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2013年3月 3日 (日)

債権法改正の中間試案(案)

■中間試案(案)のマスコミ報道

2010年10月から法務省法制審議会民法(債権関係)改正部会にて審議されてきた債権法改正の中間試案(案)が発表されています。正式な「中間試案」は3月中旬にも公表される予定だそうです。

マスコミも、大きく取り上げました。

○契約ルール、中小に配慮 民法改正中間試案(日経)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDC2600G_W3A220C1EA1000/
○民法改正:中間試案 国民目線に立てるか(毎日)
http://mainichi.jp/select/news/m20130227ddm012010063000c.html
○民法改正:「約款」の規定を新設 法制審の中間試案(毎日)
http://mainichi.jp/select/news/m20130227k0000m040051000c.html
○民法に「約款」規定 法定利率を変動制に 法制審中間試案(東京)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013022702000132.html
○契約ルール、120年ぶり全面改正へ 個人保証制度など(朝日)
http://www.asahi.com/national/update/0226/TKY201302260403.html
○「約款」のルール新設=ネット売買などで消費者保護
-法制審部会が民法改正試案 (時事)
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2013022600903
○不当な約款無効、消費者保護強化…民法改正試案(読売)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130226-OYT1T01429.htm?from=ylist

■主な改正項目
○約款規制の導入(約款の法的根拠と不当条項を違法とする規制導入)
○個人保証の制限
○法定利率の見直し(5%から3%に)
○消滅時効の見直し(短期消滅時効の廃止と、10年の消滅時効の短期化)
○暴利行為の無効
○情報提供義務の要件
等々

もっとも、これらはあくまで「中間試案」であり、2013年4月から6月までパブリックコメントを募集し、あと1年間、法制審部会で審議される予定とのことです。早ければ2015年の通常国会に民法(債権法)改正法案が提出される予定。

■暴利行為の規定の新設

具体例として、公序良俗の暴利行為の案をご紹介します。民法90条は、公序良俗に反する契約を無効としています。これに関して次のような改正中間試案(案)を提案しています。

公序良俗(民法第90条関係)
民法第90条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は,無効とするものとする。

(2) 相手方の困窮,経験の不足,知識の不足その他の相手方が法律行為をするかどうかを合理的に判断することができない事情があることを利用して,著しく過大な利益を得,又は相手方に著しく過大な不利益を与える法律行為は,無効とするものとする。

(注) 上記(2)(いわゆる暴利行為)について,相手方の窮迫,軽率又は無経験に乗じて著しく過当な利益を獲得する法律行為は無効とする旨の規定を設けるという考え方がある。また,規定を設けないという考え方がある。

上記(1)は現行民法とほぼ同じ、(2)は新たに法律に定めるということです。消費者や高齢者、また労働法の知識のない労働者に不利益を与えた場合には、違法無効とするという規定です。

■労働契約での具体例

例えば、もう5年も同じ会社で働いてきた6ヶ月契約の有期契約労働者(有期社員)が契約期間満了の1週間前に、使用者から次の有期契約で最後にするとの合意をするように迫られ、「もし次回で最後という合意しなければ、今回は更新しない」と通告を受けたとしましょう。

有期社員は、1週間後に職を失うわけにいかないため、やむなく最後の契約という合意にサインして(不更新合意)、もう有期契約を更新しました。そして、6ヶ月後に期間満了として雇止めをされました。

このような場合であっても、多くの裁判所は、更新しないという合意をした以上、有期社員には、雇用継続の合理的な期待はないとして使用者の雇止めを有効としています(大阪地判平17.1.13・近畿コカ・コーラボトリング事件、東京高判平24.9.20・本田技研工業事件)。

しかし、改正労働契約法では、有期契約労働者は、従前と同じ労働条件(有期かつ更新が可能であるという労働条件)で、更新の申込みができると定めています。労働者に雇用継続を期待する合理的な理由があると認められる場合には、使用者は、客観的合理的な理由及び社会通念上相当であるという事情がない限り、更新を承諾したものと見なされます。

