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2013年11月29日 (金)

福島原発の下請労働者が東電の団交拒否 救済申し立て

毎日新聞


昨日、発注元東電、元請東京エネシス、1次下請エイブルほかを団交拒否で東京都労働委員会に不当労働行為救済命令申立をしました。

上位下請の担当者らが現場で下請労働者を直接指揮監督していました。2次下請らは、苦情をいった下請労働者を解雇するように末端の直接雇用者(5次下請)に指示をしていま
す。

派遣ユニオンは、発注者東電に偽装請負や危険手当ピンハネを防止する対策をとるように要求して団交申入れましたが、東電、元請らは雇用関係がないとして団交拒否。

東電は発注者であり、使用者というのは、法律的にはハードルが高いのですが、東電でなければ根本的対策をとれません。

東電の広瀬社長は、11月8日、危険手当を1万円から2万円に増額すると述べました。しかし、実際には、多重下請・偽装請負の労務管理を改善しなければ、中間搾取・ピンハネされるだけです。

東電は、発注者ですから、なかなか法的には団交応諾義務を認めさせるのは高いハードルがあります。



しかし、偽装請負防止や危険手当の下請労働者への支払いをさせるよう発注段階で契約条件を付するなどの防止策は今でも可能。これに違反した元請や下請を契約違反で排除すれば良いのですから。それだけで大幅に改善できるはずです。このような対策をとるように東電も元請らも交渉のテーブルにつくべきでしょう。
ちょっと長いですが、申立にあたっての声明は次のとおり。

声  明

福島第1原発下請労働者の不当労働行為救済命令申立にあたって

 

1(東京都労働委員会への不当労働行為救済命令の申立)

 本日、福島第1原発の事故収束作業に従事した原発労働者が、発注者である東京電力、元請である東京エネシス、1次下請エイブル、2次下請テイクワン、3次下請鈴志工業を被申立人として、派遣ユニオンがなした団体交渉申入れを拒否したことは、不当労働行為に該当するとして、東京都労働委員会に不当労働行為救済命令申立を行った。

2(事案の概要)

 本件は、2013610日、労働者Aが、RH工業に期間1年、日当1万3千円で、福島第1原発の事故収束作業に従事するとして雇用された後、偽装請負形態で福島第1原発にて、東京エネシス、エイブル等の指揮の下で高線量作業に従事させられた。Aが、高線量の作業であると聞いてないとしてエイブル等に抗議をしたところ、619日、鈴志工業から、「上からAを現場に来させるなと指示された」として解雇すると通告され、翌620日、RH工業から解雇された。Aは、派遣ユニオンに加入し、解雇や偽装請負の是正、中間搾取分の支払い、安全確保、偽装請負・中間搾取の再発防止を求めて、元請・下請業者だけでなく東京電力に対しても団体交渉を申し入れた。

 直接雇用者であるRH工業は、団体交渉申入に応じて、解雇問題については和解解決をしたが、他の東京電力、元請、下請事業者らは、Aとは雇用関係が存在しないとして団体交渉を拒否をした。

3(元請・下請事業者の責任)

 元請・下請事業者らは、Aの基本的な労働条件について決定する直接的な支配を及ぼしており、本件では、人員配置、現場での作業指示等を直接行っている。また、エイブル、鈴志工業は高線量作業に抗議をした労働者を解雇するようにとの指示もしたものであり、団体交渉に応じる義務がある。

4(発注者である東京電力の責任と要求事項)

 福島第1原発では、多数の下請労働者が偽装請負や多重派遣にて原発事故収束作業に従事しており、その労働条件は劣悪であり、安全衛生対策も極めて不十分である。

 東京電力の広瀬直己社長は、さる118日、「福島第1原子力発電所の緊急安全対策」を発表するに当たって、作業員の日当の割り増し分(危険手当)を1日当たり1万円から2万円に増額するとし、「増額した危険手当が正しく下まで届くよう徹底してもらいたい」と述べた。 ところが、高線量作業による危険手当1万円は、実際には、多重下請構造の結果、下請事業者に中間搾取をされて末端の下請労働者には支払われていないのが実情である。

