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2023年4月28日 (金)

フリーランス新法と労働組合



4月28日に参院議員本会議でフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が成立。実効性等にまだまだ課題が多いが、「ないよりまし」で全会一致で成立。第二東京弁護士会の厚労省委託事業の相談も担当しているが、数多くの相談が寄せられている。中出も、運輸業が相談件数がトップだ。

昨日「軽貨物ドライバー」の労働組合の活動家と、新法の成立後の労働組合としての取り組みについて話しあった。軽貨物のドライバーからの相談が増えており、労働組合として新法が活用可能か、労働運動の方向性についてについて意見交換した。

私は、下請会社と業務委託契約書を締結している軽貨物ドライバーのほとんどは、「労働組合法上の労働者」と認められるので、まずは下請会社との間で労働組合の団交権を確立することが必要。軽貨物ドライバーを組織する労働組合として委託者である会社に団体交渉を申し入れて団交での解決を求めるべきだ。


会社は雇用関係にはないとして団交拒否をすることが多いだろう。しかし、労組法上の労働者性があることはINAXメンテナンス事件最高裁判決、ビクターサービスエンジニアリング事件最高裁判決で決着済みだ。

そこで、労働組合としては、フリーランス新法の紛争解決手続ではなく、労働関係調整法に基づいて労働委員会のあっせん、調停の手続を活用するべきだろう。フリーランス新法では個人受託事業者としての個別的解決をするにすぎない。

東京都労働委員会では、あっせん手続は公益委員だけでなく労働委員会事務局あっせん手続も活用できる。ここでは弁護士を代理人につけずとも労働組合主体で手続をすすめられる。このルートでの解決実績を労働組合が積み重ねていこうと。

労働組合は、フリーランス新法を必要に応じて活用しつつ、中心はドライバーを組織して労使関係として解決を目指すべきだ。しかも、労働関係調整法は、労働組合が主体となって調停やあっせんを労働委員会に申請することができ、ドライバー個人だけで手続をする必要はない。この手続で個別事件として解決しつつ労働組合としての解決実績をつくることができる。

そして、IT技術を活用した業務遂行上の指揮監督関係があるケースがあれば、労基法上(労契法上)の労働者性を認めさせる訴訟提起を含めて取り組みを強化しよう。

さらに下請会社だけではなく、大手元請、ヤマトやAmazonを相手に使用者性を認めさせ、最終的には労働協約締結まで目指す。ヨーロッパの労働運動はそこまで戦っている。

軽貨物ドライバーを含めた「労基法上の労働者性」の確立のための法改正は、このような労働運動の強化と全国的な軽貨物ドライバーの労働組合を強化した先にあるはずだ。
労働組合の意識的、全国的な取り組みを期待したい。

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2023年4月13日 (木)

「労働市場仲介ビジネスの法政策 濱口桂一郎著

ハマチャンこと濱口桂一郎さんから、「労働市場仲介ビジネスの法政策-職業紹介法・職業安定法の一世紀」(JILPT 労働政策レポート14)を送ってもらいました。

労働者側の実務弁護士には余りなじみのないのが職業紹介法などの労働市場法です。こういうと派遣労働者の相談にのっている労働側弁護士に怒られるけど、「労働市場法全体」として法政策をどう考えるかというのはなかなか発想として出てこないのが私です。

職業紹介というと、昔のエリア・カザン監督でマーロン・ブランド主演の映画「波止場」でのマフィアが港湾労働者を職業紹介(手配師)で支配していた悪役、日本だって人買い、手配師でたこ部屋、中間搾取の悪の権化というのが昭和までのイメージでした。

ところが、この規制緩和の時代には、労働市場仲介ビジネとして昇竜の極みで、労働仲介ビジネスとして大変な事業規模を誇るようになったとの認識しかありませんでした。

 

お送りいただいた本は393頁に及ぶ大著。とても読めないですが、最後に今国会で成立予定のフリーランス新法との関連が触れられていました。

同法12条で「募集情報の的確な表示」つまり「虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示はしてはならない」が入ったことが指摘されています。特定業務委託事業者(=仲介ビジネス)に募集情報の的確性を義務付けて、厚生労働大臣が指針を示し、違反した場合には適当な措置をとることができる。

