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2018年10月 7日 (日)

働き方開殻関連法の労組向け学習会(出版労連)

 先日、出版労連の秋季年末闘争権利討論集会にて「働き方改革法で労働時間短縮は可能か-労働運動の課題」ということで話をしてきました。参加されていた北健一さんに1時間の講演を要領よくまとめてもらいました。出版労連の機関誌10月日に掲載されています。私が手を加えたものを掲載しておきます。

 「働き方改革関連法」というと、「過労死推進の高度プロフェッショナル制度」や「過労死許容水準の上限規制」という問題点が指摘されて、弊害のみが注目されました。成立前は、よりよい立法を求めるために当然のことです。

 しかし、問題点もあるが、成立してしまった以上、労働条件改善のために役立つ部分を労働組合いは、最大限活用して、労働時間短縮を目指すことが本来の任務だと思います。往々にして「悪法だ」と決めつけてしまって内容をよく見ないという傾向の労働組合を散見します。

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出版労連学習会 働き方改革関連法にて「労働時間短縮」が実現できるか。

「働き方改革」と労働組合の課題    弁護士 水口洋介

 「働き方改革」法案は6月29日、残念ながら大きな問題を含んでまま国会で成立しました。一番大きい問題は高度プロフェッショナル制度(高プロ)という「働かせ方放題」の制度が入ったことです。他方、今日はふれませんが、いわゆる同一労働同一賃金の原則、正確には「雇用形態による不合理な格差是正」も法律に含まれ、これは活用できる点もあります。

 立法趣旨である「長時間労働の是正」という目標は正しいですし、実現を促進すべきものですが、法律の内容は微温的かつ実効性に乏しいものです。ただし、問題点はあるが、活用できる部分がある。少しでも使える法律が成立したら、使えるものは積極的に使い、悪い部分は職場への導入を阻止して、職場での働き方の改善を進めるのが労働組合の任務です。

 

 政府は、日本も時短が進んで1800時間未満を達成したと言いますが、これは実態にあっていません。先日亡くなった関西大名誉教授の森岡孝二先生も『働き過ぎに斃れて』で書かれているように、正社員の労働時間の実態は不払い(サービス)残業も加えると年2000時間を大きく超える長時間労働が続いています。こちらが実態です。

新自由主義の経済学者らは、「高プロは、時間ではなく成果を基準にした新しい賃金制度だ」と言います。その根本にある発想は、労働者が残業代欲しさにダラダラ残業しているから、長時間労働が是正されない。そこで、高プロを導入して、労働時間を長くしても残業代がなければ、無駄に残業をせず、労働時間が短縮されるというものでしょう。

しかし、残業が発生する原因を労使にアンケート調査した結果は、労使とも、①顧客の臨時的な、過剰な要求に対応しなければならない。②業務量に対して人員が不足している、と答えています。つまり、労働者が残業代欲しさにだらだらと残業することが原因だとは、労働者のみならず、使用者も言っているのです。この①と②とを何とかしないと、企業間競争、労働者間競争のなか、長時間労働にまい進せざるを得ない。


 私は1986年に弁護士になりました。そのころから長時間労働は変わっていません。NHK出身の放送ディレクター、熊谷徹さんの『ドイツ人はなぜ、1年に150日休んでも仕事が回るのか』によると、ドイツでは1日8時間の原則が厳格で罰則が厳しい。

 ドイツでも昔から短かったわけではありません。1970年代に労働運動がストも含めて週40時間制を獲得。1985年には金属産業の産別IGメタルが大闘争をして、週38時間制を獲得します。産別が強く、労働協約で獲得しているのです。法律では週48時間で、一日最大10時間まで上限(6ヵ月でならして8時間になることが必要)です。この場合には一日2時間の残業は許されます。また、勤務間インターバルが11時間と設定されています。

 このような働き方は、消費者や顧客にとっては不便ですが、顧客も我慢する。それはお互いさまだからです。「短時間労働でいい、人生の意味は休暇にあるんだ」という価値観が浸透しているのです(ただ抜け道はあって、フリーの独立契約者に外注し、そこにしわ寄せがいっているようですが)。

 日本には、ドイツのような強力な産別労働組合はありません。そこで、法律規制を行うことが重要です。そこで、今回の法改正です。これまでは36協定を結びさえすれば、上限を何時間にしようと罰則はありませんでした。それが36協定を結んだ場合の「残業の上限」が「原則月45時間、年360時間」となりました。「年720時間以下、単月100時間未満、複数月平均80時間以下」を上限に特別条項を結べますが、これの特別条項は、通常想定されない臨時的な事情などの「特別の例外」の場合です。

出版業界では、教科書改定期の繁忙さや雑誌発行に伴う〆切り間際の忙しさの実情を聞きました。労働者の側には36協定を締結する義務はありません。拒むこともできる。それを〝武器〟に会社と交渉し、働き方の改善を進めていくことが必要です。

労働時間の把握を客観的に(タイムカードやパソコンの起動の記録等)行わなければいけないということも、労働安全衛生法改正で入りました。自己申告制など労働時間把握がルーズなら、労使で協議して客観的な方法に改善すべきです。勤務間インターバル制度は法律上、努力目標ですが、運用として許容されている職場は多いと思うので、労使で合意し制度化することが推奨されます。


 年次有給休暇の使用者(会社)による付与制度もできました。現状の日本では、6ヵ月間継続勤務し労働日の8割以上出勤すると10日間の有給休暇が与えられ、就職から66ヵ月で上限の20日間になりますが、取得(消化)率は47%にとどまっています。



 今回、
10日以上の年次有給休暇が残っている労働者に、毎年5日間、使用者が有給休暇をいつ取るかを指定することができるようになりました(使用者の時季指定義務、労基法39条7項)。来年の4月1日施行なので、組合は各職場の希望を集約し、会社が一方的に指定するのではなく、労働者の希望を踏まえて指定するよう取り組まなければなりません。


 高プロの対象業務は今後省令で決まりますが、研究者、金融アナリスト、ディーラーなどが挙げられ、出版のなかには入ってこないんじゃないかと思っています。高プロ導入には労使委員会の5分の4の賛成が要件なので、組合が委員を送り込んでいれば阻止できます。ただ今後、対象業務が広がり、年収要件も引き下げられる恐れがあります。



 限界はさまざまありますが、「働き方改革関連法」は使える部分もあり、どう活用するかはそれぞれの労働組合の努力にかかっています。法律内容を確認した上で職場の実情にあわせて適用させ、時短に向けての業務の在り方を工夫し、少しでも労働時間を短くする方策を労使で検討しなければなりません。
36協定の内容、有休指定のあり方、インターバルの導入、この秋から19春闘にかけ、一つでも成果を獲得していきましょう。

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