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2013年9月15日 (日)

読書日記「法服の王国」黒木亮著

■「司法反動」と青年法律家協会パージの時代

日本の裁判官を主人公とした珍しい小説。あと、まともな裁判官を描いた小説は大岡昇平の「事件」くらいでしょうか(テレビは弁護士を主人公としていましたが)。
主人公は、憲法擁護の理想のもと青年法律家協会にはいった裁判官村木(中大卒で司法浪人後、新聞配達をしながら、なんとか司法試験合格)。最高裁に睨まれて、全国の小規模裁判所(支部)に転々と異動させられる。他方、彼と同期で司法官僚として出世する裁判官津崎(東大在学合格の秀才だが苦学。実は父親が前科を有する受刑者)。実際の様々な著名事件、原発訴訟などでの裁判所内の動きを描いた小説です。上巻、下巻ですが、一気に読みました。

■戦後司法史をかざる大事件を描く

長沼ナイキ訴訟違憲判決、平賀書簡事件、宮本判事補再任拒否事件、坂口司法修習生罷免事件など自衛隊違憲判決や公務の労働基本権を尊重する一連の裁判官の動きに対して、最高裁がリベラル派の裁判官を冷遇する措置を一斉にとります。自民党や右翼が「裁判官に左翼、アカがいる」と宣伝した時代です(今も同じか)。

当時1960年後半から1970年代前半は、ベトナム反戦運動や学生運動が激しくなり、また国際的にも冷戦対立が深刻だった時代です。司法修習生6から7割が青年法律家協会に入っていた時代です。私の司法修習生時代(1983年)では2割ほどの90名くらいでした。最近は、どうなんでしょう。

■ミスター司法行政 矢口供一がモデル

ミスター司法行政と呼ばれた「矢口供一」元最高裁長官をモデルとした登場人物弓削裁判官が出てきます。興味深い人物像として描かれています。

著者は、さまざまな裁判官があらわした記録やインタビューから矢口(弓削)判事が青年法律家協会所属の裁判官へのパージをしたことを書いています。これは本当のことです。今やいろいろな元裁判官の文献で明らかになっています。石川義夫氏(元東京高裁判事、元司法研修所教官)が青年法律家協会所属の司法修習生の成績を低く評価するように調整して欲しいと言われたことも書いてあります。私もその本を読みました。次のブログで書いたことがあります。

■実際の事件の判決が詳細に紹介されている

小説には、様々な実際の裁判の判決についてふれられています。最高裁から冷や飯を食わされていた裁判官たちが復活して担当したものとして描かれます。筑豊じん肺事件、秩父じん肺事件判決、住基ネット事件判決。原発訴訟では、もんじゅ差止判決などなど。他方、露骨な最高裁の介入人事や裁判官会同で結論がゆがめられる伊方原発訴訟判決や
浜岡原発訴訟等を紹介されています。海渡弁護士は実名で登場。金沢の岩淵弁護士は、岩佐弁護士で登場。実名と仮名が入り交じっています。


なお、青法協パージは、弓削こと矢口判事主導ではなく、裁判所の刑事裁判官保守派が自民党に迎合して実施したものという描き方です。弓削裁判官は、リベラルな面を有しており、保守的な刑事裁判官グループと争っていたというのです。確かに、矢口氏は、最後に裁判官懇話会(青年法律家協会裁判官部会解散後にできた裁判官の自主的な研究交流団体)で講演をしたというのは事実です。実際はどうだったのでしょう。

司法改革について裁判所内部の雰囲気が書かれています。津崎という弓削に引き立てられた裁判官が、裁判所を改革するために、裁判官懇話会所属の優秀な裁判官らへの冷遇を止めさせるというストーリーです。

津崎という裁判官は、架空ですが、実際の裁判所の人事を見ると、たしかにそのような流れになっています。今では、プルーだとか懇話会だとかという表立ったの冷遇はなくなったようです。裁判所の雰囲気はだいぶかわったという印象をもっています。

このあたりは西理さん(西南学院大学法科大学院教授・元裁判官)が判例時報(2141号外)に「司法行政について(上、中、下)」という連載で明らかにしています。西裁判官は、私も弁護士なりたてのこと原告代理人だった常磐じん肺で福島いわき地裁の右陪席でした。会社の消滅時効の抗弁を、「正義に反する」として権利乱用として排斥した裁判官でした。この連載には、懇話会の世話人になるときには冷遇を覚悟しなければならないという話がリアルにでています。この本の参考文献には、この西さんの連載記事はあがっていません。

■著者について

著者の黒木亮氏は、弁護士だと思ったのですが、早稲田の法学部卒業ですが、三和銀行に就職したこともある、国際金融専門の銀行員だったそうです。よく、これだけ取材して裁判所内部を描いたと思います。

著者は、銀行員を辞めてから、どうやら銀行の貸付訴訟にまきこまれたようです。その裁判に関わったことをきっかけに、裁判所に疑問をもって取材したようですね。
1957年生まれで私の2年上です。同世代であり、大学生時代の雰囲気は共通だったと思います。

■若い法曹に読んでほしい

小説としては、自衛隊違憲訴訟の長沼ナイキ事件、原発訴訟やじん肺訴訟などを題材にして、行政訴訟の原告適格をはじめ、原発の安全性に関する証人尋問も詳細に説明しており、一般の読者には、敬遠されるかもしれません。ただ、よく調べて小説にしていることには驚きです。

この小説の最後は、2011年3月11日の東日本大震災で、福島第一原子力発電所の重大事故の発生で終わります

司法修習生を含めて若い法律家に読んで欲しい本です。時代の雰囲気(時代精神)が大きく変わった今、どう受け止められるのでしょうか。感想を聞いてみたいものです。
【追記】
この小説にも合格者の身上調査のことが書いてありましたが、私は大学卒業して1年間ビル警備室のアルバイトしながら司法試験の勉強をしていました。司法試験合格した後、そのアルバイト先に裁判所から身上調査書が送られてきました。アルバイト先の社長からそれを見せてもらいました。裁判所は、それ以上の身上調査をしたのでしょうかねえ。

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