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2020年10月13日 (火)

メトロコマース事件、大阪医科大学事件の最高裁判決について

■2020年10月13日、労働契約法20条に関して、有期雇用労働者と正社員の賞与の格差が争点の大阪医科大学事件、同じく退職期の格差が争点となったメトロコマース事件の最高裁判決が言い渡された。

メトロコマース事件最高裁判決
https://www.courts.go.jp/.../hanrei_jp/768/089768_hanrei.pdf

大阪医科大学事件最高裁判決
https://www.courts.go.jp/.../hanrei_jp/767/089767_hanrei.pdf

最高裁の結論は、原審(東京高裁判決、大阪高裁判決)を覆して、賞与の格差も、退職金の格差も不合理とまではいえないと判断した。

■旧労働契約法20条(平成30年改正前)

無期契約労働者(正社員)と有期契約労働者との労働条件の相違について、「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」と定めていた。

両事件の最高裁判決の論理を追うと次のようなものである。

■メトロコマース事件

同事件は、東京メトロの地下鉄の売店に勤務する有期契約労働者(契約社員B)と正社員との労働条件(特に退職金)の格差が問われた事件だ。

① 判断枠組み

最高裁は、退職金の格差が不合理と認められるかどうかは、「当該使用者における退職金の性質やこれに支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものか否かを検討すべき」とする。

② 本件退職金の趣旨

「(本件の)退職金は、上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、第1審被告は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給したものといえる」とする。


③ 職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情について

1審原告(有期契約社員)と正社員の「職務の内容はおおむね共通するものの、……両者の職務の内容には一定の相違があった」、また、「正社員は配置転換を命じられる現実の可能性があり、正当な理由がなく、これを拒否できなかった」ものであり、「職務の内容及び配置の変更の範囲(以下「変更の範囲」という。)にも一定の相違があった」、さらに「他の多数の正社員とは、職務の内容及び変更の範囲について相違があった」、「開かれた試験による試験による登用制度を設け、……正社員に登用していた」ものである。

④ 結論(不合理な相違と認められるか)


「第1審被告の正社員に対する退職金が有する複合的な性質やこれを支給する目的を踏まえて、売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務内容等を考慮すれば、契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ、定年が65歳と定められるなど、必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず、第1審原告らがいずれも10年前後の勤続期間を有していることをしんしゃくしても、両者との間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは、不合理とまで評価することができるものとはいえない」として、不合理でないとして、原審東京高裁の判決を破棄した。

なお、宇賀克也裁判官の反対意見がある。

■大阪医科大学事件

大阪医科大学事件は、大学の教室事務を担当する有期雇用契約労働者(アルバイト職員)と正職員との賞与の格差が労働契約法20条違反が問われた事件。

② 判断枠組みは、メトロコマース最高裁判決と同じ。

② 本件賞与の趣旨について

「賞与は、通年で基本給の4.6ヶ月分が一応の支給基準となってり、第1審被告(大学)の業績に連動するものではなく、算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含む」「そして、正職員の基本給については、勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給するものとされており、勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有するものといえる上、おおむね業務の内容の何度や責任の程度が高く、人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていたものである。このような正職員の賃金体系や求められる職務遂行能力及び責任の程度等に照らせば、第1審被告は、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正職員に対して賞与を支給することとした」

③ 職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情について
「両者の業務の内容を共通する部分はあるものの……両者の職務の内容に一定の相違があった」、正社員にはついては人事異動が命ぜられる可能性があったことから「変更の範囲に一定の相違があった」、「アルバイト職員については、契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度がもうけられていた」

④ 結論
「(賞与)に労務の対価の後払いや一律の功労報償の趣旨が含まれることや、正職員に準ずるものとされる契約職員に対して正職員の80%に相当する賞与が支給されていたこと、アルバイト職員である第1審原告に対する年間の支給額が平成25年4月に新規採用された正職員の基本給及び賞与の合計約と比較して55%程度の水準にとどまることをしんしゃくしても、教室事務員である正職員と第1審原告との間に賞与に係る労働条件の相違があることは、不合理とあるとまで評価することができるものとはいえない」


