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2014年5月21日 (水)

大飯原発差し止め判決 福井地裁

■大飯原発 差し止め判決

2014年5月21日、福井地裁の画期的な大飯原発差し止め判決です。

全文がこちらで読めます。

http://www.cnic.jp/5851

この福井地裁判決はシンプルな判断です。判決文38ページから裁判所の判断部分です。印象に残る判断部分は次のとおり。

■人格権が最高の価値

「生存を基礎とする人格権が公法、私法を問わず、すべての法分野において、最高の価値を持つとされている以上、本件訴訟においてもよって立つべき解釈上の指針である」

■「原子力発電所に求められるべき安全性」

「安全性、信頼性は極めて高度なものでなければならず、万一の場合にも放射性物質の危険から国民を守るべく万全の措置がとられなければならない」

「具体的危険性が万が一でもあれば、その差し止めが認められるのは当然である。」

そして、具体的危険性があるかどうかを判断していきます。

■「冷却機能の維持について」

「大飯原発には1260ガルを超える地震は来ないとの確実な科学的根拠に基づく想定は本来的に不可能である。」

「基準値振動の信頼性について」は、「全国で20箇所にも満たない原発のうち4つの原発に5回にわたり想定した地震動を超える地震が平成17年以後10年足らずの間に到来している」

「地震大国日本において、基準値振動を超える地震が大飯原発に到来しないというのは根拠のない楽観的見通しにしかすぎない上、基準値振動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得るというのであれば、そこでの危険は、万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険と評価できる。」

■「閉じ込めるという構想について(使用済み核燃料の危険性)」

「使用済み核燃料も原子炉格納容器の中の炉心部分と同様に外部からの不測の事態に対して堅固な施設によって防御を固められてからこそ初めて万全な措置をとられているということができる。」

「国民の安全が何よりも優先されるべきえあるとの見識に立つのではなく、深刻な事故はめったに起きないだろうという見通しのもとにかような対応が成り立っているといわざるをえない。」

■最後にもっとも印象的な判決文 「国富論」についての記述です。

「被告は本件原発の稼働が電力供給の安定性、コストの低減につながると主張するが、当裁判所は、極めて多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代の高い低いの問題等を並べて論じるような議論に加わったり、その議論の当否を判断すること自体、法的に許されないと考えている。」(人格権はあらゆる法分野で最高の価値を持つとして優先されるべきであるから)

「コストの問題に関連して国富の流出や喪失の議論があるが、たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民を根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている。」

 福井地裁の裁判長をはじめとした3人の裁判官に敬意を表したいと思います。

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2014年5月 9日 (金)

有期社員の差別是正を求める裁判提訴(労契法20条訴訟)

■労働契約法20条の施行

 2013年4月1日に施行された改正労働契約法20条は、有期を理由とした不合理な労働条件の格差を禁止しています。

(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
第20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

この規定を使って、二つの格差是正訴訟を提訴しました。

■東京メトロコマース訴訟

http://www.labornetjp.org/news/2014/0501metro/newsitem_view

東京メトロコマース㈱は、東京地下鉄㈱の子会社、駅構内の販売店等を経営し、従業員約840人(正社員と有期社員の合計)、営業収入約169億円の会社です。
原告4名は、メトロの駅販売店で販売を担当する有期社員です。有期1年の契約を更新して、約7年から約10年にわたり勤務してきました。
販売店では正社員と同様に配置されて、正社員と同様に働いています。
しかし、労働条件は次のような著しい格差があります。

               有期社員(時給制)   正社員(詳細不明)

基本給   1050円(月例約17万円)   約25万円

住宅手当 なし               9200円

賞 与  約24万円(年間)       約150万円(年間)

退職金  なし              約300万円(10年勤務)

5月1日、全国一般東京東部労働組合に所属する同社の有期社員の組合員4名が労働契約法20条を根拠に上記労働条件の格差は違法であるとして、損害賠償請求を提訴しました。
誰もがよく知っている 地下鉄駅構内の販売店です。販売店での有期社員と正社員の労働時間は同一ですし、仕事内容も同一です。昇進は配置転換も販売担当の正社員と異なるところはありません。
にもかかわらず、上記のような著しい格差があるのは、労働契約法20条に違反するものです。

