フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性の問題点と課題(その3) フリーランスの定義の提案
「フリーランス」の定義の提案
「方向性」では、フリーランスを「業務委託の相手方である事業者で、他人を使用していない者」としている。しかし、この定義に「事業者」という文言を用いることは適切であないと思う。
先ずは、経済法(独禁法)や租税法、消費者契約法では「事業者」がどう定義されているか確認してみる。
独禁法では、「事業者とは、商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう」(独禁法2条1項)と定める。下請法の事業者も同様である。事業者であれば、独禁法や下請法で禁止された私的独占や不当な取引行為は禁止されて保護される。そして、独禁法上は、労働者は事業者ではなく、逆に事業者は労働者ではない。労働関係に独禁法は適用されない。これは、かつて米国において、ニューディール以前にはシャーマン法(反トラスト法)により労働組合が抑圧されてきたことが背景にある。
租税関係法令では、「事業者とは自己の計算において独立して事業を行う者」(消費税法基本通達)とし、「事業とは対価を得て行われる資産の譲渡等を反覆継続して行うこと」とする。
消費者契約法は、労働契約には適用されない(同法48条)と定めている。理由は「労働契約に基づく労働は、自己の危険と計算によらず他人の指揮命令に服するものであり、自己の危険と計算とにおいて独立して行われる事業という概念には当たらない」とされている(消費者庁・逐条解説)。
以上のとおり、独禁法等では、「事業者」と「労働者」は、それぞれは「独立した事業者」と「従属した労働者」は、お互い排他的な概念として整理されている。
この「枠組み」をフリーランスに当てはめれば、フリーランスが「事業者」と定義されると、労働者ではないことが前提となり、労働法が適用されないということになってしまう。しかし、実際には、フリーランスと呼ばれる「業務委託の相手方」であっても、労働者性が肯定される者も相当数存在しているのが実態である。
ところが、フリーランスの定義に「事業者」であることを前提とすると、フリーランス新法が適用されると、労働者性が否定されるという誤解が生じることになってしまう。したがって、フリーランスを「事業者」(「事業者」は労働者ではない)と定義づけることは適切ではない。
実態から見れば、フリーランスとは事業者から業務委託等により「役務提供」する個人を意味する。つまり、個人の役務提供者にほかならない。この個人の役務提供者は、独立した事業者である場合もあれば、労基法上の労働者性や労組法上の労働者に該当する場合もある。
そうであれば、フリーランスの定義は、「業務委託の相手方である個人の役務提供者で、他人を使用していない者」とすべきであろう。
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