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2013年3月20日 (水)

福島第1原発での下請労働者の問題 厚労省への要請

■厚労省への申入れと要請に赴く

今まで幾度か、福島第1原発の下請労働者の安全対策問題と偽装請負問題について、個別に相談のあった下請労働者の代理人として、安衛法違反や職安法違反で事業者を申告や告発をしてきました。このことはブログにも載せました。
http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2012/11/post-f143.html

そこで、厚労省の担当部署に日本労働弁護団として次のような申入れをしました。

原発労働は重層的下請構造のもとで原発作業員の健康に対する配慮をおよそ欠く事件が複数明らかになっています。一方で、偽装請負等違法な就労形態が横行し、原発作業員の安全衛生に対する責任の所在が不明確となっています。かかる問題は構造的なものであり、最早個別事案への対応のみでは是正できるものではないと考えております。偽装請負等違法な就労形態の根絶及び原発作業にかかる施設・設備を管理する注文主東京電力による直接的かつ一元的な安全衛生管理が必要不可欠であると考えます。

 
そこで、①労働安全衛生法第31条1項の「特定事業」に原発作業を加え、注文主たる電力会社に対して労働災害発生防止義務を課すこと、②偽装請負等違法な就労形態による原発作業の横行という事態に関する厚生労働省の対策・見解についてお伺いしたい。

■厚労省のご回答

 その上で、昨日、担当部署の担当官と意見交換(陳情?)をしてきました。担当部署は、労働基準局の安全衛生課と職業安定局の派遣・有期労働対策部でした。

■①安衛法問題について

担当者の回答は次のとおり。

 「安全衛生法31条については、電力事業が現在の政令で定める特定事業(建設業、造船業)に当たらないから適用できない。」と回答。

この点はそのとおり。だから、政省令の改正が検討課題となるので申し入れたのです。

また、「同31条は、電離放射線対策などの労働衛生を規制対象にしておらず、物理的な倒壊や事故などを対象とする規定であり、現行法令では規制のしようがなく、せいぜい指導することしかできない」と回答。 

これはおかしいでしょう。安衛法は、労働災害(業務に起因する負傷、疾病、死亡)防止のためであり、31条は安衛法第4章の労働者の危険又は健康障害を防止するための措置の章に位置づけられ、物理的な危険だけでなく、衛生上の健康障害防止も含まれるはずです。まあ、官僚解釈で、素人を煙にまく論述です。

さらに、「安衛法31条は、注文者が自ら工事を行うということが要件となっており、福島原発での東京電力の作業は、設計監理はしているが、施工管理をしていないと聞いているから同条は適用できない」と回答。

福島第1原発の復旧・廃炉作業については、東京電力は「設計・監理」しか行わず、「施工管理」をしていないというのが厚生労働省の認識であり、東電からそのような報告を受けているということでしょう(もし本当なら、廃炉作業は、国直轄の事業で行うべきです)。

これは私の推測ですが、安全衛生法違反の聴取の際に、東電は、このように弁明しており、元請や下請への責任転嫁をしているのではないでしょうか(担当者は、いやに自信たっぷりに応えていましたので。)。それっておかしいって思わないのでしょうか。(法曹であれば、東電が責任逃れに言っている可能性を念頭において事情聴取しますけどね。)なお、今、福島第1原発で停電したが、東電は設計監理をするだけで、現場での施工管理をしていないことになりますね。

要するに、厚生労働省は、「個別的に申告されたら対応しますが、それ以上は何もできせん(指導くらいするけど)。現行法では無理(言外に、「そんなこともわからんのか。だから一般人は困る。この忙しいのに時間のとらせやがって」)ということでしょう。  

いや、ごもっとも(誠に、ご多忙のところ申し訳ありません)。

でも、だから厚労省が政策官庁として、法令の改正を求めたらどうか、というのが、こちらの意見というが要望です。

われわれは、「重層下請構造で安全対策が必要なのは、建設業や造船業とまったく同じ構造であり、福島第1原発の場合には、東京電力が発注者として管理することが、労働者の安全にとって重要であり、法令の改正が必要ではないか」と述べましたが、これについては黙して語らずでした。