また、東京東部労組は、東京メトロコマースとの団体交渉の場で、同社の正社員の給与規程や正社員の実際の賃金について明らかにするように要求したにもかかわらず、東京メトロコマースは、東部労組は正社員の組合員がいないので回答しませんでした。しかし、労働契約法20条で正社員との労働条件の不合理な格差を禁止しているのですから、有期社員の労働条件に密接に関わることで、会社が回答しないのは、明白な不当労働行為(不誠実な団体交渉)です。労働契約法20条がある以上、会社は団交での回答を拒むことはできなくなっています。

■日本郵便訴訟

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140508-00000107-mai-soci

日本郵便株式会社の従業員は全体で約39万人、正社員以外の有期社員は約19万人で49%を占めています。有期社員には、時給制契約社員(約18万人)、月給制契約社員(約1万人)、エキスパート社員(約1400人)がいます。

原告となった3名は、時給制契約社員です。職種は、郵便外務事務(郵便の集配業務)、郵便内務事務(郵便局内で窓口、郵便の仕分け業務等)です。

それぞれの時給は960円から1500円です。
有期社員と正社員は同じ仕事に業務をしています。郵便集配業務であれば、正社員と有期社員が同じ郵便局の同じ集配部に配属されて、同じ班で同じ勤務シフト制で勤務時間が決まり、労働時間・残業時間・休日労働も同様です。

にもかかわらず、労働条件が異なります。
最も明白な労働条件の格差は諸手当です。 例えば、年末年始の繁忙期、年賀状などの配達で郵便労働者は、正社員、有期社員の違いなく、年末年始の郵便業務に従事します。 正社員には、年末年始手当が1日4000円から5000円が支給されます。同じく年末年始に働く有期社員には、この手当が支払われません。

そのほか、住居手当や外務手当も正社員とは異なり支払われません。
賞与も夏冬それぞれ月例賃金の3割が支払われるだけです。正社員は年間合計賞与は月例賃金の約3ヶ月です。 夏季冬季休暇や病気休暇も正社員にはとれますが、有期社員にはありません。

5月8日、この格差是正を求めて、病気休暇を取得する地位、諸手当の支払いを求めて提訴しました。

原告の3名は、郵政産業労働者ユニオン(組合員約2500人)の組合員です。 この諸手当の格差も労働契約法20条に違反する不合理な格差であり、正社員と同様の諸手当の支払い求めての提訴です。
郵政産業労働者ユニオンは、大阪でも提訴の準備をしており、全国的な取り組みになるでしょう。

■格差是正の大きな労働運動を

民主党政権が、労働者の権利をまもるために制定した改正法です。これが、民主党の唯一の(?)成果です。

施行1年経過後、有期社員とそれを応援する労働組合が立ち上がって提訴しました。 この2社ような格差が多くの職場にあります。でも、個人だと是正を要求したら、雇止めされるのではないかと不安になり声を上げられません。そのような相談も多く受けました。

企業側からは、「有期社員の労働条件を改善するなら、正社員の労働条件を下げざるを得ない」とのおどしがあると思います。しかし、正社員労働組合が、この企業の脅しにひるめば、労働組合は一層弱体化し、結局、自分の権利も守れないことになるでしょう。

全国の労働組合に、有期社員の労働条件是正の取り組みを強めてもらいたい。

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2014年5月 6日 (火)

憲法9条の成立過程について

古関彰一教授は、著書の「新憲法の誕生」(中央公論社・1989年)と「『平和国家』日本の再検討」(岩波書店・2002年)の中で、日本国憲法制定過程を実証的に記述されています。特に、憲法9条の成立過程は公開記録等に基づき極めて実証的で説得的です。これに基づいて憲法9条制定過程をまとめてみました。
なお、「日本国憲法の誕生」(岩波現代文庫・2009年、「新憲法の誕生」改訂版)が必読です。

■日本国憲法制定のスタート

1945年(昭和20)年10月にマッカーサーが近衛文麿に自由主義的な憲法改正を示唆し、当時の幣原首相は、近衛に先行されないように、10月25日に憲法問題調査委員会(松本烝治委員長)を設置しました。ここから日本国憲法制定がスタートです(後記年表)。

