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2013年8月30日 (金)

労働者派遣法改正について

■労働政策審議会の審議開始

2013年8月20日に「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会報告書」が公表されました。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000016029.html

本日、30日から労働政策審議会での審議が開始されます。

■規制改革雇用WGが独自案提案の動き

他方で、規制改革会議が、厚労省研究会案は、規制緩和が不十分だとして、労働者保護のための規制を見直す「独自案」を10月末にも提起すると朝日新聞が報道しています。

http://digital.asahi.com/articles/TKY201308290645.html?ref=pcviewpage

■厚労省の研究会報告書

報告書は、製造業派遣を解禁することを前提としています。また、派遣労働者を入れ替えることを前提にして、受入期間(3年)の上限を撤廃します。派遣労働者を入れ替えれば、派遣先の労使のチェック(承認?)を要件とし、長期に派遣を派遣先企業は使うことができることになります。

これで企業(派遣先)は、派遣労働者を継続的に長期に使用できます。直接雇用の労働者(正社員)を減らして派遣労働者を継続的に使用することができます。派遣会社(派遣元)は、派遣ビジネスを広く展開することができることになります。

結果、正社員は減少して、派遣社員は増加することは間違いない。

■雇用安定化措置は実効性がない

他方、有期雇用遣労働者について、雇用安定化措置を派遣元に義務づけるとしています。

① 派遣先への直接雇用の申入れ
② 新たな派遣先就業の提供
③ 派遣元での無期雇用化

この雇用安定化措置の内容も明確ではありません。

①については、派遣先に直接雇用を義務づけるものではないので、派遣先が拒めばおしまいです。

②については、他の派遣先が見つからなければ、仕事を失うことになります。
したがって、①と②は実効性のある雇用安定化措置となりません。

では③ですが、「派遣元での無期雇用化」としますが、派遣会社が有期雇用派遣を無期契約に転換することまで義務づけるかどうかは不明です。

労働契約法20条は、有期契約を5年を超えて更新した場合には無期契約転換権を労働者に認めます。これと同じように、③「派遣元での無期雇用化」がそこまでの効力(私法的効力)を認めるかは不明です。

(派遣元との間で無期雇用化すれば、派遣労働者は派遣会社との間では雇用が安定します。新たな派遣先が見つからなくても派遣会社は派遣労働者に給料を支払わなければならない。)

派遣労働者法は、取締規定であり私法的効力を持たないという立場が多数説ですから、おそらく、上記の無期転換化は、いわば派遣元の努力義務の程度のものでしょう。

■結局

結局、製造業派遣等を自由化して、政令26業務については、現行法では派遣労働者は上限なく派遣先で働けるけれども、この改正では3年で入れ替えられて仕事を失います。雇用安定化措置は絵に描いた餅でしょう。そして、正社員でなく派遣労働者が増えていく。

得をするのは、企業と派遣会社のみだと思います。

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2013年8月18日 (日)

八代尚宏教授の「正社員の解雇規制改革」批判(その4)-解雇規制は中小企業労働者を犠牲にしているか?

■八代教授の解雇紛争や訴訟の運用についての誤解

八代教授は、<裁判に訴えられるのは大企業労働組合のみで、中小企業労働者は解雇を裁判所に訴えることもできない。現行の解雇規制は中小企業労働者の犠牲のもとに大企業労働者・労働組合の既得権擁護である。>かのように批判しています。

 潤沢な資金をもつ大企業の労働組合であれば裁判所の費用や訴訟中の生活費の支援は容易であるが、そうした資力を欠く中小企業の労働者を救済することはできない。こうした状況を改善し、解雇の際の金銭補償の基準を示すことで、裁判に依らなくとも弱い立場にある労働者を救済することが、労働契約法制定の目的であった。
 それにもかかわらず、現状のような明確な基準を示さない解雇原則にとどまったことは、裁判に訴えれば解雇無効や多額の補償金を勝ち取れる可能性が高い大企業の労働組合と、解雇自由の状況に近い中小企業の経営者との利害が奇妙にも一致し、中小企業の労働者の犠牲の下に、現状維持が望ましいという判断が働いていた可能性がある。

■八代教授の事実誤認

大企業労働組合が、「潤沢な資金」で解雇された労働者の裁判を支援するという認識は全くの事実誤認です。大企業労働組合が解雇裁判を行わないことは、労働紛争や解雇訴訟の実態を知る人間には常識です。

