日中の「衝突」は回避できるか-中国強硬派のインタビューを読んで
■「中国や北朝鮮は何するか、わからない」
先日、家庭裁判所の控え室にいたところ、調停待ちの時間に70歳すぎくらい上品そうな御婦人たちが「中国や北朝鮮は何するかわからなくて怖いですわね。」「なんとかして欲しいわ。やっぱりアメリカさんに頼るしかないわよ。」って話していました。
■安倍内閣の高い支持率
靖国参拝や従軍慰安婦をめぐる中韓や欧米との対立、集団的自衛権容認の解釈改憲が問題になっていますが、第2次安倍内閣の支持率は高い。
国民がアベノミクスに期待している結果ですが、中国の経済的軍事的な急成長と尖閣諸島の領有権対立に多くの日本人が不安を感じていることも影響していることは間違いない。
集団的自衛権についての各世論調査も調査結果は別れており、結局のところ「分からない」というのが多数派のようです。
この「分からない」派を、集団的自衛権の賛成派・反対派どちらが説得できるか、で世論の帰趨が決まるのでしょう。
■清華大学の当代国際関係研究院院長のインタビューを読むと
中国強硬派登場です。4月11日付け朝日新聞朝刊で、中国の清華大学当代国際関係研究院の閻学通院長のインタビューが掲載されていました。この人物は習近平指導部と非常に近い関係にあるそうです。
http://www.asahi.com/news/intro/TKY201212110762.html
(掲載期間終了でネットでは全文が読めなくなっています)
この閻学通院長は、中国と他国との外交関係を4つに区分します。1番目は味方(北朝鮮)、2番目は友好国(ロシア)、3番目は友好国じゃないが対立もしない(米国)。4番目が対立関係。4番目は「日本だ。」と言ってます。外交としては乱暴な物言いです。あたかも日本を仮想敵国と名指ししたも同然です。
周恩来以来の「政治指導者と一般国民を別けて考える」との方針はもはや放棄されたかのようです。
また「今後、太平洋に中国の海軍が自由に出て行くことは大国として当然の権利だし、日本もそれを認めなければならない」との趣旨の発言もしていました。
まさに「中華民族」の隆盛を追求する「傲慢」を絵に描いた人物です。「覇権主義」とか「大国主義」の批判がぴったり当てはまる中国共産党強硬派です。
■ジョセフ・ナイ「集団的自衛権をナショナリズムのパッケージで包むな」
何週間か前に朝日新聞に、ジョセフ・ナイ教授のインタビュー記事が掲載されていました。米国民主党のブレーンであるジョセフ・ナイ教授は「安倍内閣の集団的自衛権容認の政策は正しいが、それをナショナリズムのパッケージで包むことは誤っている」と言っていました。
米国は、日中が現実に尖閣諸島で武力衝突を起こしかねず、これを回避したいと考えており、安倍内閣には武力衝突も辞さないタカ派がいるとマジで心配、しているようです。
米国は日本に集団的自衛権を認めさせたいが、自らのコントロールからはずれて、日本が勝手に中国と武力衝突に突入することはやめさせたい。その危険な芽が、安倍総理の仲間たちの「歴史修正主義」と「ナショナリズム」にあると考えているのでしょう。安倍首相が覚醒させた日本のナショナリズムに米国も危惧を抱いているのです。
■中国との衝突をいかに回避するか
他方、上記の閻学通院長のような強硬派が中国共産党の主流派だとしたら、極めて危険ですね。中国共産党も強硬派で一枚岩になっていないことを希望しますが。この中華ナショナリズムが噴出すると、中国自身もコントロールできなくなるかもしれません。強硬派が尖閣諸島の占領しかねない。
このような事態を「絵空事だ」として無視することは、今やできません。
こんな深刻な対立が武力衝突までに至るのを回避するために、何が必要なのでしょうか。
安倍内閣は、次のように国民に訴えています。特に自民党石破茂幹事長は明確に述べています。
「集団的自衛権を認めて米国と双務的で強固な軍事同盟関係を構築すれば、中国に対する抑止力になる。そうすれば、中国は尖閣諸島に手を出せなくなる。」
■護憲派の対策は?