早くも、12月28日に、民間研究者(高野岩三郎、鈴木安蔵等)による「憲法研究会」が民主的・自由主義的な「憲法草案要綱」を発表しました。GHQは同月30日には、この憲法草案要綱の英訳を作成しています。この憲法研究会の草案が後のGHQ憲法案に大きな影響を与えます。

■憲法9条の発案者

1946年1月24日、幣原首相がマッカーサー(M)と面談しました。そのとき、幣原が、戦争の放棄が理想であると語ると、Mがこれに強く賛意を示しました。 そして、Mは、次のように述べます。

極東委員会(FEC)では天皇にとって不利な情勢がある。しかし、日本が戦争放棄を世界に宣言すれば天皇制は存続できるであろう。

幣原首相が、友人である枢密院顧問官大平駒槌に語った内容を、大平の娘である羽室三千子が、上記の内容を記録しています(羽室メモ)。


■憲法問題調査委員会の松本私案がスクープされる

2月1日、秘密裏に検討されていた内閣の憲法問題調査委員会の「憲法改正試案」(「松本案」)が毎日新聞にスクープされた。この松本案は、大日本国憲法(明治憲法)に少し手を加えたものにすぎませんでした。憲法研究会の憲法草案とは大違いです。

■マッカーサー三原則

2月3日、Mは、憲法改正の次の3原則をGHQ民政局長ホイットニーに指示しました。

①天皇制の維持。天皇は職務及び権能は憲法に基づき行使される。

②国権の発動たる戦争は廃止する。

③日本の封建制度は廃止される。皇族を除いて貴族・華族は廃止。

2月4日、ホイットニーは、GHQ民政局行政部に憲法改正案を1週間で策定することを指示します。

これほどGHQが急いだのは、2月26日には極東委員会(FEA)が発足して、この極東委員会が動き始めれば、ソ連・中国・オランダ・オーストリアらの強硬派(天皇制廃止・天皇戦犯訴追)の圧力が強まる。そこで、それ以前にGHQの下で天皇制を維持する方向の憲法をつくっておきたかったのです。

■GHQの戦争放棄条項案

当初、GHQ民政局は、戦争の放棄を憲法前文に書くつもりであったが、途中でMの指示で本文に記載することになりました。

GHQ案
第1条(後に第8条となる)
 国権の発動たる戦争は、廃止する。
 いかなる国であれ他の国との紛争解決の手段としては、武力による威嚇または武力の行使は、永久に放棄する。
 陸軍、海軍、空軍その他の戦力を持つ権能は、将来も与えられることはなく、交戦権が国に与えられることもない。

■GHQ案の受け入れの閣議決定

日本政府は、2月8日、内閣の憲法問題調査委員会の「憲法改正要綱」(松本案)をGHQに提出しました。しかし、GHQは、これを無視して、2月13日、日本政府にGHQ案を手渡します。

2月21日、Mは、幣原首相と面談します。そして、Mは、戦争の放棄に不安を示す幣原首相を励まします。さらに、Mは、極東委員会は日本にとって極めて不快な問題を論じている。戦争放棄と象徴天皇制が要点である旨を述べます。

幣原首相は、翌22日、上記会談内容を報告して、GHQ案の受け入れを閣議決定しました。

要するに、天皇制を維持するためには、戦争放棄を呑むしかないとの判断です。この機会を逃すと、極東委員会が活動を開始して、天皇制廃止や天皇訴追に至りかねないと考えたからでしょう。この経過については、芦田均厚相(当時)のメモが残されています。

■日本案の作成

2月27日からGHQ案を日本側が日本語化する作業を開始しました。その日本語化作業は、憲法1条や憲法24条等々について、GHQと日本側との間で、色々なドラマというか、騙し合いというか、法戦というか、興味深いものがあります。9条についても紆余曲折をたどります。

■戦争放棄条項の紆余曲折

GHQの原案は次のとおりです。

GHQ案8条
 国権の発動たる戦争は、廃止する。いかなる国であれ他の国との紛争解決の手段としては、武力による威嚇または武力の行使は、永久に放棄する。
 陸軍、海軍、空軍その他の戦力を持つ権能は、将来も与えられることはなく、交戦権が国に与えられることもない。

