« 2013年2月 | トップページ | 2013年4月 »

2013年3月29日 (金)

有期契約を理由とする不合理な労働条件の禁止(労働契約法20条) アンケートも

■4月1日施行の労働契約法新20条

(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
第20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締 結している労者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という)、当該職務の内容及び配置の変更範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
無期契約労働者(正社員)と有期契約労働者(有期社員)とに労働条件の格差があった場合には次の三要素を考慮して、不合理なものであると違法となるということです。
①業務の内容及び当該業務の責任の程度
②職務内容及び配置変更の範囲
③ その他の事情
■要素の説明
①は、業務内容は、担当業務の職種や作業内容を意味し、責任の程度は、業務遂行上の責任の程度、例えば残業に応じる責任や業務ミスの責任を負うかということです。
②は、担当職務や勤務場所が変更される予定か、昇進などがあるかなどです。いわゆる人材活用の仕組みです。
③は、採用手続や採用方法、勤続年数、労働組合との交渉などなど関連するすべての事情です。
■パート法との違い 正社員との同一性は要件でないこと。
パート法にも差別的取扱禁止規定がありますが、これは正社員とパート社員が職務内容ばかりでなく、配置転換や昇進などの人材活用の仕組みも正社員と同一であることが要件とされています。(そんなパート社員はいません)
しかし、労契法20条は、職務内容が同一でなくてもよいし、職務内容及び配置転換の範囲についても、正社員と同一である必要はありません。
したがって、労契法20条は、パート法8条よりも柔軟に解釈されるべきものです。パート法8条と同じ様に解釈してはなりません。
■対象となる労働条件は一切の処遇待遇
賃金、諸手当、賞与、退職金、労働時間だけでなく、安全規定、労災補償、服務規程、教育訓練、食堂利用などの福利厚生待遇も含まれます。
■具体例
労働条件は、それぞれの企業ごとに異なり、実態も違うので簡単に結論は出せないのですが、敢えて極単純化して私なりの結論を書いてみます。
○食堂利用
正社員は食堂利用できるが、有期社員は食堂利用ができないという格差は違法か。
→これは違法となります。
○慶弔休暇
正社員には慶弔休暇があるが、有期社員には慶弔規定がない格差は違法か。
→これも違法となります。
○安全装具の支給
正社員には、安全具(安全帽、安全手袋、防じんマスク等)が無償で支給されるが、有期社員には支給されない。
→これも違法
○通勤手当
正社員には通期手当がでるが、有期社員には通勤手当がでない。
→これも違法となるでしょう。
ただし、正社員と有期社員との通勤範囲の実態も考慮して差異がないかは確認すべきべきでしょう。
おそらく使用者は、正社員は長期勤続を想定して配転が多く長距離通勤が生じるから通勤手当を支給するが、有期社員は配転が予定されず勤務場所の近くの人しか雇わないのでで、通勤手当を払わないと主張してくることでしょう。この点は各職場の実態を見て反論する必要があります。
○住宅手当
正社員には月額2万円の住宅手当が出るが、有期社員には出ない。
→三要素を考慮して不合理として違法となる場合がある。
使用者は、住宅手当について、長期雇用を前提として配転などがある正社員への援助であるから、合理性があると主張するでしょう。
しかし、実際、正社員の配転の実態などを見て、有期社員と実質的に変わらないのであれば、少なくとも一定の勤続年数以上の有期社員との格差は違法となる可能性が高い。
例えば、実際には配転が多くないにもかかわらず、配転しない正社員にも住宅手当が支給されているが、5年~10年勤続してきた有期社員には一切、住宅手当は支給されないような場合には不合理な格差となるでしょう。
○賃金などについても
違法となる場合もあるでしょう。特に、正社員の昇進や配転が多い大企業よりも、中小企業のほうが格差の不合理性が明白になることが多いと思います。
■有期社員のアンケートの実施を
労働組合で次のような有期社員の労働条件について、アンケートを実施して、格差の是正を要求することが必要でしょう。
              有期社員の労働条件アンケート(案)
 
