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2021年9月 4日 (土)

読書日記「資本主義だけ残った」ブランコ・ミラノヴィッチ著・2021年

原題:Capitalism,Alone

 

この著者は1953年に旧ユーゴスラヴィアで生まれ、父親はユーゴスラヴィアの経済学者・外交官。著者はチトーの共産主義国でエリートとして生まれ、ベルギーで高校を過ごし、ベオグラード大学を卒業した人物。今はニューヨーク市立大学客員教授。

 

この書物の核心は「アメリカを典型とする「リベラル能力資本主義」と、中国を典型とする「政治的資本主義」が世界を制している」というもの。

 

著者の言う資本主義とは、マルクスとヴェーバーの定義と同じで「民間の生産手段によって生産が行われ、資本が法的に自由な労働者を雇用し、調整が分散化されたシステム」とする。マルクスとエンゲルスは250年前にに今日の世界を言い当てていたとする。すなわち「ブルジョワ階級は、彼ら自身の姿に型どって世界を創造する」(共産党宣言1948年)。

 

資本主義は、19世紀のイギリスの古典的資本主義、第2次世界大戦後の社会民主主義的資本主義があり、21世紀アメリカのリベラル能力資本主義がある。

 

そして、現代の中国も政治的資本主義である。生産手段が民間に所有され、資本が労働者を雇用するシステムであり、共産党が支配する異なるタイプの資本主義だとする。ベトナム等もこれに含めている。

 

ちなみに著者は、マルクスの正当性としては、資本主義が帝国主義戦争をもたらすという点と資本家が国内政治を支配するという予測を的中させた点があるが、その欠陥は社会民主主義的資本主義が生まれることを予測していなかった点と次の点にあるとする。

 

著者によれば、現実の共産主義(現存した社会主義)とは、共産党一党独裁・生産手段の国有化・中央集権的計画・政治的抑圧を特徴とするもの。このシステムはマルクスやエンゲルスの予想に反して、植民地支配された第三世界において、古い封建制を廃止し、経済的政治的独立を回復し、国有の資本主義を構築するものである。つまり、西欧において国内のブルジョワジーが果たした役割を果たすのが共産主義革命であったとする。

そして、今や中国に政治的資本主義が確立した。それは生産手段の私的所有のもとでブルジョワジーが中国にも存在しているが、共産党が政治的に支配する資本主義として、技術革新と経済成長を遂げている。そして、この政治的資本主義はアジアやアフリカに輸出されようとしている。

著者は必ずしもグローバル資本主義を賛美しておらず、リベラル能力資本主義は金権主義と不平等が深刻化し、リベラルな価値自体を自ら破壊しかない。政治的資本主義も不平等と腐敗が進行し、共産党の官僚組織が腐敗すればやはり自滅するだろうとする。

資本主義と異なる次のシステムは未だに見えず、今後、リベラル能力資本主義と政治的資本主義が対立してどちらが生き残るか、それとも一つに収斂するのか。それぞれが不平等を是正できるか、富裕層による政治支配や腐敗を制限できるかで決まると結論づけている。ピケティやサンデルに共通する流れだ。

 

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