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2014年12月14日 (日)

読書日記「先進国・韓国の憂鬱」大西裕著 中公新書

2014年4月発行、2014年12月14日読了
■先進国としての韓国
 先進国とは、大辞泉によると「政治・経済・文化などが国際水準から見て進んでいる国」と定義されています。経済的に見れば2013年統計で韓国が次のとおり先進国であるのは明らかです。なお、韓国の人口は約5000万人で、日本のほぼ半分です。

名目GDP比較(10億USドル)
1位  米国  16,768
2位   中国    9,469
3位   日本     4,898
14位  韓国    1,304

一人当たりの名目GDP(USドル)
9位   米国  53,000
24位 日本   38,467
30位 韓国  25,975
83位 中国   6,958

 また、韓国は、政治的にみても、1987年の民主化により立憲民主主義体制が確立しています。文化的にも、例えば韓国映画の水準が高いことから見て、国際的にも進んだ国です。

■金大中政権以降の韓国現代政治

 本書は金大中大統領時代から現在まで、政治的対立状況や福祉政策の変遷を概観した韓国比較政治史です。韓国と日本の異質性よりも、韓国が抱える社会問題と、日本が直面する社会問題に共通性があると感じました。

■格差社会-韓国
 本書によると、OECD加盟国(31国、米・豪・露・墨を除く)で、不平等度合い(ジニ係数)で見ると韓国は20位、日本が6位で日本のほうが不平等社会です。相対貧困率で言うと韓国は6位で、日本が4位です。この格差社会を生み出し原因については、通説は次のとおり説明します。

 韓国の経済格差の深刻化したのはアジア通貨危機の際に韓国に緊急融資を提供したIMFが韓国に新自由主義改革を強要し、市場への政府の介入を最小限にとどめて、市場原理を貫徹した新自由主義改革による。韓国経済は競争が激しくなり、生産性が向上したため韓国経済を浮上させて、先進国へとはばたかせた。
 しかしながら、競争は優勝劣敗を引き起こさざるを得ず、経済格差を生み出した。金大中政権は、本来は進歩的であったが、IMFの強要でやむを得ず改革を行い、進歩的な政策を封印した。続く盧武鉉政権も同様であった。

 著者は、この通説を誤りとするわけではありませんが、「進歩派」とされた金大中政権も、盧武鉉政権も、必ずしも福祉と経済の自由化を矛盾するものととらえていなかったしとします。著者は、韓国の政治対立状況には、激しいイデオロギー対立があるとします。

■韓国の「進歩派と保守派」
 韓国での進歩派(左派)と保守派(右派)の対立は、日本と同様です。

 進歩派は、自由競争の結果、勝者と敗者が生まれ、国民間に不平等が広がることを懸念し、所得の再配分など政治の介入でより平等な世界を作ろうとする。他方、保守派は、政府の市場への介入が経済力を削ぐことを懸念し、企業の経済活動の自由をできるだけ広く認める。
 ほとんどの先進国で進歩派と保守派の対立は現在でも存在する。…ところが、韓国では、この対立が今なお先鋭化した状態にある。韓国におけるイデオロギー対立は、経済活動以上に、主権と民族に関する考え方の違いとして表れている。

 この主権と民族の考え方とは、 「進歩派」はアメリカとの同盟は韓国の主権侵害であり、民族分断を固定化させることにつながったと考え、他方、「保守派」は、独裁的な北朝鮮から韓国を守ってくれたのがアメリカと考える。つまり、反米・親北朝鮮が「進歩派」、親米・反北朝鮮が「保守派」なのだそうです。

 米ソ冷戦の終結から、上記のようなイデオロギー対立は、日本ではだいぶ影をひそめています。1980年前半以前は、日本でも「革新=進歩派」である社会党・共産党と「保守」の自民党の対立で、すくなくとも前者が3分の1の勢力を保ち、両者が拮抗する状態でした。今とは大違いです。しかし、 今や「革新派」は消滅寸前で、かわって「保守派」が大きくなって別れて(自民、民主、維新)、今や自民党が保守一強になっています。