 2013年4月1日から労働契約法が改正され、有期契約であることを理由とした不合理な労働条件を設けることが違法となりました(同法20条)。そこで、有期社員の労働条件改善のため下記の質問をしたいと思います。よろしくご協力下さるようお願いします。
1 あなたの会社の業種は何でしょうか?
    □製造業、□販売業、□飲食業、□金融・保険業、□情報システム業、□福祉
2 あなたの会社の従業員数は、およそ何人ですか?
       (    )人  ※だいたいの人数で結構です
3 あなたの会社に有期社員(パートやアルバイト、嘱託等も含めて)何名ですか?
      (    )人  ※だいたいの人数で結構です
4 有期パート社員は何人ですか?
            (    )人 ※だいたいの人数で結構です
5  有期のパート社員の1日の労働時間、週の労働日数は何日ですか?
            一日(   )時間、週(   )日
6 フルタイムの契約社員・嘱託社員は何人ですか?
            (    )人 ※だいたいの人数で結構です
7 正社員に支給されて、有期社員に支給されていない手当はありますか?
 次の中から選んで下さい。
  □ 交通手当・通勤手当
  □ 食事手当
  □ 住居手当
  □ 営業手当
  □ その他手当(              )
8 賞与は有期社員に支給されますか?
  □ 支給されない
  □ 支給される
    → □正社員と同じ
    → □正社員より低い  → どのくらいの差ですか?(      )
9 休暇等で正社員にはあるのに、有期社員にはない休暇等の制度はありますか?
 次の中から選んで下さい。
  □ 育児・介護休暇、□慶弔休暇、□結婚休暇、□病気休暇、□休職制度
  □ その他(       )
10 正社員には利用できて、有期社員に利用できない制度はありますか?
 次の中から選んで下さい。
  □ 社員食堂の利用
  □ 安全具の支給(マスクや手袋、安全靴など)の支給
  □ その他(                )
11 有期社員として不満や不安に感じていることがあれば自由に記入下さい。
        差し支えなければ社名、ご氏名等を記載下さい 
        社 名(            )
        ご氏名(             ) 連絡先(           )
 ありがとうございました。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年3月20日 (水)

福島第1原発での下請労働者の問題 厚労省への要請

■厚労省への申入れと要請に赴く

今まで幾度か、福島第1原発の下請労働者の安全対策問題と偽装請負問題について、個別に相談のあった下請労働者の代理人として、安衛法違反や職安法違反で事業者を申告や告発をしてきました。このことはブログにも載せました。
http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2012/11/post-f143.html

そこで、厚労省の担当部署に日本労働弁護団として次のような申入れをしました。

原発労働は重層的下請構造のもとで原発作業員の健康に対する配慮をおよそ欠く事件が複数明らかになっています。一方で、偽装請負等違法な就労形態が横行し、原発作業員の安全衛生に対する責任の所在が不明確となっています。かかる問題は構造的なものであり、最早個別事案への対応のみでは是正できるものではないと考えております。偽装請負等違法な就労形態の根絶及び原発作業にかかる施設・設備を管理する注文主東京電力による直接的かつ一元的な安全衛生管理が必要不可欠であると考えます。

 
そこで、①労働安全衛生法第31条1項の「特定事業」に原発作業を加え、注文主たる電力会社に対して労働災害発生防止義務を課すこと、②偽装請負等違法な就労形態による原発作業の横行という事態に関する厚生労働省の対策・見解についてお伺いしたい。