これに護憲派も対応することが求められています。
「中国は危険でない。」とか、「尖閣諸島なんかに中国は攻めてこない。」とか、「自衛隊は憲法違反だから、尖閣諸島に中国軍が上陸しても自衛隊は動くべきではなく外交で解決すべき。」などと言っていただけでは、多数派の国民からは支持されないと思います。
護憲派としての包括的で合理的、かつ防衛方針(自衛隊の活用)も備えた説得的な対案がないと、結局、集団的自衛権を、(解釈改憲であろうと、明文改憲であろうと、)国民が容認してしまうのではないかと危惧します。
で、素人なりに考えてみました。
○尖閣諸島については、先制的武力行使をしない、現状変更をしないと相互に約束しようと中国に提案する。
○政府間で不測の衝突回避のためのホットラインを設ける。
○ただし、これに反して中国が不正に侵襲した場合には自衛隊が対応することを明確にする。
○その上で、国際司法裁判所にゆだねると双方とも敗訴したら失うものが大きい。そのリスクを回避するために、双方領有権主張を棚上げして、漁業や資源での平等開発協定を結ぼう、水面下で、と呼びかける。
○日本は、アジアへの侵略戦争の責任を認めた上で、中国の大国主義と軍事的膨張主義を他のアジア諸国と連携して正面から批判する。
こんな考えは素人の非現実的夢想でしょうかね。
安倍首相が、武力衝突回避の現実的な方策を専門家を用いて検討させようとしないのは、この機に乗じて、集団的自衛権を国民に容認させ、ひいては改憲したいと思っているからなんでしょう。
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コメント
「米国は日本に集団的自衛権を認めさせたいが、自らのコントロールからはずれて、日本が勝手に中国と武力衝突に突入することはやめさせたい。その危険な芽が、安倍総理の仲間たちの「歴史修正主義」と「ナショナリズム」にあると考えているのでしょう。安倍首相が覚醒させた日本のナショナリズムに米国も危惧を抱いているのです。」
その通りだと思います。逆に、アベシらは、敗戦経験、平和憲法、その中で培われてきた国民の平和指向の現状の中で集団的自衛権行使を実現するには、ナショナリズムを煽るしかないと考えているのだと思います。
この矛盾は深刻であり、解消することはできないだろうと思います。
平和の方向で解消するには、国民の平和指向を維持するために努力すること、地雷、クラスター爆弾を禁止した世界の平和指向を伸張させること、その方向で日本政府が動くことが最も現実的で実現可能だということを示すことではないでしょうか?
貴兄の「素人なり」の考察、これしかない、これ以外にない、最も現実的なものだ、という方向で補強して下さい。
孫崎享氏などに裏付けてもらいたいですね。
投稿: 青島明生 | 2014年4月20日 (日) 20時05分
こんにちは! 当方、中国で20年あまりになります。
全面的に貴殿の提案に賛成です。
マスコミ等は現状のみを報じますが、背景をキチンと理解出来ないと、中国に対する嫌悪感のみが増えていきます。
そもそも、中国の不満は<三国人発言>でも有名な
アジア差別主義者の、石原元都知事が進めた「都の尖閣諸島購入」から始まります。
<日本>
尖閣諸島は1895年以降は日本のものだ。
<中国>
いや、中国としても日本と中国の中間線近くに有り、資源が眠る以上、主権を主張せざるを
得ない。 ただし棚上げして、将来解決しましょう。
(1972年9月27日の周恩来元首相の発言として、毎日新聞にありました)
<中国側からの解説>
1895年は日清戦争終結の年であり、また中国は清の時代です。
「皇帝陛下、万歳、万歳、万々歳!!」と時代劇な様な事をやっている国に
対して近代法をそのまま当てはめるのは少々、難があると思います。
もっと言えば、沖縄だとしても1871年前の琉球処分前は、元・琉球王国です。
日中双方に朝貢した琉球王朝の王様の苗字は「尚」です。 中国の100大苗字の一つで、鈴木、佐藤
ほどではなくても、普通にみられる苗字です。
もちろん、第二次世界大戦の流れから言って沖縄本島等は日本人として守る必要があると思いますが、尖閣諸島は微妙になってきます。 方言でも東北にいけば行くほどなんとなく、変わっていきます。 線を引いて、ここから先は東北弁を話す人間、とはなりません。 国境を無理に設定するのは大変な作業ではないのでしょうか?
