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2013年11月 4日 (月)

読書日記「日本で働くのは本当にそんなのか-日本型キャリア VS 欧米型キャリア」海老原嗣生著 PHPビジネス新書

2013年11月1日 第1刷発行
2013年11月4日 読了

■名著です!

日本人が常識と思っている日本型キャリアと欧米型キャリアの根本的相違を、簡潔に判りやすく解説した名著ですね。濱口桂一郎さんが、メンバーシップ型とジョブ型と分けた説明したものを、日本の雇用の現場に即して、とても分かりやすく解説しています。

労働法規制緩和、解雇規制緩和など新自由主義の経営者や労働経済学者が、空理空論を振り回して議論を混乱させています。

しかし、この書物は、現代日本の雇用・働き方をどの方向に進めるのが良いか、腰を落ち着けて、社会の実態を見据えて、検討しているものです。非常に読みやすい本なので、是非、一読されることをお勧めします。

■日本型雇用の根本公理

1)給与は「仕事」(職務)ではなく、「人」で決まる。

2)正社員は誰もが幹部候補生として扱われて、原則出世していく。

曰く、欧米は、給与は、「職務」で決まる。自動車の組立工であれば、企業内でも同じ仕事をしていれば給与は一緒。勤続年数が増えても同じ仕事をしている以上、給与が上がらないが当然。出世もしない。別会社で自動車組立工もみんな同じ給与。これは無期雇用労働者であろうと、有期雇用の労働者であろうと変わりは無い(つまり、「同一労働同一賃金の原則」ということ)。

他方、日本では、自動車組立工であっても、若い頃に一括採用された正社員であれば、勤続年数に従って同じ仕事をしても、給与は少しずつだが上がる。高卒でも班長や係長くらい、運が良ければ課長にも出世できるかもしれない。同じ仕事をしていても勤続年数が長ければ給与が高いのは当たり前。真面目に仕事をしているのに給与が上がらないのはおかしい。企業によって給料が異なるのは当たり前。

■例えば、同一(価値)労働同一賃金の原則

<「同一労働同一賃金の原則」が欧米のように確立していない日本は遅れている>と声高に非難する人たちがいます。私もそう思います。が、欧米の法理論をそのまま持ち込むことは無理があるのです。今までの男女賃金差別訴訟も、ここが最大の問題であり、未だ乗りこえることができていない。日本型の上記の根本定理とぶつかるからです。

実態を無視した法解釈や立法構想をしてみても、日本型雇用を一挙に変更することはできない。ここが悩みです。

■欧米の「エリート労働者」と「ノン・エリート労働者」

著者が的確にまとめるとおり、欧米型は、ノン・エリートの労働者は、一生ひらで給料も上がらない代わりに、残業も配転もなく、ワークライフバランスを確保されて同一労働同一賃金の下で暮らしていく。このようなノン・エリート労働者が圧倒的多数。だからこそ、女性も子どもを育てながら働き続けられるし、男も出世など考えていないから憂いなく育児休業をとれる。他方、手に職を持たない未熟練な若者はなかなか就職できない(フランスなんか若者の失業率は20%を超える)。

欧米型キャリアのエリート労働者は、大学でMBA等をとった専門家であり、彼らは日本の大企業のエリート正社員と同様に長時間労働と競争をしている。そのかわりにノン・エリートに比べれば、日本以上に(数倍の)高い給与をもらえる。高給取りだから、ベビー・シッター(外国人移民の女性、これをテーマにした映画は多いですよ。)を雇って子どもも育ててもらえるから、女性でも男性と同様にばりばり働ける。

これが欧米型です。日本型と全く異なることは言うまでもありません。

■日本型と欧米型のベストバランス

この著者は、「日本型も欧米型も一長一短がある」との濱口桂一郎さんの発言を至言と紹介します。

日本はだめ、アメリカ型が正しい、などと一刀両断的に切り捨てることなど決してできません。それぞれに、一長一短がある。どこかの国の仕組みを礼賛して、それを直輸入すべき、と論じるよりも、自国の「長」を見極め、また「短」もよく知り、「長」を殺さず、いかに「短」を補うかを考えるべきでしょう

これも至言ですね。この言葉は、経営側にも労働側にあてはまりますよね。同感です。

著者は、ノン・エリート労働者(ジョブ型労働者)には欧米型のルールを適用(同一労働同一賃金・ワークライフバランス)し、日本のエリート労働者には「属人的に能力が高い人間」を選抜して「日本型雇用」(メンバーシップ型)をミックスさせようということなのでしょう。


とはいえ、実際の政治過程や労使関係は、これほど理性的ではない。なにしろ、とにかく自分がもうかるにはどうするかしか考えない連中と、政治的な得点をあげるにはどうしたら良いかしか考えない連中がいるわけです。

■熊沢誠さんの立論

この著者の提言を読んで、熊沢誠教授の提言を思いだしました。熊沢誠さんは、ノンエリート社員の労働組合運動を昔から提唱されています。その前提としての企業分析を次のように展開されました(「労働組合運動とは何か」岩波書店2013年)。

Aa  特定企業に定着して管理者に昇進する層 多くはホワイトカラー正社員
Ab 特定企業に定借しているが職種・職場は変わらず出世しないノン・エリート正社員
これに対応する労組形態 企業別労働組合

B 熟練職・専門職 医師、看護師、教師、デザイナー、技術者、万能熟練工
これに対応する労組形態 職種別労働組合

C 産業や企業に定着できない不熟練労働者
これに対応する労組形態 一般労働組合、地域ユニオン等

ジョブ型社員やメンバーシップ社員は、熊沢教授のAaタイプと、Abタイプの仕分けなんでしょう。ただ、ここまで冷徹な分析は、労働組合が受け入れるでしょうか。

■日本的平等主義と日本的能力主義の曖昧な結合

エリート社員とノン・エリート社員を区別すること自体は、日本人にとってタブーかもしれません。これは政治的合意をはかるには大きな障害になるでしょうね。

本音では分かっているけれど、はっきり言わないという「あいまい」を良しとする、「日本的心性」に反してしまいます。

日本では戦前には、「職員」と「工員」との間には厳然とした「区別」(差別)があり、食堂も会社の入口も異なった。


それが戦後の混乱、占領軍「民主化」政策と労働運動により、職員と工員の差別は相当程度是正された。


「職員」に適用された雇用安定と年功的賃金処遇が、「工員」にも適用され、それなりに出世も可能となった。この日本的労使関係は、戦後の激しい労働争議の上で経営側と労組側の階級的妥協の産物でもあります。


「会社に協力して働けば、それなりに賃金も上昇し出世もできる。だから激しい階級的労働運動は労働者にとってソンです。わかっているから悪いようにしないから。」という暗黙の了解ですね。これが日本的心性にぴったりなんだ。

■蛇足

福島第1原発事故被災地では、もう30年たっても戻れない場所があることは当初から明白だけど、被災者の感情・気持ちを忖度して誰も言わないし言えない。しかも、それを前提とした政策も立案しない・できない。

こういう「日本的心性」を克服することは難しいですね。

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