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2014年10月 6日 (月)

労働時間とマルクス

■新たな労働時間制度 残業代ゼロ制度

 
 久しぶりに労働法テーマを。
 新しい労働時間制度が労働政策審議会で検討されています。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000059561.pdf

 要するに一定の範囲の労働者について労働時間規制を外すというものです。いわゆる「残業代ゼロ制度」の導入。
 対象となる管理職の多くは、「名ばかり管理職」なのですが、実際には企業は残業代を支払っていません。そこで、使用者側の本当の狙いは、管理職になれないが比較的に高年収の労働者層の残業代ゼロです。この対象となる労働者層(高年収のホワイトカラー)の多くは、年2500時間を超える長時間労働を働いている層です。
 使用者側の狙いはコスト削減「長時間働かせても残業代を支払わないでもすむ便利な制度が欲しい」という身も蓋もない要求です。労政審の公益や厚労省は、さすがに、これでは不味いので、なんとか味付けしたり、修正しようとしているというのが構図でしょう。もちろん労側は反対。


■マルクス「賃金、価格および利潤」


 「若者よ マルクスを読もうⅡ」(内田樹・石川康宏著 かもがわ出版)を読みました。
 今回の検討著作は、「フランスにおける階級闘争」、「ルイ・ボナパルトのブリューメル一八日」、そして「賃金、価格および利潤」です。マルキシアン・内田氏とマルキスト・石川氏との対談と往復書簡です。マルキシアンとマルキストについては別に感想を書きたい。今回、書くのは労働時間のことです。
 
 「賃金、価格および利潤」で、マルクスは労働時間について次のように述べています。

時間は人間の発達の場である。いかなる自由な時間を持たない者、睡眠や食事などによる単なる生理的中断を除いて、その全生涯が資本家のための労働に吸い取られている人間は、役畜にも劣る。彼は単に他人の富を生産するための機械にすぎないのであり、体は壊され、心は荒れ果てる。だが、近代産業の全歴史が示しているように、資本は、阻止されないかぎり、しゃにむに休むことなく労働者階級全体をまさにこのような最大限の荒廃状態に投げ込むことだろう」(光文社古典新訳文庫版)

 日本で1985年頃、労働時間の弾力化の労基法改正がはじまったときから、「もう工場法の時代ではない。マルクスの描いた労働者像は過ぎ去った過去だ」と言われて続けてきました。しかし、いわゆる「ブラック企業問題」や「メンタル・ヘルス労災」の深刻化を見ると、1865年にマルクスが国際労働者協会総評議会で講演した「賃金、価格および利潤」の指摘はまだ有効のようです。


■「残業代ゼロ」から「残業ゼロ」へ


 使用者側は、残業代ゼロにして、長時間労働をさせたいのが本音。労働者側は、長時間労働をさせるなら残業代をきちんと払えというのが要求。
 マルクスの見地からは、さらに進めて「残業ゼロ」を実現して、「人間の自由な発展の時間を確保する」ことこそが「革命的労働者階級」(懐かしいフレーズ・笑)の要求だということになりますか。

 でも、なぜ日本では労働時間規制と労働時間短縮がすすまないのか。
 「労働運動が弱いから」という政治的分析や、「メンバーシップ契約だから労働時間が無制限だ」という契約論的(?)分析ではなく、社会科学的分析を聞いて(読)みたいものです。

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2014年10月 5日 (日)

日本国憲法9条を持つ日本国民にノーベル平和賞?

■憲法9条がノーベル平和賞の有力候補だって?

一主婦がはじめた「日本国憲法9条にノーベル平和賞を」という運動により、日本国憲法9条をもつ日本国民がノーベル平和賞にノミネートされ、しかも有力候補との報道があります。

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NCUHY36KLVRD01.html

この発案者のアイデアがユニークで面白い。発案者は、憲法9条改正反対の立場からの発案でしょう。私も、この運動に賛同署名しました。10月10日に発表だそうです。

ノーベル平和賞は、ノルウェイー国会が選出した5名の国会議員で構成されたノルウェイ・ノーベル委員会で決定される。ロイターの報道では、現在の委員は、保守派議員が2名、中道左派議員が3名とのことである。現在の委員会は、オバマ大統領やEUに平和賞を授与している。ノルウェイー外交のアピールや委員の政治色が反映される傾向があるらしい。

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKCN0HS0HE20141003

■それは無理だと思う理由

ノーベル平和賞が授与されることはない、と私は予測していました。

一つは、現在、憲法9条改正は日本で政治的な論点であり、ノーベル平和賞を授与することは内政干渉になりかねないからです。政府自民党が憲法改正案を決めて憲法9条の改正を宣言し、読売や産経などのメディアも憲法9条改正を訴え、国民の半数近くが憲法9条改正に賛同していますから。ノルウェイは、慎重になるはず。

二つは、日本国民にはノーベル平和賞を授与される資格がないと思うからです。日本国民の多くは日米安保条約を容認し核の抑止力を享受してきたこと、しかも、最近は若者を中心にして中国や韓国に対する民族排外主義の傾向を強めていること、国内では過激な民族差別的ヘイトスピーチ団体が跋扈しつつあること、さらには首相や多くの日本国民が慰安婦問題について日本が外国から非難されるのは不当な中傷であると主張していること。このような国民にノーベル平和賞を与えては、平和賞の名が泣くでしょう。

■故佐藤栄作氏が「平和賞」を授与されたんだからあり得るか

でも、ひょっとしたら授与されるかも、と思い直しました。

憲法9条を守ろうとしている日本人(9条改正派除く)ということになれば、うえの二つ目の障害はなくなります。

また、一つ目の「内政干渉」の危惧についても過去に問題にしなかった例がありました。

あの「佐藤栄作」氏にノーベル平和賞を授与したというトンデモな「実績」がありますから。しかも、その受賞理由は、憲法9条、それに基づく非核三原則を佐藤栄作氏が唱えたからなんだそうです。これも賛否の分かれる人選でした。

自民党総裁であった故佐藤栄作氏は、日米核密約を締結し、日米安保体制を強化してきた首相であり責任者です。このような人物に平和賞が授与されるくらい(苦笑)ですから、憲法9条を守ろうとする日本人に平和賞が授与されても驚くことはないかもしれません。

日本の右傾化を懸念するヨーロッパ人権派が安倍首相ら右派を牽制するためにノーベル平和賞を授与することはあり得るかも。EUは、日本との条約や経済協定に人権条項を入れることを求めるくらい日本の現状に不安を覚えている。しかも、ノルウェーのノーベル委員会の委員長は中道左派の議員で、EU議会欧州評議会の事務総長だそうです。日本の右派への「牽制」として平和賞を授与する外交的・政治的パフォーマンスをするかも。

■授与式には誰が出席するか

万一そうなったら、安倍首相が日本国民を代表して授与式に出るのでしょうか? 

憲法9条改正論者の安倍首相としては、当然辞退されるでしょう(すべきでしょう。)。とすると、衆議院の議長あたりでしょうか。でも、これも自民党男性議員ですから、まさか授与式に出るような「二枚舌的」行動はしないでしょう。

他方、天皇ということもあり得ない。天皇は、「栄典を授与する」ことならできますが、「外国から栄典の授与を受けること」は国事行為に規定がない(日本国憲法7条)。ただ「儀式を行うこと」に含まれるとの解釈はあり得るが、外務省は「天皇」のプライドとして外国から栄典を授かる立場に天皇がなることをけっして認めないでしょう。

となると、この運動の「憲法9条にノーベル平和賞を」実行委員会の代表の方か発案者の主婦の方がもっとも適切だと思います。

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