ただし、中国とは言ってもあくまで「台湾省」の一部で有って、台湾を実行支配していない、北京がゴチャゴチャ言うのはおかしな話です。
「石原~野田の問題」
国有化の前に、じっくりと排他的経済水域を含め、どの様に尖閣諸島を扱うのか、
中国、台湾とコミュニケーションを取る事が無かったのが主要な原因では無いでしょうか。
一言 「日本古来の領土だ。 中国との間に領土問題は存在しない」となると
中国側としても、「おいおい」となるのは当然ではないですかね。
特に石原は中国にケンカを吹っかけているとしか思えませんね。
「安倍首相の問題」
安倍首相も今回の首相再登板当初は「会話の扉は常に開かれている」とは言ってらっしゃいましたが、
具体的に外交次官や、なんたら副大臣を派遣したりして水面下で努力をしてはいませんでしたし、
2013年12月の靖国神社参拝で本音は鮮明になっていると思います。
中国の危機を煽って、色々と日本を自分の思う通りに動かしたい、というところは明瞭ですね。
「解決策は無いのか」
中国人のノーベル賞作家「莫言」(モーエン)氏は 「魚の天国にするべきだ」 (人間は関わらない)
もしくは、共同管理、共同開発、日中台友好のシンボルとして若者の共同生活野外キャンプとするのが
良いのではないでしょうか。 政治家はそれが出来ます。 やらないのは、日本の政治家に
「中国と仲良くする気なぞ、無い」からです。
アジアの国々と外交関係の復活をさせた田中角栄首相や吉田茂首相には、そういった国際社会との協調、
の一本通った信念が有ったと思います。
それでは!
投稿: 香港の怪人 | 2014年4月21日 (月) 23時43分
>>日本は、アジアへの侵略戦争の責任を認めた上で、中国の大国主義と軍事的膨張主義を他のアジア諸国と連携して正面から批判する。
この部分だけは、非現実的な夢想ではないと感じる。
これをやってこなかった「リベラル」は、多くの国民に憎悪されているのが現状。さらに「リベラル」が「破綻した社会システム」を守る「守旧派」であるという点が絶望的。
つぎの衆院選で「リベラル」勢力が過半数取れなかったら、日本は儒教的で国家主義的かつ権威主義的な国になってしまうだろう。
いったい、どうすればいいでしょう。
投稿: とおりすがりSR | 2014年4月22日 (火) 04時05分
○尖閣諸島については、先制的武力行使をしない、現状変更をしないと相互に約束しようと中国に提案する。
○政府間で不測の衝突回避のためのホットラインを設ける。
○、双方領有権主張を棚上げして、漁業や資源での平等開発協定を結ぼう、水面下で、と呼びかける。
○日本は、アジアへの侵略戦争の責任を認めた上で、中国の大国主義と軍事的膨張主義を他のアジア諸国と連携して正面から批判する。
上記について、ナイス、と思いました。
中国との関係を考える上で、いま話題になっている「永続敗戦論」はいいテキストだと思います。
中国に関するマスコミ報道は一方的で、上記のテキストなどを参考にすると、貴提案は、バランス的にもよく、妥当な印象です。
私自身は、これ以上日本のアメリカ属領化が進むと、危険領域に入るという危惧感を持っています。
TPPも含めた搾取もさらに進むでしょうし。
中国からすれば、日本は世界一米軍基地が多い上に、オスプレイ配置さえアメリカのいいなりで、そういった日本に信頼感や尊敬心を持てというのが無理な相談ではないかという印象です。
永続敗戦論がいうように、日本の立て直しとそれによるアジアとの関係構築が、アメリカの属領化による危険水域からの脱却のために、必要と感じます。
投稿: 小田博子 | 2014年5月31日 (土) 08時59分