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2015年6月21日 (日)

海街diary(是枝監督)のテーマは「父不在」か

この映画、「父の日」に観てきた。

是枝監督、主演女優 綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず です。

http://umimachi.gaga.ne.jp/

鎌倉の四季が美しいという評判どおりの映画。鎌倉ということで小津映画を連想しました。口うるさい大叔母なんてシチュエーションは同じです。

原作の吉田秋生のマンガ本を娘に借りて読みました。吉田秋生というマンガ家は才能豊かな作家だとはじめて知りました。原作マンガ本と読みくらべると、是枝監督は、「父不在」を映画の隠れたテーマにしているのではないかと強く思いました。

映画のあらすじは、父親が家庭を捨てて女性と家を出た。その二年後に母親も自分の娘三人を実家において再婚して家を出た。父母に捨てられた三姉妹は、祖母(すでに7年前死亡)の実家で15年間も暮らして、それぞれ成長した。長女は母親代わりのしっかり者だが今や同僚の医師と不倫をしている看護師、次女は男出入りのはげしい地元信用金庫の美人OL、三女はアート系の気ままなフリーターらしい。三姉妹は15年間一度も会わなかった父親が死んで、一人取り残された腹違いの妹をひきとる。鎌倉でのこの四姉妹の生活を静かに描かれるという良い映画でした。詳しいストーリはウェブに譲ります。

鎌倉の四季の移ろいや静かな生活をえがくところは、小津映画を思い出させます。4人の女優がみずみずしくて鎌倉の古い家と自然と四人姉妹を見ているだけで満足です。

とはいえ、原作もそうだが、映画を観て、やはり一番、印象に残るのは「父の不在」です。

父親は、不倫して家を捨て、4歳から13歳までの3人の娘に15年間一度も会わず、相手の女性と娘を一人つくっている。それに対する反発をする母親代わりの長女、どうでもいいと思っている下の妹たち。でも苦境にある腹違いの妹を引き取る姉たち。その腹違いの妹は、家庭を壊した女(母)の娘として、姉たちに気兼ねをしている。この四姉妹が心を通わせて家族になるプロセスがこの映画のテーマなんでしょう。

でも、父親は写真でさえ、姿が見えない。本当に影が薄い。父親がいなければ娘たちも存在していないわけだが、きわめて抽象的な存在でしかない。「やさしいけど、ダメな人間」と長女は切り捨てる。他の妹たちは、やさしい人だったと言うだけ。そして、父に対して厳しい長女も、最後は、「やさしかった」としてなんとなく許すようになったようだ。

これに対して、母親は、生身の人間としてでてくる。この母親も7年ぶりに娘たちに会う。しかも、大人気なく腹違いの妹に嫌味を言い、自分が捨てた実家を金欲しさに売却しようなどという。それで、長女と言い争いになり、祖母七回忌の法事で、醜い修羅場を演じる。このひどい母親(大竹しのぶ・ぴったりの役)は良くも悪くも存在感はある。つまり、娘と母親の葛藤は、逃げることなく描かれている。

その他出てくる大人の男たちも、みんなが善人で、やさしいが皆、存在感が薄い(人畜無害)。男関係が多い「愛の狩人」の次女(長澤まさみ・美女)のターゲットになるような優男たち(イケメン)たち。

とても良い映画で、鎌倉の空気が美しい。また、父母に捨てられ、責任感から妹たちを育ててきたのに、なぜか大人になって不倫をしている長女を、綾瀬はるかが、自立した女性の切なさをよく演じているのが印象的。

現代の家族形態が「父不在」であるということを象徴的に描いた映画だと思いました。吉田秋生の原作マンガ本は、もう少し父親の輪郭がはっきりしています。だから余計に映画が「父不在」のテーマを是枝監督が浮き彫りにしているように感じます。「そして父になる」という是枝監督の前作とテーマは同じではないかと思いました。

これからの家族は、「父不在の空洞」を家族がどう埋めていくのかというのがテーマなのではないのでしょうか。それは母親と葛藤を克服した娘たちが埋めるのでしょうか。

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2015年6月10日 (水)

「ある憲法学者のおつむの変遷」  驚愕の長尾一紘教授の集団的自衛権合憲説 

中央大学の長尾一紘教授が安保関連法案を合憲と明言していると知ってびっくり。私は中央大学出身で長尾教授の講義も聞いたし、同教授の教科書も読んだ。当時とまったく正反対のことを言っているのに驚愕しています。長尾教授の条文解釈や判例整理は、きわめて論理的で切れ味よく、私には非常に勉強になったし司法試験にも役だった。

東京新聞の6月11日朝刊によると長尾教授は次のようにコメントしています。

どの独立国も個別的自衛権と集団的自衛権の両方をもつ。国連憲章にも明記されている。日本国憲法は他国と対等な立場を宣言している以上、自衛権を半分放棄するという解釈が出る余地はない。法案を違憲という学者の意識は、日本の安全保障に危機感を抱く国民の意識とずれている。


