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2017年4月30日 (日)

北朝鮮「危機」に思う

■今、そこにある危機

 トランプ大統領は、オバマ政権の戦略的忍耐路線を転換して、北朝鮮が核実験・ICBM弾道ミサイル実験を実施したときには、核・ミサイル関連施設の攻撃を辞さないことを警告しました。
 日本では、俄然、緊張感が高まっています。鉄道会社の一部が北朝鮮のミサイル発射の情報で一時的に列車を全線ストップさせたり、一部自治体は生徒にミサイルが飛来したときの対応について文書を配布しているとのニュースもあります。今年9月1日の「防災の日」には、全国各地で北朝鮮ミサイル攻撃も想定した、防災訓練が実施されることになるでしょう。

 現代に桐生悠々がいれば、また嗤うかもしれませんが(注*)。

■合理的に考えればこの局面で戦争は起きない


 冷静に考えると、この局面で先制攻撃が実施される可能性は少ない 米軍が北朝鮮の核関連施設・ミサイル施設を先制攻撃したときには、北朝鮮は当然これに反撃して、韓国と日本を攻撃することになるでしょう その場合に、もっとも被害をうけるのは韓国です。全面戦争になれば、数千、数万、数十万人の甚大な犠牲が生じるでしょう。もし北朝鮮が核兵器を使用すれば、トランプ大統領は躊躇なく北朝鮮に核攻撃をするでしょう。どうころんでも、米軍と韓国軍が勝利することは間違いない。

  しかし、米軍が韓国(韓国民)の承諾なく北朝鮮に先制攻撃を仕掛けた場合、結果的に米軍と韓国軍が北朝鮮に軍事的に勝利しても、甚大な犠牲を被った韓国は、けっしてアメリカを赦すことはないでしょう。おそらく、戦後の韓国には「反米政権」が成立することになるでしょう。

  つまり、米国は、北朝鮮に軍事的勝利をおさめても、政治的には朝鮮半島の親米政権を長期的に失うことになり、政治的には大きな敗北となります。
 
  したがって、トランプ大統領といえども、5月の大統領選挙後に成立する韓国政府の承諾ないまま、北朝鮮に対して先制攻撃を行うということはまず考えられません。
  現在のトランプ大統領の軍事的な警告は中国向けであり、中国の責任にて北朝鮮の核ミサイル開発を中止させろという圧力にほかならず、この局面での米軍の軍事力行使はありえないと考えるのが素人でもわかる道理です。

■2人のマッドマン

 ただし、当然、北朝鮮も上記のように考えているでしょうから、金正恩は、「どうせ脅しだ」と考えてミサイル発射実験や核実験の挑発を行う危険性があります。
 この挑発が行われた場合、ツイッター的な反応を得意とするトランプ大統領が「どうせ金正恩は戦争すれば負けるとわかっているから反撃してこない」と考えて、先制攻撃を指示する危険性があります。
 つまり、合理的に考えれば、この局面で軍事衝突は起こるわけがないのですが、「瀬戸際外交」をお家芸とする金正恩と「瞬間湯沸かし器的頭脳」のトランプ大統領との間では、偶発的に戦争が勃発する可能性があるということになります。
 マッドマン・セオリーというのがあるそうです。
 交渉において、通常の合理的な行動をする相手と思わせるのではなく、相手は常軌を逸して何をするかわからないと思わせて相手から大きな譲歩を引き出すという戦略だそうです。ニクソンは意図的にマッドマン・セオリーで外交交渉を行ったそうです。トランプ大統領は、このマッドマン・セオリーの信奉者という評価があります。

  ただし、マッドマン・セオリーが通用するのは、相手が合理的な人間の場合です。ところが、金正恩も「マッドマン」のようです。このマッドマンの二乗となるセオリーは、予測しがたい結果を生むかも知れません。
 このように偶発的に戦争が勃発した場合には、韓国は未曾有の被害が発生し、日本も大きな被害を生じる危険があります(核ミサイルが到達する可能性は低いですが、化学兵器や原発への奇襲はありえる)。


■軍事的緊張緩和

 合理的に考えれば、この局面での戦争勃発は、双方に何らのメリットもない以上、この局面での戦争回避、特に偶発的な戦争を回避するための措置がもっとも望まれる政策となります。

 そうである以上、日本政府としては、いたずらに軍事的緊張を高める措置を米国にも北朝鮮に対しても諫めるという方針をとるべきです。安倍内閣は、逆に煽っているように見えて危険です。


■一番悪いのは中国だ

 北朝鮮が核武装し、ICBMまで開発する段階までに至った最大の責任は中国にあります。オバマ政権が戦略的忍耐という姿勢をとったときには中国は腰をあげなかった。

 トランプ大統領になり、軍事的警告を発するようになって、漸く中国は石炭や石油の北朝鮮輸出規制などを行うようになり、政府系新聞を通じて、北朝鮮に警告を発するようになりました。 その意味では、シリアへの空爆などの軍事的な警告を発したトランプ大統領の方が、北朝鮮問題について中国を動かしたということになります。

■落着点は 中国仲介による米朝会談しかないか


 最終的には、米朝2国間の話し合いを中国が仲介することで、北朝鮮危機を回避するしかないように思います。
 この場合、①北朝鮮の核開発の放棄、他方で、②米国・韓国及び北朝鮮が相互に軍事侵攻しないことの確約(米韓朝の平和条約締結)、③北朝鮮の現体制の容認(北朝鮮体制転覆の米韓の取組みの放棄)、④米国の経済援助という枠組みになるしかないのではないか。
 そして、おそらくこの枠組みでは日本は関係国から排除されることになろう(米・中・韓にとって、日本はロシアとともに北朝鮮問題では攪乱要因と位置づけられちゃう)。
 その上で、北朝鮮の民主化・自由化、そして将来の朝鮮統一は、朝鮮半島の韓国人・朝鮮人 同じ民族同士の平和的な話し合いに委ねるというコンセンサスをつくることが最善でしょう。

(注*)
 戦前のジャーナリスト 桐生悠々は、1933年(昭和8年)8月に軍が実施した防空演習に対して、信濃毎日新聞の社説で「関東防空大演習を嗤う」として、「如何に冷静になれ、沈着になれと言い聞かせても、また平生如何に訓練されていても、まさかの時には、恐怖の本能は如何ともすることを能わず、逃げ惑う市民の狼狽目に見るが如く、投下された爆弾が火災を起こす以外に、各所に火を発し、そこに阿鼻叫喚の一大修羅場を演じ、関東地方大震災当時と同様の惨状を呈する」と指摘しています。
 もっとも桐生は、「だから、敵機を関東の空に、帝都の空に、迎え撃つということは、我が軍の敗北そのものである。この危険以前に於いて、我機は、途中これを迎え撃って、これを射落とすか、またはこれを撃退しなければならない」と主張するものです。

 現代で言えば、ミサイル防衛システムで北朝鮮のミサイルを迎撃せよということになります。しかし、この程度の合理的批判でさえ、陸軍に睨まれて、桐生は信濃毎日新聞社を退社しなければならなくなりました。

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