厚労省(というか、旧労働省)は監督官庁から政策官庁へというのがスローガンになったこともあったそうですが、やはり監督官庁なのですね。

■次に、②偽装請負の対策についてです。

公式回答は、要するに「労使ともに対象として職安法や派遣法についての啓発活動に努力します。個別に申告があれば適切に対応します」ということです。

朝日新聞は次のように報道しています。厚労省の担当官も知っていました。 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130312-00000008-asahi-soci

原発要員計画が破綻 福島第一、半数が偽装請負の疑い

政府と東電は昨年7月にまとめた工程表で、年間最大1万2千人の作業員が必要と試算し、2016年までは「不足は生じない見込み」と明記。福島第一で働く際に必要な放射線業務従事者の指定を昨年5月までに受けた2万4300人のうち、高線量を浴びた人を除く2万3300人を「再び従事いただける可能性のより高い母集団」と位置づけ、要員確保は十分可能と説明していた。

ところが東電が昨年9~10月に作業員4千人を対象にしたアンケートで、「作業指示している会社と給料を支給している会社は同じか」との質問に47%が「違う」と回答。

下請けが連なる多重請負構造の中で偽装請負が横行している実態が判明し、経済産業省は2万3300人を「母集団」とみるのは困難と判断して6月までに工程表を見直す方針を固めた。被曝(ひばく)記録より高い線量を浴びた人が多数いることも発覚し、「母集団」の根拠は揺らいでいる。舟木健太郎・同省資源エネルギー庁原発事故収束対応室長は「労働環境の改善は重要。工程表全体を見直す中で要員確保の見通しを検討する」と話す。

このようなアンケート調査の結果が出たが、厚労省では実態調査をしているかと聞いたところ、アンケートでは厳密な偽装請負かどうか判定できないとして、「朝礼で、元請の所長が挨拶しただけで、指揮監督を受けていると誤解して、アンケートに答えているかもしれない」ということでした。

まあ、これが厚労省の認識なんですね。

我々は、福島第1原発の廃炉事業は特別なケースだから、せめて二次下請までとして、原発作業従事者は、二次下請が全員を直接雇用するようにすべきではないかと述べたところ、担当者は、「重層下請構造自体は違法とは現行法では言えないので、十分な適切・適法な管理体制がないことを問題とする」ので、「重層下請構造自体を是正するように指導できない」と言う回答です。

■福島第1原発事故収束に対応した厚労省担当部署

最後に、朝日新聞報道によると、経産省には「原発事故収束対応室」があり、その室長が「労働環境の改善は重要」とコメントしているので、厚労省も、原発事故収束対応の部署があるのか、この経産省の対応室とどのような連携をしているのかを質問しました。これについては、承知していないというのが回答でした。

■歴史は繰り返され何も変わらない

30分の短い時間でしたが、要するに厚労省は、福島第1原発の安全対策や偽装請負問題は、一般の労災防止行政や労働監督行政の一つとして淡々と粛々とやるという姿勢であることが良く分かりました。

まあ、あと20年、30年はかかる廃炉作業の間に、下請労働者の労災事故、偽装請負、そして放射線障害の労災は、放置されて、将来に大きな問題になるのでしょう。そして、それは、国(厚労省)の責務ではなく、事業者や労働者がちゃんと法令を守らないからであって、国(厚労省)の落ち度でもなんでもないというスタンスなのです。

たしかに、建設アスベスト訴訟において、厚労省は、東京高裁向けの控訴理由書で、このような主張を提出しています。アスベストで肺ガン、中皮腫、石綿肺になるのは毎年なんと1000人も発症していますが、厚労省は、比率としては極めて僅かにすぎないとして、原告患者らは、自分で防じんマスクしなかった例外的な労働者であると言ってのけてますからね。さもありなんと思った一日でした。

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