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2018年5月 4日 (金)

北朝鮮  安倍首相はどうするのか?

▪️激動の北朝鮮情勢

北朝鮮の金正恩委員長が今年になり、韓国冬季オリンピックでの平和攻勢、習中国主席とのトップ会談、トランプ米大統領との米朝首脳直接対話の約束、ムン韓国大統領との「非核化」や「朝鮮戦争終結」を盛り込んだ板門店宣言の発表という劇的な変化が目の前で繰り広げられている。

ところが、日本のマスコミ、政治家や専門家は、「金正恩の改心や変心はあり得ない」とか、「詐欺や騙しにすぎない」という意見が多く見られる。

▪️外交問題は指導者の「人間性」問題ではない

しかし、北朝鮮問題の焦点は、各当事者国の国益をめぐっての対立と交渉ごとである。何も金正恩が改心したか否かや善人なのかどうかが問題ではない。これはトランプ大統領やムン大統領が、「良い人か」とか「信頼できるか」という問題でもない。あくまで、それぞれの国家の利害確保のための交渉ごとである。その国益とは、各指導者が国内的に自己の地位を維持する上での損得勘定も含まれる。

マスコミで論じられるような金正恩が改心したかどうかや信用できるかなどと考えることは意味がない(というか、そもそも改心したわけがない)。逆に、金正恩が平和を熱望しており、非核化を本気で考えているなどと北朝鮮のプロパガンダを真に受けるのも愚かな考えである。要は、現状において、北朝鮮がその国益維持のためにどういう方向性と交渉を行うかどうかという利害分析こそ重要である。当事国の利害が一致すれば、その合意は意味があるのである。

金正恩にとっては、北朝鮮国内での神格化や威信を維持できるかどうかも含めて自国の利益をどう獲得するかが重要であり、それはトランプが米国内での中間選挙での勝利や自己の支持率をあげるために役立つかどうかを検討することと同じである。


▪️したたかな北朝鮮の外交戦略


北朝鮮は、大陸間弾道核ミサイル技術が確立したという現局面で、アメリカと交渉する絶好のタイミングであると利害分析をして決断をしている。シリアやイラクでの紛争泥沼化、ロシアと米国の対立、中国と米国との貿易摩擦、韓国でのムン左派政権の成立、トランプ大統領の予測不可能性(北朝鮮への先制軍事攻撃可能性)と自己に利益があれば飛びつくという「ディール好き」を見定めて、一連の外交攻勢を行ったのであろう。

これだけ矢継ぎ早の手をうつのは思いつきでできるものではない。北朝鮮としては、数年単位で外交戦略を検討した上での行動であろう。金正恩の決断力と実行力には驚かされるが、単に金正恩個人が策定したものではなく、優秀な外交戦略立案グループが存在するのであろう。



▪️「非核化」の条件とは何か

リビアは核計画を放棄した結果、カダフィは殺害された。イランは核開発計画を放棄するという米独仏の国際合意をしたが、トランプが一方的にこの合意を破棄しようとしている。


インドやパキスンタンは核兵器を保有しているが、米国は黙認してこれらの国と協力関係に結んでいる。他方、核兵器を放棄したリビアは崩壊した。これらを考えれば、北朝鮮が核兵器をすべて放棄することは考え難い。


では、北朝鮮が将来(少なくとも金政権が継続する2、30年)にわたって現体制維持が確実に保証されると考える条件とは何か。


それは、米朝の合意だけでなく、中国もいれての米朝中韓の朝鮮戦争終結と軍事侵攻しないという合意が絶対必要であろう。そうすれば国連軍(在韓国連具Nと在日国連軍)は無くなる。米国の朝鮮半島での軍事指揮権が消滅することになろう。


これらの条件が整えられれば、少なくとも米国に届く大陸間弾道核ミサイルは放棄するだろう。ただし、核兵器を完全放棄することはまずありえない。おそらく「非核化」を将来的な究極の目標としつつ、経済制裁解除や経済協力を引き出すために核廃絶プロセスを先送りして活用するだろう。これは、日本から見れば先送りで騙しのテクニックにほかならないが、北朝鮮から見れば自国の利益を守るための合理的な行動となる。