これの日本案は次のとおりです。

日本案第9条
 戦争を国権の発動と認め武力の威嚇又は行使を他国との間の争議の解決の具とすることは永久に之を廃止す。
 陸海空軍その他の戦力の保持及び国の交戦権を之を認めず。

日本語案は3月2日に完成し、3月6日に幣原内閣が「憲法改正草案要綱」として発表しました。そして、4月10日に総選挙を経て、帝国議会での憲法改正を審議することになります。

■憲法制定議会の要求や総選挙の延期要求

3月14日、社会党や共産党、知識人が憲法制定には憲法制定議会を設けるべきとの声明を出していました。

他方、3月20日には、極東委員会(FEC)は、Mに対して、余りに早い憲法改正手続を憂慮して、総選挙を延期して憲法問題については慎重にすすめるようにと文書で要求しています。

ところが、Mは、極東委員会の総選挙延期要求を断固拒否すると回答しました。(もし、M のごり押しがなかったら、極東委員会が活発化して、天皇訴追、憲法制定議会の招集、天皇制廃止もあり得たかもしれません。)

■日本国憲法草案の発表

4月10日に総選挙の結果、幣原内閣は退陣して、吉田茂内閣に交代します。総選挙の後になって、日本国憲法草案が初めて全文が発表されました。

■帝国議会での「自衛権」論争

憲法9条について帝国議会での論争がなされました。次のような有名な自衛権論争があります。

●共産党の野坂参三衆議院議員
第9条は、我が国の自衛権を放棄して民族の独立を危うくする。侵略戦争のみを放棄する規定にすべきである。

吉田茂首相の答弁
第9条2項において、一切の軍備と国の交戦権を認めない結果、自衛権の発動としての戦争も、また交戦権も放棄したものであります。従来近年の戦争は多く自衛権の何において戦われたものであります。満州事変然り、大東亜戦争又然りあります。

現在はまったく真逆になっているのが皮肉です。

その後、9条はまさに内閣や内閣法制局によって「解釈改憲」されたのです。ちなみに、吉田首相の「完全非武装主義」の解釈は、一年前には鬼畜米英と言っていた保守派議員から理想的だとか素晴らしいとかで圧倒的賛成を得ているのも皮肉です。吉田首相の自衛権放棄論を聞いたうえで憲法に賛成しているのです。しかし、私個人としては野坂参三議員の意見が真っ当であると思います。

■芦田修正問題

帝国議会では、6月28日に憲法改正特別委員会(芦田均委員長)が設置されて、条文の審議が行われます。その結果、政府案は次の委員会案のように修正されます。

政府案
 国の主権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、他国との間の紛争の解決の手段としては、永久にこれを放棄する。
 陸海空軍その他の戦力は、これを保持してはならない。国の交戦権は、これを認めない。

委員会案
 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

「芦田修正」とは、委員会案の2項の「前項の目的を達するため」という条項を追加したことです。この修正の意図を、芦田氏は「国際紛争を解決する手段として」の場合にのみ戦力・交戦権を放棄したことを明示し、自衛のための戦争は放棄していないというのです。

■実は、芦田修正ではなく、「金森修正」という古関教授の指摘

しかし、古関教授は、この「芦田」修正は歴史的真実ではないと資料を駆使して論証されます。他方、この「修正」は「金森国務大臣」の意向だとされます。

特別委員会の憲法9条を審議する小委員会で、芦田の当初の「修正案」は次のようなものであったのです。

(芦田修正案)
① 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際紛争を誠実に希求し、陸海空軍その他の他の戦力はこれを保持せず、国の交戦権は、これを否認することを宣言する。
② 前項の目的を達するため、国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

この芦田の修正案は現在の9条の1項、2項を入れ替えたものです。これだと、第1項で一切の限定なく戦力不保持、交戦権を否認しており、絶対非武装を定めることになります。2項の「前項の目的を達するため」も国際紛争を解決する手段に限定するものにはなっていません。

