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2014年11月24日 (月)

読書日記「ケインズの逆襲 ハイエクの慧眼」松尾匡著

PHP新書

2014年11月発行
2014年11月25日読了
■マルクス解釈が面白い松尾匡教授の本です。

松尾教授によれば、アベノミクスについては、消費税値上げまではアベノミクスの第一と第二の矢は基本的にはうなくいっていた(左派でありながら、これを主張しているので形見が狭かったとか)。しかし、安倍政権は、金融緩和だけでインフレターゲットを目指しており、財政出動を抑えており十分な効果をあげていない。と指摘します。

松尾教授は、労働側が「量的金融緩和」と「財政支出」自体に反対するのではなく、金融緩和マネーで社会政策的な財政支出をするようにと要求すべきだと言います。

他方、アベノミクスの第三の矢と呼ばれる「成長戦略』は、新自由主義政策で、「公的事業の民営化」や「小さな政府」、「労働の規制緩和」を目指すものだとして反対すべきだとしています。

この時事ネタよりも、この本の特徴は次の点です。
不倶戴天の敵同士と思われるハイエクとケインズを総合しよう?というのです。

■「リスク、決定、責任」の一致が重要
1980年代にかけて経済的な変化によてて構造的な転換がおこり、それは「リスク、決定、責任」が重要になった。民間部門でも公共部門でも、事業の決定は「リスクと責任」を負う現場が行うことが最も適切な判断を下せる。「大きな政府」か、「小さな政府」かという問題ではない。

ハイエクが指摘したとおり、中央政府がすべての情報を把握して、これをコントロールをするということは原理的に不可能だ(だからソ連型社会主義は崩壊した)。

ハイエクは、自由市場を成り立たせるためには、中央政府の仕事として、市場が公正に機能する法的枠組みのルールの策定のほか、教育の支援、労働時間の規制、労働環境の維持・向上、公害や環境破壊防止の規制などが必要だとしている。

ハイエクの視点とケインズの施策は矛盾しないのだそうです。
ケインズ的な政策は、インフレターゲットを掲げたり(金融緩和)、財政出動をしたり(財政支出)して、いわば大局的な将来の方向性を示す(「大きな方針を示す政府」)。それを踏まえて、各人が各部署においてリスクを追って決定し、その決定の責任を負うのであれば(ハイエク的発想)、社会と経済はうまく回る、というお話しです。

■ゲーム理論と日本的雇用について
日本的雇用システムについて、日本的民族特性とは関係がないとして、次のように説明しているのも面白かった。


○日本企業=企業特殊的技能形成
日本企業においては、企業特殊的技能が重宝されてきた。だから長期雇用慣行や年工賃儀制度が合理的であった。

○欧米企業=汎用的技能形成
欧米企業では、汎用的技能が尊重されており、職務賃金や労働力の流動化が進む。

それぞれ合理的な制度である(ゲーム理路でいうナッシュ均衡)。

しかし、世界の経済変化やグローバル化によって、企業特殊的技能はもはや強みがなくなった。したがって、この外生条件が変化した以上、日本的雇用システムは変化せざるを得なくなっている。 と明快です。

■松尾教授が望むもの
最終的に松尾教授の望むものは、景気対策としてケインズ政策を行い、また社会政策を担う社会サービスは公的資金に支えられたNPOなどの協同組合的事業にゆだねるというものです。

労働基準や環境基準が高く、ベーシックインカムも高く、雇用のためにインフレターゲットを高め。なるべく多くの分野で利用者や従業者に主権がある事業体が発展し、特に福祉サービスの分野では、公財政が手厚くそれを支えることを望んでいます。

   

過去に書いた松尾教授の本の私の感想

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2013/02/post-07e.html

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2008/10/post-b1c8.html

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2014年11月15日 (土)

出生率の数値目標

■出生率の数値目標は非難されることなの?

「出生率1.8の数値目標を設定することは、女性の出産に関する自己決定権を侵害するおそれがあり、戦前の『産めよ殖せよに逆戻りする」という批判的記事を、朝日新聞が掲載しています。朝日らしいですね。

確かに、出産するかどうかは女性の自己決定権が尊重されるべきです。特に、欧米では宗教的理由で人工中絶が厳しく禁止されていたことから、日本以上に女性の権利拡大にとって重要な課題でした。ですから、生殖に関する女性の「自己決定権」が保障されることはまったく、そのとおりです。

しかし、日本では、今のままの出生率が続けば、人口が50年後に8000万人台に減少することは明らかです。労働力人口は今の半分になり、超高齢化社会になる。少しでも少子化のペースを落とす努力をするしかない。

少子化対策には、政府が出生率回復の数値目標をたててるべきでしょう。(もっとも、世界的な観点から見れば、世界人口爆発が問題なのですから、日本の少子化は歓迎すべきことかもしれません。でも、私は日本人なのでやはり考えざるを得ません)。

■「少子化対策」として合意できる施策

出生率回復には、次のような措置をとることは社会的に合意はできるでしょう。

1)男女共通の労働時間制限

2)雇用における女性差別是正措置の徹底

3)妊娠・出産・育児中の女性労働者保護

4)保育園等の増設や子供手当などの出産子育て支援制度の充実


もちろん、これを実施したからと言って、本当に出生率が増加するかどうかは分かりませんが。でも、やらないよりやったほうが良いということで、上記措置に反対する人はそういないでしょう。(財務省あたりは、金がない、外国人移民を受け入れたほうが安上がりで税も増収になると言うでしょうが。)

もとい「次世代の党」は反対しそうですね。でも、いまさら「女性は家庭にもどれ」などという政策はあり得ないでしょう。戦前のように、女性参政権を否定し、民法に「妻は無能力」と定めて家督相続を復活させれば、出生率が回復するのでしょうか。ジョークにもなりません。