■厚労省のご回答

 その上で、昨日、担当部署の担当官と意見交換(陳情?)をしてきました。担当部署は、労働基準局の安全衛生課と職業安定局の派遣・有期労働対策部でした。

■①安衛法問題について

担当者の回答は次のとおり。

 「安全衛生法31条については、電力事業が現在の政令で定める特定事業(建設業、造船業)に当たらないから適用できない。」と回答。

この点はそのとおり。だから、政省令の改正が検討課題となるので申し入れたのです。

また、「同31条は、電離放射線対策などの労働衛生を規制対象にしておらず、物理的な倒壊や事故などを対象とする規定であり、現行法令では規制のしようがなく、せいぜい指導することしかできない」と回答。 

これはおかしいでしょう。安衛法は、労働災害(業務に起因する負傷、疾病、死亡)防止のためであり、31条は安衛法第4章の労働者の危険又は健康障害を防止するための措置の章に位置づけられ、物理的な危険だけでなく、衛生上の健康障害防止も含まれるはずです。まあ、官僚解釈で、素人を煙にまく論述です。

さらに、「安衛法31条は、注文者が自ら工事を行うということが要件となっており、福島原発での東京電力の作業は、設計監理はしているが、施工管理をしていないと聞いているから同条は適用できない」と回答。

福島第1原発の復旧・廃炉作業については、東京電力は「設計・監理」しか行わず、「施工管理」をしていないというのが厚生労働省の認識であり、東電からそのような報告を受けているということでしょう(もし本当なら、廃炉作業は、国直轄の事業で行うべきです)。

これは私の推測ですが、安全衛生法違反の聴取の際に、東電は、このように弁明しており、元請や下請への責任転嫁をしているのではないでしょうか(担当者は、いやに自信たっぷりに応えていましたので。)。それっておかしいって思わないのでしょうか。(法曹であれば、東電が責任逃れに言っている可能性を念頭において事情聴取しますけどね。)なお、今、福島第1原発で停電したが、東電は設計監理をするだけで、現場での施工管理をしていないことになりますね。

要するに、厚生労働省は、「個別的に申告されたら対応しますが、それ以上は何もできせん(指導くらいするけど)。現行法では無理(言外に、「そんなこともわからんのか。だから一般人は困る。この忙しいのに時間のとらせやがって」)ということでしょう。  

いや、ごもっとも(誠に、ご多忙のところ申し訳ありません)。

でも、だから厚労省が政策官庁として、法令の改正を求めたらどうか、というのが、こちらの意見というが要望です。

われわれは、「重層下請構造で安全対策が必要なのは、建設業や造船業とまったく同じ構造であり、福島第1原発の場合には、東京電力が発注者として管理することが、労働者の安全にとって重要であり、法令の改正が必要ではないか」と述べましたが、これについては黙して語らずでした。

厚労省(というか、旧労働省)は監督官庁から政策官庁へというのがスローガンになったこともあったそうですが、やはり監督官庁なのですね。

■次に、②偽装請負の対策についてです。

公式回答は、要するに「労使ともに対象として職安法や派遣法についての啓発活動に努力します。個別に申告があれば適切に対応します」ということです。

朝日新聞は次のように報道しています。厚労省の担当官も知っていました。 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130312-00000008-asahi-soci

原発要員計画が破綻 福島第一、半数が偽装請負の疑い

政府と東電は昨年7月にまとめた工程表で、年間最大1万2千人の作業員が必要と試算し、2016年までは「不足は生じない見込み」と明記。福島第一で働く際に必要な放射線業務従事者の指定を昨年5月までに受けた2万4300人のうち、高線量を浴びた人を除く2万3300人を「再び従事いただける可能性のより高い母集団」と位置づけ、要員確保は十分可能と説明していた。

ところが東電が昨年9~10月に作業員4千人を対象にしたアンケートで、「作業指示している会社と給料を支給している会社は同じか」との質問に47%が「違う」と回答。

下請けが連なる多重請負構造の中で偽装請負が横行している実態が判明し、経済産業省は2万3300人を「母集団」とみるのは困難と判断して6月までに工程表を見直す方針を固めた。被曝(ひばく)記録より高い線量を浴びた人が多数いることも発覚し、「母集団」の根拠は揺らいでいる。舟木健太郎・同省資源エネルギー庁原発事故収束対応室長は「労働環境の改善は重要。工程表全体を見直す中で要員確保の見通しを検討する」と話す。