これは新しい情報社会立法として注目すべきとのことだそうだ。

実務法律家としては、私法的効力はない業法という性格だろうと考えるので、さて今後どう活用できるか、と考えてしまう。ただし、厚生労働大臣の枠内での紛争あっせん手続においては、解決の基準として生きることにはなるのでしょう。

 

 

 

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2023年4月11日 (火)

読書日記「サピエンス減少-縮減する未来の課題を探る」原俊彦著(岩波新書・2023年)

読書日記「サピエンス減少-縮減する未来の課題を探る」原俊彦著(岩波新書・2023年)

高齢化、少子化、人口縮減、地方消滅。日本の「国難」と言われる。「日本政府のが悪いせいだ」「日本の女性差別が原因だ」「いやフェミニズムやジェンダーフリー思想が犯人だ」「いやいや格差社会と資本主義的搾取が問題だ」等など様々の議論がある。

しかし、日本から世界に目を向け、そして百年、千年の時間単位でこの問題を眺めると、単純な話ではなく、日本だけの問題でもなく、ホモサピエンス全体の宿命なのだ、という。

国連の最新世界人口推計では、2022年が80億人だが、2086年の104億人をピークに減少しはじめる。2100年の日本の人口の国連予測は7400万人(日本の国立社会保障・人口研究所の予測は5971万人)。日本の少子化・人口減少は世界のトップランナーだが、2100年頃にはアフリカを含めて世界全体で少子化・人口減少に見舞われる。

「人口減少」は、人類が生産力を発展させて、平均寿命が延びて、また男女ともに教育水準が高まり、個人の結婚・出産と生き方に選択の自由が拡大してきた結果にある。この傾向は止められず、また止めるべきでない以上、人口減少を前提として、その対策を充実させるしかないというのがこの本の結論である。

今から1万2千年前の世界人口は5百万人~1千万人、紀元元年頃は2億人~4億人、1950年に25億人、1975年に40億人、2022年には80億人と「人口爆発」である。

マルサスは人口の指数関数的増加を指摘して人口爆発を予測していた。しかし、人口減少も指数関数的に減少する。これを「人口爆縮」と言う。

各時代の平均人口増加率を計算すると
 狩猟採取社会 0.04%
 農耕社会   0.29%
 産業革命時代 0.51~0.98%
 1965~79年  2.05%

人口置換水準の合計出生率は2.1である。
置換水準とは人口の増減ゼロ。
2022年の各国の合計出生率と人口増加率は次のとおり。

 国名 合計出生率 人口増加率 
中  国  1.18 -0.011
韓  国  0.87    -0.05
日  本  1.31    -0.53(トップ)
フランス  1.79     0.21
スウェーデン  1.67     0.60
米  国  1.66     0.47

家族と子供への手厚い保護をするフランスも1.79、男女平等とワークライフバランスの先進国のスウェーデンも1.67にすぎず、何らの対策もとらない米国と同水準である。子供への手厚い保護とジェンダー平等の先進国デンマークも少子化が進行している(1.67)。

アジアも欧米も出生率が「2.1」を大きく上回るまで回復しない限り、少子化・人口減少になる。しかし、アジアも欧米とも「2.1」を上回る大幅回復は見込めない。既に妊娠可能な若い女性人口が少なくなり回復不能である。そうである以上、十数年程度の時間差で全体的も今世紀後半には人口減少は不可避。アフリカも、21世紀後葉までは人口増加が続くが、世紀末には人口減少に転換する。

人口減少社会では、高齢化がいっそう進み、経済的な格差が拡大し、社会保障システムや地域システムが動揺し、行政、経済及び社会システムが全面的に崩壊する危険がある。

それを回避するためには、富裕層に課税して配分の平等を図ることが必須となる。しかし、一国でそうすると富裕層は海外に逃亡するので国際的な課税ルールが必要不可欠となる。また、少子高齢化で労働力人口が爆縮するので、少子化にギャップがあることから、人口余裕国から人口移動(移民)を受入れるしかないが、これが差別などの社会的軋轢を起こさないための施策が必要となる。

これらの対策は、一国では完結しないので、国際的な協力が必要不可欠となる。今後は、地球温暖化等の環境問題だけでなく、人口減少社会への対応として、グローバルなルール作りを実現しないと、ホモサピエンスは大きな打撃を受けることになると警告をする。

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