■ジョブ型正社員(限定型正社員)
勤務地や職務を限定、あるいは労働時間を限定した(短時間や残業無し)無期労働契約を締結した労働者を限定型正社員と言う。今までの無限定正社員(24時間戦える企業戦士)とは異なる人事ルール(解雇ルールを含め)を作ろうということうです。
政府の規制改革会議の雇用ワーキンググループの座長であり、オピニオンリーダーである鶴光太郎慶応大学教授は、このジョブ型正社員を普及・定着する必要性について、次のように述べています。
一つ、非正社員の雇用安定
有期から無期への転換をより容易にし、雇用の安定を高める
二つ、ファミリーフレンドリーでワークライフバランスが達成できる働き方の促進
勤務地限定型や労働時間限定型をライフスタイルに応じて選択する
三つ、女性の積極的活用
無限定正社員は、特に既婚女性にとっては不利。地域限定、労働時間限定型 の正社員は女性にとって活躍の場となる。
この一つ一つをとらえれば、とても良いことのようです。マスコミや一般国民には耳当たりの良いお話です。
■ジョブ型正社員の人事ルール
鶴教授は、具体的には、就業規則や労働契約でジョブ型正社員と無限定正社員を明確に区別して規定することとし、人事処遇上のルールを変えると言います。賃金は無限定正社員より安くなります。それ以上に解雇のルールを次のように変えるというのです。
○ ジョブ型正社員については、事業所閉鎖、事業や業務縮小などジョブが消失した場合を解雇事由に加える。具体的には、就業規則に「就業の場所及び従事すべき業務が消失したこと」を追加することを確認する。
○ ジョブ型正社員に対する解雇について、客観的合理性や社会的相当性のルールを策定する。立法事項とするのが難しければ解釈通達などで明文化する。
現状でも、実際の就業規則には、「事業所閉鎖や事業縮小の場合には解雇できる」ことは書かれています。現行労働契約法では、このような事由が就業規則に定められていても、労契法16条を根拠として判例の整理解雇法理が適用され、解雇回避努力などを使用者が尽くさなければ、解雇は無効です。
ところが、鶴教授は、上記の整理解雇判例法理が適用されるのは、無限定正社員だけであり、ジョブ型正社員には整理解雇の法理は適用されないということを主張しているのです。これは解雇の規制を緩和することにほかなりません。
■日本経団連のジョブ型正社員構想
このようなジョブ型正社員制度を立法化すべきとするのが日本経団連です。
日本経団連は、政府の雇用の規制改革に向けて、本年4月16日に発表した「労働者の活躍と企業の成長を促す労働法制」という文書です。経営の本流は、長谷川武田薬品社長の与太話のようなトンデモ解雇自由論ではなく、こちらの日本経団連です。
日本経団連は、労働時間法制の規制緩和だけでなく、勤務地・職種限定契約における使用者の雇用保障責任ルールの緩和を求めています。
「特定の勤務地ないし職種が消滅すれば契約が終了する旨を労働協約、就業規則、個別契約で定めた場合には、当該勤務地ないし職種が消滅した事実をもって契約を終了しても、解雇権濫用法理がそのまま当たらないことを法定すべきである。」
現状では、勤務地の事業所が閉鎖されたとしても、また職務がなくなったとしても、配転の可能性を検討しなければ解雇はできません。例えば、照明器具組立という職務(ジョブ)がなくなっても、携帯電話組立などの他の職務(ジョブ)への配置転換、解雇回避努力が当然求められます。
とろこが、就業規則や労働契約で、あなたの仕事(職務)は照明器具組立てだと指定されて、労働者が同意させられたら、その後、照明器具組立の職務がなくなったら、他の職務への配置転換などの解雇回避努力を尽くさなくても解雇が有効となるということです。
ヨーロッパでは、職務やジョブは社会的ルール(産別労働協約など)として確立しているのでしょうが、日本では、企業の就業規則や個別労働契約で企業が実質的に一方的に決めることになってしまうでしょう。その意味で、ジョブ型正社員は胡散臭いのです。
■無限定型正社員ってありか?
メンバーシップ正社員って無限定・無定量に働く義務があるのか?あるわけないじゃん。と思う。
そもそもジョブ型正社員つまり限定型正社員と無限定型正社員という区別自体が間違っていると思います。正社員であれば、【無条件に】、配転に応じる義務があり、【無限定に】残業に応じる義務があるという前提が間違っている。無限定正社員は、いわゆる「企業戦士」、「24時間戦え」という正社員像です。これはバブルの頃にはやったCMのもじりです。ブラック企業で生き残るには、このブラック企業戦士になるしかないでしょう。
その結果、過労死やメンタルヘルスの障害に悩む労働者が目立つようになったのです。ワークライフバランスやファミリーフレンドリーな働き方は、メンバーシップ型正社員であろうと、ジョブ型正社員であろうと、すべての労働者が求めるものです。
人間らしく働く権利、ディーセントワークは憲法の生存権を基礎とした労働者の権利です。ジョブ型正社員などを持ち出すことなく、メンバーシップであろうとなかろうと正社員・非正規社員すべてを無限定・無定量な労働(恒常的長時間残業)から解放して企業の雇用量を増大させるワークシェアリングの道こそ、すべての労働組合が追求すべきでしょう。
■労働弁護団の集会案内
ということで、労働弁護団は下記のとおり5月15日に労働規制緩和に反対する集会を持ちます。大阪市立大学の根本到教授には、ヨーロッパやドイツの法制も話してもらう予定です。
多くの方のご参加をお待ちしています。
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