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2013年12月 8日 (日)

シンポ「ワークルール教育を考える」@日本労働弁護団

12月7日、日本労働弁護団の「ワークルール教育を考える」シンポが開催されました。

◆パネリスト
  道幸哲也(NPO「職場の権利ネットワーク」代表理事)
  上西充子(法政大学キャリアデザイン学部教授)
  今野晴貴(NPO「POSSE」代表理事)
◆コーディネーター
  嶋﨑量(弁護士、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長)

■道幸哲也教授のお話

ワークルール教育は「権利実現」の仕組みを伝えること。

権利実現の仕組みとは次の5つ。

(1) 法に関する知識・情報
(2) 権利意識
(3) 権利行使を支援する仕組み 同僚、労組、労働NPO、法テラス
(4) 実現する機構・手続 労働局、労働委員会、労働審判、裁判
(5) 権利を規定する実定法 労基法

このうち伝えることが一番難しいのは(2)[権利意識]と(3)[権利行使を支援する仕組み]ということです。

色々難しいことがあるが、一つは教育する学校(高校)側のニーズと合わないし、生徒も興味を持っていないということです。

学校(高校)側のニーズとは、進路指導の一貫だから「正社員になるようにすすめる」ということであって、権利教育を基本とするワークルールとはギャップがある。学校は権利教育には関心がなく、勤労意欲を高める一貫としてのワークルール、つまり伝統的な勤労観を育む教育が求められる。

また、生徒にとっては、だいたい「労働」というとダサイ、クライくて関心がない。どう興味を持たせるかをネーミングも考えて、ワークルール検定を考えてみた。マスコミも注目し、多数の人が受験してくれている。

■上西充子教授のお話

法政大学キャリアデザイン学部の上西教授の「キャリア教育」としてのワークルール教育について私は初めて聞くので大変に興味深かった。

厚労省の「今後の労働法関係制度をめぐる教育の在り方に関する研究会報告書」(2009年2月27日)や内閣府の「若者雇用戦略」(2013年6月12日)にも関与されたそうです。

キャリア教育の一環としてのワークルール教育では、使用者の側の「働かせ方」を問題にせず、「若者の勤労観」を育成することが主眼に置かれているとのこと。

”世の中の実態の厳しさ”を子どもたちに学ばせることも重要である。
”世の中のの実態や厳しさ”を子どもたちに実感を伴う形で理解させた上で、これらを乗り越えていくために必要な知識や意欲・態度を培っていくことが必要である。(文科省・キャリア教育における外部人材活用等に関する調査研究協力者会議)

2013年の内閣府「若者雇用戦略」も当初は、上記文科省的発想だけであったが、やっとこさ、次の一文が入ったそうです。

若者の正規雇用の割合が大幅に増えており、正規雇用の場合も、長時間労働等、職場環境が厳しく早期離職する場合も少なくない等、適切なキャリアを積むことが難しくなっていることから、若者の育ちを支援することとあわせて、若者が働き続けられる職場環境を実現し、また、非正規雇用の労働者のキャリア・アップを支援していくことも重要である。

上西教授は、大学でのワークルール教育について、世の中のことを何も知らない学生らに、今のアルバイト経験をお互いに語って考えさせているということです。アルバイトでも給与明細も支払われず、本当に時給どおり払われているのか分からない職場もあれば、1分単位で時給が支払われて残業代も払われている職場もある、などの話をするだけで、学生は考え始めるとのことです。

でも多くの学生は、アルバイト先の正社員を見ていて、過酷な労働条件が当たり前で、正社員になるためにはやむを得ないと思ってる者が圧倒的に多い。

まあ、私も大学で労働法を学んだときには、試験科目として学んで自分の就職後に役立てようとは、これっぽっちも考えませんでした(…法律家志望だから当たり前か)。

■今野晴貴さんのお話

相変わらず分かりやすい話です。

今野さんは、日本型雇用関係を前提とした企業と、今や、若者を使い捨てる企業と二種類あることを認識すること、生徒や学生に教えることの重要性を強調されてしました。

ブラック企業は「10人の正社員が必要であれば30人を採用する会社。そして、プレッシャーを与えて、駄目な奴は切り捨てて10人残れば良いというビジネス・モデルを採用する企業。」

