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2013年8月13日 (火)

読書日記「若者と労働」 濱口桂一郎 著

読書日記「若者と労働」 濱口桂一郎 著

中公新書ラクレ
2013年8月10日発行
2013年8月14日読了

 hamachanこと濱口桂一郎さんに「若者と労働-『入社』の仕組みから解きほぐす」を送ってもらいました。Amazonでも売り切れで、本屋で探していました。ありがとうございます。

■メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用

 「ジョブ型」と「メンバーシップ型」をキイワードとして、日本の若者の雇用問題を鮮やかに解説されています。特に、欧米のジョブ型労働社会を若者の「就職」の視点から詳細に紹介し、日本の若者の「入社」との差異が詳述されています。

 なお、ヨーロッパの若者の高失業率は、ジョブ型労働社会の帰結であることが丁寧に説明されています。「ヨーロッパでは解雇規制が厳しすぎるから、若者の失業率が高い」という俗論が一面的であることが良く分かりました。

 日本では、1990年代半ば以降、メンバーシップ型正社員が精鋭化・スリム化されることで若者たちがメンバーシップ型雇用システムから排除されるようになった。そして、漸く2000年以降、若者雇用問題が社会問題となり、政策化された。

 若者の雇用という視点から、労働社会の在り方を、広く深く検討する好著です。

■「若者雇用問題」への三つの処方箋

 著者は三つの処方箋を検討して、「ジョブ型正社員」を漸進戦略として推奨されます。

○全員メンバーシップ型雇用の処方箋は無理
 古き良き全員メンバーシップ型雇用を維持しようとすれば、職務や時間、空間が無限定という無理が温存されてしまう。この無限定を規制したら、長期の雇用保障はできなくなる。どちらにしても無理がある。

○全員ジョブ型雇用の処方箋も無理
 欧米のようにジョブが確立していない日本において、何も職業能力をもっていない若者が全員ジョブ型雇用されるということは非現実的である。

○漸進戦略としての「ジョブ型正社員」
 「ジョブ型正社員」とは、「職務や勤務場所、労働時間が限定されている無期雇用契約の労働者」です。(欧米のジョブ型社会ではないけど、「ジョブ型」なんですね。)

 現在不本意に非正規労働者になっていたり、不本意にメンバーシップ型正社員になっている人々に「ジョブ型正社員」という形でよりふさわしい雇用関係の受け皿を提供しようというものです。
 既存のメンバーシップ型正社員をしばらく、-当分は主流の存在として残しておきながら、・・・・「ジョブ型正社員」を確立し、徐々に拡大発展させていこうというシナリオなのです。

 このジョブ型正社員への移行は三つのルートが想定されています。

 反復更新された有期契約からジョブ型正社員への移行、女性向け「一般職」から男女共通のジョブ型正社員への移行、正社員から自発的なジョブ型正社員への移行

■著者の「ジョブ型正社員」は解雇規制の緩和とは直接は関わりはありません。

 もっとも、整理解雇については、解雇回避努力の範囲及び程度は従来のメンバーシップとは異なる結果になりうるが、ジョブ型自体はこれを目的とするものではないということです。

 ただ、「ジョブ型」と呼ぶのは、私にはしっくりきません。欧米のように「ジョブ」が社会化されていないにもかかわらず、敢えてジョブ型と呼ぶ必要があるでしょうか。

 また、全国に事業を展開しない中小企業の労働者は、ジョブ型とメンバーシップ型と截然と分けられるものではないでしょう。

 将来、「ジョブ型社会」を目指すからなのでしょうか。それとも、経営側に労働時間や勤務地の限定の労働者を受け入れさせるためには、メンバーシップ型正社員(企業の精鋭正社員)も残すからというメッセージが必要という実践的な配慮からなのでしょうか。

■メンバーシップ型労働者には労働時間規制は無理なのか

 濱口さんは、メンバーシップ型正社員について、職務、労働時間や勤務地の無限定は雇用安定と不可分一体であることを前提とされています。

 しかし、そうでしょうか。
 労働時間(残業)規制と広域配転の制約をメンバーシップ型正社員に及ぼすことが即、雇用の安定を諦めることにはならないのではないでしょうか。法的には両者はゼロサム関係には立たないと思います。確かに、最高裁判例は、残業義務や配転義務を長期雇用慣行(終身雇用)を根拠として、これを認めてきました。だからといって、法的には、残業義務等を否定したから即、解雇が緩和されることにはならないはずです。

 また、整理解雇の法理は、一定の要件(4要件)があれば、整理解雇は有効となるという法理でもあります。何が何でも解雇できないという法理ではありません。著者が指摘されているようにワークシェアリングという方策もあります。

■ヨーロッパのジョブ型労働社会は一つの理想型だが

 ヨーロッパの強力な産別労働組合と産別労働協約、ジョブ型労働、同一労働同一賃金の原則、政府による所得配分政策・社会保障政策(福祉国家)は、日本の労働運動の一つの目標でした。左派の一つのモデルでした。私もそう思います。

 ただ、日本の現実から見ると、残念ながら、あまりに社会基盤が違いすぎます。特に日本型企業別労働組合が決定的に異なります。将来的にはジョブ型社会が良いかどうかはともかく、現実には、ジョブ型社会になるのは日本では到底無理のように思えます。。

 だとしたら、日本のメンバーシップ型労働社会を変えるためには、似て非なるジョブ型を入れるよりも、メンバーシップ型を修正していく方向があるのではないでしょうか。

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