中小企業の労働者が解雇された場合、裁判(労働審判含む)を起こすことが不可能かというと、これも実態を見誤っています。

労働審判施行前には、裁判所が扱う個別労使紛争(本訴・保全)が年間2500~3000件件程度であったものが、2006年労働審判施行後、労働審判が増加し、現在は本訴・保全・労働審判合計で7500件まで増加しています。

また、労働審判を申し立てる労働者の圧倒的多数は中小企業労働者なのです。このことは次の東大社研の調査からも明らかです。

労働者側の回答では、従業員30人未満の小企業が約44%、100に人未満だと約66%を占める。1000人以上の大企業は約10%(東京大学社会科学研究所、2011年10月「労働審判制度についての意識調査基本報告書」仁田道夫・佐藤岩夫・水町勇一郎)
http://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/roudou/abstract.html

中小企業労働者が裁判所に訴える(本訴、保全、労働審判含む)ことができないとの八代教授の認識は誤りです。

また、中小企業の使用者には労働法の知識がないため、「テメエ、バカヤロー」的な解雇が多く、労働契約法16条違反として解雇無効となるケースは珍しくないのです。つまり、中小企業労働者も解雇規制の恩恵を受けているのです。

ですから、「中小企業の労働者の犠牲の下、労働契約法が制定された」という八代教授の主張は何らの根拠もない謬見です。八代教授は、解雇権濫用法理や解雇訴訟の運用などにうちての「基本的知見」が欠けているように見受けられます。

■労働審判・労働訴訟提起への援助こそ必要

確かに、中小企業労働者で不当な解雇を受けた者すべてが労働審判ないし裁判を申し立てることができるわけではありません。しかし、それは労働者が労働審判にアクセスする方策が十分に整備されていないからです。

弁護士代理人の紹介制度、申立費用の援助制度(今でも法テラスもあります)を充実させることや、労働局の紛争解決委員会であっせんが成立しなかった場合に労働審判申立につなげるようなシステムをさらに整備すれば、労働審判や労働裁判はまだまだ飛躍的に増加するはずです。

私は、資力がない人の場合には、労働審判の着手金は10万5000円、報酬は解決金からもらうというシステムで受任しています(もちろん事案によりますが)。別に資金が潤沢な大企業労組の援助がなくても、法テラスの援助も得れば、労働審判を申し立てることは十分可能です。

■八代教授の本音は?

ところが、八代教授は、このような訴訟援助の方策を検討されていません。解雇の規制緩和と解雇の金銭解決制度の導入しか考えていないかのようです。

ですから、八代教授が「中小企業労働者のためとか、女性労働者や非正規労働者の利益のためだ」と力説しても、あまり信用することができません。「労・労対立」を煽って、使用者の利益を擁護しようとしていると思わざるを得ないのです。

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2013年8月17日 (土)

読書日記「誰が法曹業界をダメにしたのか -もう一度、司法改革を考える」

中公新書ラクレ
2013年8月10日発行
2013年8月17日読了

■著者両名とも弁護士

岡田和樹弁護士は私の事務所の先輩です。が、今は世界的な国際法律事務所であるフレッシュフィールズブルックハウスデリンガー法律事務所のパートナー弁護士。労働訴訟でも使用者側の弁護士で、私の事務所の相手方になります。

■「弁護士を減らせ!」論に対する反論

著者らの発言は歯切れが良い。例えば、弁護士減員論に対しては、・・・

十数万人の就職浪人が出ようと、「大学や高校を減らせ」という声はない。どうして、弁護士だけが、就職できない者がいたり、あるいは、若手で喰えない者がいるからといって、「合格者を減らせ」などと大騒ぎするのかおよそ理解できない。

筆者らが弁護士になった35年前には、弁護士になってすぐ独立するという人はいくらでもいたのであって、それ自体には何ら問題もない。先輩弁護士に部屋を貸してもらって弁護士を始めてどこが悪いというのであろう。

まさに岡田ブシです.
(昔も労働事件で敗訴した労働弁護士に対して、「『司法反動』なんて負け犬の遠吠えを言う前に、主張と立証を吟味しろ!」と言い放っていてました。

■「喰えないのはなぜか」

著者らは、弁護士が増えたからではないと言います。

全国の訴訟件数が減っているから、弁護士1人当たりの事件数も当然減っている。今のところ、弁護士の業務は訴訟中心だから、訴訟件数が減れば法律事務所の経営は厳しくなる。