▪️米朝会談を「失敗」とは言えない利害一致がある

北朝鮮と韓国にとって、朝鮮戦争を完全に終結することができれば、相互に利益が大きい。何よりも北朝鮮にとって経済制裁を終了させることができる。中国、EU諸国、韓国、米国からの投資を受けいれて経済を発展させることが可能となる。韓国にとっても、戦争の脅威から解放されて、中国との経済関係も著しく発展させることができる。


中国にとっても、朝鮮半島の軍事衝突を回避して緩衝国家の北朝鮮の安定を確保することは国益に合致するであろう。


トランプ大統領にとっては、米国本土に届く核兵器を放棄させ、朝鮮戦争を終結させて、在韓米軍も縮小でき、国内の支持率は一挙にあがるという大きなメリットが生まれる(ノーベル平和賞も)。


となると、北朝鮮と米国との交渉や非核化は、紆余曲折はあるだとうが、大局的にみれば失敗することはないだろう(失敗したら、どの国も特をしない。いや日本以外は。)。


国際平和や信頼などという言葉は、上記のような利害が一致したあとに、修飾語としてまぶされるものにすぎない。


▪️安倍政権はどうするのか

安倍首相の立場としては、非常に困った状態になっている。

安倍首相があれほど「対話には意味がない」と言っていたにもかかわらず、米国大統領が率先して対話路線に踏み出した。また、日本政府がムン大統領の北朝鮮への対話路線を批判していたにもかかわらず、ムン大統領と金正恩委員長とのトップ交渉で、金正恩が日朝の話し合いに応じる用意があると発言したことをムン大統領から伝えられ、仲介の労をとっても良いとまで言われる始末である。

他方で、日本と北朝鮮との間の直接交渉を行う高いレベルでの交渉ルートは見当たらない。

北朝鮮は、日朝の国交相正常化をするにあたって、いわゆる戦後補償を受けることを当然の前提としており、これは日朝平壌宣言で無償資金提供や経済協力することを日本も盛り込んでいる。したがって、国交正常化には、過去の植民地支配に対する補償としての大規模な経済協力(1兆円から2兆円)を行うことが必要不可欠であり、日本政府はこれを否認することはできない。北朝鮮は、この戦後補償を強く欲しているであろう。


他方、日本は、拉致問題の解決が絶対的な条件であり、拉致問題解決抜きの日朝国交正常化や戦後補償を行うことは考えれれない。


拉致問題の解決とは、何よりも拉致被害者の生存者の帰国である。安倍首相は、拉致被害者の全員の帰国こそ絶対条件であると再三表明してきた。


しかし、2002年に北朝鮮の故金正日委員長が、小泉首相に拉致問題を謝罪しつつ、日本に帰国した蓮池さんら以外には、もはや生存者はいないと回答した。果たして、それから16年経過した現在、北朝鮮が「実は拉致被害者は生きていました」と回答するであろうか。そうであれば良いが。現在、北朝鮮は、トランプ大統領との交渉をひかえて、抑留されているアメリカ人3名を解放する準備をしており、同様なことが日本の拉致被害者でも起こるのであろうか。


今や、安倍首相も金正恩委員長との面談(対話)を行うことを示唆している。しかし、もし安倍首相が金正恩委員長に仮に会ったとしても、2002年のように拉致被害者の生存者はもういないと言われてしまったらどうするのだろうか。


そう言われないことを確認しない限り、日朝首脳会談を実現することはできないだろう。今後も、安倍首相は、拉致被害者を解放するために圧力をかけると言うしかない。つまり、北朝鮮が日本の戦後補償欲しさに拉致被害者の全員解放を決断するまで待つ、という選択肢しかないのではないだろうか。


ただし、今の状況では、結果的に日本だけが取り残されることになろう。

安倍首相や外務省は、トランプ大統領やムン大統領に拉致被害者問題を解決して欲しいと懇願する以外に、何か良い知恵と良い手を持っているのであろうか。


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