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2014年7月21日 (月)

集団的自衛権 今後の予想

集団的自衛権の行使容認が閣議決定された。私は、これが憲法違反であり、立憲主義に反していると思っています。

しかし、個人的には日米安保条約は憲法9条違反だと思いますが、日米安保条約がないと、中国は尖閣諸島を奪うというのは冷徹な国際情勢の現実でしょう。これは南シナ海の南沙諸島に対する中国の動きを見れば明らかです。

今後、自衛隊法などの国内法制が改正されて、さて、この数年から10年以内に何が待っているでしょうか。

■朝鮮半島有事への自衛隊派遣
中国からも見放された北朝鮮。
米国は北朝鮮の核兵器を放置することは絶対しない。北朝鮮が弱体化した段階で、一番ありうるのは北朝鮮が自己崩壊する中で、軍事衝突が発生して、北朝鮮の核兵器を確保するために米国が軍事介入するでしょう。中国と話しをつけたうえで。
そのとき、在日米軍が朝鮮半島に攻撃に出て、自衛隊は後方支援を行うことになる。
これが、一番あり得る事態です。
中国、米国の全面戦争にはならない。中国・米国が合意した上で、親中国の北朝鮮新政権をでつくるでしょう。
日本は、これに一枚かまないと、アジアにおける国家的地位が危うくなる。そのための集団的自衛権だと、安部首相は考えているのでしょう。
■そうならないために
6カ国協議で、①北朝鮮に対する先制的な武力攻撃を行わないこと、②北朝鮮の核兵器廃棄、③日朝国交正常化(拉致問題の日朝合同調査委員会の設置)、④北朝鮮の国連加盟に向けての交渉開始をセットで協議をする。
北朝鮮の国連加盟で、人道援助を行う。数年もたてば、独裁政権は民主化していくでしょう。そうでならなければ北朝鮮政権は人民が蜂起して崩壊するでしょう。


■中東紛争への自衛隊派遣
イラク周辺の情勢は流動的です。でも、世界の油田地帯ですから、このまま米国が放置することはあり得ない。
スンニ派のアルカイダ系過激派が油田地帯を押さえることは米国は許さない。
クルド民族は、イスラエルの支援を受けて、悲願の独立国家樹立を目指す。
シーア派は、イランの支援を受けてシーア派の地域支配を広める。
ということで、イラクは分裂する公算が強い。イスラエルとすればイラクの分裂は自らの利益になる。
米国は放置できないが、自国だけで介入はしたくない、ヨーロッパと日本と韓国を引き込んで介入することになる。日本政府が断れるわけがない。
これに一枚加わらないと日本の未来がないと安部首相は思っているのでしょう。

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2014年7月10日 (木)

読書日記「街場の共同体論」内田樹著

潮出版
2014年6月20日発行
2014年7月1日読了

おなじみの内田樹氏のご本。著者の評論は、現代の特徴を鮮やかに切りとって示してくれる。最初に私が読んだのは、内田氏の現代教育についての著作でした。そこで次のようなことが指摘されていました。

昔は、子供の初めての社会参加は、家の手伝いを含めて「働く」=「労働」であった。

しかし、現代は子供の初めての社会参加は、何かを「買う」=「消費」である。

現代の学校教育は、学校での子供の「学び」とは、教育というサービスの「消費」となり、親も子も教師が対価に応じたサービスを提供しているかどうかを値踏みしている。

確かに、そのとおり。目から鱗が落ちる思いです。
モンスターペアレント現象や最近の若者の言動を見ると、確かにそう思います。消費者としてサービス提供者にはどんな要求しても、その資格をもっていると思っているようです。

この「街場の共同体」でも、相変わらず見事な視点で現代社会を切りとっています。特に次の二つの評論に共感しました。

■格差社会と階級社会

格差社会と階級社会はどう違うのか。私なりに要約すると、、、

「階級社会」では、それぞれの階級ごとに価値観が違っている。例えば、貴族階級、ブルジョア階級、プロレタリア階級は、それぞれ価値観が異なっている。それぞれが別々の価値観をプライドをもって保持している。

他方、「格差社会」とは、社会の構成員が単一の物差しで格付けされる社会である。年収とか学力とか数値かされる一定の物差しで、格付けられており、その順位の入れ替えは、(実態がどうであろうかはともかく)原理的に可能だという社会である。