旧来型正社員を前提とした会社は、「10人正社員が必要なら10人を採用」して育てようとする企業だ。

この旧来型企業に勤務する管理職や正社員から見れば、「近頃の若者は、我慢が足りない」というふうにしか見えない。そこで、キャリア教育は、厳しい現実を理解し、それを克服する能力と意欲を身につけさせるということになる。

しかし、企業の実態が変わってきており、若者を切り捨てる企業が増えている。

今野さんのブラック企業関係の読者は、40代や50代の男性が圧倒的に多いのだそうです。彼らは自分の娘や息子のために、今野さんの本を読んでいる。そこでのブラックな働かせ方に驚愕する人も多いそうです。

だから実態を知れば教師も生徒も保護者も、ワークールール教育が必要だということを理解するはずだ。

NPO法人に相談にくる若者の圧倒的多数は権利行使ができない人。相談は、「せめて失業保険をもらいた」いという圧倒的多数だそうです。解雇された、あるいは無理矢理辞めさせられたのに、「自己都合退職で失業保険ももらえない。明日からの生活を何とかしたい」という相談がたくさん寄せられるそうです。

会社に抗議し、労働組合に入ったり、労基署や労働局に相談したり、弁護士に相談する人は、そういう人たちは少数派で「特殊な若者」だそうです。ここで「特殊」というのは、そういうことを許す(特殊な)家庭に育ったか、周りに偶々強力に支援してくれる人がいる方だそうです。そういう若者は、得てして「クレイマー」的人物と見られる。

それが分かっているから、「そうは見られたくない」、あるいは「そんなブラック企業にしか入れなかった自分が悪い」と考える「優しい若者」が多い。

■神奈川県の高校教員

県立高校の若手の教員の方もパネリストで参加されていました。20代の若い教員と話してみると、若い教員は「ワークルール教育って、平和教育よりも、やりにくいよね。管理者に睨まれそう。」と感想を言われたそうです。権利教育というようなことは、当然のことながら管理者は歓迎しない。今時の教員は労働組合組織率は激減をしており、中高年世代の労働者としての要求には、若い教師はどん引きな雰囲気なんだそうです(「公務員の教員に就職できたから良かった。」「勝ち組?って雰囲気もあるので、労働者って自分の身近なことじゃない」?)。

そもそも職場は多忙、でワークルールなんて難しい新しいことをするなんて大変という雰囲気があるとのことでした。

ワークルールなら管理者も受け入れやすいのでは。

■権利教育で浮いてしまったら??

議論になった一つは、「やれ労基法違反だとか、やれ労働者の権利だ、とか、若者が権利行使してしまったら、使用者は当然に不利益扱いや報復してくるのは目に見えているので、どう工夫するか?」ということです。

確かに下手に労働法の権利を教えて、労働法的権利教育をして社会に放置することは、「裸でオオカミの前に子どもを放り出すようなもの」です。

となると、困ったことがあれば、個人で即断・即決行動を起こさないで、相談先に相談しようと言うしかないですね。

■「団結」の重要性を教えるにはどうしたら良いか??

ワークルール教育は個人だけに、いくらお勉強として教育してもだめです。

労働ですから、集団性があります。では、ワークルール教育で「労働者の団結」を伝えることができるでしょうか。法律知識としての団結権の話はお勉強として伝えられます。でもその規範意識や団結意識、連帯意識を教えることは難しい。

会場から、元高校教師の方から、「解雇されて、争議でたたかっている労働者の話を聞かせた」という発言もありました。

私個人の印象では、今の高校生や大学生に、バリバリの労組活動家の争議体験の話しを聞かせても、生徒や学生に引かれるだけで、必ずしも良い結果にならないのではないか、と懸念します。

今の社会や職場には、「団結」や「連帯」ができない環境ができあがっています。そもそも学校教育や家庭の子どもの育て方がそうです。色々な意味で、働く人は、「孤立化」しています。だから、職場ではパワハラや虐めやメンタル不全が多発するのでしょう。

「団結」や「連帯」の意識は、もはや「学校教育」の範疇を超えてしまう課題なのかもしれません。

■「法教育」の一環としての「ワークルール教育」

弁護士会は「裁判員教育」や「消費者教育」をテーマにして学校や地域の社会人教育に積極的に関与しています(「法教育」)。この法教育として「ワークルール教育」を取り入れる方法が一番実践的でしょう。既に札幌などで実践されているようです。そのためには生徒や学生に興味を持ってもらう教材が必要です。弁護士の場合にはここから一歩ですね。

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