務の内容及び配置の変更の範囲が同一の場合には特段の事情がない限り不合理となるとしました。他方で、同事件東京高裁判決は、③その他の事情も含めて幅広く考慮して不合理であるかどうかを決めるべきとしました。

 私は、「不合理」であるかどうかを判断する指針を「均等・均衡待遇の理念」とし、これは「およそ人は、その労働に対して等しく報われなければならない」という「人格の価値を平等とみる市民法の普遍的理念である」を根拠にすると考えればよいと思います(丸子警報器長野地裁上田支部判決)。「職務」が同一で、「職務内容及び配置の変更の範囲」が同一であれば、労働条件の格差を正当化する事情がない限り、原則は均等に取り扱われるべきでしょう。

 しかし、例えば定年再雇用という事情、あるいは産休代替の一年間だけの限定した有期契約という事情などがあれば、必ずしも正社員と100%同一でなければならないとはいえないでしょう。ただ、どの程度の相違であれば許容されるのかが問題です。


■「同一労働同一賃金の原則」と男女差別是正法理

 「同一労働同一賃金の原則」は、ILO第100号条約の「同一価値労働同一報酬の原則」のことです。これは、男女の賃金格差(差別)を是正する法理です。日本もこれを批准しています。しかし、これは男性労働者と女性労働者を比較して、同一価値労働の場合には同一報酬とするという原則であって、これを超えて、性別にかかわりなく同一価値労働をしていれば同一報酬であるという一般的な規範ではないと言わざるを得ないでしょう。

 なお、「同一価値労働」というのは、同一の労働(職務)でなくとも、同一価値労働であれば良いという意味です。例えば、看護師と検査技師の職務は同一ではありませんが、同一価値であるかどうか比較できるということです。

 この「同一価値労働同一報酬の原則」(「同一労働同一賃金の原則」)は、実際には、主として雇用形態が同じくする男女間の賃金について差別であるか否かの規範となるものでしょう。つまり、正社員同士の「総合職」と「一般職」との格差をどうするかという問題に主として適用されることになります。

 例えば、男性は全員が「総合職」となるが、女性は極一部だけが「総合職」となり、大多数の女性が「一般職」という企業の場合、男性「総合職」といっても、ほとんど総合職らしい仕事をせず、女性一般職と同様な労働をしていること多いでしょう。形式的には「総合職」には配置転換があるとされているが、普通の男性「総合職」は実際には配置転換はない(優秀な一部の男性正社員のみが配転や昇進していく)。にもかかわらず、優秀な女性一般職は、レベルの低い普通の男性「総合職」よりも賃金が少なく昇進もできない。

 これを是正するために、「同一価値労働同一報酬の原則」が基準となり、具体的には労基法4条や雇用機会均等の解釈適用の問題となります。
 これに対して、非正規労働者の格差是正の法理は、労契法20条やパート法8条・9条であり、これらは「均衡・均等の待遇の理念」として区別して整理するのがわかりやすいと思います。
  これを「同一労働同一賃金の原則」と呼ぶと、上記の男女差別是正法理と混同されてしまいます。ただし、雇用形態による格差是正の法理を確立させることは、男女差別是正にとっても良い効果があります。

 今時、女性だから差別しているんだと自認する使用者はいません。実際には、「雇用形態が違うから」ということで、女性が多い比率の非正規労働者の労働条件が低くされているわけです。女性労働者の約56%が非正規であることが如実にその事実をあらわしています(男性の非正規は25%程度)。だから非正規の労働条件の是正をすることは、女性労働者の格差是正に直接につながるのです。


■そもそも、日本で「同一労働同一賃金の原則」が労働契約の基本になるのか


 「均等・均衡待遇の理念」を批判して、「同一労働同一賃金の原則」を正面から労働契約法の原則として、効力規定を定めるべきとする論者もいます。
 その狙いは、正社員についても「同一労働同一賃金の原則」をあてはめるべきという考え方です。なお、この論者は、「同一労働同一賃金の原則」を「修正」して理解をしています。すなわち、「同一労働同一賃金」とは、同一労働であっても、年齢や勤続年数が異なれば必ずしも同一賃金でなくても良いとするのです。
 しかし、これを「同一労働同一賃金の原則」と呼ぶのは据わりが悪いように思います。「同一労働」(同一職務)であると「要件事実」を主張立証すれば、「同一賃金」(同一報酬)という「法律効果」が発生するというのが、「同一労働同一賃金」という規範からの帰結でしょう。
 「同一労働」を主張立証しても、それだけでは「同一賃金」の効果が発生しないというのであれば、「同一労働同一賃金の原則」を、どのような文言で表示されるのでしょうか。結局、不合理な労働条件の禁止と実質的に異ならない文言になるしかないように思います。それではもはや「同一労働同一賃金の原則」とは言えないのではないでしょうか。