このようなアンケート調査の結果が出たが、厚労省では実態調査をしているかと聞いたところ、アンケートでは厳密な偽装請負かどうか判定できないとして、「朝礼で、元請の所長が挨拶しただけで、指揮監督を受けていると誤解して、アンケートに答えているかもしれない」ということでした。

まあ、これが厚労省の認識なんですね。

我々は、福島第1原発の廃炉事業は特別なケースだから、せめて二次下請までとして、原発作業従事者は、二次下請が全員を直接雇用するようにすべきではないかと述べたところ、担当者は、「重層下請構造自体は違法とは現行法では言えないので、十分な適切・適法な管理体制がないことを問題とする」ので、「重層下請構造自体を是正するように指導できない」と言う回答です。

■福島第1原発事故収束に対応した厚労省担当部署

最後に、朝日新聞報道によると、経産省には「原発事故収束対応室」があり、その室長が「労働環境の改善は重要」とコメントしているので、厚労省も、原発事故収束対応の部署があるのか、この経産省の対応室とどのような連携をしているのかを質問しました。これについては、承知していないというのが回答でした。

■歴史は繰り返され何も変わらない

30分の短い時間でしたが、要するに厚労省は、福島第1原発の安全対策や偽装請負問題は、一般の労災防止行政や労働監督行政の一つとして淡々と粛々とやるという姿勢であることが良く分かりました。

まあ、あと20年、30年はかかる廃炉作業の間に、下請労働者の労災事故、偽装請負、そして放射線障害の労災は、放置されて、将来に大きな問題になるのでしょう。そして、それは、国(厚労省)の責務ではなく、事業者や労働者がちゃんと法令を守らないからであって、国(厚労省)の落ち度でもなんでもないというスタンスなのです。

たしかに、建設アスベスト訴訟において、厚労省は、東京高裁向けの控訴理由書で、このような主張を提出しています。アスベストで肺ガン、中皮腫、石綿肺になるのは毎年なんと1000人も発症していますが、厚労省は、比率としては極めて僅かにすぎないとして、原告患者らは、自分で防じんマスクしなかった例外的な労働者であると言ってのけてますからね。さもありなんと思った一日でした。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年3月17日 (日)

解雇自由化と解雇金銭解決制度 「解雇の沙汰も金次第」第2ラウンド

■民法627条の解雇の自由

長谷川閑史(武田薬品社長・1946年生)が、内閣にもうけられた産業競争力会議の第4回会議で、労働契約法16条を見直して、民法627条1項のいつでも解雇できると定め、また、解雇の金銭解決制度を導入するように提言しています。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai4/siryou2.pdf

これを朝日新聞も大きく報道していました。

http://www.asahi.com/business/update/0307/TKY201303060639.html

■規制改革会議の雇用ワーキンググループでも

鶴光太郎教授(慶応大学)も、解雇ルールの見直しを提言し、解雇金銭補償制度と正社員の多様化を突破口にすると述べています。

http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130225/item10.pdf

■前にも聞いた歌

解雇の自由化と解雇の金銭解決制度は、小泉内閣の時にも、規制改革会議の福井秀夫氏やオリックスの宮内、八代教授らが大きな声で歌っていました。

小泉政権のもと、厚労省は、2006年、労働契約法で解雇の金銭解決制度を導入する一歩手前まで勧めました。

「解雇の沙汰も金次第?」というブログを2006年に書きました。

http://app.m-cocolog.jp/t/typecast/116589/104432/10859541

再度、登場でデ・ジャブみたいです。

■アベノミクスの三本目の矢は、相も変わらず規制撤廃の「新自由主義」

アベノミクスの一本と二本目の矢は、短期的な景気対策ですが、三本目の矢は、雇用流動化と解雇自由化です。

もっとも、この武田薬品の社長さんは民法627条のように解雇自由にしたいと言いながら、他方で、解雇金銭補償制度を導入すると言っています。解雇自由なら、解雇に金銭も支払う必要もないわけです。ですから、この社長さんは法律的なことは、ちっとも分かっていない方です。

