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2013年9月16日 (月)

2013年司法試験と予備試験

■2013年新司法試験

最終合格者 2049人。

3000人の目標が撤廃されたけど、司法試験委員会は2049人は何とか法律家になるレベルに達していると判定したということですね。

日弁連は、合格者を1500人にしなかったのは「極めて遺憾」と会長談話を出しています・・・・。
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2013/130910.html

■予備試験組とロースクール組

予備試験は、受験者167人中、120人が合格(合格率72%)。合格者の内訳は、大学生40名、法科大学院生34名、年齢では20歳~24歳が64人(合格者の63%)。

対して、ロースクール出身者は平均合格率が26.8%。ロースクールが最上位合格率は慶応で57%、他の主要ロースクールでも50~40%です。

東洋経済の記事を見ると、ロースクールはどうしようもない制度として描かれている。
http://toyokeizai.net/articles/-/19249

でも何でもロースクールが悪いってのは解せない。物事には、悪いところも良いところもあるんじゃないでしょうかね。

■予備試験組合格者は司法研修所でも上位?

予備試験組の合格者のうち63%が大学生と法科大学院生。この予備試験組の若手は、どんな試験でも上位に入る優秀な連中なのでしょう。彼・彼女らが司法研修所でも成績上位を占めているそうです。相当レベルが高いと思われます。

本当に頭の良い人は、常に一定数いるものです。彼らが早く合格するのは当然です。でも、こういう連中は少数です。500人旧司法試験で言えば、在学中に50番以内で合格するという連中でしょう。

「予備試験のほうが合格率が高く優秀。だからロースクールは無駄」という人もいます。でも、予備試験組はもともと優秀な連中なのであって、予備試験が優秀者を育てるわけではありません。予備試験の合格率が高いからといって、ロースクールが無駄とは言えないでしょう。

ただし、司法研修所の成績も予備試験組が上位であるというのが本当ならば、ロースクールで2~3年学んでも予備試験組に負けるとなると、ロースクール教育内容が適切ではないという批判はあたっていそうです。

でも、ロースクールの成績上位者であれば予備試験組と遜色ないと思えますが。この当たりは、司法研修所の成績分析を見るしかないでしょう。

ロースクール組と予備試験組とどちらが法曹として優秀なのかは、それぞれの成績上位者が今後のどのように活躍するかを見るしかないでしょう。

■旧司法試験と司法研修所

旧司法試験制度は、合格者約500人の司法試験と2年間司法修習制度(給与制度)です。
旧制度を評価する弁護士が多いです。確かに、旧司法試験に合格した人たちから見れば、「ロースクールにいかなくとも、大学や司法試験予備校で勉強すれば、十分に司法試験に合格できる。予備試験の実績がそれを証明している。」ということになります。

旧司法試験の合格率が2.7%と言われましたが、これは神話です。実際は、短答式合格者3000人くらいが500人合格枠を争うというのが旧司法試験の競争の実態です。この競争率は17%程度で、今のロースクールの平均合格率約27%とそう大きくは変わりません。

旧司法試験500人時代は、司法試験に合格して司法研修所を卒業できれば就職は安泰でした。若い男性司法修習生は、完全な「売手市場」で就職に困ることはなかった。ただ、過去も女性は就職は厳しかったようです。

これに比べて、現在は、ロースクールに多額の入学金・授業料を費やして卒業して、新司法試験に合格しても給料は貰えず、無事に卒業できても、200人余りが弁護士登録できない。

でも、この就職難はロースクールの問題というよりも、合格者が増えても法律事務所の市場規模が大きくならない結果ですが、「どうせ就職できないのに、ロースクール制度に無駄なお金を払うのは不合理でリスクが高い。ロースクールは制度として持続可能性がない」ということになります。

■合格者500人時代との比較

旧司法試験では500人枠で合格さえすれば就職は安泰でした。でも、その裏で、大量の長期の司法浪人がいたわけです。真面目に就職活動をすればそこそこの企業に就職できた有意な若者が司法試験に魅せられて、大学卒業後数年間も人生をかけて司法試験を受けていたのです。その選択は誰にも強制されたわけでなく、自己選択ですから誰も司法試験合格500人枠を非難したりしませんでした。

僕の友人や先輩でも優秀な人が司法試験に合格しないで、他の道に転身していった人がたくさんいます。苦節10年で合格できる人ばかりではありません。

今は2000人が法曹資格を取得できるようになったけど、その代わり司法修習生の2割弱が就職難でロースクールに多額な学費・生活費が必要となる。

司法研修所でたけれども弁護士登録できないという悲劇。卒業後も司法試験を受験したが合格できなかったという悲劇。どっちがよりその人にとって傷が浅いか。

ロースクールに多額の費用がかかるから法曹資格をとっても就職できないほうが悲劇とも考えられる。ロースクール出身ということで就職する道があるなら無駄ではないという考え方もある。

