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2015年12月23日 (水)

読書日記「働く女子の運命」濱口桂一郎著

読書日記

「働く女子の運命」濱口桂一郎著 文書新書
2015年12月発行 読了 2015年12月22日


hamachanこと濱口桂一郎さんに、新著「働く女子の運命」をお送りいただきました。ありがとうございました。通勤電車内で熱中して読んで、つい降車駅を乗り過ごしてしまいました。

■「雇用システム」の違いからの分析

 濱口さんは、日本の企業社会における女性労働者がおかれている厳しい状況の原因を、「企業の雇用システム」の観点から、いつものとおり見事に腑分けしています。

 メンバーシップ型社会である日本企業は、「新卒採用から定年退職までの長期間にわたり、企業が求めるさまざまな仕事をときには無理しながらもこなしていってくれるだけの人材であるかどうかという全人格的判断がなされます。その中で、女性はいま目の前のこの仕事をどれだけきちんとこなせるかなどという些細なことではなく、数十年にわたって企業に忠誠心を持って働き続けられるかという『能力』を査定され、どんな長時間労働でもどんな遠方への転勤でも喜んで受け入れられるかという『態度』を査定され、それができないようでは男性並みに扱われないのです。ちなみに、この『能力』と『態度』の度合いを示す特殊日本的『職能資格』という言葉は、欧米社会の職業資格(ジョブ-引用者注)とは似ても似つかぬ概念です」というわけです。

 著者は、日本は、1990年代半ばから「市場主義の時代」となり、企業は日本型雇用システム(メンバーシップ型社会)の「中核(日本型正社員-引用者注)をより純粋に少数精鋭化しながら維持しつつ、もっぱらその周辺部を狙って規制緩和をしてきた」と結論づけます。

 その結果、「総合職という男性コースに入れてもらった少数派の女性たちは、銃後の主婦の援助を受けた「男性たちと同じ土俵で、仕事も時間も空間も無制限というルールの下で競争しなければなりません」。

 「他方で、一般職という女性コースはこの時期、企業からもはや存続の必要性が失われ、契約社員や派遣社員という形で非正規化が進行していきます」。今や、女性労働者の非正規率は過半数を超えています。


■欧米ジョブ型社会での男女平等

 欧米は、ジョブ型社会なので、社会的に公認された職業資格(企業を超えた共通な資格)が確立していて、労働者はジョブとスキルによって雇用と賃金が決定される。したがって、女性や男性の区別なくジョブとスキルが同じなら賃金は同一。例えば、アナウンサーというジョブとスキルが同じなら、賃金は当然同一であって、勤続年数や年齢、子どもの有無は賃金とは関係がないとのこと。
 ですから、欧米では、男女平等実現のため、男性が多く占める職種(ジョブ)に女性を積極的に雇用すること(アファーマティブ・アクション)。また、男性が多い職種の賃金と女性の多い職種の賃金を比較して両職種が「同一価値労働」であれば同一賃金とする是正の方策がとられます。具体的な「職務」(ジョブ)を基準としているので、すっきり分かりやすいことが説明されます。


■日本メンバーシップ型社会

 ところが、日本の職能資格制度では、「属人的」な要素によって評価されて昇格が異なり、昇給も異なります。評価要素は、「能力」と「態度」です。具体的な職務実績評価も含まれますが、それよりは「潜在的な職務遂行能力」への評価が重視されます。その職務遂行能力とは、要するに、「無限定かつ無定量の労働」に忠誠心をもって従事できるかということなる。この点で家庭責任を負う女性は不利になります。

 賃金も具体的な職務との関係ではなく、女房子どもを養える生活給を基本として職能資格制度が発生・運用されてきたので、女房子どもを養う必要がない女性には不利に運用されます。

 実は、私も昔は「潜在的な職務遂行能力なんて、情意評価で恣意的で訳がわからん。ナンセンス!」と思っていました。が、今自分が56歳を過ぎると「人」(私の場合は弁護士)の評価って、長期的に見るべきであって、たまたま担当の仕事(裁判)がうまくいったかどうかよりも、仕事に対する姿勢や態度、コミュニケーション能力、何よりも人柄のほうがずっと重要だとつくづく思います。若手の「伸びしろ」はそこで見た方が確かですし、一緒に呑みにいけば呑み方でもわかるしね。メンバーシップ型の働き方や人の育て方に一定の合理性があることは否定できないと思うようになりました。