 通常、建築工事などの発注者は、多重下請構造の下での下請労働者に対して団体交渉に応じる地位にないとされている。しかし、福島第1原発の事故収束作業の場合には、事故収束作業全体を発注し、管理しているのは東京電力にほかならない。下請労働者の劣悪な労働条件を解消するためには、東京電力が労働環境を整備する責任をもった具体的措置を講ずることが必要不可欠である。

 具体的には、東京電力が、元請に発注する際にあたって、下請労働者に日当とは別に危険手当を1万円を支給すること、多重下請を禁止し、少なくとも1次下請が直接雇用することなどを発注の契約条件とすれば、現状を大幅に改善できる。

 派遣ユニオンは、このような具体策について、下請労働者の労働組合と団体交渉にて話し合うことを東京電力に求めるものである。

5(団体交渉のテーブルにつくこと)

 原発に従事する下請労働者は、多重下請構造の下におかれ、偽装請負など不安定な雇用にさらされている。劣悪な労働環境や労働条件にクレームを述べれば、本件のように解雇され職場から排除される。全国から集められる原発労働者が労働組合に加入することも極めて困難な状況にある。このような中、本件のように労働者が労働組合に加入して声をあげることは極めて貴重な問題提起である。

 東京電力及び福島第1原発の事故収束工事を請け負う元請・下請事業者は、今後も続く福島第1原発の事故収束作業に従事する労働者の労働条件維持のために団体交渉のテーブルにつくように強く要請するものである。

                                          20131128

                 派遣ユニオン

                 日本労働弁護団原発労働PT

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2013年11月24日 (日)

大人の見識 安重根をめぐる日韓の応酬について

もう旧聞に属するかもしれないが、韓国が安重根の石碑を中国のハルピンに設置することを要請したことに対して、11月19日、菅義偉官房長官が「安重根は犯罪者である」と会見した。
当時の日本政府から見れば、総理大臣でもあった伊藤博文(初代韓国統監)を暗殺したのだから、犯罪者でしょう。


しかし、他方、韓国側から見れば、大日本帝国からの独立を目指す民族独立運動の英雄でしょう。


また、明治時代の右翼は、安重根を義士と認めたし、朝鮮総督府の刑務官らも安重根の思いには敬意を払ったというのは有名な話です。当時の日本には、まだ「武士」の気風が残っていたのでしょう。


結局、評価はどの立場から見るかということです。
明治政府の朝鮮半島への侵略政策を批判的に見る立場からすれば、安重根は『救国の志士』です。
伊藤博文も、若き日、倒幕、尊王攘夷を唱えて、幕府側の人間を暗殺し、英国公使館焼き討ちしました。幕府や英国から見れば、間違いなく犯罪者であり、テロリストです。
でも倒幕尊王攘夷派から見れば「勤王の志士」です。
他人には、他人の都合がある。他国となれば他国の都合があり、いちいち目くじらをたてないというのが「大人の見識」というものです。


もちろん、朴大統領が暗殺事件の舞台であるハルピン駅に石碑を建設することを中国政府に要請したのは、中国との協調をはかるための外交的な布石ということでしょうし、韓国国内での支持を取り付けるための反日パフォーマンスという側面があることも事実でしょう。


でも、これに対して、菅官房長官のように、安重根を犯罪者呼ばわりするのは、大人げないだけでなく、愚策というべきでしょう。朴大統領の対日姿勢には韓国国内にも米国も批判的な声が広がっている言われています。そんな中、菅官房長官の発言は、韓国の世論全体を敵に回すだけでしょう。政治家として見識がない。
日本政府の官房長官としては、少なくとも私心なく命をかけて祖国(韓国)の独立を目指した人間であったことを認めて、それなりの敬意を表すべき時期に来ていると思います。それが大人の見識です。
なお、暗殺犯に敬意など表明できるかと怒る人もいるでしょう。


しかし、東京大空襲を命じて、非戦闘員を10万人を殺したカーチス・ルメイという米軍少将は、戦後、日本政府から勲一等旭日綬章を与えられています。こんな戦争犯罪人に勲章を与えておきながら、大日本帝国に単身たたかいを挑んだ安重根を犯罪者呼ばわりするなんて、私には理解しがたい。