これに異を唱えたのは、金森国務大臣だというのです。小委員会議事録には掲載されていないが、入江法制局長官の記録では金森は次のように述べたとされています。

将来国際連合との関係において第2項の戦力を保持しないということについてはいろいろ考え得べき点が残っているのではないか。

結局、芦田は金森の提案を受け入れました。芦田自身は、「前項の目的」とは、「国際平和を希求」ということを指すものでどちらでも構わないと述べたそうです。

そしえ、前記のとおり委員会案が決まり、GHQ案と異なり、9条第2項に「前項の目的を達するため」が挿入されました。

当時、この修正の重大さに気がついていたのは、佐藤達夫法制局次長でした。修正後、GHQにこの案を示したら反対されはしないかと一抹の懸念を抱いたというのです。これは同氏の「日本国憲法誕生記」(中公文庫137頁)でも書かれている。

司令部(GHQ)は、こういう条文があると、前項の目的云々を手がかりとして、自衛のための再軍備をするとの魂胆があっての修正ではないかと誤解しやしませんか、ということを芦田先生に耳打ちした

■GHQも極東委員会(FEC)も修正の意味は気がついていた

このことに気がついたのは、内閣法制局の官僚だけではなかったのです。GHQのケーディス(民政局)は、占領終了後にインタビューを受けて次のように答えている。

修正によって、自衛権が認められることを知っていた。日本は、国連の平和維持軍の参加を将来考えているのだろうと推測した。

さらに極東委員会(FEC)の中華民国代表S・H・タンは次のように指摘していた。

この修正によって、9条1項で特定された目的以外の目的で陸海空軍の保持を実質的に許すという解釈を認めていることを指摘したい。・・・日本が、自衛という口実で軍隊を持つ可能性がある。

■「文民条項」を復活させた極東委員会

オーストラリア代表のプリムソルは、「文民条項」(大臣は軍人であってはならないと禁止する条項)の必要性を次のように強く訴えました。

将来必ず日本は軍隊を保持する。その際、日本の伝統で現役武官が陸海軍大臣に就くことになる。その際の歯止めとして文民条項は必ず定めるべき。

その結果、極東委員会がGHQに文民条項(現憲法66条2項)がの勧告によって挿入されたのです。いったん削除されていた文民条項が、極東委員会の勧告で復活したことになります。日本に被害をあった中国やオーストラリアは、日本を信用していなかったために、この条項を用いて、必ず日本が自衛のための軍隊を設けることを正しく見通していたわけです。

■憲法9条の意義

上記のとおり、憲法9条の制定過程を見ると、現憲法下でも、自衛のための戦力を保有すること自体は論理解釈としては成り立ちます。

もちろん、吉田首相が帝国議会で述べたとおり、完全非武装で、自衛戦争も放棄したと解釈することも論理的に可能です。

しかし、自衛のための戦力さえ完全に放棄する「非武装主義」は非現実的でしょう。野坂参三議員が指摘するとおり民族の独立を危うくするものだと思います。

そして、現時点においては、結局、国民の多くは、「専守防衛」という範囲で自衛隊を容認しているということでしょう。この法意識を無視することはできない。

ただし、現実の「自衛隊」が「専守防衛」の範囲内にあるかどうかは別問題です。
おまけに、「集団的自衛権」容認に踏み出すとなると、もはや「自衛権」の範疇を超えてしまいます。「集団的自衛権」は、他国の「防衛」のために戦力を行使する概念ですから。この点は、長くなったので踏み込まないようにします。

■「押しつけ憲法」論

上記の経過を見れば、圧倒的に占領軍(GHQ)の圧倒的影響下で、日本国憲法が制定されたのは事実です。そこで、「押しつけ憲法」という非難の声があがります。でも、現憲法には憲法研究会の民間憲法草案やワイマール憲法なども大きな影響を与えています。