弁護士の顧客は、基本的には中小企業や商店主、一般の労働者である。大企業を顧客とする弁護士は、ごく限られている。その顧客層の収入が低下すれば、弁護士の収入が低下することは避けがたい。・・・ 法律事務所の経営が厳しいのは、弁護士の数が増えたからというより、顧客層の生活や経営が厳しいことの反映である。

経営が苦しいのは、世間の商店主や中小企業、労働者が苦しんでいるのと同じことで、弁護士だけが苦しんでいるわけではない。新しく登録した弁護士に仕事がないのは、多くの若者が大学を出ても正社員になれず、派遣やパートといった非正規雇用に就かざるを得ないのと同じである

■で、打開策は?

著者らは、弁護士3000人維持、ロースクールの改善、司法試験の改革(短答式廃止等)で合格率7割を実現するなど、10年前の司法改革をより進めようというという提言です。

若手への当面の対策は、垣越ネットワークをつくって、若手に仕事をまわす方策を打ち出す。

さらに、日本の法律事務所の国際化を強調。

日本企業が国際化している以上、大きな需要があり、英語を苦手と考える「負け犬根性」を捨て、日本を中心とした法律事務所を作ろうと提言しています。全くドメスティックな法律事務所から、フレッシュフィールズに行った岡田さんだからこそ言えることなのでしょう。

民事裁判も抜本的な改革を提言します。

例えば福島原発災害に関して東電に対して、日本ではなかなか裁判が起きなかったのは、民事裁判制度が問題なのだとします。(なお、アスベスト訴訟で製造メーカ追及の裁判が起きないとの記述がありますが、国と製造メーカーらに対する訴訟、建設アスベスト訴訟(集団訴訟)がありますよ)。具体的な改革案は次のとおりです。

懲罰的賠償の導入
クラスアクション(集団訴訟)の導入
雇用関係訴訟制度の改革
証拠開示制度の拡充、陳述録取制度の必要性
民事陪審の導入

■感想

確かに、弁護士の数を減らすことだけに汲汲とするよりも、民事裁判改革や行政裁判改革を推し進めて弁護士の仕事を増大させることのほうが重要なのはそのとおりです。

でも時間がかかるねえ。それまでは、どうするんだろう。

私のこの問題についての過去のブログは次のとおり。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2009/03/post-3f9a.html

もっとも、このブログ後には、閣議決定は変更され、日弁連は1000人への減員路線を決めていますが。

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八代尚宏教授の「正社員の解雇規制改革」批判(その3)-解雇規制は失業者を増やすか?

■解雇裁判の結果が予想できないから正社員の採用が過度に抑制される?

八代教授は、個々の裁判官の判断基準の差もあり、解雇裁判の結論が予想できないので(つまり、解雇した使用者が敗訴するかもしれないから)、正社員の採用を抑制する危険性があるとします。「解雇規制が厳しいと、企業は労働者の採用を抑制する」という「マクロ経済学の通説」(「仮説」でしょうが)と同一の論理です。(経済学者は、次のようなことを「したり顔」で述べます。)

解雇規制が厳しいと、労働者を採用すると将来景気が悪くなっても解雇できないので、企業は労働者の採用を抑制する。

労働者を保護しようとする善意の解雇規制が逆に失業者が増大させるという皮肉な結果になる。

(・・・嫌な奴)

でも、使用者が労働者を採用するかどうかを決める際に、将来解雇できるかどうかで採用の有無や採用人数を決めるという単純なものでないことは、経営者であれば誰もが承知していることです。

特に中小企業は、事業が拡大できるのであれば、利益をあげるために労働者を多く採用します。他方、仕事の増加や収益拡大の予想がたたなければ採用しません。当たり前です。

企業は、需要予測、受注予測、生産計画、事業達成のための要員計画、利益予測などによって、労働者の採用数が決定されます。将来解雇できるかどうか考えて採用数を決定する経営者(採用担当者)はいません。

将来解雇したら裁判で負けるかもしれないからといって、その時に必要な労働者を雇い入れずに、せっかくの売上増や利益増のチャンスを見逃す馬鹿な経営者などいるわけがない。

「残業増加で対応して、労働者を採用しない」という見解もあるでしょうが、残業増加では生産量増加には限界があるし、また、もしそうであれば解雇規制緩和でなく、労働時間規制(残業禁止)をすれば良いはずでしょう。