■どっちが良いか。

旧制度とロースクール制度のどっちがいいのでしょうかね。

私たちの司法修習時代は、司法研修所教育を、「紛争の社会的実態を見ない要件事実教育」、「治安優先の刑事裁判教育」と強く批判していました。その司法研修所教育がすばらしいとうは思えません。予備校漬けで合格した者に、司法研修所が要件事実教育と有罪起案教育をする場って問題でしょう。これに対して、昔は司法研修所の刑事弁護教官に絶対選ばれなかった弁護士が、今はロースクールで学生を教えていること自体は評価できると思っています。

ただし、ロースクール制度の最大の問題は法曹になるため多額のお金が必要となったことでしょう。だからといってロースクール制度を廃止して、昔の司法試験にもどすことは清算主義にすぎるでしょう。所詮、昔の司法試験だって、お金持ちの坊ちゃん・お嬢ちゃんが多くを占めていたのが現実ですし。

■今後は?

今後は、ロースクールの淘汰でロースクール人数が減少して、調整することになるらしい。いよいよロースクール入学者が3000人を切っているらしい。2000人位になれば全体的に余裕が出てくるのでしょう。

一方、ロースクールの学費負担を回避したい学生は必死に勉強して狭き門の予備試験を突破することを狙う、という感じでしょうか。

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2013年9月15日 (日)

読書日記「法服の王国」黒木亮著

■「司法反動」と青年法律家協会パージの時代

日本の裁判官を主人公とした珍しい小説。あと、まともな裁判官を描いた小説は大岡昇平の「事件」くらいでしょうか(テレビは弁護士を主人公としていましたが)。
主人公は、憲法擁護の理想のもと青年法律家協会にはいった裁判官村木(中大卒で司法浪人後、新聞配達をしながら、なんとか司法試験合格)。最高裁に睨まれて、全国の小規模裁判所(支部)に転々と異動させられる。他方、彼と同期で司法官僚として出世する裁判官津崎(東大在学合格の秀才だが苦学。実は父親が前科を有する受刑者)。実際の様々な著名事件、原発訴訟などでの裁判所内の動きを描いた小説です。上巻、下巻ですが、一気に読みました。

■戦後司法史をかざる大事件を描く

長沼ナイキ訴訟違憲判決、平賀書簡事件、宮本判事補再任拒否事件、坂口司法修習生罷免事件など自衛隊違憲判決や公務の労働基本権を尊重する一連の裁判官の動きに対して、最高裁がリベラル派の裁判官を冷遇する措置を一斉にとります。自民党や右翼が「裁判官に左翼、アカがいる」と宣伝した時代です(今も同じか)。

当時1960年後半から1970年代前半は、ベトナム反戦運動や学生運動が激しくなり、また国際的にも冷戦対立が深刻だった時代です。司法修習生6から7割が青年法律家協会に入っていた時代です。私の司法修習生時代(1983年)では2割ほどの90名くらいでした。最近は、どうなんでしょう。

■ミスター司法行政 矢口供一がモデル

ミスター司法行政と呼ばれた「矢口供一」元最高裁長官をモデルとした登場人物弓削裁判官が出てきます。興味深い人物像として描かれています。

著者は、さまざまな裁判官があらわした記録やインタビューから矢口(弓削)判事が青年法律家協会所属の裁判官へのパージをしたことを書いています。これは本当のことです。今やいろいろな元裁判官の文献で明らかになっています。石川義夫氏(元東京高裁判事、元司法研修所教官)が青年法律家協会所属の司法修習生の成績を低く評価するように調整して欲しいと言われたことも書いてあります。私もその本を読みました。次のブログで書いたことがあります。

■実際の事件の判決が詳細に紹介されている

小説には、様々な実際の裁判の判決についてふれられています。最高裁から冷や飯を食わされていた裁判官たちが復活して担当したものとして描かれます。筑豊じん肺事件、秩父じん肺事件判決、住基ネット事件判決。原発訴訟では、もんじゅ差止判決などなど。他方、露骨な最高裁の介入人事や裁判官会同で結論がゆがめられる伊方原発訴訟判決や
浜岡原発訴訟等を紹介されています。海渡弁護士は実名で登場。金沢の岩淵弁護士は、岩佐弁護士で登場。実名と仮名が入り交じっています。


なお、青法協パージは、弓削こと矢口判事主導ではなく、裁判所の刑事裁判官保守派が自民党に迎合して実施したものという描き方です。弓削裁判官は、リベラルな面を有しており、保守的な刑事裁判官グループと争っていたというのです。確かに、矢口氏は、最後に裁判官懇話会(青年法律家協会裁判官部会解散後にできた裁判官の自主的な研究交流団体)で講演をしたというのは事実です。実際はどうだったのでしょう。

司法改革について裁判所内部の雰囲気が書かれています。津崎という弓削に引き立てられた裁判官が、裁判所を改革するために、裁判官懇話会所属の優秀な裁判官らへの冷遇を止めさせるというストーリーです。

