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2014年9月23日 (火)

ヘイトスピーチ禁止法について

■人種差別的ヘイトスピーチ

国立市議会が、ヘイトスピーチを禁止する法整備を求める意見書を採択しました。
http://www.asahi.com/articles/ASG9Q5K82G9QUTIL02J.html

ヘイトスピーチは、「憎悪言論」とか「憎悪表現」と翻訳されるが、これは必ずしも適切な訳語ではない。

正確には、「人種差別的ヘイトスピーチ」とか、「人種・民族差別的な憎悪・暴力扇動行為」という用語のほうが適切であると思います。

国連自由権規約では、次のように定義されています。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/2c_004.html

第20条2項
 差別、敵意又は暴力の扇動となる国民的、人種的又は宗教的憎悪の唱道は、法律で禁止する。

人種差別撤廃国際条約では、もっと詳細に次のように定められています。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/conv_j.html

第1条1項
 この条約において、「人種差別」とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう。

第4条

(a)人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動、いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対するものであるかを問わずすべての暴力行為又はその行為の扇動及び人種主義に基づく活動に対する資金援助を含むいかなる援助の提供も、法律で処罰すべき犯罪であることを宣言すること。

(b)人種差別を助長し及び扇動する団体及び組織的宣伝活動その他のすべての宣伝活動を違法であるとして禁止するものとし、このような団体又は活動への参加が法律で処罰すべき犯罪であることを認めること。

つまり単なる「憎悪」表現は「ヘイトスピーチ」にはなりません。あくまで「人種差別的ヘイトスピーチ」が規制対象なのです。

ですから、「安倍首相はファシストだ。安部政権を打倒せよ」という表現は、あくまで政府や為政者への政治的批判ですから、「ヘイトスピーチ」にはなりません


「アメリカ帝国主義は出て行け!」とか「大国主義・覇権主義の中国を打倒せよ!」とか、「軍国日本の復活を断固阻止!」と叫んでも、自国や外国の政府批判ですから、人種差別的ではなく「ヘイトスピーチ」にはあたりません。

しかし、「日本人はファシストだ。たたきのめせ」というのは、日本人に対する差別や敵意の扇動になり、国民的・人種的な憎悪の唱道になるでしょう。したがって、「韓国人はゴキブリだ。日本からたたき出せ」などと述べることは、当然、典型的な人種差別的ヘイトスピーチに該当します。

在特会が韓国・朝鮮人に対して「虐殺を実行する」とか「殺せ」とか、「ガス室に送り込め」などと公然と叫ぶことは、国連自由権規約や人種差別撤廃条約が禁止を求める「人種差別的ヘイトスピーチ」にほかなりません。

■「人種差別的ヘイトスピーチ」禁止・処罰法は理論的には合憲

人種差別的ヘイトスピーチを禁止するのは、日本政府の国際的な義務となっています。日本国憲法が「表現の自由」を保障していますが、「名誉毀損」が一定の要件の下で犯罪として処罰されるように、上記の「人種差別的ヘイトスピーチ」を処罰することは、適切な立法を
行うのであれば、合憲となると私は思います。

「人種差別的ヘイトスピーチ」が禁止が合憲となる根拠は、「公益ないし公の秩序」に反するからではなく、「他者の人権を侵害するもの」だから、表現の自由の「内在的制約」を根拠(公共の福祉)に、その規制も合憲とされるのです。

■安倍内閣にヘイトスピーチ禁止の法整備をまかせる怖さ

理論的には、「人種差別的ヘイトスピーチ」を法律で禁止をして、適切な要件のもとで処罰することは合憲です。しかし、問題は、濫用されない適切な「人種差別的ヘイトスピーチ禁止法」を、今の安倍内閣で立法することが可能かどうかです。

安倍首相や自民党が、日本国憲法の立憲主義や人権尊重の原則を軽視していることは、彼らのつくった「自民党日本国憲法改正草案」を読めばわかります。この自民党改正案では、「公益ないし公の秩序」によって基本的人権を制約しようとしており、この一点を見ても、安倍自民党内閣の危険性は明らかです。

この自民党・安倍内閣が「ヘイトスピーチ禁止法」をつくると、「人種差別的ヘイトスピーチ」ではなく、日本政府や外国政府に対する正当な批判言論に対する規制法を制定する危険が極めて高い。現に、自民党の高市早苗衆議院議員らは、国会前の反原発デモやパレードを禁止することを検討しようとしました。批判を受けて撤回したようですが、これが自民党の本音なのでしょう。


安倍内閣に、ヘイトスピーチ規制法をつくらせるのは、いわば「盗人に自宅の警報装置を設計させる」ような不安を覚えます。

ヘイトスピーチ禁止法は、理論的には賛成だが、現政権の下では、「表現抑圧・弾圧法」になる危険性が高く、今、ヘイトスピーチ規制立法推進に積極的になれないというのが正直な私の危惧です。

では何もしないくて良いのか。そうではありません。

■人種差別是正の行政救済制度

そこで、刑罰規制ではなく、法務省の人権擁護局の権限を強化して、人種差別行為に対して、人権擁護局が摘発・警告できるようにし、差別者が是正しない場合には、これを差し止
める行政救済措置を立法化するのはどうであろうか。

実効性確保のため、人権擁護局が被差別者に代わって、裁判所に差し止め訴訟を提起できるようにしたら良い。こうすれば、弾圧立法となる危険性は低くなる。

■今ある法律で規制を強化できないのか

朝鮮人学校や大久保などの韓国の商店街の密集地点で、「韓国人を殺せ」「ガス室に入れろ」などと多人数で大音量で叫びながら集団行動で練り歩くことは、威力業務妨害に該当し、捜査当局が立件することが可能だと思います。

現時点では捜査当局は、特定の具体的な被害者に向けた行為ではないとして、刑事事件として立件できないと言っているようですが、少なくとも朝鮮学校に対する行為は、威力業務妨害に十分に該当すると思います。既に、京都の場合には立件されて有罪となっていると思います。

そうであれば大久保などの周辺の行動も、威力業務妨害になると思うのです。もっと積極的に摘発、処罰すべき事案でしょう。人種差別撤廃条約は日本国は批准しているのですから。

今の捜査当局は、高校の卒業式の開始直前に「君が代」斉唱の際に起立しないように呼びかけた元高校教師を威力業務妨害罪で起訴し、有罪にしました。また、マンションや集合住宅の中での反原発や政府批判のチラシをまくと住居侵入罪を適用して逮捕・起訴しています。

■捜査当局への不信

このような行為を摘発し起訴しておきながら、上記のような人種差別的かつ暴力煽動的な脅迫行為を、威力営業妨害で摘発に消極的な捜査当局の判断は理解に苦しみます。

捜査当局は、結局、政府・自民党に近い立場にある「ヘイトスピーチをする側」を支持し、彼ら・彼女らに甘い、と思われても仕方がないでしょうね。

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コメント

じん‐しゅ【人種】国語
1 人類を骨格・皮膚・毛髪などの形質的特徴によって分けた区分。

韓国人と日本人は「人種(race)」が違うんですか?
てっきり同じ黄色人種かと思ってました。

投稿: 山本 | 2014年9月24日 (水) 01時04分

人種差別撤廃国際条約では、「人種差別」を次のとおり定義しており、人種だけでなく、民族的若しくは種族的出身」による差別も含む概念です。法律的には、この定義に基づき議論がなされています。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/conv_j.html

第1条1項
 この条約において、「人種差別」とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう。

投稿: 水口洋介 | 2014年9月27日 (土) 07時03分

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