« 2022年4月 | トップページ

2022年5月 4日 (水)

読書日記「新・EUの労働法政策」濱口桂一郎著(2022年)

 ハマチャンこと濱口桂一郎さんに、「新・EUの労働法政策」(独立行政法人労働政策研究・研修機構・2022年4月発行))の御著書をお送りいただきました。ありがとうございます。2017年の「EUの労働法政策」(旧版)の続刊ですが、2010年後半以降のEU労働法の大きな進展(シフト制やプラットフォーム労働等への対応)を反映して、まさに「シン」EU労働法政策版です。

2017年旧版では労働条件法政策として、2000年に開始された「雇用関係の現代化と改善」の「経済的従属労働」に関する協議に対して、欧州経団連が突き放した対応に終始し、新たな動きがないとして記述が終わっていました。


ところが、この新版では、ユンケル欧州委員会委員長が重視した欧州社会権基軸(2017年勧告)や現ライエン欧州委員会委員長の下で、透明で予見可能な労働条件指令などが出されて、プラットフォーム労働指令案やAI規則案などの大きな進展が見られており、その概要が紹介されています。(なお、EU法では「指令」はEU加盟国に国内法制制定の拘束力を及ぼすが加盟国内に直接適用されない、「規則」はEU加盟国の私人に直接的適用されます。「勧告」は法的拘束力はない そうです。)


「透明で予見可能な労働条件指令」(2019年6月)は、いわば労働条件の書面通知の強化指令ですが、通知すべき対象者の範囲を拡大して労働者の拡大につながり(案段階では被用者の定義の拡大(プラットフォーム労働を含む)が含まれていたが、最終的には削除された)、手続的規制ですが、最低保障賃金支払や最低保証時間の通知を義務づけることでオンデマンド労働(日本でいえば「シフト制」労働)に対して間接的・手続的の規制をしています。

 

現在「プラットフォーム労働指令案」が2021年9月に欧州委員会から提案され、プラットフォーム労働(プラットフォーム労働遂行者とプラットフォーム労働者(雇用関係あり)に二分されている!)に関して、雇用関係の法的推定の条項が提案されています。プラットフォーム労働についてのアルゴリズム管理について規制も条項として提案されています。


さらに、EUの「人口知能規則案」も2021年4月に欧州委員会から提案され、基本的人権に対してハイリスクを含む「雇用、労働者管理及び自営へのアクセス」について、AI利用に対する規制する規則案が提案されて協議が開始されています。この場合、AIの利用者とは、AIを雇用管理等に利用する使用者への規制です。労働者側の欧州労連は、規則案は不十分であり、労働者の情報開示、情報へのアクセス、訂正、消去、処理の制限などを要求し、日常用語によるアルゴリズムの説明可能性が必要であると提言しているといいます。

 

日本でも現実に事件となっている「シフト制」(裁判)、「Uber EATS団交拒否事件」(都労委)、「日本IBMのAI不誠実団交事件」(都労委)に関連するEUの労働立法の動きを知ることができます。ほかにもハラスメントや労働時間法制、テレワークなどEUの労働法制が全体的に俯瞰されており、文字も大きくなって読みやすくなりました。

著者は、1999年に「EU労働法の形成ー欧州社会モデルに未来はあるか?」を上梓されていました。原点であろう同書で、著者は「ヨーロッパ社会モデル」は「アングロサクソン社会モデル」からの挑戦を受け、「労働者保護が目指した社会的規制が経済的に企業の力を失わせているという問題であり、競争力を回復するために硬直的な労働市場をもっと柔軟にしていかなければならない点」という新自由主義からの挑戦に直面しており、「欧州社会モデルに未来はあるか?」と自問されていました。

本新版では

「2010年代前半がEU労働社会政策の衰退の時代とするならば、2010年代後半はその復活の時代と呼ぶことができよう。その旗頭になったのは欧州社会権基軸という政策理念であった」

と少し高揚感を感じさせる書きぶりです。EUの労働法に興味あるかたには超お勧めです。

EU欧州委員会委員長の前ユンケル委員長は元ルクセンブルグ首相のキリスト教社会人民党の政治家 現在のライエン委員長はドイツのキリスト教民主同盟(CDU)の労働社会大臣、国防大臣を歴任した政治家で、どちらも欧州の中道保守政治家ですね。このあたりが日本とは大きく違います。

| | コメント (0)

« 2022年4月 | トップページ