カーチス・ルメイや原爆を落としたとルーマン大統領らこそ、犯罪者でしょうに。カーチスに勲章を授与するくらいなら、安重根に敬意を表するができないわけがないでしょう。


(追伸)
ところで、菅官房長官が安重根の記念碑に抗議する談話には吹き出してしまいました。


菅官房長官は、靖国神社閣僚参拝への中国政府や韓国政府の抗議に対して、戦争犠牲者への慰霊に外国が干渉するなと反発しています。


なのに、安重根を記念する石碑を中国・韓国が建設するのには抗議をするのですね。

こういう人は自らの矛盾に悩まないのでしょうね。矛盾とも思わないのかもしれません。


この手の問題は、右左関係なく、いろいろな場面でおこりますね。


文部省の教科書検定を憲法違反としながら、「新しい日本」の教科書を検定で合格するなとか教科書として採択するなと、両方の運動をする人とか。


昔はアメリカの核兵器には反対するが、ソ連や中国の核兵器や核実験には反対しないという人もいました。


ちなみに、私が内閣総理大臣や閣僚が靖国神社に公人として参拝するのに反対するのは、中国や韓国が反対しているからではなく、憲法の政教分離の原則に違反するからです。中国や韓国やその他の国が賛成しても、憲法上は許されないことです。

先の大戦で死亡した軍人や兵士を悼むなら、宗教的に中立で、すべての宗教や宗派、無宗教の人々もお参りできるような国立施設をつくれば良い。靖国神社はあくまで私的な宗教施設として、靖国大好きな人が維持すれば良いだけです。

論理的には単純なのですが、そうはいかないのが人間社会なんですが。

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2013年11月21日 (木)

ワークルール教育を考える~ワークルール教育推進法制定に向けて~

労働弁護団が、ワークルール教育についてのシンポジウムを開催します。
ワークルール教育推進法の制定を目指しての運動をスタートさせる意気込みです。
消費者教育推進法制定の運動を参考にして、是非、実現させたい。
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「ワークルール教育を考える~ワークルール教育推進法制定に向けて~」
日時:12月7日(土)PM6:30~

場所:連合会館203号室 (JR御茶ノ水駅徒歩5分、東京メトロ丸の内線淡路町駅徒歩2分)
参加費:無料
パネリスト
道幸哲也 (NPO「職場の権利教育ネットワーク」代表理事)
上西充子(法政大学キャリアデザイン学部教授)
今野晴貴 (NPO「POSSE」代表理事)
加藤はる香 (神奈川県高等学校教職員組合執行委員)
コーディネーター
嶋﨑量(弁護士、ブラック企業被害対 策弁護団副事務局長)
★チラシ

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2013年11月 4日 (月)

読書日記「日本で働くのは本当にそんなのか-日本型キャリア VS 欧米型キャリア」海老原嗣生著 PHPビジネス新書

2013年11月1日 第1刷発行
2013年11月4日 読了

■名著です!

日本人が常識と思っている日本型キャリアと欧米型キャリアの根本的相違を、簡潔に判りやすく解説した名著ですね。濱口桂一郎さんが、メンバーシップ型とジョブ型と分けた説明したものを、日本の雇用の現場に即して、とても分かりやすく解説しています。

労働法規制緩和、解雇規制緩和など新自由主義の経営者や労働経済学者が、空理空論を振り回して議論を混乱させています。

しかし、この書物は、現代日本の雇用・働き方をどの方向に進めるのが良いか、腰を落ち着けて、社会の実態を見据えて、検討しているものです。非常に読みやすい本なので、是非、一読されることをお勧めします。

■日本型雇用の根本公理

1)給与は「仕事」(職務)ではなく、「人」で決まる。

2)正社員は誰もが幹部候補生として扱われて、原則出世していく。

曰く、欧米は、給与は、「職務」で決まる。自動車の組立工であれば、企業内でも同じ仕事をしていれば給与は一緒。勤続年数が増えても同じ仕事をしている以上、給与が上がらないが当然。出世もしない。別会社で自動車組立工もみんな同じ給与。これは無期雇用労働者であろうと、有期雇用の労働者であろうと変わりは無い(つまり、「同一労働同一賃金の原則」ということ)。