同氏は、武田薬品のヨーロッパ現地法人の社長(ドイツ)もやった方のようですが、ドイツの労働法はまったく知らないのですね。世界標準の解雇ルールだと、解雇は正当な理由が必要とするのが世界標準ルールであり、解雇自由は米国のローカル・ルールでしょうに。

他方、鶴光太郎教授は、次のように短期的な具体策をあげます。

正社員の次の3要素(「鉄の三角形」のように相互の補完性が強い)のどれから
改革の「突破口」を切り開くのか

(1)無限定社員(将来の職務・勤務地等の無限定)⇒ 地域・職務限定型正社員
の雇用ルール整備

(2)期間の定めのない雇用(無期雇用)⇒ テニュア制度(数年の有期契約で能
力が認められれば正社員に転換する仕組み)の雇用ルール整備

(3)判例に基づく解雇権濫用法理による解雇ルール ⇒「解雇補償金制度」の創

この中で、鶴教授は、「判例に基づく解雇権濫用法理による解雇ルール」と書いています。まさか、この方が労働契約法16条があることを知らないわけはないでしょう。

ですから、この「判例法理に基づく解雇ルール」っていうのは、「整理解雇法理」を意味しているのかもしれません。この整理解雇を対象として、「解雇補償金制度」を導入しようとしているのでしょうか。

この規制改革ワーキング・グループの専門委員に、労働法学者の島田陽一教授、水町勇一郎教授が入っています。お二人は、労働政策審議会の公益委員となる方々です。

この方々は、2005年の厚労省のもとでの「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」報告書と同様の意見を述べることでしょう。次の意見書を再読したほうが良いようですね。

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/09/dl/s0915-4d.pdf

この報告書では、解雇の金銭解決制度が提案されていました。しかし、この制度は、男女差別や不当労働行為解雇のような場合にも「金で解決」するという不合理さが指摘され、また裁判所側の反対にあって、頓挫したものでした。

これがまたぞろ復活ですか。

■規制改革会議雇用ワーキング・グループへの抗議の行動を

内閣の規制改革会議で、大方針が決まれば、労働政策審議会は、その大方針に従い審議をすすめることになります。

したがって、特に規制改革会議の雇用WGで解雇規制の撤廃や解雇金銭補償制度を決めさせないように、労働組合は、抗議行動や運動を同規制改革雇用WGに集中させるべきです。もはや労働政策審議会になって具体化してからでは遅いです。労働者の代表も入れずに審議することが問題です。

しかも、この雇用WGの会議が非公開で傍聴もできないようです。今頃、非公開のワーキング・グループで議論を進めるなんて時代遅れもいいとこです。労働者・労働組合は、この規制改革会議の雇用WGの傍聴を求め、また、会議開催日には、デモや座り込みをして抗議行動をするべきでしょう。

しかし、ある種の経済学者って、本当に心から、私心なく、解雇を自由にしたら景気も経済も良くなるって思っているものなのですね。

仮に日本企業が不効率で衰退しているのであれば、誰よりも責任を負うべきは経営者・役員です。企業の業績悪化は経営者の無能の証。しかも、取締役は委任だから、短期に自由に解任しても全く問題はない(民法651条1項)。

が、そんなことは経済学者も誰も言わず、労働者の解雇自由は大声で言われるのはなぜでしょう?

