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2018年1月 8日 (月)

北朝鮮への米国の先制攻撃はあるか?

▪️過去にあった北朝鮮への先制攻撃

1994年頃、クリントン政権が北朝鮮の核施設を限定攻撃を行おうとしたが、韓国大統領が反対し、また日本も北朝鮮からの反撃に対応する準備ができていなかったことから、米国は北朝鮮核施設攻撃を断念した。このことは後に明らかになった。1994年当時、私を含めて日本人の多くは、そこまで開戦の危機が切迫化していたとを知らなかった。

▪️現状では北朝鮮からの先制核攻撃はない

北朝鮮は現時点では武力での朝鮮半島統一方針を放棄しています。北朝鮮の核ミサイル開発は金正恩体制(北朝鮮の国体)護持のためであり、北朝鮮からの先制核攻撃はありえません。なぜなら、北朝鮮が先制攻撃すれば米国の反撃により、北朝鮮は壊滅するしかないからです。

このことは、米国、韓国、日本の軍事筋も認めているところです。

北朝鮮の攻撃(核兵器使用を含めて)があるとしたら、米国が北朝鮮を先制攻撃した場合(あるいは米国の先制攻撃が必至だと北朝鮮が認識した場合)しかないでしょう。

▪️米国の先制攻撃の可能性

では、いまの北朝鮮危機は具体的にはなんでしょうか。

それは、米国が北朝鮮への先制攻撃を行うか否かの一点です。

米国の目的は、北朝鮮の大陸間弾道核ミサイル施設の破壊です。北朝鮮の体制転覆のためではありません(米国はこのことを公言している)。米国本土に到達する核ミサイルの実戦配備を阻止するという一点です。

パキスタンやインド、そしてイスラエルは核ミサイルを保有していますが、米国を標的にしていないから、米国は黙認しています。

しかし、北朝鮮のような国が米国本土に対する大陸間弾頭核ミサイル攻撃能力を保有することを米国が許すことは決してないでしょう(ただし、逆に言えば米国に届かないのであれば核兵器を黙認する可能性があるということです)。

▪️米国先制攻撃不可避説

北朝鮮が米国本土を攻撃する大陸間弾道弾(核ミサイル)を完成させる前に、米国は北朝鮮のミサイル施設を叩くはず。軍事的な合理性のみを考えたとき、米国がこれを躊躇する理由が見当たりません。

ちなみに、米国は、自国への軍事危機を守るためには軍事行動を躊躇するような国ではありません。米国本土の米国人をまもるために、朝鮮人、韓国人、日本人が数十万人、数百万人くらい死んでも「悲しいがやむを得ない犠牲」と言うはずです。特に、今の米国政権はトンランプ大統領ですからなおさらです。

米国が北朝鮮に先制攻撃を行うタイミングは、核ミサイルが実戦配備される前、つまり2018年中だと予測されています。

韓国での冬季オリンピック開催期間は戦争は回避されるでしょうが、北朝鮮は核ミサイル開発を進めるでしょう。

2017年秋頃から、米国の国務長官は、「北朝鮮の体制転覆を企図しない」とか「核ミサイル開発を凍結すれば北朝鮮と直接対話を行う」と表明しています。が、北朝鮮はこれに応じる気配はありません。

今や、北朝鮮が自発的に核開発を放棄することはありえません。それは、インドやパキスタン、イスラエルが自発的に核兵器を放棄することはありえないことと同じです。

米国本土への危険がない状態で軍事攻撃できるのは、2018年が最後のチャンスだと米国は考えているでしょう。

軍略としては、イラク戦争のように、巡行ミサイルや航空兵力で北朝鮮に奇襲軍事攻撃を行う。38度線付近の長距離砲陣地を一挙に巡行ミサイルと航空兵力で叩いてソウルへの砲撃を阻止し、同時に核ミサイル施設を破壊する。そして、北朝鮮軍が38度線を南下しようとすれば米韓合同軍がこれを阻止するという作戦でしょう。

この先制攻撃作戦を実行するとしたら、北朝鮮が韓国や日本に対して報復として核兵器による攻撃の可能性は低いという判断が前提になります。いかに金正恩とはいえ、核兵器を使用して報復すれば、米国の核攻撃にさらされることは承知しているので、核兵器は使用しないと想定しているのです(この点では、彼の合理的判断能力を前提している)。

テポドンなどのミサイルが数発、韓国や日本に打ち込まれても迎撃ができるし、たいした損害は発生しないと軍事的合理性の観点から割り切るでしょう。

米国が先制攻撃を行うかどうかは、北朝鮮が反撃として核攻撃に踏み切るか可能性をどの程度に見積もるかが重要な分かれ道になります。

▪️米国先制攻撃回避(不可能)説

いかに米軍とはいえ、北朝鮮の核兵器による韓国や日本への反撃を100%阻止できる保障はない。北朝鮮が自暴自棄となり、自国の崩壊覚悟で核兵器を使用することもあり得る。

