海街diary(是枝監督)のテーマは「父不在」か
この映画、「父の日」に観てきた。
是枝監督、主演女優 綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず です。
鎌倉の四季が美しいという評判どおりの映画。鎌倉ということで小津映画を連想しました。口うるさい大叔母なんてシチュエーションは同じです。
原作の吉田秋生のマンガ本を娘に借りて読みました。吉田秋生というマンガ家は才能豊かな作家だとはじめて知りました。原作マンガ本と読みくらべると、是枝監督は、「父不在」を映画の隠れたテーマにしているのではないかと強く思いました。
映画のあらすじは、父親が家庭を捨てて女性と家を出た。その二年後に母親も自分の娘三人を実家において再婚して家を出た。父母に捨てられた三姉妹は、祖母(すでに7年前死亡)の実家で15年間も暮らして、それぞれ成長した。長女は母親代わりのしっかり者だが今や同僚の医師と不倫をしている看護師、次女は男出入りのはげしい地元信用金庫の美人OL、三女はアート系の気ままなフリーターらしい。三姉妹は15年間一度も会わなかった父親が死んで、一人取り残された腹違いの妹をひきとる。鎌倉でのこの四姉妹の生活を静かに描かれるという良い映画でした。詳しいストーリはウェブに譲ります。
鎌倉の四季の移ろいや静かな生活をえがくところは、小津映画を思い出させます。4人の女優がみずみずしくて鎌倉の古い家と自然と四人姉妹を見ているだけで満足です。
とはいえ、原作もそうだが、映画を観て、やはり一番、印象に残るのは「父の不在」です。
父親は、不倫して家を捨て、4歳から13歳までの3人の娘に15年間一度も会わず、相手の女性と娘を一人つくっている。それに対する反発をする母親代わりの長女、どうでもいいと思っている下の妹たち。でも苦境にある腹違いの妹を引き取る姉たち。その腹違いの妹は、家庭を壊した女(母)の娘として、姉たちに気兼ねをしている。この四姉妹が心を通わせて家族になるプロセスがこの映画のテーマなんでしょう。
でも、父親は写真でさえ、姿が見えない。本当に影が薄い。父親がいなければ娘たちも存在していないわけだが、きわめて抽象的な存在でしかない。「やさしいけど、ダメな人間」と長女は切り捨てる。他の妹たちは、やさしい人だったと言うだけ。そして、父に対して厳しい長女も、最後は、「やさしかった」としてなんとなく許すようになったようだ。
これに対して、母親は、生身の人間としてでてくる。この母親も7年ぶりに娘たちに会う。しかも、大人気なく腹違いの妹に嫌味を言い、自分が捨てた実家を金欲しさに売却しようなどという。それで、長女と言い争いになり、祖母七回忌の法事で、醜い修羅場を演じる。このひどい母親(大竹しのぶ・ぴったりの役)は良くも悪くも存在感はある。つまり、娘と母親の葛藤は、逃げることなく描かれている。
その他出てくる大人の男たちも、みんなが善人で、やさしいが皆、存在感が薄い(人畜無害)。男関係が多い「愛の狩人」の次女(長澤まさみ・美女)のターゲットになるような優男たち(イケメン)たち。
とても良い映画で、鎌倉の空気が美しい。また、父母に捨てられ、責任感から妹たちを育ててきたのに、なぜか大人になって不倫をしている長女を、綾瀬はるかが、自立した女性の切なさをよく演じているのが印象的。
現代の家族形態が「父不在」であるということを象徴的に描いた映画だと思いました。吉田秋生の原作マンガ本は、もう少し父親の輪郭がはっきりしています。だから余計に映画が「父不在」のテーマを是枝監督が浮き彫りにしているように感じます。「そして父になる」という是枝監督の前作とテーマは同じではないかと思いました。
これからの家族は、「父不在の空洞」を家族がどう埋めていくのかというのがテーマなのではないのでしょうか。それは母親と葛藤を克服した娘たちが埋めるのでしょうか。
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