こういう議論では、経済学者は、それはミクロの話しで、マクロの見地から見れば違うんだと言うのでしょう。

ドイツの解雇規制緩和の実態調査-高橋賢司准教授の「解雇の研究」から

でも、この「通説」は、一見するともっともらしく聞こえますが、実際には何ら「実証」されていません。

高橋賢司准教授(立正大学)の「解雇の研究-規制漢和と解雇法理の批判的考察-」(2011年法律文化社)によると、ドイツの解雇規制の緩和の前後を比較した実証研究では、解雇規制の適用と失業率や採用率は有意な関連が見いだされていないそうです。この本の当該部分(44~52頁)を乱暴に要約すると次のようになります。

ドイツは、解雇規制(解雇制限法)につき、従来労働者5人未満の企業には解雇制限法が適用されなかったが、1996年改正で10人以上の企業にのみ解雇制限法が適用されることになった。つまり、10人未満の企業は「解雇自由」となった。
その後、社民党・みどりの党が政権奪取をして、1999年以降もとにもどり、5人以上の企業に解雇制限法が適用されるようになった。
ところが、社民党シュレーダー政権は2003年改正で、再度規制緩和をして、10人以上の企業にのみ解雇制限法を適用するようになった。

ドイツの6人~10人の労働者を雇用する小規模企業は、解雇規制がある状態と解雇規制がない状態を経験した。

もし八代教授の主張が正しければ、解雇規制が撤廃された時期は、6~10人規模の企業の労働者採用率が増加しているはずである。

ところが、ドイツの実態調査によれば、このような有意の関連性は確認できず、企業のアンケート調査によっても採用率や離職率に大きな影響を与えていないと報告されている。

結局、失業率や求人数は、解雇規制の緩和よりも、景気の好況に大きな影響を受けているということです。まあ、当たり前の結論です。

要するに、八代教授らの「通説」とやらは、「経済モデル論」を振り回しているだけの「思い込み」にすぎず、何ら実証されていないのです。かえって、ドイツの実態調査では否定されているのです。

■「正社員」の解雇規制が厳しいと「正社員」の代わりに「非正規社員」が増える

では、「正社員の解雇規制が厳しいと、非正規社員が増加する」との指摘はどうでしょうか。これは日本の現実では、そのとおりです。

非正規労働者(ほとんどが有期契約労働者)は、有期労働契約の更新を使用者から拒絶されることで雇用が打ち切られるという不安定な地位にあります。

そこで、使用者としては、労働契約法16条の解雇規を免れるために、有期契約労働者を採用しようとします。使用者としては経営合理的な選択でしょう。

現に、1990年代半ばから、非正規労働者の占める比率は急激に上昇し、現在では労働者全体のうち、非正規労働者は3割強を占めています。

では、これに対してどう対処するか。

一つの方法は、有期労働契約に対して規制を及ぼすことです。

つまり、①有期労働契約を認めず、原則として無期契約とする(有期労働契約は期間を定める合理的な理由がある場合に限定する)。あるいは、②有期労働契約であっても、雇用継続を期待することに合理的な理由がある場合には、使用者は雇止めをするには、客観的合理的理由及び社会的相当性が必要とするということです。さらに、③一定の期間を超えて有期契約を更新する場合には無期契約に転換することを法律で定めることです。

労働契約法が改正されて、上記②(雇止めの法理)と③(5年超の無期転換権)が立法化されました。

ところが、八代教授は、このような規制強化①、②、③に強く反対します。

企業が無期契約への移行を強制されることを防ぐために、働き出してから5年以内に契約更新を打ち切られる可能性がある。

非正社に対する規制強化は、むしろ失業者を増やす危険性が大きい。

無期契約を回避するためだけの雇止めは、客観的合理的理由がなく、労働契約法19条に違反して無効になり、これが改正労働契約法の趣旨です(と解釈しなければならない)

八代教授は、「正社員の解雇規制を緩和なしい撤廃すれば、企業が正社員の採用を増やす」というのでしょうか?