 また、こんなふうに「同一労働」の原則を修正(緩和)してしまったら、男女差別を是正する法理としては役に立たなくなってしまうと思います。


■正社員の賃金の原則も「同一労働同一賃金」で良いのか


 正社員も含めて「同一(価値)労働同一賃金の原則」を法的効力のある実体法とした場合には、日本の雇用社会に「革命的」な影響を与えることになります。
 例えば、25歳と50歳の労働者が担当している職務が大して違わないことは多くあります。ところが、日本企業では年功的な運用がなされて、50歳の労働者の方が賃金が高くなっています。これが許されなくなります。
 また、ホワイトカラー職種では、IT技術を使いこなす若手のほうが効率的かつ質の高い労働力を提供しているものです。中高年の賃金のほうが高いのはおかしい。
 のみならず、同一労働同一賃金の原則からいけば、労働者が担当している職務が変われば、当然、給料も変わることになります。一般的な事務労働と専門的知識経験を必要とする労働では当然、賃金は変わります。
 日本では、労働者の配転には使用者に広い裁量が認められます。同一労働同一賃金の原則を貫けば、使用者の一方的な配転によって労働者の賃金はそのたびに変わることになります。それは、いままで戦後30年、50年を経て形成されてきた日本の賃金制度の前提と大きく異なり矛盾します。


■欧米の「職務給」や労使の力関係の相違点
 
 欧米社会では「職務給」が定着しており、職務の配転を使用者が裁量で行うことはできません。しかも、「職務」ごとの給料は、産業別労働組合が使用者団体と労働協約を締結して、いわば社会的に決まっています

 日本には、このような強力な産業別労働組合は存在しないし、近い将来にそのような産別労組が強化されることはありえないでしょう。

 したがって、正社員の賃金も含めて、日本において労働契約の原則として、同一労働同一賃金の原則を法定化することは、欧米との社会的実態が異なり、日本で導入することには慎重にしなければならないと思います。
 新自由主義の立場にたつ労働経済学者や経営者は、同一労働同一賃金の原則の日本での導入に積極的です。また、配転による賃金減額を争う裁判では、使用者代理人の弁護士が配転による賃金減額の正当性を主張するために「同一労働同一賃金の原則」を主張します。
 社会モデルとして、ヨーロッパ型の職務給と企業横断的な産別賃金協定は魅力的ですが、日本では、そのような基盤はありません。


 日本の労働組合は、長年にわたり生活給思想で賃金を要求してきました。
 そうである以上、今、いきなり法律によって、正社員も含めた「同一労働同一賃金の原則」を法律に定めるということは賛成できません。

 確かに、中長期的には、日本も「職務給」の方向に賃金がかわっていくように思いますが、それは徐々に、労働争議をともなう激しい労使交渉を経て実現していくものなのでしょう。賃金を法律ですべて決めることは土台無理なように思います。



| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

2016年11月 8日 (火)

長澤運輸事件東京高裁判決

 東京地裁民事第11部(佐々木宗啓裁判長)は、平成28年5月13日、長澤運輸という一般貨物自動車の正社員運転手が定年後継続雇用として有期雇用で再雇用(嘱託社員)されたが、賃金が減額されたことが、労働契約法20条違反であるとして、正社員当時と同じ賃金を支払えとの判決を言い渡した。

 その控訴審東京高裁第12民事部(杉原則彦裁判長)は、平成28年11月2日、東京地裁の判決を取消して労働者側を逆転敗訴の判決を言い渡した。

■事案の概要
  会社(長澤運輸)は一般貨物自動車運送事業者で、セメント、液化ガス、食品の輸送事業を営んでおり、従業員は66名いる。定年は60歳であり、嘱託社員就業規則では、定年後1年期の有期雇用契約をして継続雇用し、賞与・退職金を支給しない旨を定めていた。
 原告らは3名。うち原告X1は、平成26年3月31日に定年退職し、同年4月1日以降も乗務員として勤務している。正社員(無期契約労働者)と嘱託社員(有期契約労働者)の労働条件(賃金)は次のように差があった。

正社員当時⇒嘱託社員
基本給 11万2700円~12万1500円⇒ 12万5000円
職務給 8万552円~8万2952円 ⇒なし
歩合給  3.1%~3.7% ⇒10~12%
役付手当  組長1500円⇒なし
精勤手当  5000円  なし
住宅手当  1万円  なし
家族手当  5000円  なし
賞   与  5ヶ月分 ⇒なし
 