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年3月 8日 (金)

有期労働契約の「更新上限の合意」への対応策

■労働弁護団 有期契約ホットライン 相談例

昨日3月7日、労働弁護団で有期労働契約についての全国ホットラインを実施しました。相談件数は、東京で39件でした。

ただ、改正有期労働契約に関して次のような相談が寄せられました。

今まで、有期で5年、10年働いてきたのに、会社の有期社員全員に、今年4月から、更新上限を5年と書かれた有期労働契約書を締結するように言われている

懸念された無期転換ルールを回避するために更新の上限を決める就業規則や契約書を提示するという動きです。

■法律解釈

従来、更新の上限が定められておらず、更新の可能であるという有期契約を締結してきた有期社員にとっては、当該有期労働契約の内容(労働条件)は、更新の上限なしです。

今回の改正労契法の18条(4月1日から19条)は、有期社員が従来の労働契約と同一の労働条件で更新を申し込むことができると定めています。使用者は、客観的合理的な理由及び社会通念上相当でなければ更新を拒めず、「従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件」で有期労働契約が更新されることになります。

したがって、有期社員が更新の申込みをすれば、従前の「更新上限なし」の有期労働契約の更新を使用者は承諾しなければなりません(客観的合理的な理由及び社会通念上相当と認められる雇止めの理由がないかぎり)。

この際、使用者が、当該有期社員が「更新の上限を定めることに同意しないから」として雇止めをした場合には、当該雇止めは、無期転換ルールを定めた労働契約法の趣旨及び労契法18条(4月1日から19条)に反し、違法となります。

■有期社員及び労働組合がとるべき対応

○準備行動

先ず、有期社員は、使用者に、もしこの合意をしなければどうなるかを質問する。

この場合、使用者は、「合意しなければ、すぐ3月末で雇止めをする」と回答するでしょうから、この回答をしっかりメモや録音しておくことが重要です。

○理想的な行動パターン

更新合意を締結することなく、従前の有期労働契約(更新上限なしの有期契約)を申し込む。使用者は、上記の法律解釈のとおり、これを理由に雇止めをすることはできない。

仮に、使用者が雇止めをしても、その雇止めは無効となります。

勇気のある有期社員で、労働組合が応援してくれる人は是非、この対応をとることをお勧めします。
都内の方であれば、私が代理人になって会社と交渉してもいいです。雇止めされたら労働審判でたたかいましょう。

○現実的な行動パターン

しかし、有期社員は雇止めされたら困りますので、不承不承でも更新上限の記載のある契約書にサインをしてしまうでしょう。

でも、この場合でもあきらめる必要はありません。

上記の準備行動をして、使用者が、合意しなければ雇止めをすると回答したことを記録しておくことが重要です(文書、録音、メモ)。

その上で、更新の上限を定められた有期労働契約書に署名した後、かつ、契約更新して、2,3日働いてから、労働組合があれば、労働組合が、次のような要求書を会社に提出しましょう。

○○株式会社  御中

今回の更新上限の合意は、労契法18条の潜脱(せんだつ)するもので、改正労契法の趣旨に反して違法無効であり、撤回を求める。

                                                        ○○○○ユニオン

もちろん、有期社員個人で、このような異議を述べることをしても良いのですが、一人では弱い立場なので、労働組合に応援してもらうのがベターです。

もし、この異議申入れを理由にして、使用者が「やっぱり雇止めをする」と言ってきても、これも違法となり、雇止めは法的に無効です。

会社に労働組合がない場合には、地域の誰でも入れる労働組合に相談することをお勧めします。または、日本労働弁護団の所属の弁護士に相談して下さい。

■就業規則の変更への対応

なお、有期社員向けの就業規則に、今まで更新の上限がないにもかかわらず、有期契約の更新の上限が新たに定められた場合には、労働条件の不利益変更(更新の上限のない労働条件から、更新上限のある労働条件への不利益変更)ですから、労働契約法10条違反です。従前からの有期社員(有期契約労働者)を法的に拘束することはできません。