■「育休世代のジレンマ」

 育休制度が立法化されて、職場で二つのジレンマが見られるそうだ。

 一つは、、出産した女性労働者が、残業なしの限定された職域や職種に配置されるという「マミートラック」に固定されるというジレンマ。

 二つは、出産した女性労働者が定時で帰宅し、また子どもの都合で度々休まざるを得ないことから生じる負担をかぶる上司や社員の不満というジレンマです。


■「マミートラック」ではなく、「ノーマルトラック」へ


 そこで、著者の処方箋は、通常の労働者(=正社員)の働き方を、マミートラックのような働き方にしようというものです。職務や労働時間を限定にした限定型正社員を「通常の労働者」として、男女が子育てしながら働き続けるノーマルトラックをもうける。

 ところが、企業の中枢には「いつでもどこでもどんな仕事でも働かせることができるという究極の柔軟性を駆使することで世界の冠たる競争力を実現したという成功体験をもった人々」が多数をしめいており、強い抵抗感があるそうです。

 著者が<無限定正社員の男性並みに「活躍」するように女性を駆り立てるのはもう止めよう>と述べたところ、「総合職を減らして昔の一般職を増やそうというのか?」と批判を受けたそうです。

 著者は、昔の一般職とは補助的業務を前提とした女性用コースであり、これに対して、限定正社員とは男女共通の一定の限定がある制度だと反論します。これから過去の無限定正社員を維持することは不可能で、将来の別モデルを構想すべきだと述べます。


■感想:労働時間の限定こそが男女平等の基本であることは大賛成

 著者が「無限定な正社員の労働時間」が最大の問題であるとされる点について、全面的に賛成です。選別された男性正社員が無限定かつ無定量の長時間過密労働にさらされていることが最大の問題です。

■感想:ジョブ型社会じゃないとできないのでしょうか?

 しかし、労働時間の限定は、限定型社員でなければできないのでしょうか。

 労働時間の限定は、労働契約上の限定だけでは実現しないと思います。日本では新たに厳格な労働基準法の定め(例えば、残業を厳格に禁止して、例外も一日最長2時間のみとする)を立法化して、一斉に全事業に適用しないと「時短」は不可能でしょう。「労使自治」にまかせては、「時短」は絶対に進まない。

 厳格な労働時間規制をすれば、メンバーシップ型社会でも労働時間は大きく短縮され、男女とも利益を得るのではないか。(もっとも、これができないからみんな頭を悩ましているのでしょうが。)


 また、欧米型ジョブ型社会には、個人的にあこがれますが、強力な産別労働組合という対抗プレイヤーがいないと社会的に成立も機能もしないのではないか。日本が欧米のようなジョブ型社会に移行するには、社会意識の劇的変化(戦争や大不況をくぐらなければ変化しないのでは?)や教育制度・内容の変更、産別労働組合による職種毎の産別協約賃金の設定などない限り、実現不可能でしょう。仮に今すぐ社会的合意ができても、これから3世代はかかるでしょう。


■感想:海老原氏の提言が現実的ではないか

 私は、海老原嗣生さん(「日本で働くのは本当に損なのか」)が提言する「入り口は日本型メンバーシップ型のままで、35歳くらいからジョブ型に着地させるという雇用モデル」がもっとも共感できます。

 日本的なメンバーシップ型の働き方(チーム労働)の良さも維持でき、今の雇用の実態にあっているように思います。海老原氏の提言については過去のブログでふれました。


○読書日記「日本で働くのは本当にそんなのか-日本型キャリア VS 欧米型キャリア」海老原嗣生著 PHPビジネス新書

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2013/11/vs-f7cd.html  


 濱口さんは、この海老原さんのモデルについて、働き続ける女性がジョブ型に移行する歳(35歳頃)まで子どもが産めず、高齢出産になりかねないことが問題だと指摘します。

 しかし、現実には20代で子どもを産んで育休をとりながら働く女性も少なくないと思います。また、キャリアをきずいてから35歳以上の高齢出産をするのか、子育てではなくキャリアを優先させるのか、所詮は個々の女性の選択です。社会が介入すべき事柄ではないでしょう。

 なお、この著書には、ほかに「皇国勤労観と生活給」、「戦時体制がつくった日本型雇用」、「生活給とマル経」、「日本型雇用システム礼賛と男女平等」、「経団連的な同一価値労働同一賃金の原則」などの興味深い論点(ネタ)が記述されています。勉強になります。

 なお、同書の帯に、「上野千鶴子氏絶賛!」とあります。上野氏の「女たちのサバイバル作戦」(この作戦目標は「同一価値労働同一賃金原則の実現」、「日本型雇用システムの廃止」等)についての批評も昔ブログに書きました。本ブログと関係します。


○読書日記「女たちのサバイバル作戦」上野千鶴子著 文春新書

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2013/11/post-f079.html

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