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2017年3月20日 (月)

映画「わたしは、ダニエル・ブレイク」と小田原市生活保護行政

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映画のあらすじ

 

ケン・ローチ監督の映画「わたしは、ダニエル・ブレイク」を見てきました。興味のある方は一見を。



40年間、大工として働いてきたダニエルが、心臓の病気で大工仕事ができなくなった。英国の福祉センターに赴き社会保障を受けようとするのだが、医者は就労できないと診断しているにもかかわらず、英国の労働年金大臣が委託している保険会社が就労可能と判断して、休業支援金申請を拒否する。これに対する不服申し立ては、オンラインしか受け付けないが、ダニエルはPCを持っていないし操作がわからない。

 

当座をしのぐために、ダニエルは失業手当申請をすることにする。そのためには、週35時間の求職活動が義務付けられて福祉センターにて求職活動をしているか否かの審査を毎週受けなければならない。そのため、働けないのに求職活動をかたちだけすることを、他人からは「不正受給申請だ」と非難をうける。

 

福祉センターでは細かな執拗な質問を受け、まるで社会の厄介者扱いをうける。ダニエルは「まるで拷問だ」とつぶやく。他方、シングルマザーで二人の小さな子供を育てる女性が、面接時間に遅れたというだけで給付を取り消されるのを目撃し放っておけず、ダニエルは福祉センターに猛抗議して追い出さる。

 

ダニエルは、妻を2年前に病で亡くし、子供もおらず、孤独で口うるさいが、実直で気のよいおっさん(59歳)だ。彼は困っている隣人には手をかすが、自分のことは自分でなんとかする意地っ張り。ちょっと怪しい移民の若者とも仲良くしている。しかし、そんな彼らが英国の社会保障からはじき出されて、追い込まれていく。

 

過去には英国は「ゆりかごから墓場まで」という福祉国家だったが、1980年代以降、サッチャー首相の「新自由主義改革」「保守革命」により緊縮財政で社会保障は大きく掘り崩された。

感想

 

ケン・ローチ監督は、英国の社会保障の実態が人間の尊厳を奪うシステムになっていると厳しく告発している。題名の”I, Daniel Blake”は、人は単なる社会保険番号ではなく、尊厳をもったひとりの人間だということを意味しているのでしょう。いかにも、ケン・ローチ監督らしい。80歳をすぎても社会批判の情熱と創作意欲が衰えることはない。

なお、この映画の最後に、社会保障の異議申し立てをして行政委員会に出廷するダニエルを励ます代理人が出てくる。英語は聞き取れなかったが、字幕では「代理人」となっていた。おそらくソリシター(事務弁護士)なのだろう。そういう貧困層のために働く英国弁護士も多いと聞いたことがある。



日本の生活保護行政を思う


この映画を見て感じたのは、英国だけではなく日本も同じだということです。

 

小田原市の生活保護の担当者が、「生活保護なめんなよ」「不正受給は厳しく摘発する」などのジャンパーを着用して執務をしていたことを思い出した。確かに、不正受給の問題もあるのだろうが、それは全体のごく一部でしかないことも明らか。にもかかわらず、小田原市の公務員はなぜあのような子供じみたふるまいをするのだろうか・・・

 

井出英策教授の立論

 

井出英策教授(慶應大)という気鋭の財政社会学者がいる。一般向けに財政と社会保障の本を出している(「18歳からの格差論」、「日本財政 転換の指針」、「分断社会を終わらせる」)。井出教授の面白い点は、私が乱暴に要約すると次のようになる。

 

「社会的弱者だけを救済するというのでは、中所得者の人たちの抵抗が強い。そのため社会的弱者バッシングがおこるし、制度的にも就労可能か求職活動をしているかなどの審査が過度に厳しく行われる。バラマキ批判を超えて、低所得者も中高所得者も受益を実感できる社会保障をつくるべき。消費税増税も社会福祉の民主的合意があれば可能だ。そのためには教育と少子化対策という必要なものに財源を投入するべきだ」

 

ケン・ローチ監督について

 

ケン・ローチ監督は、英国の労働者階級やアイルランド独立戦争を描く社会派映画を撮り続けてきた(庶民の厳しい生活と少年を描いた「ケス」、アイルランド独立戦争を描いた「麦の穂をゆらす風」、「ジミー、野をかける伝説」、スペイン市民戦争を描いた「大地と自由」)。日本で言えば、山田洋次の硬派みたいな感じかな。

 

2013年、サッチャー元首相が死亡したとき、「さあ鐘を鳴らせ!悪い魔女は死んだ」と英国らしいきつい批判が高まる中、ケン・ローチ監督も「彼女の葬儀は民営化して、一番やすい業者がとりおこなうべきだ。それこそ彼女が望んでいたことだ」とコメントしたそうです。ケン・ローチ本人といえば、オックスフォー大学で法律を学んで、BBCに就職して映画監督になったエリートだ。

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