日本では、この「物差し」が「年収」であり、子供まで「年収」で人間を値踏みする社会である。その「年収」の差は、フェアな競争によってもたらされると思っている。個々人の能力や努力によって、フェアに「年収」という結果が決定される。

このフェアな競争による「年収」によって人の価値が決まるというルールが一応、社会的に合意された社会、それが現代日本社会。

日本の支配的な言説は、内田氏の言うとおりです。

普通に苦労して働いている人は、「カネで買えないものもある」、「カネだけで幸せになれない」とか内心はブツブツ言っているのですが、負け犬の遠吠えのようで、大きな声で胸をはって言えない(雰囲気がある)。

このような社会は、共同体そのものが壊れてしまう。その社会にとっての「社会的共通資本」を、「損得はともかく」、いちおう整備する人がいなければ、その社会は成り立たない。というのが内田氏の論説です。

今の雇用等についての政策の動きは、この社会的共通資を、自己責任論のもと壊しかねない。

■父親の没落と母親の呪縛

人類は、世界中に広がり、それぞれ色々な社会集団を構成しています。

中には、「父親が息子に尊敬される(とされている)社会」もあれば、「夫婦仲が良い(とされている)社会」もある。

父親が本当に尊敬に値するほど偉い人物かどうか。夫婦が本当に相思相愛で愛し合っているかどうかは別として、当該社会では、そういう規範(ルール)が支配している。

だから父親のことを、仮に軽蔑して憎んでいても、一応、外面的には敬意を払っていた。これが戦前の日本の家父長制だった。

現代日本では、このように父親を尊敬すべきという社会的規範はほとんどなくなったか、極めて薄まった。

団塊の世代以後の世代(戦後民主主義世代)は、この家父長制を批判してきた。そうなると、これが父親となれば、影が薄くなるのは当然であり、家父長制が壊れるのは正しい結末。

なにしろ、戦前の家父長制は、戸主が息子や娘の結婚相手の決定権を有しており、妻は財産的に「無能力」としていたのですから。もちろん女性に投票権もないわけですから。

そして、今や、家族の中で、親に代わり、家族(子供)を統御し支配するのは母親となった。しかも、母親は、子供のことは自分が一番熟知していると思っている。母親は「あなたのことは、私が一番、よく分かっているの」って自信満々に言う。

これが子供にとっては呪縛となる。いわゆる「グレート・マザー」って奴です。

現代日本の家族は、母親が強い支配力を行使し、娘はそれに必死に抗い、息子は未成熟なまま加齢してゆく。

「家父長制の打倒」が戦後の課題であったが、今後は、母親の呪縛からの子供の自立が最大のテーマになる。文学や社会研究、教育も、この新たなテーマ(いわば「結婚しない長女、働かない長男」)が課題となる。

これもなるほどと思います。家父長制の復権とか、男の役割を強化するという逆戻りでは解決できない。その課題を克服するのも、たぶん母親の呪縛から必死に自らを解放した女性たちなのだそうです。

古いタイプの親は、息子や娘たちに「良き伴侶を得て、幸せな家庭をつくって欲しい」との素朴な願いを持っていますが、もはやそれを望むべくもない時代になっているのです。

今や家庭は、子供がたたかうべき「家父長」もおらず、子供たちが「母性愛」という呪縛にのみ込まれるイメージなのですね。

父親としては、こういう家族・社会になったことを認識した上で、母親の呪縛から子どもたちがどう自立していくのか、が新たな課題となったことを理解して、見守るしかないのでしょうね。

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2014年7月 6日 (日)

首相官邸HP・防衛省HPと集団的自衛権

■首相官邸のHPが面白い
集団的自衛権などについてQ&Aがのっています。
http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/anzenhoshouhousei.html
●徴兵制について

【問10】 徴兵制が採用され、若者が戦地へと送られるのではないか?

【答】 全くの誤解です。例えば、憲法第18条で「何人も(中略)その意に反する苦役に服させられない」と定められているなど、徴兵制は憲法上認められません。

首相は、「徴兵制が奴隷的拘束に該当する」という解釈にたつのですね。
私は、徴兵制自体を奴隷的拘束という解釈にはたちません。ドイツや韓国の徴兵制が奴隷的拘束というのは常識に反しているように思います。そんなことを言ったら、懲役刑も奴隷的拘束ということになりかねない。徴兵制は、憲法9条に違反する余地があるだけでしょう。もっとも、この解釈も将来、閣議決定で変えるのは簡単でしょうけどね。
●石油のために、自衛隊は海外に派遣される。

【問15】 国民生活上、石油の供給は必要不可欠ではないか?