私が大学時代読んだ長尾教授の「日本国憲法」(世界思想社)を昨晩読み直しました。初版1978年発行、第2版1979年発行。私が持っているのは1979年第2版。その第一部、第三章に「戦争の放棄」が論じられています。同じ長尾教授の言葉です。

■国家の自衛権について
 「国家は、当然に自衛権をもつと同時に、自衛手段をみずから予め定めることができる」として、「軍隊を備え、場合によっては戦争に訴えることが自衛のための有効な方法であると考えてきたが、日本国憲法は、これらをいっさい禁止し恒久の平和の理念をみずから率先して実践することこそが、国民の安全と国家の主権を維持するうえでのもっとも有効な保障であることを明示したのである」(同60頁)。
■自衛隊と憲法9条について  
憲法9条の解釈論を教科書的に説明した上で、「合憲説は文理上不可能といわざるをえないのである」とし、さらに「以上のように、さまざまな観点から自衛隊の合憲説が主張されているが、いずれも法解釈上きわめて無理があり、合憲説の実質が政治的主張にあたることを示している」(同書63頁)
■ 「憲法変遷」論

私が中央大学に入学したころ、憲法学の著名な教授であった橋本公亘教授が従来の自衛隊違憲論を合憲論に説を変更したことが法学部生の間で大きな話題になっていた。学説変更の論理は、「憲法の変遷」が生じたということだった。これに対して、橋本教授の弟子であった長尾教授は講義で痛烈に批判していた。教科書にも次のように書いている。  
憲法変遷が生じるとしても、「国民の規範的意識に明白な変化が生ずること(学説・判例に重要な争いがないことも含まれる)が必要とされるが、「私見としては、とくに憲法の文言に正面から矛盾することがない場合に限定すべきように思われる。これらの要件が充足がなければ、いかに合憲的な外観を保持するものであっても、それはたんなる違憲の国家行為の集積にすぎず、憲法の変遷が生ずることはないのである」(同298頁))
■第9条と安保条約  
安保条約に基づく外国軍隊の駐留については、9条2項にいわゆる「戦力」に該当し違憲とする。第一説が正当である。その理由は、次に示す「砂川判決」第一審判決に明らかである」(65頁)
■憲法学者の解釈の変遷


長尾教授は、自衛隊を合憲とすることは、「憲法9条の文理上不可能である」と言い切っています。文理上不可能っていうのは相当な踏み込み方です。それをあとから変更するというのは、法律家のイロハである「文理解釈」ができない者であることを自ら認めることで相当に恥ずかしいことです。 


私の周りの弁護士には、「政策として集団的自衛権には賛成だと思うが、それを法制化するには憲法改正が必要だ」という人が多くいます。政策判断(政治判断)と法律解釈は別というのは、法律家なら当然わきまえなければならない矜持です。これができないと法律家でなく、法律屋(中央省庁の官僚たち)です。

ですから、憲法改正論者であっても、自衛隊や安保関連法制を違憲とするのは何ら矛盾はしない。かえって、政治論と法律論を峻別できる法律家として評価されます(小林節教授のように)。


しかし、長尾教授は、1978年頃は典型的な憲法9条論を唱えながら、いまはどうして学説を変えたのでしょうか。

先にふれた橋本公亘教授は、合憲説変更の理由として「憲法変遷論」をあげて学会で論争していた。これに、樋口陽一教授が、「確かに、憲法現象として「憲法の変遷」は存在する。しかし、それはあくまで「事実認識」の問題である。憲法変遷論を、憲法解釈変更の正当化する規範論としてはありえない」と批判していた。これも長尾教授の講義で聴いたと思う。


西修教授や百地教授は、もともと、そういう学者だから驚くに値しない。


学者として、学説変更の理由を述べるべきでしょう。
自らの学説の変遷を何もいわないでいけしゃあしゃあと合憲論ぶつのは私には理解できない。
少なくとも過去に自衛隊違憲論を大学の講義で述べて、それを学んだ元学生に対しては学者としての説明責任があろう。
上記東京新聞への長尾教授のコメントは、まさに自ら過去に批判していたとおりの「政治的主張」にほかならず、これでは憲法学者としては「お終い」ではないか。

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2015年6月 2日 (火)

緊急 派遣ホットライン

労働者派遣法が「改正」されようとされています。
渉外派遣として、使えるように企業サイドに有利な「改正」です。
緊急に労働弁護団で電話相談を実施します。明日以降も継続する予定ですので、ご相談ください。
国会で労働者派遣法改正案が審議されているのを受けて、日本労働弁護団は2日午後2時半~同9時、派遣労働者からの相談を電話で受けつける「6・2派遣労働緊急ホットライン」(03・3251・5363、5364)を実施する。同改正案は、いまは同じ職場でずっと働くことができる「専門26業務」の派遣労働者も、最長3年までしか働けなくなる内容。ホットラインでは派遣切りに関する相談のほか、「パワハラセクハラにあっている」「賃金が低すぎる」といった相談にも応じる。電話代はかかるが、相談料は無料。
http://www.asahi.com/articles/DA3S11785832.html

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