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2023年2月26日 (日)

「フリーランス保護法」案の国会上程

以前から注目してきたフリーランス保護法案が2月24日に国会に上程されました。

https://www.cas.go.jp/jp/houan/211.html

「フリーランス」を「特定受託事業者」と名付けて、次のように定義しています。

特定受託事業者とは、業務委託の相手方である事業者であって、
①個人であって従業員を使用しないもの
②法人であって一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの

 特定受託事業者で、事業者と定義することの問題点について去年10月のパブコメのときに指摘しました。懸念は、この法律で「特定受託事業者」であるとされた個人は、あるいは特定受託事業者であるとして公正取引委員会や厚生労働大臣に申し出た個人が、「労働者ではない」とされてしまうのではないかという点です。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2022/10/post-57c1d9.html

実務的には、それぞれ別概念であって別の行政機関が法適用の可否を別個に取り扱い、法適用を判断するので問題ないということになるのかもしれません。しかし、労基法上の労働者としてハードルがあると、易きに流れて、「ではフリーランスで」ということにならないのかが心配です。

とはいえ、この新法は是非必要だと痛感します。

フリーランス・トラブル110番(厚労省委託事業)の相談を担当すると、「これは労基法上の労働者だ」と思う相談も多くありますが、労働法を私が有利に解釈しても、労基法上の労働者とは言えないケースも珍しくありません。労基署が労働者ではないので賃金未払い労基法違反で指導できないといったん言われ110番を紹介されて相談する人も多い。じゃあ民事で裁判所に少額訴訟や本人訴訟を、といってもフリーランスの個人で訴訟を出すのも難しい。それでフリーランスのトラブル110番に相談して、和解あっせん手続の利用が急増している。

さて、この法案では、公正取引委員会だけでなく、厚生労働大臣(実際は都道府県労働局)も勧告、命令などができる。命令に違反した場合には罰則もあるものです。厚生労働大臣の管轄になるというのは画期的だと思います。

規制内容は大別すると「取引の適正化」と「就業環境の整備」です。

「取引の適正化」

(1) 給付の内容等の明示(3条)
  給付の内容、報酬額等を書面又は電磁的方法により明示しなければならない。

(2) 報酬の支払期日設定(4条)
 特定業務委託事業者は給付を受託した日から60日以内に報酬を支払わなければならない。再委託の場合には、発注元から支払いをう ける期日から30日以内)

(3)  遵守事項(5条)
① 特定受託事業者に責めに帰すべき事由がないのに給付の受領拒絶
② 特定受託事業者に責めに帰すべき事由がないのに報酬額を減ずる
③ 特定受託事業者に責めに帰すべき事由がないのに返品すること
④ 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を定めること
⑤ 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制させること
⑥ 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
⑦ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること

「就業環境の整備」

(1) 募集情報の虚偽表示等の禁止(12条)
(2) 育児介護の配慮義務(13条)
(3) ハラスメント行為に係る相談体制等の措置義務(14条)①セクハラ、②マタハラ、③パワハラ等
(4) 継続的業務委託を解除する場合30日前予告及び理由の開示義務(16条)
  ※契約期間満了後の更新しない場合も含む

 今まで「真のフリーランス」(労働者とはいえない場合)の保護法がなかったのですから、十分でないとはいえ上記の遵守事項等が定められることは大きな前進です。特に、報酬の60日以内支払いや解除(更新拒否含む)の予告や理由の開示は紛争解決の手がかりになります。しかも、厚生労働大臣の管轄になっているのは大きな前進だとおもいます。全国の労働局が対応することになるからです。「事業者」だけど、特定受託事業者の対応を労働局ができるという道が開けたことになります。

 とはいえ、厚生労働大臣が扱うものは「就業環境の整備」であって、募集情報の虚偽表示等、ハラスメント、解除の予告については勧告ができる(育児介護の配慮義務13条は除外)。ただし、勧告違反者に対する命令についてはハラスメント(14条)が除かれているようだ(19条)。

 これは育児介護休業やハラスメントは労基法上の労働者が前提となっているから、厚労大臣は手を出さないということでしょうかねえ。でも12条や16条は勧告するということであれば、これを除外する必要はないように思います。「遵守事項」についても、厚生労働大臣(労働局)も取り扱うようにしても良いと思います。

 

  これから国会での審議が行われるわけですが、労基法上の労働者性に範囲を狭めることがないように運用するなどの答弁での歯止めを獲得するなり、実効性を高める方策を強化するなど、より良い法律になるように国会議員、労働組合や関係団体が頑張らなければならないと思います。

 

 

 

 

 

 

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