労基署は、本来、このような就業規則の変更は、改正労契法新18条違反として、受理せず、変更を命令すべきですね。

■働く人のための「改正労契法等マニュアル」

日本労働弁護団は、労働者の視点にたってのマニュアルを作成して、頒布しています。我々、労働弁団所属の労働弁護士が、使用者の対応を睨んで、実践的な労働者・労組の対応を考えて、解説した本です。興味のある方は、日本労働弁護団のHPを参照ください。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2013年3月 3日 (日)

債権法改正の中間試案(案)

■中間試案(案)のマスコミ報道

2010年10月から法務省法制審議会民法(債権関係)改正部会にて審議されてきた債権法改正の中間試案(案)が発表されています。正式な「中間試案」は3月中旬にも公表される予定だそうです。

マスコミも、大きく取り上げました。

○契約ルール、中小に配慮 民法改正中間試案(日経)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDC2600G_W3A220C1EA1000/
○民法改正:中間試案 国民目線に立てるか(毎日)
http://mainichi.jp/select/news/m20130227ddm012010063000c.html
○民法改正:「約款」の規定を新設 法制審の中間試案(毎日)
http://mainichi.jp/select/news/m20130227k0000m040051000c.html
○民法に「約款」規定 法定利率を変動制に 法制審中間試案(東京)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013022702000132.html
○契約ルール、120年ぶり全面改正へ 個人保証制度など(朝日)
http://www.asahi.com/national/update/0226/TKY201302260403.html
○「約款」のルール新設=ネット売買などで消費者保護
-法制審部会が民法改正試案 (時事)
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2013022600903
○不当な約款無効、消費者保護強化…民法改正試案(読売)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130226-OYT1T01429.htm?from=ylist

■主な改正項目
○約款規制の導入(約款の法的根拠と不当条項を違法とする規制導入)
○個人保証の制限
○法定利率の見直し(5%から3%に)
○消滅時効の見直し(短期消滅時効の廃止と、10年の消滅時効の短期化)
○暴利行為の無効
○情報提供義務の要件
等々

もっとも、これらはあくまで「中間試案」であり、2013年4月から6月までパブリックコメントを募集し、あと1年間、法制審部会で審議される予定とのことです。早ければ2015年の通常国会に民法(債権法)改正法案が提出される予定。

■暴利行為の規定の新設

具体例として、公序良俗の暴利行為の案をご紹介します。民法90条は、公序良俗に反する契約を無効としています。これに関して次のような改正中間試案(案)を提案しています。

公序良俗(民法第90条関係)
民法第90条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は,無効とするものとする。

(2) 相手方の困窮,経験の不足,知識の不足その他の相手方が法律行為をするかどうかを合理的に判断することができない事情があることを利用して,著しく過大な利益を得,又は相手方に著しく過大な不利益を与える法律行為は,無効とするものとする。

(注) 上記(2)(いわゆる暴利行為)について,相手方の窮迫,軽率又は無経験に乗じて著しく過当な利益を獲得する法律行為は無効とする旨の規定を設けるという考え方がある。また,規定を設けないという考え方がある。

上記(1)は現行民法とほぼ同じ、(2)は新たに法律に定めるということです。消費者や高齢者、また労働法の知識のない労働者に不利益を与えた場合には、違法無効とするという規定です。

■労働契約での具体例

例えば、もう5年も同じ会社で働いてきた6ヶ月契約の有期契約労働者(有期社員)が契約期間満了の1週間前に、使用者から次の有期契約で最後にするとの合意をするように迫られ、「もし次回で最後という合意しなければ、今回は更新しない」と通告を受けたとしましょう。

有期社員は、1週間後に職を失うわけにいかないため、やむなく最後の契約という合意にサインして(不更新合意)、もう有期契約を更新しました。そして、6ヶ月後に期間満了として雇止めをされました。