■政策は財政措置


「政策」は、
最終的に「財政」が投入されなければ、絵に描いた餅です。結局は、予算配分こそが政治の最重要課題です(あとは人事権)。

上記の出産・子育て支援施策に財政を投入するためには、出生率の数値目標設定が有効でしょう。出生率が回復するまで予算優遇措置が継続できるのです。これを閣議決定すれば、財務省の抵抗を排除できるでしょう。

朝日の記事に出ている学者は、「出産は個人の問題で、数値目標設定は女性に出産を押し付けることになる。政府は関与すべきでない」との趣旨を述べています。そうであれば、出産を援助するような措置自体も問題ということになるはずです。政府が「子供はいらないと思う人たち」から税金を徴収して「自己決定で子供を産み育てる人たち」に税金を余計にまわすこと自体がおかしい。あるいは、子供を産む人(女性)を優遇するのは、それを選択しない選択できない人(女性)の気持ちを傷つけるからおかしいなどということになるはずです。

しかし、人間が生物として存立し、かつ人間社会を成り立たせるためには、人間の再生産(労働力の再生産=生殖と子育て)が大前提です。

「出産・子育て」は、ミクロで見れば、確かに「個人の自己決定権」の問題ですが、マクロで見れば社会的な問題にほかなりません。ですから、「出産・子育て」は社会の共通課題であり、数値目標を設定して、「出産・子育て」を具体的に支援することは政府の当然の責務だと思います。

http://digital.asahi.com/articles/DA3S11454221.html…

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2014年11月 2日 (日)

二つある? 女性活躍推進法

「女性活躍推進法案」は二種類あるようです。

一つは、前回通常国会に上程されて継続審議になっている「女性が活躍できる社会環境の整備の総合的かつ集中的な推進に関する法律案」です。自公議員の議員立法です。

もう一つは、今臨時国会に内閣が提出したの「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」です。

両者の関係は、どうなっているのでしょうかね。政府・与党は、両法案とも成立させるのでしょうか。おそらく前者の法案に代えるものとして、後者の閣法が提出されたのでしょう。

前者の「女性が活躍できる社会環境の整備の総合的かつ集中的な推進に関する法律案」の法的枠組みは画期的なものだと思います。

この法律の基本理念は次のとおりです。

①職業生活その他の社会生活と家庭生活の両立が図られる社会の実現する。
②女性がその有する能力を最大限に発揮できるようにする。
③少子化対策基本法と子ども・子育て支援法の基本理念に配慮する。

第6条は、女性が活躍できる社会環境の整備を行うために、この法律施行後2年以内を目処として次の法制上の措置(立法)をすると定めています。何よりも、第7条にて、残業時間の大幅な短縮をすること、そのために2年以内に立法すると定めるところが画期的です。

(時間外労働の慣行の是正)
第7条 政府は、女性の活躍及び男性の育児、介護等への参加の妨げとなっている職場における長時間にわたる時間外又は休日の労働等の慣行の是正が図られるよう、労働者団体及び事業主団体と緊密な連携協力を図りながら、次に掲げる措置を講ずるものとする。

 一 時間外又は休日の労働に係る労働時間の大幅な短縮を促進すること。

 二 所定労働時間を短縮し、又は柔軟に変更することができる制度の導入、在宅で勤務できる制度の導入その他の就業形態の多様化を促進すること。

(支援体制の整備)
第8条 政府は、女性が人生の各段階における生活の変化に応じて社会における活動を選択し、活躍できるよう、次に掲げる措置を講ずるものとする。
 一 保育、介護等に係る体制の整備及び支援を促進すること。
 二 学校の授業の終了後又は休業日における児童の適切な遊び、生活及び学びの場並びに療育に係る体制の整備を促進すること。
 三 妊娠、出産、育児、介護等を理由として退職を余儀なくされることがないようにするための女性の雇用の継続及びそれらを理由として退職した女性の円滑な再就職を促進すること。
 四 起業を志望する女性に対する支援を推進すること。
 五 社会のあらゆる分野において女性が活躍できるために必要な能力及び態度を養う教育並びに再び学習することができる機会の提供を促進すること。

(税制及び社会保障制度の在り方)
第9条 政府は、女性の就業形態及び雇用形態の選択に中立的な税制及び社会保障制度の在り方について様々な角度から検討し、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

(指導的地位への女性の登用の促進)
第10条 政府は、平成三十二年までに社会のあらゆる分野における指導的地位にある者に占める女性の割合を三割とすることを目指し、役員、管理職、高度の専門性が求められる職業その他の指導的地位への女性の登用を促進するための措置を講ずるものとする。

(国民の理解及び協力の促進)
第十一条 政府は、社会のあらゆる分野における女性の活躍に寄与した者の顕彰等を通じ、家庭生活における男女の協働及び社会における女性の活躍に関する国民、とりわけ男性の理解及び協力を促進するものとする。

もう一つの「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」は内容が乏しく、長時間労働慣行の是正もうたっていません。これが閣法ですが、自公の議員立法を葬るために作られたものなのでしょうか?

野党やフェミニストは、アベノミクスのために企業が女性を活用しようとする法律だと反対をしています。

また、自民党の右派や次世代の党も反対しています。理由は、「悪しき男女平等を推進する」からだそうです。この右派の男女さんは、信じられないほど「時代錯誤」な人たちというべきか、「さすが保守反動」というべきか(苦笑)。

私は、議員立法の「女性が活躍できる社会環境の整備の総合的かつ集中的な推進に関する法律案」の方が成立すれば一歩前進だと思います。

女性が活躍できる社会環境の整備の総合的かつ集中的な推進に関する法律案

http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g18601038.htm


女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案要綱

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000060536.html

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