他方、日本では、自動車組立工であっても、若い頃に一括採用された正社員であれば、勤続年数に従って同じ仕事をしても、給与は少しずつだが上がる。高卒でも班長や係長くらい、運が良ければ課長にも出世できるかもしれない。同じ仕事をしていても勤続年数が長ければ給与が高いのは当たり前。真面目に仕事をしているのに給与が上がらないのはおかしい。企業によって給料が異なるのは当たり前。

■例えば、同一(価値)労働同一賃金の原則

<「同一労働同一賃金の原則」が欧米のように確立していない日本は遅れている>と声高に非難する人たちがいます。私もそう思います。が、欧米の法理論をそのまま持ち込むことは無理があるのです。今までの男女賃金差別訴訟も、ここが最大の問題であり、未だ乗りこえることができていない。日本型の上記の根本定理とぶつかるからです。

実態を無視した法解釈や立法構想をしてみても、日本型雇用を一挙に変更することはできない。ここが悩みです。

■欧米の「エリート労働者」と「ノン・エリート労働者」

著者が的確にまとめるとおり、欧米型は、ノン・エリートの労働者は、一生ひらで給料も上がらない代わりに、残業も配転もなく、ワークライフバランスを確保されて同一労働同一賃金の下で暮らしていく。このようなノン・エリート労働者が圧倒的多数。だからこそ、女性も子どもを育てながら働き続けられるし、男も出世など考えていないから憂いなく育児休業をとれる。他方、手に職を持たない未熟練な若者はなかなか就職できない(フランスなんか若者の失業率は20%を超える)。

欧米型キャリアのエリート労働者は、大学でMBA等をとった専門家であり、彼らは日本の大企業のエリート正社員と同様に長時間労働と競争をしている。そのかわりにノン・エリートに比べれば、日本以上に(数倍の)高い給与をもらえる。高給取りだから、ベビー・シッター(外国人移民の女性、これをテーマにした映画は多いですよ。)を雇って子どもも育ててもらえるから、女性でも男性と同様にばりばり働ける。

これが欧米型です。日本型と全く異なることは言うまでもありません。

■日本型と欧米型のベストバランス

この著者は、「日本型も欧米型も一長一短がある」との濱口桂一郎さんの発言を至言と紹介します。

日本はだめ、アメリカ型が正しい、などと一刀両断的に切り捨てることなど決してできません。それぞれに、一長一短がある。どこかの国の仕組みを礼賛して、それを直輸入すべき、と論じるよりも、自国の「長」を見極め、また「短」もよく知り、「長」を殺さず、いかに「短」を補うかを考えるべきでしょう

これも至言ですね。この言葉は、経営側にも労働側にあてはまりますよね。同感です。

著者は、ノン・エリート労働者(ジョブ型労働者)には欧米型のルールを適用(同一労働同一賃金・ワークライフバランス)し、日本のエリート労働者には「属人的に能力が高い人間」を選抜して「日本型雇用」(メンバーシップ型)をミックスさせようということなのでしょう。


とはいえ、実際の政治過程や労使関係は、これほど理性的ではない。なにしろ、とにかく自分がもうかるにはどうするかしか考えない連中と、政治的な得点をあげるにはどうしたら良いかしか考えない連中がいるわけです。

■熊沢誠さんの立論

この著者の提言を読んで、熊沢誠教授の提言を思いだしました。熊沢誠さんは、ノンエリート社員の労働組合運動を昔から提唱されています。その前提としての企業分析を次のように展開されました(「労働組合運動とは何か」岩波書店2013年)。

Aa  特定企業に定着して管理者に昇進する層 多くはホワイトカラー正社員
Ab 特定企業に定借しているが職種・職場は変わらず出世しないノン・エリート正社員
これに対応する労組形態 企業別労働組合