「私傷病による欠勤中の賃金」についても、最高裁は、それは「正職員の雇用を維持し確保することを前提とした制度である」として、「アルバイト職員は、契約期間を1年以内として、更新される場合はあるものの、長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとは言い難いことにも照らせば、教室事務員であるアルバイト職員に直ちに妥当するものとはいえない。また、第1審原告は、… 在籍期間も3年余りにとどまり、その勤続期間が相当の長期間に及んだと言い難く、… したがって、… 私傷病による欠勤中の賃金に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものとはいえない」

■ハマキョウレックス最高裁判決との違い

上記両事件の判決多数意見には、ハマキョウレックス事件最高裁判決(平成30年6月1日・民集第72巻2号88頁)よりも後退しており、多数意見には、ハマキョウレックス最高裁判決が引用されていない(メトロコマース事件の林景一裁判官の補足意見には付言として触れられているだけ)。

周知のとおり、ハマキョウレックス事件は、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当、皆勤手当について、不合理な格差として違法と判断したものであり、その最高裁判決では、正社員の人材確保やその定着については触れられていなかった(他方、その原審大阪高裁判決は正社員の人材確保やその定着を不合理といえない理由としてあげていた)。

さらにハマキョウレックス最高裁判決は、職務内容等について相違があっても均衡がとれた労働条件でなければならないと判示していた。

ところが、本件両事件最高裁判決は、「正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正社員に対して賞与ないし退職金を支給する」旨を判示している。これは、経営側が主張する正社員らの「有為な人材確保」や「長期雇用のインセンティブ」論を採用したこととなる。しかも、職務内容等に一定の相違するとしても、その相違と労働条件の相違について、均衡がとれているかについては何ら検討すらしていない。

この点については、ハマキョウレックス事件最高裁判決は各種手当の不合理性が問われた事件であるから、有為な人材確保や長期雇用インセンティブが妥当せず、賞与や退職金の場合には、有為な人材確保論などが妥当するという切り分けなのだろうか。

だから大阪医科大学及びメトロコマース事件については、最高裁第三小法廷は、あえてハマキョウレックス事件最判を多数意見では引用してないと思われる

■私傷病による欠勤の賃金の取り扱いについて

大阪医科大学事件最高裁判決は、私傷病による欠勤の賃金支給について、正社員の雇用の維持確保を前提する制度であり、長期雇用を想定されない有期雇用労働者、あるいは3年余り程度では相当の長期の及んだといえないとして、その格差は不合理とはいえないと判断している。

これは日本郵便事件の大阪高裁判決が有給の私傷病休暇や夏期冬期休暇制度について、5年雇用継続で区分けした(5年を超える原告については不合理で違法)論理に通じるものとなる。この論理では、日本郵便事件では、夏期冬期休暇制度及び有給の病気休暇制度について3年や5年での区分する判断がなされる可能性が高い。

■最高裁判決の保守性

大阪医科大学事件、メトロコマース事件からうかがえるのは、最高裁判所が日本型の正社員中心の長期雇用システムを維持することに固執し、非正規雇用の労働条件の格差はやむを得ないものであり、相当の著しい不合理でないかぎり容認する考えをもっていることである。

日本型労使慣行、正社員の長期雇用システムが日本型資本主義の根幹であるとの古い考え方が最高裁には牢固に残存しているのであろう。

しかし、もはや非正規社員の比率は全労働者の約38%に及び、女性労働者の過半数の55%は非正規労働者であり、若者の多くは正社員として採用されていないのが日本の現実である。

このまま非正規労働者の格差を放置すれば、日本の国民経済自体が崩れていくであろう。

その意味では、「資本家的理性」からしても、この格差を是正すべきなのは明白であろう。だからこそ、政府でさえ「同一労働同一賃金」の「スローガン」が唱えている。その流れに逆行し、この「国家理性」というか「資本家的理性」の労働法政策さえ否定しまう最高裁の判断は、すみやかに克服されなければならない。

来年の春闘では、多くの職場でパート有期雇用労働法8条、9条に基づき、非正規労働者の労働条件の改善を求める取り組みが強められる。その動きに冷水を浴びせた最高裁判所の保守性は、厳しく批判されなければならず、それを克服する努力をけっしてあきらめてはならない。

次の日本郵便労契法20条事件では、勝訴して踏みとどまり、次の一歩に踏み出すことになろう。

 

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