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2021年2月19日 (金)

在宅テレワークの費用負担

新型コロナのもとで在宅でのテレワークが広く行われるようになり、労働組合から在宅テレワークの学習会を頼まれることが増えている。

必ず在宅テレワークする場合の通信情報機器等の費用負担が質問されます。

IT企業等では、もともとPCや携帯、WiFi機器が会社から労働者に貸与されているが、今まで在宅テレワークを予定していなかった企業では、自宅にある自分のPCや家庭用の通信環境を使用する労働者も多い(営業情報取扱い上、企業の立場として不安に思わないのか不思議だが、そのレベルの企業も多いようだ。)。

厚労省H30.2.22のテレワークガイドラインでは「労使のどちらが負担するか、また、使用者が負担する場合における限度額、労働者が請求する場合の請求方法等については、あらかじめ労使で十分に話し合い、就業規則等において定めておくことが望ましい。特に、労働者に情報通信機器、作業用品その他の負担を定めをする場合には、当該事項について就業規則に規定しなければならないこととされている(労働基準法第89条第5号)。」としている。要するに「労使合意」によるので、労働者は当然には請求できないということになる。

私は、近代的な労働契約とは使用者の生産手段を使用して労働に従事させるのが本質なのだから使用者が費用を負担するのが当然と考える。でも、これは法律論(労働契約論)ではないので、法律論として、どのように考えれば良いのだろうか。

民法として考えると、民法485条は次のように定めている。

民法485条 弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。

この弁済とは、売買代金の支払いや売買物の引渡しだけでなく、継続的契約関係である請負や雇用についての双方債務の履行も含まれる。

したがって、労働者が負っている労働に従事する債務の履行も弁済となり、その債務の履行に要する費用は債務者(労働者)の負担とするのが原則ということになってしう。

他方で、「委任」の場合は、民法650条1項は受任者による必要費用を請求することを認めている。委任の典型は弁護士と依頼者との関係だが、弁護士が法律行為を行えば依頼者に必要費用を請求することができることになる。これは民法485条の特則ということになる。

委任のような必要費用の請求について民法の雇用には定められていないので、原則どおり労働者が負担するのが原則ということになる。だから、通勤費は使用者が負担する義務は民法からは出てこない。

ただし、民法の規定は任意規定だから、これと違う合意をすれば、その合意が優先することになる。

ということで、上記厚労省ガイドラインは労使での合意をするようにと言うことになる。

ここからが私の試論だが、民法485条ただし書では、「債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする」と定めている。

したがって、「債権者」(使用者のこと)が弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする」としているので、労働者に在宅でのリモートワークをさせた場合には、そのために弁済費用(情報機器や通信料)を増加させるものであるから債権者(使用者)の負担とするということになる。

ただ、同条ただし書きには「債権者が住所の移転その他の行為によって」と定めているので、国の新型コロナ感染防止対策として、企業(使用者)が在宅テレワークを推奨している場合には(業務命令までに至らない場合であっても)、これに該当することになろう。

もっとも、使用者は在宅勤務を推奨しないが、労働者が在宅勤務を希望し、使用者がこれを許可した場合には、この解釈は当てはまらないことになるか。

労働基準法89条第5号は、

5 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項。

「食費、作業用品その他」を労働者に負担させる定めをする場合には、これに関する事項を就業規則に定めなければならないとしている。なので、在宅テレワークに必要な情報通信機器を労働者に負担させる定めをする場合には就業規則に定めなければならないということ。

これを反対解釈できれば、労働者に負担させるという定めがない場合には、使用者が負担することになるようにも読める。しかし、民法485条が弁済費用は債務者の負担とするとの定めているから反対解釈することはできないという結論になる。

労働者に負担させるという定めを使用者がもうけているが、就業規則に記載がない場合には、その定めの効力はどうなるのでしょうか。労基法89条5号に違反しているので、労働者に負担させるとの定めが無効となると言えるのか。民法485条本文あるから、そこまでは言えないのでしょう。

結局、在宅勤務のテレワークの費用については、使用者が主導して在宅勤務のテレワークをする場合には、民法485条「ただし書」を適用して使用者が情報通信機器の費用等を負担することなるのではないかと思います。

労働組合は、これを活用して、使用者が負担することを要求しいけば良いように思います。

仮に、会社が一方的に就業規則に労働者の負担を定めてしまった場合(そんな会社もあるかもしれない)、事業場では負担していなかったのだから、労働条件の不利益変更に該当する余地が生じることになる。

 

 

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