さすがに、そこまでは言いません。結局、八代教授は、「正社員の雇用機会を増やすためには経済成長が必要」というだけです。

正社員の解雇規制が緩和・撤廃されても、正社員が解雇され易くなるだけで、当然のことながら、それが正社員を採用する積極的な理由になるわけではありませんりませんから。

現代の優良企業は、正社員には、専門的職業能力、語学やリーダーシップなどを求めています(ホワイトカラーでなく、プラチナカラー)。その分、非正規社員に比較して高い給与(職能給制度や成果主義賃金)が支払われます。しかも、少数精鋭主義です。

あとはブラック企業です。正社員に雇った後、厳しいノルマや長時間残業を担わせ数年働かせて、過酷な労働環境の与えて辞めさせていく人事管理をビジネスモデルとする企業です。

結局、正社員の解雇規制をしても正社員が解雇され易くなるだけで、雇用が流動化するからといって、失業者が減るということは何ら実証されていないのです。

で、解雇規制緩和は、「失業者や非正規労働者のためだ」という理屈は、極めて怪しいものなのです。

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2013年8月15日 (木)

八代尚宏教授の「正社員の解雇規制改革」批判(その2)-日本の解雇規制は抽象的すぎるか?

■八代教授の「解雇権濫用法理」の理解って少しずれてる

 八代教授の解雇規制、特に「解雇権濫用法理」の説明は、いつも何やらおかしい。次のような記述です。

 現行の解雇規制の最大の問題は、それが判例法理に基づいており、労働者は裁判に訴えなければ解雇の際に十分な補償すら受け取れないことにある。労働契約法の「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は禁止」という抽象的表現では、個々の解雇事例が「社会通念上相当」なものかどうかの判断を労働委員会のような行政ベースではなく、裁判官に委ねなければならない。

 ここでいう「合理的な理由」の具体的な内容としては、「解雇権濫用法理」の四要件(解雇の必要性、回避努力義務、被解雇者選定の公平性、労働組合などとの協議)として判例法で確立したものが適用される。それでも、雇用をめぐる紛争の解決を裁判官の裁量に委ねることは、個々の裁判官の判断基準の差もあり、企業にとって予想しづらいため、正社員の採用を抑制させる危険性がある。

■解雇権濫用法理と整理解雇法理を相変わらず混同している

八代教授は、「解雇権濫用法理の4要件」と言うが、これは「整理解雇の4要件」のことです。解雇権濫用法理、正確には労働契約法16条については、裁判所の判例は、使用者が経営上の理由によって解雇する整理解雇の類型と、労働者の個人的な理由による個別解雇の類型に分けて、前者については「整理解雇の4要件(要素)」を満たさなければ、客観的合理性及び社会相当性がなく、解雇が無効となるのです。

■解雇規制は労働契約法に基づく規制であり、判例法ではないこと

また、解雇規制は「判例法」ではなく。労働契約法16条に基づくものです。確かに、具体的な当てはめは裁判所の判決(裁判例)によります。これは労働契約法だけでなく、民法でも刑法でも同じです。事実認定・法律の解釈適用は裁判所の専権ですから。

八代教授の主張を善解(善意に解釈)すると、抽象的な法文なので判例まで調べないとルールの内容が良く判らないと言いたいのでしょうか。ある裁判官は、解雇権濫用法理を「判例のアラベスクだ」と評していました。でも、これは諸外国でも一緒です。

■独・仏・韓との解雇規制法の比較

ドイツ解雇制限法は、解雇は「①労働者の個人的事由,行動に存する事由又は②当該事業所における労働者の継続就労を妨げる緊急の経営上の必要性に基づかない場合には,社会的に不当である」と定めています(同法1条2項)。①が個別解雇であり、②の「緊急の経営上の必要性」が整理解雇のことです。「社会的不当」性という文言も極めて抽象的です。

フランス労働法典は、「真実かつ重大な事由」が解雇には必要と定めています。経営的理由による解雇については、具体的には、「①雇用の廃止・変動又は労働契約の変更が原因となっていること,②これらが特に経済的困難又は新技術の導入及び企業競争力の保護を目的とする再編成の結果として行われたこと,③適応義務及び再配置義務を履行したこと」が必要とされています(判例)。

韓国の勤労基準法は、解雇には「正当な理由」が必要と定め(同法30条1項)、経営上の理由による解雇(整理解雇)について、次のように詳細に定めています(同法31条)。

 ① 使用者は、経営上の理由により勤労者を解雇しようとする場合には、緊迫した経営上の必要がなければならない。この場合、経営悪化を防止するための事業の譲渡・引受・合併は、緊迫な経営上の必要があるものとみなす。
 ② 第①項の場合に使用者は、解雇を避けるための努力を尽くさなければならず、合理的で公正な解雇の基準を定め、これに従ってその対象者を選定しなければならない。この場合、男女の性を理由として差別してはならない。
 ③ 使用者は、第②項の規定による解雇を避けるための方法及び解雇の基準等に関して当該事業又は事業場に勤労者の過半数で組織された労働組合がある場合には、その労働組合(勤労者の過半数で組織された労働組合がない場合には、勤労者の過半数を代表する者をいう。以下"勤労者代表"という。)に対して解雇をしようとする日の60日前までに通報し、誠実に協議しなければならない

