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2018年6月 8日 (金)

労契法20条に関する最高裁の二つの重要判決2018.6.1

 注目されていた労契法20条の「ハマキョウレックス事件」と「長澤運輸事件」の最高裁判決が2018年6月1日に言い渡されました。

 判決内容は予想された範囲内のもので驚きはなかったのです。ただ、長澤運輸事件については、あたかも「最高裁は定年後再雇用有期労働契約の場合には労働条件の格差を容認した」とする報道がありましたが、事案から見ると一般化できない判断であり、報道の一人歩きが心配です。

■ハマキョウレックス事件

 無期契約労働者(正社員の運転手)と有期契約労働者(契約社員の運転手)を比較したハマキョウレックス事件では、正社員に支払われる無事故手当、作業手当、給食手当、皆勤手当、通勤手当が、契約社員に支払われないことは不合理と認められるとして、正社員との上記項目の差額全額を損害賠償請求として認めた。

 同最高裁判決の労契法20条解釈のポイントは

① 労契法20条は、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり、職務の内容等に応じた均衡のとれた処遇を求める規定である。

② 同条の規定は、私法上の効力を有するものと解するのが相当であり、有期労働契約のうち同条に違反する労働条件の相違を設ける部分は無効となるが、同条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない。

③ 同条の「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいう。
 
④ 同条にいう「不合理と認められるもの」とは、労働条件の相違が不合理であると評価することができるという意味である。

 次に、本件事件への具体的な当てはめに関するポイントは

 正社員と契約社員との間には「職務の内容には違いがないが、職務の内容及び配置の変更の範囲に関しては、正社員は、出向を含む全国規模の広域異動の可能性があるほか、等級役職制度が設けられており、職務遂行能力に見合う等級役職への格付けを通じて、将来、上告人の中核を担う人材として登用される可能性があるのに対して、契約社員は、就業場所の変更や出向は予定されておらず、将来、そのような人材として登用されることも予定されていないという違いがある。」

 つまり、職務の内容は同じだが、正社員には出向を含む広域異動の可能性があり、等級役職の格付けにより、将来、企業の中核を担う人材として登用される可能性があるので契約社員とは職務内容及び配置の変更の範囲が異なるとする。

 したがって、住宅手当については、正社員には転居を伴う配置転換が予定されているため、住宅に要する費用が契約社員と比較して多額となる可能性がある。そこで、住宅手当を契約社員に支給しないことは不合理とは認められないとする。

 他方で、皆勤手当は、出勤を確保するため皆勤を奨励する趣旨で支給されているもので、正社員と契約社員の職務の内容が同じであり、出勤を確保する必要性は両者で変わらない。将来転勤や出向する可能性や、会社の中核を担う人材として登用される可能性の有無といった事情により異なるものではない。よって、皆勤手当の支給の相違は不合理と認められるとする。

 この最高裁判決で留意すべき点として、職務内容が同一でる場合、正社員と職務内容及び配置の変更の範囲が異なり、将来の中核を担う人材として登用される可能性が異なるとしても、上記各種手当(住宅手当以外)について、正社員と契約社員の差額全額を損害として賠償を命じている点である。
 日本郵便事件の東京地裁判決のように損害額を6割とか8割とするような減額を認めていない。

■長澤運輸事件

 長澤運輸事件も、貨物自動車の運転手の正社員と有期契約労働者(嘱託社員)との労働条件の相違が問題となった。嘱託社員は定年後有期労働契約として再雇用された労働者という事案である。また、正社員と嘱託社員の運転手は、職務内容が同じだけでなく、職務内容及び配置の変更の範囲も同一である。

 最高裁は、正社員の超勤手当と嘱託社員の時間外手当の相違、精勤手当が嘱託社員に支給されないことは不合理と認められるとしたが、能率給・職務給、住宅手当、家族手当、賞与の不支給は不合理と認められないとした。

 当事者の嘱託社員の労働者にとって不当判決であることは間違いない。

 ただ、この最高裁判決によって、定年後再雇用された有期契約労働者の相違が一律に許容されたものと一般化して考えるべきではない。それは長澤運輸事件の事案には特徴があるからである。

 同最高再判決の労契法20条解釈のポイント

① 定年後再雇用された者であることは、労契法20条のその他の事情として考慮される。

② 労働条件の相違が不合理かどうかは、賃金の総額を比較することのみではなく、賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき。

 次に、本件事案への具体的な当てはめに関するポイント

① 嘱託社員らは、労働組合を通じて、再雇用後の労働条件改善を要求して団体交渉を行い、会社は労組要求をうけて、一部だが労働条件を改善していること

② 「嘱託社員の基本賃金及び歩合給」と、「正社員の基本給、能率給及び職務給」を比較すると、正社員のそれと嘱託社員3名との差は約2%、約10%、12%の範囲にとどまっていること、さらに嘱託社員は定年退職後に再雇用された者であり、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることができる上、組合との団体交渉を経て、老齢厚生年金の報酬比例部分が支給されるまでの間、2万円の調整給が支給されることから、両者の相違は不合理なものと認められない。

③  「賞与」については、嘱託社員は定年後再雇用された者であり、定年退職時に退職金が支給されるほか、老齢厚生年金の支給が予定され、その報酬比例部分の支給されるまでの間調整給が支給される。また、嘱託社員の賃金(年収)は定年退職前の79%程度であること、嘱託社員の賃金体系は基本賃金の額は定年退職時における基本給の額を上回っており収入の安定を配慮しながら、歩合給に係る係数を増加させて労務の成果が賃金に反映されやすくしていることを、総合考慮して不合理と認められない。

 長澤運輸事件の事案は、労働組合の要求や団体交渉により一部労働条件が改善され、その結果、基本賃金が定年時点より増額され、調整給が月額2万円支給され、能率給と職務給が支給されないが、年収での差額が約79%であるという事実を前提とした判断である。

 このような事案において最高裁は、時間外手当と精勤手当以外の労働条件の相違が不合理なものとは認められないとしたものである。


 しかし、例えば、正社員との賃金(年収)の相違が79%ではなく、60%や55%のようにより低額である事案や、基本給部分が正社員と比較して低額に切り下げられた場合や、調整給支給などの工夫がない場合には、定年後再雇用だからといって、その賃金の相違(格差)がすべて不合理ではないとは判断されていないと読むべきであろう。

 多くの会社では、労働組合との交渉もなく、長澤運輸事件以上に定年後再雇用者の賃金は正社員と比較して低額とされていることが多い。定年後再雇用の場合にはどのような相違でも許容されるという判断を最高裁がしたものではない。逆に、長澤運輸事件のような工夫や調整をしてない場合には、不合理と認められる場合があることに留意したい。

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