フリーランスのための法制度の方向性の実務的課題
政府(内閣官房新しい資本主義実現本部)は、「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」(方向性)を発表し、これへの意見募集をしています(2022年9月27日まで)。
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=060830508&Mode=0
岸田内閣は、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(令和4年6月)において、フリーランス形態で働く人が462万人となり、トラブルが発生しており、下請代金支払遅延等防止法といった現行の取引法制では対象とならない方が多く、取引適正化のための法制度について検討し、「早期に国会に提出する」旨を閣議決定しています。来年通常国会にも提出なのではないでしょうか。
政府は、この「方向性」で「個人がフリーランスとして安定的に働くことができる環境を整備する」ため、「他人を使用する事業者(以下「事業者」という)が、フリーランス(業務委託の相手方である事業者で、他人を使用していない者)に業務を委託する際の遵守事項等を定める」と表明しています。
私も弁護士として、フリーランスで働く方から多くの相談に接しています。労働者性が明らかな方については労働法を適用することをアドバイス(労基署等への相談)をします。しかし、労基法上の労働者性については労働行政や司法のハードルが実際上は高いため、グレーゾーンの方にはハードルが高すぎて実効性のある方法をアドバイスするのに苦慮します。
※ それでも、労組法上の労働者性は認められるケースが多く、労働組合の団体交渉申し入れという方法もあります。が、どこの労働組合が受け入れてくれるのか不明であり、解決への即効性があるかという「壁」もあります。
※ 厚労省が第二東京弁護士会に委託する「フリーランス110番の相談と和解あっせん手続」は、現状では数少ない有効な手段の一つです。 https://freelance110.jp/
今回の方向性の内容については、入口と出口に、二つの大きな課題があります。なお、今回のブログでは規制内容の遵守事項についてはふれません。また、「そもそも現行法の労働者性の範囲を拡大して、労働者として保護すべきである」との理想論もここでは触れません。
一つは、「フリーランスと労働者性」との関係です。
「方向性」の「フリーランス」の定義ですが、「業務委託の相手方である事業者で、他人を使用していない者」に業務を委託する際の遵守事項等を定めるとしています。
ここでフリーランス定義で「事業者」であると記載があります。しかし、フリーランスの相談では、①明らかに労働者性が肯定できる方(しかし事業者が個人事業者と強弁する)、②グレーゾーンの方、③事業者性が高い方が混在しています。
相談入口で、①の労働者性が明白な場合には、労働基準監督署等に労基法違反で申告するように助言すれば良いのですが、②のグレーゾーンの場合に、労働者性の有無を振り分けることに時間をかけることは救済や改善の役にはたちません。
ですので、間口は広くして、労働者性のグレーゾーンも含めて、フリーランスとして救済対象を広く受け入れることが求められます。
しかし、その結果、労働者性を肯定する範囲を狭めることがあってはなりません。そこで、この法制度におけるフリーランスの範囲は、労働者性の範囲を狭めるよう解釈してはならない旨を明記すべきです。例えば、解釈規定として「本法のフリーランスの定義は、労働基準法、労働組合法上の労働者性の範囲を限定する趣旨ではない」旨を定めるとかです。
二つは、法制度の実効性の確保です。
方向性では、❶「遵守事項に違反した場合、行政上の措置として助言、指導、勧告、公表、命令を行うなど、必要な範囲で履行確保措置を設ける。」、❷「遵守事項違反した事業者を、フリーランスは国の行政機関に申告することができる」、❸「国は、この法律に違反する行為に関する相談への対応などフリーランスに係る取引環境の整備のために必要な措置を講じる」としています。
独禁法や下請法の規制については公正取引委員会の担当です。しかし、公取委は東京に一つあるだけ(そのほか支所、支部が8つしかない)。組織としてもマンパワーとしても、殺到するであろうフリーランスの相談に対応できる体制も知識はないと言って良いでしょう。
しかも、フリーランスの相談には労働者性が認められる方も多く含まれることからすれば、対応する行政機関としては、各地の労働基準監督署と労働局が対応する道しかないでしょう。
相談体制としては、東京で全国対象に行われているフリーランス110番を全国体制として構築し、和解あっせん手続をよりいっそう各地に拡充する方法があります。現在、二弁では弁護士が仲裁人となり和解あっせん手続を行っています。これを、個別労働紛争解決促進あっせん手続のように、全国の労働局に設けることが考えられると思います。
このテーマは、今後も注視していきたいと思います。
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