八代尚宏教授の「正社員の解雇規制改革」批判(その1)-解雇規制は中小企業労働者や女性労働者を犠牲しているか?
■八代教授の「労働市場の規制改革」
八代尚宏教授は、「規制改革で何が変わるのか」(2013年8月10日ちくま新書)でも、相も変わらず、「解雇規制の緩和・解除」の論陣をはっています。同氏の主張は「日本的雇用慣行の経済学」(1997年日本経済新聞社)、「雇用改革の時代」(1999年中公新書)から変わっていません。
■解雇規制改革は中小企業労働者や女性労働者の利益のためか?
八代教授の立論は、旧来の日本的雇用システムに対して、企業(使用者)の利益から非難するのではなく、中小企業労働者、非正規労働者、女性労働者の利益を侵害しているとして攻撃することが特徴です。この点は1997年の著書からも一貫しています。
企業別に組織された日本の労働市場では、欧米のような経営者と労働組合との間の労使対立よりも、「労・労対立」-すなわち大企業と中小企業、男性と女性、正規雇用と非正規雇用など-多様な労働者間の利害対立から生じる問題が多い。このため特定の労働者の保護を目的とした規制が、他の労働者の雇用機会を損なうという矛盾が生じている。
企業別に組織された日本の労働市場では、労使間よりも規制で守られる企業内の労働者と、守られない企業外の労働者との間に利害対立が生じる「労・労対立」という面も重要である。
■「本丸は正社員の解雇規制改革」
八代教授は「本丸は正社員の解雇規制改革」と強調します。
労働者の産業間・企業間移動を円滑に行えるような効率的な労働市場の整備」のために「労働者に合理的な解雇ルールが必要となる
中高年の雇用保障と、六五歳までの継続雇用義務化(改正高齢者雇用安定法)は新卒採用の枠をさらに狭めている
要するに解雇規制の緩和・撤廃です。そのための「限定正社員」制度や「解雇の金銭解決制度」の導入、改正労働契約法18条・19条への非難や労働者派遣法の見直しです。
しかし、正社員の解雇規制を緩和をしても、非正規労働者や女性労働者の雇用が増加したり、賃金が上がったり、労働時間が短くなることはありません(きっぱり断言)。
現実の日本社会では、現在の正社員が解雇しやすくなっても、若者や女性が正社員採用が増えるわけでなく、解雇された正社員が非正規労働者に入れ替えられるだけです。結局、非正規労働者と失業者が全体として増加し、競争が激しくなり、賃金はさらに低下することになるだけです。
高収入の正社員として採用されるのは、専門的職業能力や資格、語学力をもった少数のエリート労働者だけです。彼らが幹部や専門職として採用されるのです。
このことは、普通に日本社会で企業に勤めて働き、社会生活してきた人にはすぐわかることだと思います。
■解雇規制は労働法のキイストーン(要石)
労働者が使用者の恣意的な解雇にさらさる場合には、使用者は、労働者の健康や安全、その人格を無視して、圧倒的な力の下で労務指揮権を自由に行使します。
解雇が怖い労働者は、異議を述べたり、抵抗することができません。労働条件はどんどん不利益に変更されます。「ブラック企業だ!」などと文句を言ったら、いつどんなことで解雇されるかわかりませんからからね。
ですから、使用者の恣意的な解雇から労働者を保護することは、労働法の根幹です。
安倍政権は、経済特区を突破口として雇用の規制緩和を実施することを決めたようです。この解雇規制の緩和・解除はなんとしても止めないと将来、真っ暗です。子どもや孫のために、これだけは阻止しないといけないと思います。
このことを社教授の同書の記述に即して書いてみたいと思います(続く)。
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コメント
かなり遅いコメントですが
一応学生をやってます(底辺ですが)
自分は八代氏の主張を全面的に支持しますが
かなり批判されているようです
自分にはなぜ批判されてるのか理解できません
投稿: 選挙権のない若者 | 2013年12月13日 (金) 21時46分