■韓国の進歩派・「三八六世代」の特徴

 韓国の政治状況のもう一つの特徴は、地域主義が強く政党支持率や投票率も地域主義に影響を受けていた点だそうです。

 ところが、1987年の民主化以降、この状態が変わったと言います。それを牽引したのが、「三八六世代」とは、一九六〇年代生まれ、八〇年代に大学生、二〇〇〇年代に三〇歳代の世代を指すそうです。彼らが一九八七年の民主化の最前線を担い、二〇〇〇年以降の韓国の政治・経済をひっぱる主力の世代でした。この世代は、ナショナル・アイデンティティにこだわりがあったそうです。

 本書によれば、「北朝鮮は、反植民地・反日闘争を繰り広げて一応自力で独立をかちとっが、韓国は米国の強い関与で建国し、独立後も米国の半植民地状態におかれた傀儡国家で、自主独立の北朝鮮のほうが民族としての正統性に根ざしているのではないか」というナショナル・アイデンティティに関わる疑念が若い世代をとらえていたそうです。
(韓国の建国には「神話」のようなものがないということでしょうか。「李氏朝鮮」との連続性もないからでしょうか。これは初耳でした。)


 そこで、「進歩派」は親北朝鮮・反米的になり、他方、保守派は、反北朝鮮・親米的ということになったのだそうです。

■金大中政権や盧武鉉政権の政策

 進歩派が主力の金大中政権や盧武鉉政権は、政労使合意で福祉政策をすすめようとしたが、労使の対立が激しくなり、中途半端な政策にしか進まなかった。
 この結果、両政権とも、労働者側からは不十分・裏切りとして批判され、使用者側からは過度な政府介入だと批判されるというものになったといいます。結局、盧武鉉政権の導入した福祉政策は、社会民主主義的な福祉政策だが、その給付水準は低いものにとどまったといいます。
 他方、盧武鉉政権は、進歩派が担う政権だったにもかかわらず、米韓FTAを批准して親自由主義的な貿易自由化をすすめようとしました。盧武鉉大統領自身は、FTAによる市場開放によって、企業も人も生産性をあげることで福祉も生産性も向上させることを目指したという。いわばドイツ社民党やイギリス労働党の「第三の道」だったようです。しかし、これは進歩派支持者の目には「裏切り」と映り、社会的合意を得られないまま失敗に帰したようです。

■個人的な韓国体験
 韓国には、2010年前後に2回ほど調査旅行に行ったことがあります(初めて韓国に行ったのは2002年日韓ワールドカップですが、10年経て大分かわっていた)。弁護士会の関連調査です。韓国の弁護士会や、日本の厚生労働省である雇用労働部、中労委、裁判所の方々にお会いしてお話しをお聞きする機会がありました。今から思えば応対していただいた多くの方は「三八六世代」のようです。

 韓国でも司法改革が行われて国民参与裁判やロースクールが導入されており、その調査のために訪韓したのです。弁護士会の役員の方とは、夜一緒に食事をしたり呑んだりもしました。夜楽しく呑んで親しくなると、日本に留学された韓国弁護士が「日本の裁判員裁判はアメリカの陪審制を修正して時間をかけて導入されたが、韓国の場合には、アメリカの言うがままだ」と愚痴ってました。
 私は「イヤイヤそんなことはありません。日本でも同じような批判がありますよ。でも旧来の職業裁判官の刑事裁判よりかは良いんじゃないでしょうか?」って、日本でいるのと同じような議論をしたのを覚えています。

 また、非正規労働者保護法などの実体法は、韓国は日本より先に行っています。その労働法について、韓国でも菅野和夫「労働法」を労働弁護士は読みこなしているとも聞きました。調査で訪れた憲法裁判所では、京大への留学経験がある若手の裁判所調査官から、韓国の労働法や社会システムについて色々なレクチャーを受けることができました。韓国では、労働者の平均勤続年数は6~7年と短いこと、賃金は年功序列制だが、実際には40歳くらいになると労働者は辞めて自営業者になること、韓国では自営業者の比率が高いことなど、日本とは異なる雇用実態があるようです。

 でも、ソウルの地下鉄で移動し、コンビニで弁当やお茶を買うときには、すべて交通系の磁気カードで済ませることができるのです。日本にいるのとまったく同じ感覚で生活できます。

■日本と韓国の比較の重要性

 日本と韓国とも、格差社会や少子化などの課題に直面しています。両国の社会実態は異なりますが、それぞれ様々な政策や法律が施行されて、その結果、どのような効果や影響を生むのか。政治状況を含めて韓国をよく知ることは、日本にとって大いに参考になるように思います。

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