したがって、上記の場合では、有期社員は、不更新の約束をしないで、有期の申込みをすることができます。ところが、有期社員は、労働法などの知識の不足により、失職という重大な不利益を被りました。こういう場合には、その不更新の約束は、民法90条に違反して、違法無効となります。

この暴利行為の新たな規定は、消費者契約だけでなく、情報量や交渉力で使用者に圧倒的に不利な立場にある労働者にとっても、公正な契約を実現するために重要な規定になります。

■暴利行為規定に対して経営者と一部の弁護士会が反対

この暴利行為の規定については、日本経団連や経済同友会は反対をしているようです。そこで、(注)で、このような規定を設けない考えがあると書いています。

なお、驚いたことに弁護士会の中で、この暴利行為の新設に反対している弁護士会があります。なぜ弁護士会が、この規定に反対するのでしょうか? 理解に苦しみます。

「濫用の危惧」とか、「そもそも債権法改正は新自由主義的改革の延長であり、債権法改正を必要とする立法事実がない」などという理由のようです。

■雇用についての中間試案(案)

中間試案(案)では、雇用について、次のような提案がされています。

1 報酬に関する規律(労務の履行が中途で終了した場合の報酬請求権)
(1) 労働者が労務を中途で履行することができなくなった場合には,労働者は,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができるものとする。

(2) 労働者が労務を履行することができなくなった場合であっても,それが契約の趣旨に照らして使用者の責めに帰すべき事由によるものであるときは,労働者は,反対給付を請求することができるものとする。この場合において,自己の債務を免れたことによって利益を得たときは,これを使用者に償還しなければならないものとする。

2 期間の定めのある雇用の解除(民法第626条関係)
  民法第626条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 期間の定めのある雇用において,5年を超える期間を定めたときは,当事者の一方は,5年を経過した後,いつでも契約を解除することができるものとする。

(2) 上記(1)により契約の解除をしようとするときは,2週間前にその予告をしなければならないものとする。

3 期間の定めのない雇用の解約の申入れ(民法第627条関係)
 民法第627条第2項及び第3項を削除するものとする。

上記1(2)は、従来は次のような案でした。

「使用者が労働者による労務の履行を妨害するなど,使用者の義務違反によって労務の履行が不可能になった場合には,労働者は,使用者に対し,約定の報酬の額から債務を免れることによって得た利益の額を控除した金額を請求することができる」

この案のように「使用者の義務違反」ということになると、現行法の「債権者(使用者)の責めに帰すべき事由」(民法536条2項)と異なり、賃金を請求することができる場合が極めて限定されるおそれがありました。工場が火災にあって、労務が履行できなくなった場合の賃金請求権の成否、解雇された場合、解雇が違法無効となった場合の賃金請求権の法的根拠などに大きな影響を与えることになります。

今回の中間試案(案)では、現行法を変更しない方向での案となっています。

上記2の(1)ですが、現行民法は次のように定めています。

民法626条
1 雇用の期間が五年を超え、又は雇用が当事者の一方若しくは第三者の終身の間継続すべきときは、当事者の一方は、五年を経過した後、いつでも契約の解除をすることができる。ただし、この期間は、商工業の見習を目的とする雇用については、十年とする。

2  前項の規定により契約の解除をしようとするときは、三箇月前にその予告をしなければならない。

労基法が適用されない家事使用人などの雇用契約には、民法の規定が適用されます。そこで、商工業の見習い10年という部分を削除するという内容です。

もっとも、労働基準法がほとんどの場合に適用されるので、労働者は労基法137条で一年過ぎたら何時でも退職することができることになっています。

まあ本当は、すべて労基法と同一の規制をすることのほうが良いのでしょうが。この雇用と労基法、労働契約法の統一(統合)は今後の課題です。

■今後について

約2年間にわたり、労働弁護団の意見書を法制審部会に提出したり、弁護士会の委員会を通じて意見を述べたり、また「連合」選出の法制審部会の委員もこの点について強く訴えていました。これらの努力の結果、上記のとおり、現行規定を踏まえた、より良い案が提案されています。

今後、債権法改正の中間試案を、さらに注目する必要があります。中間試案が提案されてから、少しずつ、このブログでも検討していきたいと思います。

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