もう旧聞に属するかもしれないが、韓国が安重根の石碑を中国のハルピンに設置することを要請したことに対して、11月19日、菅義偉官房長官が「安重根は犯罪者である」と会見した。
当時の日本政府から見れば、総理大臣でもあった伊藤博文(初代韓国統監)を暗殺したのだから、犯罪者でしょう。
しかし、他方、韓国側から見れば、大日本帝国からの独立を目指す民族独立運動の英雄でしょう。
また、明治時代の右翼は、安重根を義士と認めたし、朝鮮総督府の刑務官らも安重根の思いには敬意を払ったというのは有名な話です。当時の日本には、まだ「武士」の気風が残っていたのでしょう。
結局、評価はどの立場から見るかということです。
明治政府の朝鮮半島への侵略政策を批判的に見る立場からすれば、安重根は『救国の志士』です。
伊藤博文も、若き日、倒幕、尊王攘夷を唱えて、幕府側の人間を暗殺し、英国公使館焼き討ちしました。幕府や英国から見れば、間違いなく犯罪者であり、テロリストです。
でも倒幕尊王攘夷派から見れば「勤王の志士」です。
他人には、他人の都合がある。他国となれば他国の都合があり、いちいち目くじらをたてないというのが「大人の見識」というものです。
もちろん、朴大統領が暗殺事件の舞台であるハルピン駅に石碑を建設することを中国政府に要請したのは、中国との協調をはかるための外交的な布石ということでしょうし、韓国国内での支持を取り付けるための反日パフォーマンスという側面があることも事実でしょう。
でも、これに対して、菅官房長官のように、安重根を犯罪者呼ばわりするのは、大人げないだけでなく、愚策というべきでしょう。朴大統領の対日姿勢には韓国国内にも米国も批判的な声が広がっている言われています。そんな中、菅官房長官の発言は、韓国の世論全体を敵に回すだけでしょう。政治家として見識がない。
日本政府の官房長官としては、少なくとも私心なく命をかけて祖国(韓国)の独立を目指した人間であったことを認めて、それなりの敬意を表すべき時期に来ていると思います。それが大人の見識です。
なお、暗殺犯に敬意など表明できるかと怒る人もいるでしょう。
しかし、東京大空襲を命じて、非戦闘員を10万人を殺したカーチス・ルメイという米軍少将は、戦後、日本政府から勲一等旭日綬章を与えられています。こんな戦争犯罪人に勲章を与えておきながら、大日本帝国に単身たたかいを挑んだ安重根を犯罪者呼ばわりするなんて、私には理解しがたい。
カーチス・ルメイや原爆を落としたとルーマン大統領らこそ、犯罪者でしょうに。カーチスに勲章を授与するくらいなら、安重根に敬意を表するができないわけがないでしょう。
(追伸)
ところで、菅官房長官が安重根の記念碑に抗議する談話には吹き出してしまいました。
菅官房長官は、靖国神社閣僚参拝への中国政府や韓国政府の抗議に対して、戦争犠牲者への慰霊に外国が干渉するなと反発しています。
なのに、安重根を記念する石碑を中国・韓国が建設するのには抗議をするのですね。
こういう人は自らの矛盾に悩まないのでしょうね。矛盾とも思わないのかもしれません。
この手の問題は、右左関係なく、いろいろな場面でおこりますね。
文部省の教科書検定を憲法違反としながら、「新しい日本」の教科書を検定で合格するなとか教科書として採択するなと、両方の運動をする人とか。
昔はアメリカの核兵器には反対するが、ソ連や中国の核兵器や核実験には反対しないという人もいました。
ちなみに、私が内閣総理大臣や閣僚が靖国神社に公人として参拝するのに反対するのは、中国や韓国が反対しているからではなく、憲法の政教分離の原則に違反するからです。中国や韓国やその他の国が賛成しても、憲法上は許されないことです。
先の大戦で死亡した軍人や兵士を悼むなら、宗教的に中立で、すべての宗教や宗派、無宗教の人々もお参りできるような国立施設をつくれば良い。靖国神社はあくまで私的な宗教施設として、靖国大好きな人が維持すれば良いだけです。
論理的には単純なのですが、そうはいかないのが人間社会なんですが。
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