他方、大日本帝国憲法は、伊藤博文が「ドイツ帝国憲法」を「猿まね」して、ごく一部の政治家・官僚が秘密裏に作成して、国民(=臣民)に押しつけた欽定憲法です。

当時、自由民権運動の中、民主的・自由主義的な「私擬憲法」がたくさんありました。有名なのは五日市憲法です。これらは一切、参考とされませんでした。

その意味では、国民にとって、迷惑な「押し付け憲法」は大日本帝国憲法の方でしょう。
今や押しつけかどうかが問題ではなく、その憲法の内容が妥当かどうかこそが問題なのだと思います。
戦後70年近く国民に支持されてきた現憲法に、今さら「押しつけ」との非難はもはや意味を持たないでしょう。

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2014年5月 2日 (金)

日本の労働時間-未だに長時間労働社会 日本

■労働時間規制撤廃と残業代ゼロ
産業競争力会議で長谷川氏は、またぞろ「労働時間規制の緩和、残業代ゼロ」の提言です。労働弁護団はこれに警鐘を鳴らしています。詳細は下記を参照下さい。

■日本の労働時間は何時間か-1800時間の嘘

ところで、労働時間の規制緩和を提言する政府は、日本の労働時間が1800時間を切って1700時間台になった喧伝しています。年間1800時間というと、「週40時間、残業無し、完全週休2日、年次有給休暇完全取得」という働き方です。日本の実態は全く異なるでしょう。特に正社員を中心にして長時間労働は変わっていません。1800時間はパート労働者を含めた平均労働時間であり、正社員の労働時間の実態を示していません。

■毎月勤労統計調査 サービス残業の集計なし

厚労省の労働経済白書では「月間労働時間」を発表しています。これを12倍すれば年間労働時間となります。厚労省「毎月勤労統計調査」に基づくものです。注意しなければならないのは、これは厚労省が事業者に問い合わせて回答された労働時間の統計ですから、サービス残業はカウントされていません。

【毎月勤労統計調査による年間労働時間】
年    総労働時間 一般労働者 パート
2010年  1754.4       2008.8      1095.6
2011年  1747.2       2006.4      1089.6
2012年   1765.2       2030.4      1105.2

■労働力調査が実態に近い
これと別に、総務省統計局の「労働力調査」では、全国で約4万世帯の約10万人に聞き取りをして、平均週間就業時間を発表しています。これは、月末1週間の労働時間を調査員が直接聞き取るものです。1年が52.14週ですから、大ざっぱに52倍すると年間労働時間となります。

【労働力調査による年間労働時間】
年      男女計   男    女
2010年   2106    2345   1778
2011年   2096    2340   1763
2012年   2096    2340   1768

上記は細かくみれば正確ではないのですが、大ざっぱな労働時間の実態を示している思います。詳細は、森岡孝二教授の「企業中心社会の時間構造」(青木書店・1995年)に解説されています。
■正社員の労働時間は年間2300時間を超えている

要するに、男性(正社員と非正規社員)は平均して年間2300時間を超えて働いています。正社員は、これ以上に働いているでしょう。
ですから、無限定正社員という批判が当てはまるのです。しかし、法的には、「無限定に長時間働かされる正社員」というのは違法にほかなりません。
今でも日本で求められているのは、特に正社員の「労働時間の短縮」(残業の禁止)であり、労働時間規制の撤廃や残業代ゼロではけっしてありません。
正社員の「時間短縮」を図ることで、「ワーク・ライフ・バランス」や「女性の活躍」(男女平等)、「少子化対策」に絶対必要な前提です。産業競争力会議の長谷川氏の案は、これに逆行するものです。


(追記)

森岡孝二教授の上記著書は、2013年8月に岩波現代文庫で新著になっていました。アマゾンで知って購入して、ブログ書いたあとに読みました。勉強不足でした。

「過労死は何を告発しているか」 現代日本の企業と労働

毎月勤労統計調査と労働力調査の調査方法の比較は、同書第二章に詳述されています。毎月勤労統計調査は、賃金台帳をもとにして労働時間が算出されており、事業者の回答は未払い残業は含まれていません。

労働力調査は、就業者ひとり一人に面談調査をして算出したものであり、サービス残業も含まれており、サービス残業も含めて実労働時間を反映している。

上記著書で、森岡教授は、日本の特徴として、労働時間の二極化が進んでいることを指摘されています。長時間労働者と短時間労働者が、砂時計の形のように二極化しているとのことです。その意味では、平均労働時間は余り意味は無い。

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