【答】 石油なしで国民生活は成り立たないのが現実です。石油以外のエネルギー利用を進める一方で、普段から産油国外交や国際協調に全力を尽くします。

【問16】 日本は石油のために戦争するようになるのではないか?

【答】 憲法上許されるのは、あくまでも我が国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを守るための必要最小限の自衛の措置だけです。

上記二つの質問と答えの意味するところは?
要するに、石油が輸入されない場合には、国民生活が成り立たないから、石油のために自衛隊を派遣すると書いてある、としか読めない。ホルムズ海峡の機雷掃海ですね。
■防衛省のHP 憲法と自衛権
http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/seisaku/kihon02.html



(2)自衛権発動の要件
 憲法第9条の下において認められる自衛権の発動としての武力の行使については、政府は、従来から、
①わが国に対する急迫不正の侵害があること
②この場合にこれを排除するために他に適当な手段がないこと
③必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
という三要件に該当する場合に限られると解しています。


(4)集団的自衛権
 国際法上、国家は、集団的自衛権、すなわち、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利を有しているとされています。わが国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上当然です。しかしながら、憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、わが国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであり、他国に加えられた武力攻撃を実力をもって阻止することを内容とする集団的自衛権の行使は、これを超えるものであって、憲法上許されないと考えています。

閣議決定により解釈が変更されても、自衛隊法は変わっていないので、上記HPの防衛省の見解を変更すると、自衛隊法3条1項、2項及び同76条に反することになります。

憲法、法律、閣議決定の効力の優先関係は次のとおりです。
 憲法 > 法律 > 閣議決定
閣議決定で変更したとはいえ、国会で自衛隊法を改正しない限り、自衛隊は集団的自衛権行使の出動はできませんから。
では、防衛省は、いつこのHPの記載を、「集団的自衛権も憲法上許される」と変更するのでしょうか。
それは自衛隊法が国会で改正されてからでないと困難なのでしょう。もっとも、この憲法と自衛権のHP全体を削除するのかもしれませんが。
ときどき、この防衛省のHPを見てみましょう。

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2014年7月 4日 (金)

解雇金銭解決導入に向けての産業競争力会議・法務省・厚労省、裁判所の気になる動き

解雇金銭解決制度の導入に向けて、裁判所の労働審判記録や訴訟記録を、産業競争力会議の意を受けて、裁判所の協力のもとで、厚労省ないしその受託機関が閲覧調査をする作業が進められています。

■「日本再興戦略改訂2014年」雇用制度改革

2014年6月24日付けで「日本再興戦略 改訂2014年-未来への挑戦-」が閣議決定されました。この中で、解雇金銭解決制度の導入が打ち出されています。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/honbun2JP.pdf
 

この中で、「予見可能性の高い紛争解決システムの構築」を図ることが決定されています。「中小企業労働者の保護」、外国の「対日直接投資を促進する」ためとしています。

その内容は次のとおりです。

①「あっせん」「労働審判」「和解」事例の分析
 労働紛争解決手段として活用されている「あっせん」「労働審判」「和解」事例の分析・整理については、本年度中に、労働者の雇用上の属性、賃金水準、企業規模などの各要素と解決金額との関係を可能な限り明らかにする。分析結果を踏まえ、活用可能なツールを1年以内に整備する

②透明で客観的な労働紛争解決システムの構築
 主要先進国において判決による金銭救済ができる仕組みが各国の雇用システムの実態に応じて整備されていることを踏まえ、今年度中に「あっせん」等事例の分析とともに諸外国の関係制度・運用に関する調査研究を行い、その結果を踏まえ、透明かつ公正・客観的でグローバルにも通用する紛争解決システム等の在り方について、具体化に向けた議論の場を速やかに立ち上げ、2015年中に幅広く検討を進める。

解雇金銭解決制度の導入については、慎重な書きぶりですが、2015年中にも制度の具体化を目指していることは明らかでしょう。

そして、その前提として、「あっせん」「労働審判」「和解」の事例を分析して、1年以内に「活用可能なツール」を整備するとしています。 要するに、解雇事件について、労働局の紛争あっせんだけでなく、裁判所の労働審判事件や訴訟事件を分析して、実用的な金銭解決の水準を作るということです。