津崎という裁判官は、架空ですが、実際の裁判所の人事を見ると、たしかにそのような流れになっています。今では、プルーだとか懇話会だとかという表立ったの冷遇はなくなったようです。裁判所の雰囲気はだいぶかわったという印象をもっています。

このあたりは西理さん(西南学院大学法科大学院教授・元裁判官)が判例時報(2141号外)に「司法行政について(上、中、下)」という連載で明らかにしています。西裁判官は、私も弁護士なりたてのこと原告代理人だった常磐じん肺で福島いわき地裁の右陪席でした。会社の消滅時効の抗弁を、「正義に反する」として権利乱用として排斥した裁判官でした。この連載には、懇話会の世話人になるときには冷遇を覚悟しなければならないという話がリアルにでています。この本の参考文献には、この西さんの連載記事はあがっていません。

■著者について

著者の黒木亮氏は、弁護士だと思ったのですが、早稲田の法学部卒業ですが、三和銀行に就職したこともある、国際金融専門の銀行員だったそうです。よく、これだけ取材して裁判所内部を描いたと思います。

著者は、銀行員を辞めてから、どうやら銀行の貸付訴訟にまきこまれたようです。その裁判に関わったことをきっかけに、裁判所に疑問をもって取材したようですね。
1957年生まれで私の2年上です。同世代であり、大学生時代の雰囲気は共通だったと思います。

■若い法曹に読んでほしい

小説としては、自衛隊違憲訴訟の長沼ナイキ事件、原発訴訟やじん肺訴訟などを題材にして、行政訴訟の原告適格をはじめ、原発の安全性に関する証人尋問も詳細に説明しており、一般の読者には、敬遠されるかもしれません。ただ、よく調べて小説にしていることには驚きです。

この小説の最後は、2011年3月11日の東日本大震災で、福島第一原子力発電所の重大事故の発生で終わります

司法修習生を含めて若い法律家に読んで欲しい本です。時代の雰囲気(時代精神)が大きく変わった今、どう受け止められるのでしょうか。感想を聞いてみたいものです。
【追記】
この小説にも合格者の身上調査のことが書いてありましたが、私は大学卒業して1年間ビル警備室のアルバイトしながら司法試験の勉強をしていました。司法試験合格した後、そのアルバイト先に裁判所から身上調査書が送られてきました。アルバイト先の社長からそれを見せてもらいました。裁判所は、それ以上の身上調査をしたのでしょうかねえ。

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2013年9月 1日 (日)

シリア毒ガス問題と国連の軍事行動

シリア内戦での毒ガス使用に関して米、仏の軍事行動が迫っています。

■現段階では、米仏の軍事行動は国際法違反


現段階で、シリア政権側が毒ガスを使用したとの明確な証拠が確認されておらず、安保理の決議なく、米仏が軍事行動を、限定的にせよ、実施することは国際法違反でしょう。

 

■証拠が明確になったら国連は

では、仮にシリア政権側がサリン使用したことの明確な証拠が存在した場合には、どう対応すべきでしょうか。

 

それでもシリア政権に対して、国連は軍事行動をしてはならないのでしょうか。

 

先ず、国連は、シリア政権に毒ガスを再使用しないことの確約及び毒ガス使用を命じた責任者を処罰することを受け入れさせることを交渉で獲得することを目指すことになるでしょう。

 

■市民をまもるために国連の軍事行動は許容されるべき

しかし、これをシリア政権に受け入れさせるためには、交渉で解決しない場合には軍事行動があるという圧力がなければ、追い込めないでしょう。

 

したがって国連の安保理は、シリア政権が上記事項を確約しない場合には軍事行動(米仏等の軍事行動)による制裁を課す選択肢を持っていなければならないと思います。

 

市民に対する毒ガス使用を止めさせるためには国連決議による軍事行動を認める必要性があるでしょう。そうでなければシリア政権が毒ガス使用をやめるとは思えないからです。

 

もし証拠があるにもかかわらずロシアや中国があくまで軍事行動に反対するとしたら、国際的に批判されるべきでしょう。結局は、中ロは独裁主義国家であり、故にシリア独裁政権を擁護するのだと。

 

もちろん、米国もイランに支えられたシリア政権を打倒するという自己の国益を実現しようとしているのであり、そのためシリア反政府側を軍事的に支援しているだけです。所詮、国際関係は、自国の利害を維持するためのパワーポリティクスにすぎない。

 

とはいえ、毒ガスで被害を受けるのは子供も含めて市民なのであり、パワーポリティクスの中でプレイして、毒ガスから市民を守るためには綺麗事ばかりはいってられません。あとは政治的圧力という傍観者になるかです。


■日本は憲法9条により軍事行動に参加不可

 

なお、この場合であっても、日本は、憲法9条がある以上、その軍事行動に参加できないのは当然です。

 

私は個人としては、将来的には、「自衛隊は専守防衛」という国民的合意が確立した後、自衛隊が国連決議のもとでPKOレベルの活動に参加することが望ましいと考えています。ただし、それは日本がドイツのように過去の侵略戦争の責任を明確に自覚したあとの話だと思っていますが。

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