PHP新書
2014年11月発行
2014年11月25日読了
■マルクス解釈が面白い松尾匡教授の本です。
松尾教授によれば、アベノミクスについては、消費税値上げまではアベノミクスの第一と第二の矢は基本的にはうなくいっていた(左派でありながら、これを主張しているので形見が狭かったとか)。しかし、安倍政権は、金融緩和だけでインフレターゲットを目指しており、財政出動を抑えており十分な効果をあげていない。と指摘します。
松尾教授は、労働側が「量的金融緩和」と「財政支出」自体に反対するのではなく、金融緩和マネーで社会政策的な財政支出をするようにと要求すべきだと言います。
他方、アベノミクスの第三の矢と呼ばれる「成長戦略』は、新自由主義政策で、「公的事業の民営化」や「小さな政府」、「労働の規制緩和」を目指すものだとして反対すべきだとしています。
この時事ネタよりも、この本の特徴は次の点です。
不倶戴天の敵同士と思われるハイエクとケインズを総合しよう?というのです。
■「リスク、決定、責任」の一致が重要
1980年代にかけて経済的な変化によてて構造的な転換がおこり、それは「リスク、決定、責任」が重要になった。民間部門でも公共部門でも、事業の決定は「リスクと責任」を負う現場が行うことが最も適切な判断を下せる。「大きな政府」か、「小さな政府」かという問題ではない。
ハイエクが指摘したとおり、中央政府がすべての情報を把握して、これをコントロールをするということは原理的に不可能だ(だからソ連型社会主義は崩壊した)。
ハイエクは、自由市場を成り立たせるためには、中央政府の仕事として、市場が公正に機能する法的枠組みのルールの策定のほか、教育の支援、労働時間の規制、労働環境の維持・向上、公害や環境破壊防止の規制などが必要だとしている。
ハイエクの視点とケインズの施策は矛盾しないのだそうです。
ケインズ的な政策は、インフレターゲットを掲げたり(金融緩和)、財政出動をしたり(財政支出)して、いわば大局的な将来の方向性を示す(「大きな方針を示す政府」)。それを踏まえて、各人が各部署においてリスクを追って決定し、その決定の責任を負うのであれば(ハイエク的発想)、社会と経済はうまく回る、というお話しです。
■ゲーム理論と日本的雇用について
日本的雇用システムについて、日本的民族特性とは関係がないとして、次のように説明しているのも面白かった。
○日本企業=企業特殊的技能形成
日本企業においては、企業特殊的技能が重宝されてきた。だから長期雇用慣行や年工賃儀制度が合理的であった。
○欧米企業=汎用的技能形成
欧米企業では、汎用的技能が尊重されており、職務賃金や労働力の流動化が進む。
それぞれ合理的な制度である(ゲーム理路でいうナッシュ均衡)。
しかし、世界の経済変化やグローバル化によって、企業特殊的技能はもはや強みがなくなった。したがって、この外生条件が変化した以上、日本的雇用システムは変化せざるを得なくなっている。
と明快です。
■松尾教授が望むもの
最終的に松尾教授の望むものは、景気対策としてケインズ政策を行い、また社会政策を担う社会サービスは公的資金に支えられたNPOなどの協同組合的事業にゆだねるというものです。
労働基準や環境基準が高く、ベーシックインカムも高く、雇用のためにインフレターゲットを高め。なるべく多くの分野で利用者や従業者に主権がある事業体が発展し、特に福祉サービスの分野では、公財政が手厚くそれを支えることを望んでいます。
過去に書いた松尾教授の本の私の感想
http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2013/02/post-07e.html
http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2008/10/post-b1c8.html
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