しかも、韓国では、解雇に「正当な理由」があるかどうかは、労働者は労働委員会に申し立てることができ、労働委員会(行政委員会)が解雇の有効性を判断をします。つまり韓国では「行政ベース」で判断をしているのです。(労働委員会の命令に対しては、裁判所に取消訴訟が提起できるのですが、解雇紛争のほとんどは労働委員会(地労委と中労委あり)で解決しており、裁判所での民事訴訟は圧倒的に少ないのです。このことは去年、日弁連韓国調査で韓国中労委、ソウル中央地裁労働部の裁判官から聞きました。)

諸外国の解雇規制の法律も、日本の労働契約法16条と同様に抽象的な法文になっています。これは解雇が様々な企業や労働者のケースがあり、裁判所が判断するか労働委員会(行政委員会)が判断するかにかかわらず、抽象的な文言で包括的に法律で定めるほかないからです。

■諸外国の法制を見ても、日本の労働契約法16条の法文が抽象的すぎるとの八代教授の批判は的外れでしょう。

では、解雇基準が抽象的だから、労働者の採用が減るのでしょうか

これは次回に検討します。(続く)

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八代尚宏教授の「正社員の解雇規制改革」批判(その1)-解雇規制は中小企業労働者や女性労働者を犠牲しているか?

■八代教授の「労働市場の規制改革」

八代尚宏教授は、「規制改革で何が変わるのか」(2013年8月10日ちくま新書)でも、相も変わらず、「解雇規制の緩和・解除」の論陣をはっています。同氏の主張は「日本的雇用慣行の経済学」(1997年日本経済新聞社)、「雇用改革の時代」(1999年中公新書)から変わっていません。

■解雇規制改革は中小企業労働者や女性労働者の利益のためか?

八代教授の立論は、旧来の日本的雇用システムに対して、企業(使用者)の利益から非難するのではなく、中小企業労働者、非正規労働者、女性労働者の利益を侵害しているとして攻撃することが特徴です。この点は1997年の著書からも一貫しています。

企業別に組織された日本の労働市場では、欧米のような経営者と労働組合との間の労使対立よりも、「労・労対立」-すなわち大企業と中小企業、男性と女性、正規雇用と非正規雇用など-多様な労働者間の利害対立から生じる問題が多い。このため特定の労働者の保護を目的とした規制が、他の労働者の雇用機会を損なうという矛盾が生じている。

企業別に組織された日本の労働市場では、労使間よりも規制で守られる企業内の労働者と、守られない企業外の労働者との間に利害対立が生じる「労・労対立」という面も重要である。

■「本丸は正社員の解雇規制改革」

八代教授は「本丸は正社員の解雇規制改革」と強調します。

労働者の産業間・企業間移動を円滑に行えるような効率的な労働市場の整備」のために「労働者に合理的な解雇ルールが必要となる

中高年の雇用保障と、六五歳までの継続雇用義務化(改正高齢者雇用安定法)は新卒採用の枠をさらに狭めている

要するに解雇規制の緩和・撤廃です。そのための「限定正社員」制度や「解雇の金銭解決制度」の導入、改正労働契約法18条・19条への非難や労働者派遣法の見直しです。

しかし、正社員の解雇規制を緩和をしても、非正規労働者や女性労働者の雇用が増加したり、賃金が上がったり、労働時間が短くなることはありません(きっぱり断言)

現実の日本社会では、現在の正社員が解雇しやすくなっても、若者や女性が正社員採用が増えるわけでなく、解雇された正社員が非正規労働者に入れ替えられるだけです。結局、非正規労働者と失業者が全体として増加し、競争が激しくなり、賃金はさらに低下することになるだけです。

高収入の正社員として採用されるのは、専門的職業能力や資格、語学力をもった少数のエリート労働者だけです。彼らが幹部や専門職として採用されるのです。

このことは、普通に日本社会で企業に勤めて働き、社会生活してきた人にはすぐわかることだと思います。

解雇規制は労働法のキイストーン(要石)