 労働契約法20条は、有期による労働条件の相違(正社員との労働条件の相違)について、①職務の内容、②職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情を考慮して不合理であってはならないと定めている。
 そこで、原告ら3名は、定年後の労働条件の相違(格差)が労契法20条に違反するとして会社に差額賃金(予備的に損害賠償)を請求して裁判を提起した。

■東京裁判決の内容
争点Ⅰ<定年後の有期再雇用に労契法20条の適用があるか>
 被告会社は、賃金を下げたのは有期が理由ではなく、定年後再雇用であるから賃金を切り下げたのだから、労契法20条は適用されないと主張した。しかし、東京地裁判決は、「労働条件の相違が、期間の定めの有無に関連して生じたものである」ことで足りるとして、労契法20条の適用があるとした。

争点Ⅱ<本件賃金の相違は不合理となるか>

(1)「上記①(職務の内容)と②(職務の内容及び配置の変更の範囲)を明示していることに照らせば、同条がこれらを特に重要な要素と位置づけていること」は明らかであるとして、(上記①及び②が同一である本件の場合には)「労働者にとって重要な労働条件である賃金の額について、有期契約労働者と無期契約労働者との間に相違を設けることは、その相違の程度にかかわらず、これを正当と解すべき特段の事情がない限り、不合理であるとの評価を免れない」とする。

(2) 他方で、「賃金コストの無制限な増大を回避しつつ定年到達者の雇用を確保するため、定年後継続雇用者の賃金を定年前から引き下げることそれ自体は合理性が認められる」としつつ、「しかしながら、(①及び②)が全く変わらないまま賃金だけを引き下げることが広く行われているとか、そのような慣行が社会通念上も相当なものとして広く受け入れられているといった事実は認められない」とした。

(3) そして、「原告らに対する賃金の切り下げは、超勤手当を考慮しなくとも、年間64万6000円を大幅に上回る規模である」と認定し、「これらの事情に鑑みれば、…定年退職者を再雇用して正社員と同じ業務に従事させるほうが、新規に正社員を雇用するよりも賃金コストを抑えることができるということになるから、被告における定年後再雇用制度は、賃金コスト圧縮の手段としてのい側面を有していると評価できる」。

 しかし、「被告において上記のような賃金コスト圧縮を行わなければならないような財務状況ないし経営状況に置かれていたことを認めるべき証拠はなく」、「被告の再雇用制度が年金と雇用の接続という点において合理性を有していたいものであったとしても、そのことから直ちに、嘱託社員を正社員と同じ業務に従事させながらその賃金水準だけを引き下げることに合理性があるということにはならない。」

■東京高裁判決
 争点Ⅰについては、東京地裁とまったく同じ解釈をして、定年後の有期再雇用の場合でも労契法20条が適用があるとした。

 争点Ⅱについては、①及び②の要件を地裁のように重視せず、「その他の事情」を含めて「幅広く総合的に考慮して判断する」とした。

(1)「定年後継続雇用者の賃金を定年時より引き下げることそれ自体が不合理であるということはできない」とする。その理由は、高年齢者雇用安定法により「全事業者」について「定年到達者の雇用を義務付けられてきたことによる賃金コストの無制限の増大を回避して、定年到達者の雇用のみならず、若年層を含めた労働者全体の安定的雇用を実現する必要がある」ことをあげる。

(2) 独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の平成26年調査結果によれば、定年到達時と同じ仕事をしている割合(運輸業)は87.5%であり、継続雇用者の年間給与の水準の平均値が68.3%、中央値が70%で、従業員数50~100人未満は平均値70.4%であるとしている。

(3) 一審原告らの賃金減額は、超勤手当を考慮しなくとも年間64万6000円であるが、年間X1が24%、X2が22%。X3が20%であり、上記JILPTの調査による平均の減額率をかなり下回っている。このことと「本業の運輸業については、収支が大幅な赤字となっていると推認できること」から、「年収ベースで2割前後賃金が減額になっていることが直ちに不合理であるとは認められない」とした。

(4) その他、正社員の能率給に対応するものとして、歩合給を設けて支給割合を高めたこと、無事故手当を増額したこと、老齢厚生年金が支給されない期間について調整給支払ったこと、組合との間で一定程度の協議が行われ、一定の労働条件の改善を実施したことを考慮して、労契法20条違反ではないとした。