この場合には、米国は北朝鮮との戦争には勝利するだろうが、数十万人、数百万人という多大な犠牲を払う韓国では、反米運動が盛り上がり、朝鮮半島は北だけでなく南も中国に勢力圏内になりかねない。

また、日本の在日米軍への核ミサイル攻撃が行われて、これを阻止できなかった場合には、数十万人、百万人規模の日本人の犠牲者が出る。そうなれば日本でも反米運動が盛り上がり、日米軍事同盟が崩壊しかねない。日本という在日米軍基地を失えば、米国の国益を著しく損なう結果となる。米国の対中軍事戦略は崩壊していまう。

米国が失うものがあまりに大きいため、このような危険な賭けである北朝鮮への先制攻撃をすることはまずないと考えるのが合理的な判断でしょう。

また、北朝鮮を攻撃する場合には、中国との戦争を回避する措置を事前に中国と合意しておく必要があります。この合意を中国とまとめようとした場合に、米国は外交交渉上、中国に対して弱い立場になる。中国は『北朝鮮への先制攻撃をすることを容認するかわりに、南シナ海を中国の勢力圏であることを認めろ』と要求することは必至です。こういうディールは中国の得意技でしょう。

以上を考えると、米国の対中軍事戦略という米国の国益の観点から考えて、危険な先制攻撃は不可能だという考え方も十分な理由があります。

▪️北朝鮮の思惑

北朝鮮とすれば、日米韓の弱い輪を叩く戦術をとるはず。韓国には、同一民族としてのアイデンティティーの強調、冬季オリンピックへの参加することで融和策を引き出そうとしています。日本に対しては、米国の北朝鮮先制攻撃に協力した場合には核攻撃の報復を行うと威嚇しています。

その上で、北朝鮮としては、米国との二国間交渉を実現して、北朝鮮の体制保障を確約させ、核兵器保有を事実上黙認(あるいは大陸間弾道弾開発の凍結)させる米朝平和条約を締結するというところが最低の獲得目標でしょう。

▪️米国の本気度

北朝鮮の核ミサイル開発を中止させるには軍事的攻撃するしかない。しかし、この場合には北朝鮮による韓国や日本への核兵器による報復という大きなリスクがある。

さすがに北朝鮮は自殺行為である核兵器使用はしないと考えるかどうかは、金正恩の合理的判断に期待するしかない。

しかし、第二次世界大戦では、大日本帝国は合理的に考えればどう考えても勝ち目のない日米戦争に踏み切りました。そう考えると、あの神がかった独裁国家(大日本帝国にそっくり!)の北朝鮮指導者が合理的判断をすると信頼することはできないでしょう。

米国としても、金正恩の正気にかけることはしないでしょう。そうなると、北朝鮮の核ミサイル凍結と引き換えに米朝交渉のテーブルにつくことになると考えるのが合理的な帰結です。

この場合、建前上は北朝鮮の非核化を掲げるが、事実上、核兵器保有を黙認するという枠組みになるのではないでしょうか。

そうなれば、次はイランの核武装、サウジの核武装など核武装のドミノ化を招くことになりかねません。したがって、危険を冒しても米国は軍事行動をとるべきだという論者もいます。ただし、この論者は「北朝鮮は核攻撃してこない」と盲信しているか、あるいは使用されても犠牲者は日本人や韓国人であり米国人ではないと割り切っているかのどちらかでしょう。

でも、朝鮮半島や日本で核兵器が使用されてもやむを得ないという立場には(少なくとも公には)たつことはできないでしょう。

したがって、米国の北朝鮮先制攻撃の可能性は米国が合理的な判断をする限り、極めて低いはずです

▪️それでも北朝鮮への米国先制攻撃の危機は去らない

最大のリスクは、トランプ大統領です。アメリカ・ファーストを標榜する彼は、韓国や日本の犠牲など意に介さず、北朝鮮の先制攻撃を確信的に実施する危険があるように思われます。



日本人に問われるのは、①核攻撃というリスクを負いながら、米国の北朝鮮核ミサイル施設の先制攻撃に協力して北朝鮮の核兵器廃棄を軍事手段により達成すべきと考えるか、それとも、②米朝二国間交渉にて北朝鮮の核保有を事実上黙認してでも、先制攻撃を回避するか、どちらかです。

後者②は「不正義の平和』です。しかし、①は「正義の戦争」であっても、核兵器による報復を受けるリスクを負うことになり、①を選択することは、日本の国益に反する愚かな選択だと私は思います。

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