B 熟練職・専門職 医師、看護師、教師、デザイナー、技術者、万能熟練工
これに対応する労組形態 職種別労働組合

C 産業や企業に定着できない不熟練労働者
これに対応する労組形態 一般労働組合、地域ユニオン等

ジョブ型社員やメンバーシップ社員は、熊沢教授のAaタイプと、Abタイプの仕分けなんでしょう。ただ、ここまで冷徹な分析は、労働組合が受け入れるでしょうか。

■日本的平等主義と日本的能力主義の曖昧な結合

エリート社員とノン・エリート社員を区別すること自体は、日本人にとってタブーかもしれません。これは政治的合意をはかるには大きな障害になるでしょうね。

本音では分かっているけれど、はっきり言わないという「あいまい」を良しとする、「日本的心性」に反してしまいます。

日本では戦前には、「職員」と「工員」との間には厳然とした「区別」(差別)があり、食堂も会社の入口も異なった。


それが戦後の混乱、占領軍「民主化」政策と労働運動により、職員と工員の差別は相当程度是正された。


「職員」に適用された雇用安定と年功的賃金処遇が、「工員」にも適用され、それなりに出世も可能となった。この日本的労使関係は、戦後の激しい労働争議の上で経営側と労組側の階級的妥協の産物でもあります。


「会社に協力して働けば、それなりに賃金も上昇し出世もできる。だから激しい階級的労働運動は労働者にとってソンです。わかっているから悪いようにしないから。」という暗黙の了解ですね。これが日本的心性にぴったりなんだ。

■蛇足

福島第1原発事故被災地では、もう30年たっても戻れない場所があることは当初から明白だけど、被災者の感情・気持ちを忖度して誰も言わないし言えない。しかも、それを前提とした政策も立案しない・できない。

こういう「日本的心性」を克服することは難しいですね。

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2013年11月 3日 (日)

読書日記「女たちのサバイバル作戦」上野千鶴子著 文春新書

2013年9月20日第1刷
2013年11月2日読了

■ジェンダーと労働

上野千鶴子氏の著者は斜め読みだが、たくさん読んだ。

最初30年くらい前に、河合塾ブックレットで「マザコン男子の逆襲」とか何とかという書物だった。内容は忘れてしまったが、「何だか攻撃的で男性嫌悪症的で怖いなあ」と感じたのを覚えています。

その後25年くらい前、上野氏の「家父長制と資本制-マルクス主義フェミニズムの地平」って本を読んで「なるほど」と感銘を受けた。「不払家事労働の搾取」を行う男性支配の物質的基礎を明らかにした書物で大変に面白かった。女性に対する支配は家事労働の搾取であると指摘した点は慧眼だと思った。

■ネオリベとフェミニズム

この最新刊の書では、「ネオリベ」(日本のこの40年はネオリベの歴史だそうです)は、日本の女性にとってトクだったかソンだったのか? 

上野氏の答えは「イエス アンド ノー」です。この書物全体を読めば、「ノー」でも良さそうなのですが、でも「ノー」ではない点が、今の上野氏の悩みを表しています。

上野氏によれば、日本型雇用慣行は、男性(オジサン)支配のアンシャンレジームそのものであり、労働組合も労使協調路線で男性支配の片棒を担いできた。

確かにそのとおりです。

だから、年功序列や長時間労働など滅私奉公的な働き方を強制する「日本型雇慣行」を崩して、個人の能力・実績主義を貫徹させ、能力ある女性が企業社会の中で活躍できる場を提供する考え方が「ネオリベ」でした。上野氏は本書で次のように述べます。

牢固として動かないように見えた家父長制の岩盤をうがつような働きを、一見ネオリベは果たしたように思えます。

ところが、です。

これまでの男性中心社会のしくみを掘り崩す変化の契機に、たしかにフェミニズムは期待を抱きました。ですが、それは裏切られる結果になりました。

ネオリベ派は、女に男並みの競争に投げこまれるか、それとも使い捨ての労働力になることを甘んじるかをを迫りました。

その結果、日本では女性全体では男性との間の格差が縮まらない一方、一部少数とはいえエリート女性(勝ち組女性)が男性と肩を並べる職種につき昔から見ればすばらしい成果を発揮しています。こうなると、「高い能力を有して努力すれば女性でも活躍できる。活躍できない女性は、努力が不十分で能力がないだけ」ということになります。これでは社会の女性差別構造が見えにくくなってしまいました。

上野氏は次のような自問自答をします。

フェミニズムはなぜ有効な闘いが組めなかったのか?