■コメント

 東京地裁判決も、東京高裁判決と同様、定年後再雇用の場合に、賃金を切り下げること自体を不合理とはいっていない。しかし、東京地裁判決は、同じ職務内容かつ職務内容及び配置の変更の範囲も同一の場合に2割強の減額が合理的というためには、特段の事情が必要であるとした。①と②の要件を重視する東京地裁判決のほうが自然な解釈であろう。

 他方、東京高裁判決は、JILPTの調査結果から、3割くらいの減額は社会的に許容されているとして、長澤運輸では2割強にとどまっているから合理性があるとしたものである。

 ただ、実際の減額は超勤手当も考慮しての賃金差額(原告3名の平均)は、定年前1年間の年収が527万円だったものが、定年後再雇用1年間の年収が374万円と29%の減収となっている。高裁が2割強と認定したが、これは超勤手当をのぞいた月額給与の差額と思われる。

 しかし、JILPTの調査結果が実態だとしても、労働契約法20条の施行前の実態を基準にすることは、有期雇用の労働条件を改善しようという労契法改正の趣旨に反するのではないだろうか。

 なお、東京高裁判決も「2割強の減額は直ちに不合理とはいえない」としたまでで、3割を超える減額まで合理的だとは言っていない。私が担当している定年後再雇用の賃金減額事件は、正社員当時の基本給から39%も減額された事案であり、その他の手当も含めれば月額で45%も減額された事案である。このような場合にまで合理性があるとするわけではないだろう。

 また、東京地裁も東京高裁も、個々の労働条件ごとに合理性を判断していないことが両判決ともオール・オアナッシング、「白か黒か」の硬直的な結論につながったように思う。


 貨物自動車のトン数や種類ごとに支給される職務給を、同じ仕事(同じ貨物自動車の運転・荷下ろし)をしているのに、有期社員に支給しないことが果たして合理的であろうか。この職務給が、貨物自動車に乗務する運転士の労働負荷に対応して支払われる労務対価であれば、同じ仕事に従事する有期社員に一切支給しないことは不合理であろう。


 賞与についても、正社員に支給される5ヶ月分賞与が給料の後払い的な性格が強いものであれば、正社員と全く同一水準であるかどうかはともかく、一切支給しないということが果たして合理的なのか否かを検討すべきではないだろうか。

 長澤運輸事件は最高裁に上告された。大阪高裁のハマキョウレックス事件判決(定年後再雇用ではない有期社員の運転士と正社員運転士との労働条件の相違が問題となった事件)も、最高裁に係属している。

 おそらくあと一年くらいで、両事件についての最高裁判決が出されるだろう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

2016年3月21日 (月)

ベトナム労働法 印象記

■ベトナム労働法調査

 今年3月中旬に、ハノイのベトナム労働総同盟(ベトナムの労働組合中央団体)、ベトナム商工会議所(ベトナムの国営企業や民間企業、外資系企業が入会している使用者団体)、現地の法律事務所、ジェトロのハノイ事務所などを訪問して、短時間ですが説明を受けました。  現地の方の説明を私が誤解している可能性もあると思います。正確性に問題はありますが、ベトナム労働法事情の印象を簡単に記します。

■ベトナムについて  

 ベトナム社会主義共和国は、社会主義国ですが社会主義的市場経済を推進するという、ドイモイ路線を1986年から 進めており、労働市場も市場機能を重視しています。企業も、国営企業だけでなく、一般の民間企業、外資系企業があります。  労働組合も企業レベル、地方レベル、中央レベルで存在しており、賃金も各企業体で決める建前になっています。ストライキも、法的に容認されて実際にストライキが実施されています。社会主義国としては珍しい部類です。

■ベトナムの基本的な情報  

 

総人口は約9100万人。国民の平均年齢は約29歳、と子どもと若者が多数を占める。  

 

労働力人口は約5370万人。うち、農業従事者は約48%、工業従事者は約52%。  

 GDP成長率は、ここ数年6%を超えているとのこと。 2016年も6%後半の成長率が見込まれています。失業率は2%台。ということで完全雇用状態ですね。

 しかし、ベトナムの1人当たりのGDPは、インドネシアやフィリピンよりも少なく工業化は進んでいない。

■労働組合のナショナルセンター  

ベトナム労働総同盟一つ。

労組員数は約900万人との説明でした。  

労働力人口の中で半分が工業労働者として、組合組織率を推計すると約3割。  

社会主義国なので、もっと組織率が高いと思ったのですが、意外に少ない。


■ベトナム労働法

 労働法典が2102年に大改正されています。ジェトロの仮訳があります。  
 無期労働契約と有期労働契約(1年から3年)があるが、有期労働契約は1回のみの更新で2回更新すると無期労働契約となる(22条2項)。  
 ベトナムの労使とも「ベトナムでは長期雇用を推奨するのが政府の政策であり、企業の方針だ」と強調していました。