労働者が使用者の恣意的な解雇にさらさる場合には、使用者は、労働者の健康や安全、その人格を無視して、圧倒的な力の下で労務指揮権を自由に行使します。

解雇が怖い労働者は、異議を述べたり、抵抗することができません。労働条件はどんどん不利益に変更されます。「ブラック企業だ!」などと文句を言ったら、いつどんなことで解雇されるかわかりませんからからね。

ですから、使用者の恣意的な解雇から労働者を保護することは、労働法の根幹です。

安倍政権は、経済特区を突破口として雇用の規制緩和を実施することを決めたようです。この解雇規制の緩和・解除はなんとしても止めないと将来、真っ暗です。子どもや孫のために、これだけは阻止しないといけないと思います。

このことを社教授の同書の記述に即して書いてみたいと思います(続く)。

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2013年8月13日 (火)

読書日記「若者と労働」 濱口桂一郎 著

読書日記「若者と労働」 濱口桂一郎 著

中公新書ラクレ
2013年8月10日発行
2013年8月14日読了

 hamachanこと濱口桂一郎さんに「若者と労働-『入社』の仕組みから解きほぐす」を送ってもらいました。Amazonでも売り切れで、本屋で探していました。ありがとうございます。

■メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用

 「ジョブ型」と「メンバーシップ型」をキイワードとして、日本の若者の雇用問題を鮮やかに解説されています。特に、欧米のジョブ型労働社会を若者の「就職」の視点から詳細に紹介し、日本の若者の「入社」との差異が詳述されています。

 なお、ヨーロッパの若者の高失業率は、ジョブ型労働社会の帰結であることが丁寧に説明されています。「ヨーロッパでは解雇規制が厳しすぎるから、若者の失業率が高い」という俗論が一面的であることが良く分かりました。

 日本では、1990年代半ば以降、メンバーシップ型正社員が精鋭化・スリム化されることで若者たちがメンバーシップ型雇用システムから排除されるようになった。そして、漸く2000年以降、若者雇用問題が社会問題となり、政策化された。

 若者の雇用という視点から、労働社会の在り方を、広く深く検討する好著です。

■「若者雇用問題」への三つの処方箋

 著者は三つの処方箋を検討して、「ジョブ型正社員」を漸進戦略として推奨されます。

○全員メンバーシップ型雇用の処方箋は無理
 古き良き全員メンバーシップ型雇用を維持しようとすれば、職務や時間、空間が無限定という無理が温存されてしまう。この無限定を規制したら、長期の雇用保障はできなくなる。どちらにしても無理がある。

○全員ジョブ型雇用の処方箋も無理
 欧米のようにジョブが確立していない日本において、何も職業能力をもっていない若者が全員ジョブ型雇用されるということは非現実的である。

○漸進戦略としての「ジョブ型正社員」
 「ジョブ型正社員」とは、「職務や勤務場所、労働時間が限定されている無期雇用契約の労働者」です。(欧米のジョブ型社会ではないけど、「ジョブ型」なんですね。)

 現在不本意に非正規労働者になっていたり、不本意にメンバーシップ型正社員になっている人々に「ジョブ型正社員」という形でよりふさわしい雇用関係の受け皿を提供しようというものです。
 既存のメンバーシップ型正社員をしばらく、-当分は主流の存在として残しておきながら、・・・・「ジョブ型正社員」を確立し、徐々に拡大発展させていこうというシナリオなのです。

 このジョブ型正社員への移行は三つのルートが想定されています。

 反復更新された有期契約からジョブ型正社員への移行、女性向け「一般職」から男女共通のジョブ型正社員への移行、正社員から自発的なジョブ型正社員への移行

■著者の「ジョブ型正社員」は解雇規制の緩和とは直接は関わりはありません。

 もっとも、整理解雇については、解雇回避努力の範囲及び程度は従来のメンバーシップとは異なる結果になりうるが、ジョブ型自体はこれを目的とするものではないということです。

 ただ、「ジョブ型」と呼ぶのは、私にはしっくりきません。欧米のように「ジョブ」が社会化されていないにもかかわらず、敢えてジョブ型と呼ぶ必要があるでしょうか。

 また、全国に事業を展開しない中小企業の労働者は、ジョブ型とメンバーシップ型と截然と分けられるものではないでしょう。

 将来、「ジョブ型社会」を目指すからなのでしょうか。それとも、経営側に労働時間や勤務地の限定の労働者を受け入れさせるためには、メンバーシップ型正社員(企業の精鋭正社員)も残すからというメッセージが必要という実践的な配慮からなのでしょうか。

