「危機の時代」(E.H.カー著)再読 ウクライナ侵略によせて
読書日記「危機の時代」E.H.カー著(岩波文庫)
本書は、英国人のE.H.カーが1939年7月に入稿して、同年9月の第2次世界大戦勃発後に出版された。この本は「来るべき平和の創造者たち」に手向けられた国際政治学と国際法に関する古典。E.H.カーは、ご承知のとおり、「歴史とは何か」「ボリシェビキ革命」等の著作で有名です。ロシアのウクライナ侵略を目の当たりにして再読しました。
E.H.カーは、第1次世界大戦後に外交官としてベルサイユ条約交渉を担当した経験に基づき、その後20年の「危機の時代」を「理想と現実」の緊張関係から見て「来るべき平和の創造者たち」に向けて提言を書いている。ユートピニズムもリアリズムとバランスをとらなければいけないという立場からユートピアニズムを批判しています(社会主義や自由放任主義や絶対平和主義も理想論という意味でユートピアニズムと位置づけています。)
第1次世界大戦後のベルサイユ条約でドイツに過酷な条件で屈辱を与えた結果、超民族主義者のヒトラーを呼び出して、第2次世界大戦に至ったと分析しています。今回のロシアのウクライナ侵略も、冷戦後にロシアに対して過酷な条件と屈辱を与え、その結果、プーチンを呼び出してウクライナ侵略を呼び込んでしまった点で同じ轍を踏んでいます。
国際関係は、国家を超えた権力が存在せず、国際的道議や国際法も確立をしていないので、国家単位の政治的・外交的交渉で決するしかない。比較できるのは、先進的な民主主義の資本主義国家の労使関係に似ている。実力(ストライキ等の大衆行動)と交渉のバランスによって合意を見いだす点では一緒だと言います。実力(ゼネスト)を行使すると、労働側も資本側も双方傷つくのがわかっている間なら妥協的平和を得ることができると言います。
「国際分野における政治権力は、(a)軍事力、(b)経済力、(c)意見を支配する力である。」
「クラウゼヴィッツの「戦争は他の手段による政治的関係の継続のほかならない」という有名な警句は、レーニンやコミンテルンによって繰り返し支持されてきた。」
「過去の偉大な文明はすべて、それぞれの時代の軍事力で優位を占めてきた。……強大国として評価されるのは、通常、大規模戦争を戦って勝利したその報償のようなものである。プロシア・フランス戦争後のドイツ、そして対スペイン戦争後のアメリカ、さらに日露戦争後の日本は、よく知られた最近の事例である。」「日露戦争が終わる1905年まで「慇懃な小男ジャップ」は、同戦争勝利後は逆に「東洋のプロシア人」へと変わった。」
「過去百年の重大戦争のうち、貿易や領土の拡大を計画的、意識的に目指して行われたという戦争はあまりない。最も重大な戦争は、自国を軍事的に一層強くしよとして、あるいは、これよりもっと頻繁に起こることだが、他国が軍事的に一層強くなるのを阻止するために行われる戦争である。」ナポレオンのロシア侵攻も、クリミア戦争の英仏の参戦もそういう理由であった。
「1924年のソヴィエト政府は、日露戦争の始まりについて、「1904年日本の魚雷艇が旅順港でロシア艦隊を攻撃したとき、それは明らかに攻撃的行為であったが、しかし政治的にいえば、日本に対するツアー政府の侵略的政策によって引き起こされた行為であった。日本は危険を事前に防ぐために敵に先制の第一撃を加えたのである。」と国際連盟に表明している。
「こうして戦争は、主要戦闘国すべての胸中においては防御的ないし予防的性格をもつものであった。」
ということで、ロシア側にとっては、今回のウクライナ侵略もNATOの拡大を阻止し、将来の侵略に対応する防御的かつ予防的戦争ということになる。長年の戦争のいっかんである(21世紀かどうかは関係ない)。
今や、ロシアのウクライナ侵略から3ヶ月。以前予想したとおり長期戦(一年以上)となることは必至。米国の思うつぼであり、さすがアングロサクソンはすごいと感心する。
現時点の「一人勝ち」は米国。ウクライナに軍事援助して、長期戦に持ち込み、ロシアを弱体化し、NATOの拡大と西欧と日本・韓国の政治的な結束を入手した。経済的にも軍事産業やエネルギー産業が大きな利益をあげる。
ウクライナをコントロールしてNATO加盟に踏み出させたのはバイデンの勝利であった。
他方、中国は機を見ているのであろう。今年9月の共産党大会での習近平の任期延長を獲得した後、ロシアとウクライナ間の仲裁に入るのではないか。そこで成果をあげれば国際的な政治的地位もいや増し。台湾にもにらみがきいて、台湾独立を完全に阻止して経済的に優遇・支配して、親中政権(民進党でなく国民党)の獲得を目指すだろう。
しかし、中国は、軍事力と経済力はあるが、意見を支配する力が欠如している。ロシアに対して、ウクライナ侵略を明確に批判する姿勢を示せば良いものを(対ロ制裁をどこまでするかは個別判断)。ロシアを明確に批判しない以上、台湾や南シナ海への軍事進出の意志ありと、周辺国家と国民に思わざるをえない。孫子の兵法に反しているよなあ。米国は表では綺麗事を言って裏では汚いことをいっぱいしているのだから、中国がそれと同じように建前だけでも綺麗事言えば良いのに。そうしないのが不思議であるが、中国共産党が支配する以上、未来永劫変わらない宿命なのか?いや、イデオロギーではなく、中国やロシアの社会慣習や文化の帰結なのだろう。
| 固定リンク
コメント