読書日記「米中対立」佐橋亮著(中公新書・2021年)
読書日記「米中対立」佐橋亮著(中公新書・2021年7月)
これからの国際関係は、「米中対立」が基本的関係となり、それにどう対応・適応していくか(米中冷戦や軍事衝突を回避させるという意味でも)が世界諸国家に求められるということのようだ。
この本の特徴は、米国と中国は、中国人民共和国が成立してから朝鮮戦争で米中が激突し、台湾をめぐり米中対立が決定的になったが、1972年のニクソン訪中、1979年の米中国交正常化の後は、米国が中国を経済的、軍事的に援助してきたことを指摘する点である。
1970年代以後の米中の接近は、最初はソ連牽制のための戦略だった。しかし、米ソ冷戦が、米国の勝利で終わった後も、米国は中国との関係を重視して経済的にも育ててきた。それは天安門事件の民主派の大弾圧のあとも基本的には変わらなかった(オバマ政権末期まで)。大量の中国人留学生の受け入れ、WTO参加、軍事関連技術の提供などなどが、この40年間行われてきた。
その理由として、米国側に、アジア地域の安定を図ること、中国の資本主義化と巨大市場の獲得、そして、中国が資本主義化することで自由で民主的な政治体制に徐々に変化するという期待があったからと指摘する。
ところが、中国が急激な成長を遂げ、軍事的にも技術的にも巨大化し、米国に急迫する中、習近平指導部が専制的な国内体制を強化し、対外的には「一帯一路」による海外経済進出、南シナ海等への軍事進出、香港の民主派の弾圧と支配、ウイグル民族への弾圧等を一気にすすめた。しかも、中国は、自由と民主を旗印にする欧米型モデルと異なる「一党独裁・権威主義の中国型発展モデル」を世界に発信しつつある(東欧、中央アジア、東アジア、果てはアフリカの権威主義国家がこれにならう。)。そこで、米国の中国の民主化・自由化への期待は消滅した。
なお、米国の一部の国際政治学者には、「トゥキュディデスの罠」(覇権国の軍事的衝突は必然)に陥らないよう、アジア地域の支配権を中国に平和的に譲渡する方が米国・アジアの平和と安定にとってメリットがあると提案する者もいるという。
トランプ大統領は、米中の2国関係の取引で、米国が得をすれば、民主化や自由化、人権の尊重などおかまいなしに話をつけたであろうが、バイデン大統領は、上記のような原則的な方針のもとに中国に厳しく対応する方針を決定した。
今後は「米中対立」の情勢が基本となる。ただし、「米ソ冷戦」のように軍事的緊張関係を回避することは可能とする。それは、中国の資本主義化によって、米国や他の世界にとっても中国の経済は工場(生産拠点)としても市場としても重要となったから。
そこで、日本と欧州(EU)は、「米中対立」が新たな「冷戦」に至らないように、米国との関係を基調にしながらも、決定的な米中衝突を招かないような慎重な対応をすべきとしている。
巨大な中国であっても、国際的に孤立はデメリットしかないと思うのだが。
香港や台湾については一国二制度を継続し、国際的孤立を回避して、国内の格差問題等の諸問題を解決する方がメリットがあると思うのだが。習近平政権が専制主義に進むのは、中華民族の栄光という非合理な超ナショナリズムや超国家主義のせいなのだろうか。それは、大日本帝国と同じで自滅の道ではないかねえ。
https://www.chuko.co.jp/shinsho/2021/07/102650.html
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