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2021年3月 6日 (土)

読書日記 添田孝史著「東電原発事故10年で明らかになったこと」(平凡新書)

<事故はなぜ防げなかったのか>

「地震や津波はいつおこるか予測できないのだから、仕方がないよね」という素朴な感覚がある。でも、この本を読むと、実際の経過は全く異なっていたことがわかります。

実は東電も保安院も津波地震を予測し、2002年から具体的に検討していたが対策をとらなかったのです。

 

この本で複数の事故調の報告書、検察調書、裁判証言録に基づき、事実関係が明らかにされています。以下、時系列にまとめてみました。要約記述にミスがあれば私の責任です。是非、直接同書をお読みください。

10年後に明らかになった事実はもっと広く知られて良いと思う。ちなみに、福島第1原発の原子炉建屋は海抜10mの位置にある。

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2002年8月1日 朝刊各紙で「三陸・房総沖で津波地震発生律20%」と報道された。これは政府の地震調査研究推進本部の発表に基づくもの。

同日、経産省原子力保安院の安全審査官が東電の担当者に連絡して、この津波地震の説明を求める。

同年8月5日東電の担当者(高尾誠)が保安院に赴いて説明。保安院の耐震課長が、福島沖も津波地震を計算するように依頼したが、東電の担当者が抵抗して撤回させる。

2004年12月26日、インドネシア・スマトラ沖地震の大津波でインドのマドラス原発に10mを超える津波が襲来して、原発が緊急停止。

2005年8月 インドのマドラスにて、IAEAが津波による原発事故の危険性に関する国際ワークショップを開催。日本からもJNES(原子力安全基盤機構)と電力会社からの10名が出席。その後、保安院が内部溢水外部溢水勉強会を立ち上げた(保安院の担当は小野祐二班長)

2006年5月11日、第3回溢水勉強会で、福島第1で10mを超える津波が来れば浸水し、炉心溶融になるとの報告。

同年6月9日、溢水勉強会が福島第1現地調査。原発設置当初、土木学会の想定津波が3.5m(2002年に東電は想定津波を5.7mと引き上げられていた。)

2006年9月19日 原子力安全委員会が40年ぶりに耐震指針を改訂。この新基準での古い原発をチェックすることをバックチェックという。津波の安全指針としては「極めてまれであるが発生する津波」にも安全であることとされた。ここで「極めてまれ」とは、1万年から10万年に1回程度の津波であると考えられていた。

この新耐震指針では「後期更新世以降の活動が否定できない断層」つまり約12万年~13万年前以降活動した断層を「将来活動する可能性がある断層」とした。津波を1万年~10万円程度のスパンで考えるのは、この活断層の考え方から当然の帰結となる。

2006年10月6日 保安院の小野班長が東電に「電動機が水で死んだら終わり」、「長くて3年」で対応するようにと話す。保安院の川原室長は「津波は自然現象だから、余裕を確保するように」「経営層に伝えてほしい」と指示。これが東電の武黒本部長に伝えられた。

2007年4月 JNESが福島第1原発に浸水あったら炉心損傷の確率は100分の1より高いとする報告書(施設名を伏せられた)。4月4日、保安院小野班長「想定以上の津波が絶対来ないといえるのか」と東電に強く迫る。ところが、小野班長は6月で経産省の他部署に異動。

2007年11月21日付け東電設計による文書で「地震本部の津波地震による津波の最高水位は7.7m」と報告。

2008年2月16日 東電清水社長出席の午前会議で津波の高さが7.7mになる可能性あると説明される。

同年3月18日 東電設計の津波計算で津波が15.7mとなる計算結果が出る。

同年7月31日、東電の武藤副本部長、吉田昌郎原子力設備管理部長(事故当時の福島第1原発所長)、地震対策センター山下所長らが、想定津波は5.7mとすると決定。このことを有力な学者に根回しせよと指示。その理由を、15.7mだと2009年6月まで対策工事は完了せず、原発停止することになりかねず、東電の収支が悪化すると説明された。

同年8月5日、東電の想定津波対策を知らされた日本原電の担当者は「こんな先延ばしで良いのか、東電は何でこんな判断をするのか」と述べた。日本電源は独自に秘密裏に10m超えの津波対策を行う(工事完了が2011年2月)。

同年11月13日 東電は、「貞観地震」を考慮しないことを決定。他方、東北電力は、貞観地震の研究を取り入れてバックチェック最終報告書を既に完成させていた。東電は東北電力に連絡をして、貞観地震のことは参考資料として格下げさせた。

2009年6月24日 バックチェック中間報告審査専門家会合で、産業技術総合研究所地震研究センターの岡村行信センター長が、東北電力の貞観地震を参考資料としているが不十分だと厳しく指摘。(実際には、東北電力は貞観地震津波を想定して女川原発の津波対策は実施していた)

同年9月7日 東電は、保安院に「貞観地震の津波は約9mになる」と報告。2~3割の余裕の上乗せをすると10mを超える対策をとることになる。

2011年3月3日 政府の地震本部が貞観地震を盛り込む報告書を作成したがが、東電は貞観地震は未だ不確実とする記述に修正させる。

同年3月7日、保安院に東電が地震本部の長期評価によれば福島第1では15.7mの津波が予想されると説明。

同年3月11日 東北大地震発生

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丸山真男は、<個人としての信念や良心を持ち、主体的に判断して行動できる近代的市民のエートスは日本では生まれていない>と論じました。残念ながら21世紀になっても当たっているようです。

東電原発事故10年立っても変わらない。また、2011年8月7日に書いた次のブログに書いたことが証明されたように思います。ただし、廃炉には20年から30年かかると書いたのは間違いで、廃炉が可能であったとしても100年はかかると訂正しなければなりません。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2011/08/post-3c5b.html

 

 

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