わたしには、ネオリベ改革がもたらした女の分断、つながる必要があるのに連帯できない女性の状況が原因と思えてしかたがありません。フェミニズムを聞いたことも見たこともない若い女性たちは、自分たちの力を、他の女とつながるためにではなく、他の女を出しぬくために使っていると思えてならないのです。

結構、悲観的な見解です。

なぜフェミニズムが有効な闘いが組めなかったのか。また、ジェンダーに対するバックラッシュに対して、なぜ有効な反撃ができなかったのか?

私の印象としては、フェミニズムは攻撃的で「敵」を作るのはうまいのですが、味方をつくるのは下手です(「味方じゃない奴は敵」というのが戦略)。

また、上野氏の理論は(小倉知加子氏と違って)「高学歴エリート女性」目線でのお話しで、高卒や短大卒で世の中に働きに出る若い女性の共感を得られるようなものでないのでしょう。

今の20代の若い女性にフェミニズムのことを聞くと、大学でフェミニズムを説く女性学者について、「言っていることは正論かもしれないが、家族を持たず、お一人様の最後を覚悟しているようで、見ていてイタイ。」んだそうです。もっと言えば、「ああはなりなくない。」と思うそうです。

■で、フェミニズムのサバイバル方法は

国家レベルでは「同一労働同一賃金」と「配偶者控除廃止・第三号被保険者制度の見直し」、企業レベルでは「日本型雇用慣行の廃止」だそうです。

とはいえ、これでは「目の前の就活や出産には間に合ってくれそうもありません」ということで、回答は、「ひとりダイバーシティ」こと「百姓ライフ」の実現なんだそうです。

実践的にいうならば、ひとりの個人やひとつの組織に自分の運命を預けない、収入源はシングルインカムよりも、ダブルインカム

なんだそうです。・・・・?

結婚しても専業主婦にならず共稼ぎをして働きましょうという趣旨なのでしょう。しかし、これが何で「サバイバル」なんでしょうか。

フェミニズムのサバイバルとしては、「百姓ライフ」って、「羊頭狗肉」のように思えます。制度・政策的にはフェミニズムは有効だが、個人のサバイバルとしては余り役に立たないということでしょうか。

もちろん、「女性も労働運動に積極的に参加して男性中心労働運動を変えよう」という選択肢も提示されません。まあ、そんなことは時間の無駄で、女性が企業の中で生き残るためには労働運動なんか個人的にはマイナスでしかない、男性中心社会の片棒の労働運動には未来がないというサバイバルのための現実的判断があるのでしょうか。

■男女平等の実現の最低条件とは

労働時間の短縮(せめて1日最長8時間・残業禁止)が必要不可欠です。そうでなければ男女とも家事育児をする条件がない。

長時間残業をしない働き方が男女とも保障されなければなりません。つまり、「ワーク・ライフ・バランス」

これで仕事が回らないのであれば、企業が採用する労働者を増やすしかない。つまり「ワーク・シェアリング」。

■とはいえ

もっとも、日本では1日8時間働いて「早く家に帰れ」と言われたからといってウチに帰りたくなるか? という根本問題があります。

男であろうと女であろうと、(主観的であっても)やりがいのある仕事をしていれば、社内での評価を高めたい(=出世したい)という価値観をもっていると、毎日早く家に帰るより、会社の中で仲間とバリバリ仕事をしているほうがずっと楽しいでしょう。

だから、男も出世の道を降りて、ほどほどに家庭や地域の生活を楽しむノン・エリートの道が保障されない限り、男女差別は是正されないかもしれません。

ヨーロッパでは労働者は出世なんか望まない(出世を希望する奴らは”仲間”じゃない、”奴”らの手下だ)から、早く帰って家事もやり、フットボールチームの応援にも行けるんでしょうね。

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