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2014年8月24日 (日)

解雇の金銭解決の「日経」記事について

■日経記事がひどい 2014年8月24日付

解雇の金銭解決について、現状の実務をまちがって書いている。
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO76084660T20C14A8NN1000/

厚労省に寄せられる解雇トラブルの相談は年5万件。うち裁判にまで進むのは1000件程度で、裁判で判決を受けるのは300件程度だ。今の制度では裁判官が解雇を無効だと認めても、判決では職場復帰しか命じることができない。労働者がもらえたはずの賃金を受け取るには、判決後にあらためて和解や賠償請求の手続きがいる。

しかし、いくらなんでも、実際の解雇訴訟実務と、まったく違うことを書いている。労働審判の件数は、本文に何も出て来ないし。

特に「解雇が無効だと認めても、判決では職場復帰しか命じることができない。労働者がもらえたはずの賃金を受け取るには、判決後にあらためて和解や賠償請求の手続がいる」なんて、完全な誤報道。ときどき、「日経」って雇用問題についてあきれるような記事が書くのでびっくりします。

関連事項は前に私のブログで書いています。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2014/07/post-4b01.html

あいかわらず長文なので、以下、簡単に要約。と、推測を少し。

■裁判所の労働審判・訴訟の調査

2014年6月24日に閣議決定された「日本再興戦略 改訂2014年-未来への挑戦-」には次のように書かれています。

透明で客観的な労働紛争解決システムの構築

 主要先進国において判決による金銭救済ができる仕組みが各国の雇用システムの実態に応じて整備されていることを踏まえ、今年度中に「あっせん」等事例の分析とともに諸外国の関係制度・運用に関する調査研究を行い、その結果を踏まえ、透明かつ公正・客観的でグローバルにも通用する紛争解決システム等の在り方について、具体化に向けた議論の場を速やかに立ち上げ、2015年中に幅広く検討を進める。

そして、

「あっせん」「労働審判」「和解」の事例を分析して、1年以内に「活用可能なツール」を整備する

産業競争力会議で、厚労省の担当者は裁判所と調整をすすめていると述べています。

●中野厚労省労働基準局長

紛争解決について。現在都道府県労働局による個別労働関係紛争のあっせん事例の分析については、既に調査に着手している。・・・・

また、労働審判、和解の事例については、法務省を通じて裁判所にお願いし、今、具体的な調査の仕方、方法についてご相談している。調整次第、調査に着手する予定がある。

その際、長谷川主査からご指摘のあったように、企業の労働者のそれぞれの属性をうまく拾い出して、労働者の雇用上の属性や、賃金水準、企業規模、解決金額といった、事案の具体的な内容を拾い出して精査しないと、なかなかよい分析にならないので、そういう観点からの分析をすすめたい。

(ご参考)過去に解雇の金銭解決制度について論じたブログ。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2013/08/post-c2b9.html

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2013/04/post-d3cf.html

■さて、この調査の主体は?

この裁判所の労働審判や訴訟資料のデータの収集分析は、厚労省が行うのでしょうが、おそらく、JILPTが実際には調査をするのではないでしょうかねえ。

JILPTには労働局個別労働紛争について膨大な事例を調査分析をした労作もありますし。

■調査の手法や項目、分析の視点など

この調査の結果が、一人歩きする懸念があります。その調査項目、調査方法や調査の視点については、オープンに議論してもらいたいものです。

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