■産業競争力会議の動き

第9回産業競争力会議雇用・人材分科会(平成26年4月9日)では、解雇金銭解決制度についての、次のようなやり取りがあります。この分科会の主査である長谷川閑史(武田薬品会長)は、解雇金銭解決制度の必要性をかねてから強調していきた人物です。これが上記改訂2014年版に反映されたのです。

●中野厚労省労働基準局長
紛争解決について。現在都道府県労働局による個別労働関係紛争のあっせん事例の分析については、既に調査に着手している。・・・・

また、労働審判、和解の事例については、法務省を通じて裁判所にお願いし、今、具体的な調査の仕方、方法についてご相談している。調整次第、調査に着手する予定がある。

その際、長谷川主査からご指摘のあったように、企業の労働者のそれぞれの属性をうまく拾い出して、労働者の雇用上の属性や、賃金水準、企業規模、解決金額といった、事案の具体的な内容を拾い出して精査しないと、なかなかよい分析にならないので、そういう観点からの分析をすすめたい。

●長谷川主査
・・・中野局長からも良く勉強すると言っていただいた・・・変えていくという姿勢で考えていただくことが極めて重要。ぜひそういう方向でご検討いただきたい。

●西村内閣府副大臣
・・・法務省を通じて裁判所と調整中ということは、前向きに進んでいるという理解で良いのか・・・・

●萩本法務省民事局官房審議官
裁判所からは、今回の調査のために、可能な範囲で協力するという回答を得ている。概要としては、厚労省あるいはその受託者が裁判所を訪れて記録を閲覧し、必要なデータをそこから収集することは構わないというこである。現在、先程の厚労省の資料にあったとおり、具体的に、いつ、誰が、そこの裁判所を訪れ、どのような方法でデータを収集するかについて、調整をしている状況である。

要するに、裁判所の労働審判や民事訴訟の事件記録を、厚労省ないし受託機関が閲覧して、解雇事件の金銭解決水準を、属性等を含めて調査をするということが決まり、裁判所がそれに協力することを決めたということです。上記萩本法務省民事局官房審議官は裁判所から法務省に出向している裁判官ですから、裁判所とはツーカーなはずです。

■調査の問題点

●誤ったデータの分析になる可能性が高い

解雇の金銭解決水準については、解雇が有効か否かという判断が最も重要な要素です。解雇が無効と判断される場合には、金銭解決の水準は当然にあがります。解雇が有効の場合には、当然水準は低くなります。調停や和解の際に、解雇が有効か無効かという裁判所の心証をもとに双方が妥協して、金銭解決の水準が決まるのです。

訴訟記録をいくら厚労省が見ても、この重要な要素は判断がつきません。

したがって、この要素が抜け落ちたデータ整理は、極めてミスリーディングなデータになります。分かりやすく言えば、勝ちスジ事件も負けスジ事件も一緒にして解決金額の平均値を出すことになりかねません。当然、金銭水準は低くなりますよ

●中立公平な立場ではない者の調査

また、解雇金銭解決制度について中立公平な立場での学術的研究ならいざ知らず、解雇金銭解決制度の導入を推進する立場に立つ、産業競争力会議の意を受けた厚労省ないしその受託機関の調査は、信用性にかけるというものです。世界一、企業が活動しやすい日本を目指す以上、その金銭解決水準は低い水準が狙われる可能性が高いわけです。

●労働審判は非公開手続

訴訟記録は閲覧が可能です(民事訴訟法91条)。しかし、労働審判は非公開です(労働審判法16条)。したがって、産業競争力会議や法務省、厚労省とはいえ、労働審判記録は閲覧できないはずなのです。裁判所としては、産業競争力会議、法務省、厚労省であれば許可するのでしょうか。その場合の法的根拠は難でしょうか?

■慎重な対応を

以上のとおり、解雇金銭解決制度導入ありきのこの調査は、極めて問題が大きいです。この調査が最も労働事件が多く専門の労働部がある、東京地方裁判所労働部を対象に行われることは明白でしょう。

「最高裁の協力のもと東京地裁労働部で集めたデータ」となれば、一般国民には、「間違いない」ものとして受けとめられる可能性が高い。しかし、解雇が有効か無効の観点を落としたデータであり、重大な欠陥があります。

このような調査を安易に行うべきではありません。

(ご参考)
過去に解雇の金銭解決制度について論じたブログは次のとおりです。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2013/08/post-c2b9.html

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2013/04/post-d3cf.html

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2013/03/post-11e7.html

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