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2018年6月 6日 (水)

改正民法「消滅時効」見直しと年次有給休暇請求権の時効

 現在の労基法115条は、この法律に規定する賃金その他の請求権は2年間で時効消滅する(ただし、退職金は5年間)と定めています。

 改正民法では、短期消滅時効(給料は1年)が廃止され、消滅時効期間10年は「主観的時効5年、客観的時効10年」に変更されます。労基法115条で定める2年の消滅時効より短縮されてしまいます。そこで、労基法115条の見直しが検討されています。
 この問題については以前にも次のブログに掲載しました(長文)。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2018/02/post-6a29.html

 私の意見は次のとおりです。
(1) 賃金及び退職金債権などの賃金請求権については、改正民法166条1項のとおり、「権利を行使することができることを知った時から5年」(主観的時効5年)、「権利を行使することができる時から10年」(客観的時効10年)と労基法で定めるべき。
(2)  しかし年次有給休暇については、改正民法を適用するのではなく、労基法115条を改正して従前の消滅時効を2年間とすべき。

 ところが、労基法115条そのものを削除すべきとの意見が出されています。

■労基法115条削除論

 その意見は、「労基法115条をすべて削除して、改正民法の消滅時効の定め(166条1項)を適用すべきであり、その結果、年次有給休暇請求権も主観的時効5年とすべきであるというのです。

 しかし、この問題は、次の二つの観点から議論すべきです。

 第1点は、純粋に民法解釈の問題として、年次有給休暇請求権に改正民法166条がそのまま適用されると解釈できるか、という点です。

 第2点は、年次有給休暇の完全取得を促進する観点にたって、年次有給休暇が5年間行使しなければ消滅しない(5年間繰り越しできる)としたほうが労働者は年休を完全取得するようになるか、という点です。こちらが本質的な問題ですが。


■民法解釈として

 労基法39条に定める年次有給休暇請求権(年休権)の法的性格は、最高裁判所判決(最高裁昭和48年3月2日-林野庁白石営林署事件)により、次のように解釈上確定しています。

① 労基法39条所定の要件が充足されたときは、労働者は当然に年次有給休暇の権利を取得し、使用者はこれを与える義務を負う。

② 使用者に要求される義務とは、労働者がその権利として有する有給休暇を享受することを妨げてはならないと不作為を基本的内容とする義務にほかならない。

③ 労基法39条3項(現行法5項)の「請求」とは、労働者が年休をとる時季(時期)を指定したときは、使用者が時季指定変更権を行使しない限り、時季指定によって年次有給休暇が成立し、当該労働日における就労義務が消滅する。

 つまり、労基法39条5項の「請求」とは、年休の時季を指定する権利(時季指定権)にほからないと解釈されています。

 この意味での「時季指定権」とは、債務者に一定の義務を負わせる「債権」ではなく、意思表示によって一定の法律状態を形成をする権利(「形成権」)であると解釈されています(菅野和夫教授など通説)。

 時季指定権が「形成権」だとすると、改正民法166条1項ではなく、同条2項の「債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間」が適用されることになります。しかし、20年も年休権が消滅時効にかからず繰り越しされるという極めて不合理な結果になります。

 ですから、「労基法115条を廃止して、改正民法を年次有給休暇請求権に適用すれば良い」という単純削除論は、解釈としては少し乱暴です。しかも、労基法39条違反は罰則規定(労基法119条1号)が適用されるので、年休権の消滅時効が民法解釈では一義的に定まらない(166条の1項なのか、2項なのか)ことは不適当です。なぜなら、罰規定の明確化の要請(罪刑法定主義)に反します。

 したがって、労基法115条を単純に削除するのではなく、労基法115条を改正民法にあわせて、賃金等の債権は主観的時効5年、客観的時効10年と定めて、年次有給休暇請求権の消滅時効期間を明確に労基法で定める必要があると思います。


■年休の消滅時効5年が完全取得を促進するのか否か

 次に、年次有給休暇の時効を5年等と長期化しても、年休を取得しにくい職場にしているのは使用者側なのだから、消滅時効の長期化の不利益を使用者は甘受すべきであるとの意見があります。

 確かに、年休がとりにくいのは、年休を取得する就労環境を整備していない使用者側に大きな責任があります。しかし、有給の消滅時効期間を長期化(5年の繰越し)を認めたとしても、今の日本の現状では完全取得は進まないように思います。

 逆に労働者側が「5年の繰越しが認められるのだから、今年、取得する必要はない」と考えて、年次有給休暇をその年に消化をせず、翌年に繰り越してしまい、結局はとれなくなるだけではないでしょうか。これではその年に有給休暇を消化するという年次有給休暇制度の原則に合致しないことになるのではないか。

 年次有給休暇の完全取得が進まない大きな理由の一つは、労働者が病気になったときのために年休を確保しておくからです。ですから、有給完全取得を推進するためには、ヨーロッパのように有給の病気休暇請求権(病休権)として年5日程度を法律で設けるべきです。

 また、ヨーロッパ諸国では、労働者の意見を聴取しつつ休暇の付与時期を決定する権限と義務を使用者に課しています。今後、日本でも病休権を認めて、欧州のような仕組みに変更する必要があると思います。

 以上の理由で、私は年次有給休暇請求権については、労基法115条削除ではなく、この条文を見直すことが必要だと思います。それを、2年とするのか、5年とするのが適切なのか、労働者や労働組合の意見を聞いて検討すべきでしょう。

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