解雇規制緩和 再論
■ジュリストの「解雇規制緩和」特集
ジュリスト2014年4月号で特集が組まれて、私も論述しています。
http://www.yuhikaku.co.jp/jurist/detail/019075
【特集】厳しい? 厳しくない?解雇規制
◇解雇規制・規制改革の問題点――雇用安定の原則を崩すことがもたらす影響●水口洋介……39
この原稿を書く中で、あらためて「解雇法制を考える-法学と経済学の視点」(大竹文雄・大内伸也・山川隆一編/勁草書房2002年第1版)を読みなおしました。特に、民法学者である内田貴教授の「雇用をめぐる法と政策-解雇法制の正当性」との論文があらためて面白いとおもいました。
■解雇規制緩和論者曰く
厳しい解雇規制があるので、企業は容易に労働者を解雇できないことから、正社員の採用を抑制する。よって失業率が上がり、正社員雇用比率が下がる。
規制で守られる企業内の労働者(大企業正社員)と、守られない企業外の労働者(非正規労働者や中小企業労働者)との間に利害対立が生じており、厳格な解雇規制は中小企業労働者の犠牲の下に、大企業の労働組合の利益を擁護するもの。
つまり、日本の企業別に組織された労働市場においては、「厳格な解雇規制」は、既に雇用された正社員の雇用を保障するが、他方、景気が上向いても正社員の採用は抑制され、労働条件が低く雇用が不安定な非正規社員を増加させるだけとなり、成熟産業から成長産業への労働力の移動も円滑に進まず、日本経済の成長をも阻害する。
この論者に対して、日本国憲法の「生存権」や「労働権」を根拠として反論してきたのが伝統的な労働法学です。
内田貴教授は、そのような観点からではない批判を展開しています。
■内田貴教授の「切り口」
厳格な解雇規制が企業の採用行動に影響を与えて、正社員雇用を抑制し、その結果、失業率が上昇し、非正社員が増加しているということは、経済学的モデルのなかではそのように言えるかもしれないが、現実がモデル通りであるかどうかの確証はないのである。
中小企業においては、現実には解雇は相当に自由に行われており、むしろ、日本の雇用法制の問題点は、解雇権濫用法理が労働者を保護しすぎている点にではなく、強力な労働組合をもたない中小企業においては同法理による保護がおよんでいないという不平等にある、とも言われている。
企業が正規従業員の採用を躊躇しているから、非正規従業員が増加している、と言うわけである。しかし、日本では非正規従業員の給与は、同じ仕事内容の正規従業員より低い。企業が非正規従業員を雇用する理由は、解雇の容易さとともにこの人件費の節約という理由も大きいと思われる。そうである限り、仮に正規従業員の解雇を自由にしても、企業はなお非正規従業員の雇用を続けるだろう。
■内田教授の指摘を読んで
解雇規制を緩和すれば、雇用量が増加するとか、非正規労働者が減少するということは何ら実証されておらず 、机上の市場経済モデルの想定でしかないのでしょう。
現実社会では、解雇規制を緩和しても、成長産業に労働力が移動するとは限らず、成熟(衰退)産業の被解雇者が増えて失業者が増加するだけかもしれません。そうではないとする確証はありません。
また、非正規労働者が増えるのは人件費が安いからであり、解雇規制を緩和しても、企業は正社員を減らして非正規労働者に置き換えるだけかもしれません。これを否定する確証もない。
経済学者の多くは、日本には現時点で存在もしない非現実的な諸条件(例えば、外部労働市場が十分に整備されているとか、転職しても不利益を被らない制度があるなど都合の良い諸条件)を前提として、希望的観測を述べているにすぎないのでしょう 。
現実社会での解雇は、労働者とその家族に対して、時として回復不能なダメージを与えます。それは子供の進学断念等の悪影響をもたらし、家庭を破壊し、長期失業など社会的な損失が増加します。
失業というマクロ的な現象は、解雇法制という制度よりも、景気の好不況や為替の変動など経済の大状況によって左右されるものでしょう。
解雇される労働者を犠牲にして、社会実験のような解雇規制緩和策を実施すべきでとは思えません。
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