■メンバーシップ型労働者には労働時間規制は無理なのか

 濱口さんは、メンバーシップ型正社員について、職務、労働時間や勤務地の無限定は雇用安定と不可分一体であることを前提とされています。

 しかし、そうでしょうか。
 労働時間(残業)規制と広域配転の制約をメンバーシップ型正社員に及ぼすことが即、雇用の安定を諦めることにはならないのではないでしょうか。法的には両者はゼロサム関係には立たないと思います。確かに、最高裁判例は、残業義務や配転義務を長期雇用慣行(終身雇用)を根拠として、これを認めてきました。だからといって、法的には、残業義務等を否定したから即、解雇が緩和されることにはならないはずです。

 また、整理解雇の法理は、一定の要件(4要件)があれば、整理解雇は有効となるという法理でもあります。何が何でも解雇できないという法理ではありません。著者が指摘されているようにワークシェアリングという方策もあります。

■ヨーロッパのジョブ型労働社会は一つの理想型だが

 ヨーロッパの強力な産別労働組合と産別労働協約、ジョブ型労働、同一労働同一賃金の原則、政府による所得配分政策・社会保障政策(福祉国家)は、日本の労働運動の一つの目標でした。左派の一つのモデルでした。私もそう思います。

 ただ、日本の現実から見ると、残念ながら、あまりに社会基盤が違いすぎます。特に日本型企業別労働組合が決定的に異なります。将来的にはジョブ型社会が良いかどうかはともかく、現実には、ジョブ型社会になるのは日本では到底無理のように思えます。。

 だとしたら、日本のメンバーシップ型労働社会を変えるためには、似て非なるジョブ型を入れるよりも、メンバーシップ型を修正していく方向があるのではないでしょうか。

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2013年8月12日 (月)

「雇用制度改革」を考える(労働調査2013年8月号)

 労働調査協議会が発行している「労働調査」8月号で「雇用制度改革」を考えるという特集が掲載されています。私が「規制改革会議『雇用改革』批判」を書きました。

特集 「雇用制度改革」を考える
1 労働規制の緩和をめぐる政府での論議経過と連合の考え方
   杉山 豊治(連合・雇用法制対策局長)
2 規制改革会議「雇用改革」批判
   水口 洋介(弁護士)
3 「ジョブ型正社員」をめぐる錯綜
   濱口 桂一郎(労働政策研究・研修機構・客員研究員)
4 労働者の“つながり”をどのように構築するか?
   -デンマークからみた雇用制度改革-
   菅沼 隆(立教大学経済学部・教授)
5 日本的雇用慣行の功罪と雇用制度改革の方向性
   山本 勲(慶應義塾大学商学部・准教授)
          http://www.rochokyo.gr.jp/html/2013bn.html#8

 私の基本スタンスは簡単に言えば次のとおりです。


 雇用WG報告書が、日本型正社員の特徴を「無限定正社員」として、その問題を批判する点については賛成する。 しかし、その問題点を改善するために「限定正社員」を切り分けて、「限定正社員」について(のみ)労働時間や配転等を限定し、解雇規制(整理解雇法理)を緩和することには反対、というものです。

 メンバーシップ型労働契約であろうとジョブ型労働契約であろうと、労働者を解雇するには、労契法16条が共通して適用され、整理解雇にあっては4要件、特に解雇の必要性及び解雇回避努力義務が求められるべきです。

 その上で、日本型正社員の働き方を改善するには、労働組合は、次のような積極的な改善を要求していかなければならないと思います。

■真の雇用改革-労働者の雇用改革


 労働者にとって必要な雇用改革は、第1に、メンバーシップ型労働者であろうと、ジョブ型労働者であろうと、また正規、非正規にかかわらず、労働時間(残業)を厳格に規制することである。その上で、第2にワークシェア・リングを労使が推進することが必要である。第3に、非正規労働者を直接雇用・無期労働契約への転換を促進することが求められる。これらは女性労働者の差別是正の必要条件でもある。

 これに付け加えて、「均等待遇の原則」(同一労働・同一賃金の原則)ですが、職能等級制度を賃金の基本とするメンバーシップ型正社員、とジョブ型労働者が混在する日本雇用制度において、これをどのように実現するか。 立法論としても解釈論としても大きな課題です。労契法20条のような不合理な差別禁止法理を活用していくしかないのでしょう。

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