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2013年11月 3日 (日)

読書日記「女たちのサバイバル作戦」上野千鶴子著 文春新書

2013年9月20日第1刷
2013年11月2日読了

■ジェンダーと労働

上野千鶴子氏の著者は斜め読みだが、たくさん読んだ。

最初30年くらい前に、河合塾ブックレットで「マザコン男子の逆襲」とか何とかという書物だった。内容は忘れてしまったが、「何だか攻撃的で男性嫌悪症的で怖いなあ」と感じたのを覚えています。

その後25年くらい前、上野氏の「家父長制と資本制-マルクス主義フェミニズムの地平」って本を読んで「なるほど」と感銘を受けた。「不払家事労働の搾取」を行う男性支配の物質的基礎を明らかにした書物で大変に面白かった。女性に対する支配は家事労働の搾取であると指摘した点は慧眼だと思った。

■ネオリベとフェミニズム

この最新刊の書では、「ネオリベ」(日本のこの40年はネオリベの歴史だそうです)は、日本の女性にとってトクだったかソンだったのか? 

上野氏の答えは「イエス アンド ノー」です。この書物全体を読めば、「ノー」でも良さそうなのですが、でも「ノー」ではない点が、今の上野氏の悩みを表しています。

上野氏によれば、日本型雇用慣行は、男性(オジサン)支配のアンシャンレジームそのものであり、労働組合も労使協調路線で男性支配の片棒を担いできた。

確かにそのとおりです。

だから、年功序列や長時間労働など滅私奉公的な働き方を強制する「日本型雇慣行」を崩して、個人の能力・実績主義を貫徹させ、能力ある女性が企業社会の中で活躍できる場を提供する考え方が「ネオリベ」でした。上野氏は本書で次のように述べます。

牢固として動かないように見えた家父長制の岩盤をうがつような働きを、一見ネオリベは果たしたように思えます。

ところが、です。

これまでの男性中心社会のしくみを掘り崩す変化の契機に、たしかにフェミニズムは期待を抱きました。ですが、それは裏切られる結果になりました。

ネオリベ派は、女に男並みの競争に投げこまれるか、それとも使い捨ての労働力になることを甘んじるかをを迫りました。

その結果、日本では女性全体では男性との間の格差が縮まらない一方、一部少数とはいえエリート女性(勝ち組女性)が男性と肩を並べる職種につき昔から見ればすばらしい成果を発揮しています。こうなると、「高い能力を有して努力すれば女性でも活躍できる。活躍できない女性は、努力が不十分で能力がないだけ」ということになります。これでは社会の女性差別構造が見えにくくなってしまいました。

上野氏は次のような自問自答をします。

フェミニズムはなぜ有効な闘いが組めなかったのか?

わたしには、ネオリベ改革がもたらした女の分断、つながる必要があるのに連帯できない女性の状況が原因と思えてしかたがありません。フェミニズムを聞いたことも見たこともない若い女性たちは、自分たちの力を、他の女とつながるためにではなく、他の女を出しぬくために使っていると思えてならないのです。

結構、悲観的な見解です。

なぜフェミニズムが有効な闘いが組めなかったのか。また、ジェンダーに対するバックラッシュに対して、なぜ有効な反撃ができなかったのか?

私の印象としては、フェミニズムは攻撃的で「敵」を作るのはうまいのですが、味方をつくるのは下手です(「味方じゃない奴は敵」というのが戦略)。

また、上野氏の理論は(小倉知加子氏と違って)「高学歴エリート女性」目線でのお話しで、高卒や短大卒で世の中に働きに出る若い女性の共感を得られるようなものでないのでしょう。

今の20代の若い女性にフェミニズムのことを聞くと、大学でフェミニズムを説く女性学者について、「言っていることは正論かもしれないが、家族を持たず、お一人様の最後を覚悟しているようで、見ていてイタイ。」んだそうです。もっと言えば、「ああはなりなくない。」と思うそうです。

■で、フェミニズムのサバイバル方法は

国家レベルでは「同一労働同一賃金」と「配偶者控除廃止・第三号被保険者制度の見直し」、企業レベルでは「日本型雇用慣行の廃止」だそうです。

とはいえ、これでは「目の前の就活や出産には間に合ってくれそうもありません」ということで、回答は、「ひとりダイバーシティ」こと「百姓ライフ」の実現なんだそうです。

実践的にいうならば、ひとりの個人やひとつの組織に自分の運命を預けない、収入源はシングルインカムよりも、ダブルインカム

なんだそうです。・・・・?

結婚しても専業主婦にならず共稼ぎをして働きましょうという趣旨なのでしょう。しかし、これが何で「サバイバル」なんでしょうか。

フェミニズムのサバイバルとしては、「百姓ライフ」って、「羊頭狗肉」のように思えます。制度・政策的にはフェミニズムは有効だが、個人のサバイバルとしては余り役に立たないということでしょうか。

もちろん、「女性も労働運動に積極的に参加して男性中心労働運動を変えよう」という選択肢も提示されません。まあ、そんなことは時間の無駄で、女性が企業の中で生き残るためには労働運動なんか個人的にはマイナスでしかない、男性中心社会の片棒の労働運動には未来がないというサバイバルのための現実的判断があるのでしょうか。

■男女平等の実現の最低条件とは

労働時間の短縮(せめて1日最長8時間・残業禁止)が必要不可欠です。そうでなければ男女とも家事育児をする条件がない。

長時間残業をしない働き方が男女とも保障されなければなりません。つまり、「ワーク・ライフ・バランス」

これで仕事が回らないのであれば、企業が採用する労働者を増やすしかない。つまり「ワーク・シェアリング」。

■とはいえ

もっとも、日本では1日8時間働いて「早く家に帰れ」と言われたからといってウチに帰りたくなるか? という根本問題があります。

男であろうと女であろうと、(主観的であっても)やりがいのある仕事をしていれば、社内での評価を高めたい(=出世したい)という価値観をもっていると、毎日早く家に帰るより、会社の中で仲間とバリバリ仕事をしているほうがずっと楽しいでしょう。

だから、男も出世の道を降りて、ほどほどに家庭や地域の生活を楽しむノン・エリートの道が保障されない限り、男女差別は是正されないかもしれません。

ヨーロッパでは労働者は出世なんか望まない(出世を希望する奴らは”仲間”じゃない、”奴”らの手下だ)から、早く帰って家事もやり、フットボールチームの応援にも行けるんでしょうね。

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