「集団的自衛権」解釈改憲の現実的な訴訟リスク
■集団的自衛権の閣議決定案
内閣の憲法解釈変更の最終閣議決定案が報道されています。それによれば集団的自衛権は次の要件が備われば憲法上許容されるとしています。
①わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生、
②これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合、
③これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないとき、必要最小限度の実力を行使すること
憲法解釈としては余りに稚拙であり、合憲であることを何ら論証できていないと思います。それはともかく、今後、閣議決定に添って、自衛隊法、周辺事態法、国際平和協力法などが改正されることになります。
■自衛隊法はどう改正されるか
自衛隊法を考えてましょう。現在の自衛隊法は、防衛出動を次のように定めています。
(防衛出動)
第76条1項
内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃(以下「武力攻撃」という。)が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。この場合においては、武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律 (平成十五年法律第七十九号)第九条 の定めるところにより、国会の承認を得なければならない。
これは「わが国に対する外部からの武力攻撃」があった場合の個別的自衛権のことしか定めていません。集団的自衛権を認める閣議決定にそって、今後、「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」した場合にも、防衛出動を命じることができると改正されることになります。
■「防衛出動」には自衛官は拒否できない(刑罰)
そうなると集団的自衛権行使による自衛隊の出動命令も、「防衛出動」ということになります。自衛官は、防衛出動を拒否することはできません。この防衛出動を拒否した場合には、次のとおり自衛隊法123条で7年以下の懲役又は禁固で罰せられます。
第123条 第76条第1項の規定による防衛出動命令を受けた者で、次の各号の一に該当するものは、七年以下の懲役又は禁こに処する。
一 (略)
二 正当な理由がなくて職務の場所を離れ三日を過ぎた者又は職務の場所につくように命ぜられた日から正当な理由がなくて三日を過ぎてなお職務の場所につかない者
三 上官の職務上の命令に反抗し、又はこれに服従しない者
四、五 (略)
ちなみに、国際平和協力法の活動を拒否した自衛官を罰する規定は見当たりません。公務員としての人事上の懲戒処分を受けるだけのようです。
■自衛官は、韓国や台湾、米国の防衛のために戦闘するか
集団的自衛権行使として、将来可能性がある事態としては、①第2次朝鮮戦争勃発した場合に自衛隊を機雷除去などで朝鮮半島に派兵する、②中国の台湾への武力侵攻に際して米軍とともに台湾を防衛するために台湾に派兵する、③中東での戦争に際して石油輸入を確保するために自衛隊を中東地域に派兵することなどが考えられます。
こいう場合にも、内閣総理大臣が自衛隊法76条1項に基づいて、「防衛出動」を命じることになります。日本の防衛、尖閣諸島防衛のためには、自衛官は、当然、防衛出動するでしょう。そのつもりで、自衛隊に入隊し、専守防衛を誓ってるはずですから。
でも、まさか他国防衛のため、例えば、「韓国」防衛のため、「台湾」防衛のため、「米国」防衛のために、海外に派兵されして戦闘するとは考えていなかったでしょう。もちろん、戦闘が大好きで勇んで出動する自衛官もいるでしょう。
■これを拒否した自衛官は起訴され刑事裁判となる
しかし、「話しが違う」と考える自衛隊員もいると思います。自衛官が、「じゃあ自衛官を辞める」なんてことはできません。処罰の対象です。
そうなれば、「集団的自衛権を規定した自衛隊法や内閣総理大臣の防衛出動命令は、憲法9条に反し違憲違法である」として、命令を拒否する人もでるでしょう。
そうなれば、必然的に自衛隊法違反被告事件として、逮捕、起訴されます。そして、「集団的自衛権は憲法9条違反だから違憲無効だから、自分は無罪である」との自衛官の主張に対して、裁判所は憲法判断をすることになります。
■裁判所の憲法判断が出ることは不可避
内閣法制局の皆さま、この裁判で「集団的自衛権行使は合憲だとして勝訴できる」と思いますか。前内閣法制局長官から最高裁判事になった方が、就任の際に、憲法改正が必要だとコメントしていましたよね。
解釈改憲ですすめれば、大きな訴訟リスクを内閣も自衛隊も負うことになるわけです。
イラク自衛隊派遣の差止訴訟のような違憲訴訟が提起されるよりも、こちらのほうが内閣にとっては脅威のはずです。前者のような訴訟類型は、裁判所が出す可能性もなく(変わった裁判官しか出さないでしょう)、また違憲判断も理由中の判断にすぎず、法的効果がありません。政府とすれば無視すればすみます。しかし、刑事裁判となればそうはなりません。違憲なら、無罪ですから。そうなれば、多数の自衛官が集団的自衛権への参加を拒否することになる可能性があります。
下級審では一定の違憲判決が出される可能性が高いと思います。
ただし、日本の最高裁判所は、「高度な政治的判断が必要だ」として、統治行為論によって、憲法判断を回避する公算は高いと思われます。 そのため、自民党政府は、今後、このような考え方の最高裁判事をたくさん任命していくことでしょう。裁判官に対する締め付けも、再び厳しくなるのではないでしょうか。
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コメント
やりたい放題ですなあ、阿倍君一派は。
そして何年か経って失政だったとされた場合に誰の責任だったのか分からない形で。(賛成したやつらがみな、責任逃れをする。)先の大戦に至る流れとまったく同じですね。
投稿: P-tak | 2014年7月 4日 (金) 09時59分