 他方で、実際の日系企業の経営者の方や地元の人は、ベトナム労働者は転職が頻繁で流動化が進んでいるため、今は労働者の雇用を長期化して、労働力の質を高めるのが課題というのが実情ということを聞きました。  


使用者が労働者を解雇できる場合を法律が限定列挙しています(38条)。  
a 頻繁な労働契約に定めた業務の不履行  
b 労働者の病気・事故によって一定期間(無期12ヶ月、有期6ヶ月後も回復しない場合)治療後も回復しない場合  
c 天災、火災又は政府が規定するその他の不可抗力の理由によりやむを得ず生産規模縮小及び人員削減を行う場合

   
 使用者が不法な解雇をした場合には、原職復帰(労働者の就労請求権)と労働者が復職を望まない場合の金銭解決の基準を法律で定めています(42条)。  
1 使用者は、労働者の復職認めて、解雇期間の給与、社会保険、健康保険及び最低2ヶ月の給与を支払う。  

2 労働者が原職復帰を希望しない場合には、使用者は1項以外に解雇手当(勤続1年に付き半月分の賃金相当額)を支払う。  
 ベトナムでは裁判所訪問はしなかったので、司法統計はわかりませんでした。事前勉強で日本に留学しているベトナム人弁護士に聞いたところ、個人的労働紛争の訴訟件数は、2013年で4417件、2014年で4682件があるとのことでした。ただ、ベトナムの人民裁判所の判決は公開されておらず、詳細はわかりません。

■集団的労使紛争について  

 集団的労使紛争(スト)は2011年で978件で多かったが、2012年は500件程度、その後、300件程度に減少している。


 集団的労使紛争が発生するのは、外資系企業が多く、台湾や韓国系の企業が多いのが現状であり、これらに比較して日系企業は少ないといわれている。  

 ベトナムでは、集団的労使紛争が件数をみてもわかるとおり、特に深刻化しているわけではないようだ。ストは法律に定めた手続がなされていない「山猫スト」が多いようだが、労働調停員や労働仲裁機関によって解決されている。


■近年の最大の関心事-賃金上昇


 ベトナム政府は、2018年に最低賃金を400万ドンにさせる方針を持っており、最低賃金を上昇させているとのこと。

 2014年で前年比14.9%、2015年も同14.8%をアップしている。一番高いハノイやホーチミン市では、月額310万ドン(約140ドル)となった。 また、最低賃金にだけでなく、平均賃金の上昇率は、ここ数年の平均が10%となっており、賃金上昇が顕著。ただし、中国やインドネシアとの賃金との比較ではまだ低い水準と言われている。


■ベトナム人の仕事観  

 ベトナムは、労働者の転職が結構頻繁で、職場への定着率を高めるのが労使双方の課題になっているようです。
 また、労働者の仕事観は、技師やエンジニアであればその仕事のみを行い、他の一般業務は行わないというジョブ型の発送が強いとのことです。欧州型のジョブ型的な仕事観のようです。
 現地の日系企業の管理者の方は、ベトナムの労働者は、真面目で嘘をつくようなことはないと言っていました。


■ベトナムとTPP-外資導入  

 労働組合も商工会議所もTPPに期待をかけており、TPPの批准によって、外資導入をすすめたいという姿勢でした。労働法改正による整備も外資導入という側面が強いように感じました。労使関係の要請として2012年の労働法大改正がなされたという観じはしませんでした。  

 最近は、日本は大型のベトナム直接投資は少なくなっているとのこと。韓国など直接投資が目立っているそうです。9000万人を超える人口をかかえて、国民も子どもや若者が多く占めていますから、これからさらに発展するでしょう。

■司法事情
 裁判所(人民裁判所)の判決が公開されておらず、どのような運用がなされているのか、不透明だとの意見もあります。社会主義国ということもあって、権力集中が特徴であり、司法部は独立しておらず立法機関(国会)の解釈権眼のほうが重視されているそうです。
 実体法の整備は、労働法を含めてそれなりに進められているのですが、司法手続の透明化は遅れているようです。
 法曹養成としては、弁護士は、大学の法学部、その後、司法学院(ロースクールと呼ばれる)に進み、座学と実務研修をして試験に合格したら弁護士になるそうです。

 裁判官と検察官は、弁護士養成と別ルートで、裁判所と検察に採用されて養成されることになっています。
 戦前日本の司法官制度のようなものです。刑事法廷も、裁判官、検察官の席は床より高く、床に被告人と弁護士が座るという形だそうです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

より以前の記事一覧