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2021年5月18日 (火)

建設アスベスト訴訟の最高裁判決、そして国との基本合意書

建設アスベスト訴訟について、最高裁は、5月17日、国の規制権限不行使を違法として、労働者のみならず、一人親方及び中小事業主についても救済した。また、建材メーカー10社について共同不法行為の成立を肯定した。

そして、5月18日に菅総理が原告被害者代表者に面談のうえ直接謝罪し、田村厚労大臣との間で基本合意書を締結しました。この基本合意書締結にあたっての原告側の声明は次のとおりです。最高裁判決の評釈は別に時間をとってアップしたいと思いますが、まずは基本合意書の締結は画期的な出来事です。

NHKニュース

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210518/k10013038131000.html?utm_int=news-social_contents_list-items_012

 

 

建設アスベスト訴訟について国との基本合意書締結にあたっての声明

                  2021(令和3)年5月18日

1(はじめに) 

本日午前、首相官邸にて、菅義偉総理大臣が建設アスベスト訴訟原告団・弁護団らの代表に直接、令和3年5月17日の最高裁判所判決で国の規制権限不行使の違法性が認められたことを厳粛に受け止め、被害者及びその遺族に深くお詫びする旨の謝罪の意を表明し、午後6時すぎに田村憲久厚生労働大臣との間で基本合意書を調印した。

2(経過その1)

 2008(平成20)年5月16日、最初に建設アスベスト訴訟を東京地裁に提訴してからすでに13年が経過した。この間、全国各地で建設アスベスト集団訴訟が提起され、原告の総数は、今回最高裁判決を受けた4事件を含め、被災者単位で900名を超えているが、そのうち7割を超える方々が亡くなっており、生存被災者は3割にも満たない。
  2020(令和2)年12月14日、東京1陣訴訟における最高裁判所第一小法廷の上告不受理決定により国の法的責任が確定し、同年12月23日、田村厚労大臣は、原告代表者を大臣室に招いて謝罪するとともに被災者救済のための協議の場を設けることを表明した。

3(経過その2)

 そして、2021(令和3)年2月18日、自民党・公明党内の「与党建設アスベスト対策プロジェクトチーム(与党PT)」(座長:野田毅衆議院議員、座長代理:江田康幸衆議院議員)の第1回会合が開催された。与党PTにおいては、原告側のヒアリングが行われ、全面的解決に向けて精力的な取り組みを重ねていただいた。また、野党においても、同年3月12日には、野党合同ヒアリングが実施され、原告側の要望を真摯に受け止めていただいた。このような超党派の国会議員諸氏の力強い取り組みの結果、最終的に昨日5月17日、同日の最高裁判決を受けて、与党PTは、原告側の思いを真摯に受け止めていただき、①係属中の訴訟の統一的な和解基準の設定、②未提訴の被害者に対する建設アスベスト給付金制度(仮)の創設、③最高裁判決が建材メーカーの責任を明示していることから建材メーカーの対応の在り方について引き続き与党PTで検討することを、「建設アスベスト訴訟の早期解決に向けて」と題する書面にて発表した。これを踏まえて、われわれはさきほど国と基本合意書を締結した。


4(基本合意書の内容)

 基本合意書の主な内容は次の4点である。
 第1点は、国が最高裁判決を厳粛に受け止め、被害者及びその遺族の方々に深くお詫びするとの謝罪がなされている点である。
 第2点は、係属中の訴訟について、国が裁判上の和解をするための統一的な和解基準定めたことである。具体的には基本合意書第2項記載のとおりである。
 第3点は、未提訴の被害者に対する補償である。すなわち、未提訴の被害者に対して、裁判をすることなく被害補償のための給付金(仮称)を支給する制度を法制化することとし、その給付金の額は上記係属中の訴訟と同様とするものである。
 第4点は、継続協議を合意したことである。すなわち、国は、建設業に従事する者について、石綿被害を発生させないための対策、石綿関連疾患の治療・医療体制の確保、被害者に対する補償に関する事項について、建設アスベスト訴訟全国連絡会と継続的に協議を行うことを約束したものである。特に、被害者の補償に関する事項については、与党PTがとりまとめ文書で明示するように建材メーカーの対応の在り方も含むものと言える。


5(評価と意義)

 建設アスベスト訴訟は、被害者である原告の損害賠償請求訴訟で勝訴するだけでなく、制度政策形成訴訟として、提訴した原告だけでなく未提訴のすべての建設石綿被害者をも広く救済する建設アスベスト被害補償基金制度の創設を目標としてきた。
 アスベスト関連疾患による労災認定者数はこれまでに約1万8000人に上り、建設業がその半数を占め、また石綿救済法で認定された被害者のなか中にも相当数の建築作業者が含まれ、さらに建設アスベスト被害者が今後も毎年500~600人ずつ発生することが予測されている。
 本日締結された国との基本合意書には、国の法的責任を認めた上で被害者への謝罪の意が表明され、係属中の訴訟について高い水準の統一和解基準が盛り込まれるという大きな成果を獲得した。さらに、国との関係では裁判することなく補償を受けられる制度が設けられることになった。被害者が裁判をすることなく国から給付金の補償を受けられる簡易・迅速な制度が法制化されることは、画期的な成果であり、広く被害者を救済する制度が立法化される意義は極めて大きい。


6(今後の課題)

 しかし、この国の給付金だけでは被害者にとって完全な賠償を得られるわけではない。なぜなら、残りの損害(被害)については、石綿含有建材を警告表示なく販売製造し利益を上げてきた建材メーカーらが被害者らに補償(賠償)すべきものであるからである。
  与党PTのとりまとめでは、建材メーカーの対応の在り方が引き続き検討課題とされ、また基本合意書にも被害者に対する補償に関する事項について継続協議事項となっている。国の建設アスベスト被害の給付金制度は、建材メーカーも補償金を拠出する建設石綿被害補償基金制度として拡充し、完全な被害者救済制度として法制化すべきである。これが次の制度政策的な課題と考える。

7(決意表明)

 われわれは、この国との基本合意書の締結が画期的な成果であることを確認し、今通常国会での速やかな立法化に向けて取り組みを行うとともに、超党派の衆議院、参議院の国会議員諸氏に今国会での法案成立への協力をお願いするものである。
  そして、今後は、この国の給付金制度を建設アスベスト被害者に周知徹底を図り、被害者が同制度を利用できるよう支援する取り組みを強める。それと同時に、残された建材メーカーの賠償責任を果たさせるため、建材メーカーに対する集団損害賠償訴訟を提起し、最終的には建材メーカーも被害者への補償金を拠出する建設被害補償基金制度を創設することを目指す取り組みを行うことを、ここに宣言する。
                                 以上

首都圏建設アスベスト神奈川訴訟原告団・弁護団
首都圏建設アスベスト東京訴訟原告団・弁護団
関西建設アスベスト京都訴訟原告団・弁護団
関西建設アスベスト大阪訴訟原告団・弁護団
首都圏建設アスベスト統一本部
関西建設アスベスト統一本部
建設アスベスト訴訟全国連絡会

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