このような場合であっても、多くの裁判所は、更新しないという合意をした以上、有期社員には、雇用継続の合理的な期待はないとして使用者の雇止めを有効としています(大阪地判平17.1.13・近畿コカ・コーラボトリング事件、東京高判平24.9.20・本田技研工業事件)。

しかし、改正労働契約法では、有期契約労働者は、従前と同じ労働条件(有期かつ更新が可能であるという労働条件)で、更新の申込みができると定めています。労働者に雇用継続を期待する合理的な理由があると認められる場合には、使用者は、客観的合理的な理由及び社会通念上相当であるという事情がない限り、更新を承諾したものと見なされます。

したがって、上記の場合では、有期社員は、不更新の約束をしないで、有期の申込みをすることができます。ところが、有期社員は、労働法などの知識の不足により、失職という重大な不利益を被りました。こういう場合には、その不更新の約束は、民法90条に違反して、違法無効となります。

この暴利行為の新たな規定は、消費者契約だけでなく、情報量や交渉力で使用者に圧倒的に不利な立場にある労働者にとっても、公正な契約を実現するために重要な規定になります。

■暴利行為規定に対して経営者と一部の弁護士会が反対

この暴利行為の規定については、日本経団連や経済同友会は反対をしているようです。そこで、(注)で、このような規定を設けない考えがあると書いています。

なお、驚いたことに弁護士会の中で、この暴利行為の新設に反対している弁護士会があります。なぜ弁護士会が、この規定に反対するのでしょうか? 理解に苦しみます。

「濫用の危惧」とか、「そもそも債権法改正は新自由主義的改革の延長であり、債権法改正を必要とする立法事実がない」などという理由のようです。

■雇用についての中間試案(案)

中間試案(案)では、雇用について、次のような提案がされています。

1 報酬に関する規律(労務の履行が中途で終了した場合の報酬請求権)
(1) 労働者が労務を中途で履行することができなくなった場合には,労働者は,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができるものとする。

(2) 労働者が労務を履行することができなくなった場合であっても,それが契約の趣旨に照らして使用者の責めに帰すべき事由によるものであるときは,労働者は,反対給付を請求することができるものとする。この場合において,自己の債務を免れたことによって利益を得たときは,これを使用者に償還しなければならないものとする。

2 期間の定めのある雇用の解除(民法第626条関係)
  民法第626条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 期間の定めのある雇用において,5年を超える期間を定めたときは,当事者の一方は,5年を経過した後,いつでも契約を解除することができるものとする。

(2) 上記(1)により契約の解除をしようとするときは,2週間前にその予告をしなければならないものとする。

3 期間の定めのない雇用の解約の申入れ(民法第627条関係)
 民法第627条第2項及び第3項を削除するものとする。

上記1(2)は、従来は次のような案でした。

「使用者が労働者による労務の履行を妨害するなど,使用者の義務違反によって労務の履行が不可能になった場合には,労働者は,使用者に対し,約定の報酬の額から債務を免れることによって得た利益の額を控除した金額を請求することができる」

この案のように「使用者の義務違反」ということになると、現行法の「債権者(使用者)の責めに帰すべき事由」(民法536条2項)と異なり、賃金を請求することができる場合が極めて限定されるおそれがありました。工場が火災にあって、労務が履行できなくなった場合の賃金請求権の成否、解雇された場合、解雇が違法無効となった場合の賃金請求権の法的根拠などに大きな影響を与えることになります。

今回の中間試案(案)では、現行法を変更しない方向での案となっています。

上記2の(1)ですが、現行民法は次のように定めています。

民法626条
1 雇用の期間が五年を超え、又は雇用が当事者の一方若しくは第三者の終身の間継続すべきときは、当事者の一方は、五年を経過した後、いつでも契約の解除をすることができる。ただし、この期間は、商工業の見習を目的とする雇用については、十年とする。

2  前項の規定により契約の解除をしようとするときは、三箇月前にその予告をしなければならない。

労基法が適用されない家事使用人などの雇用契約には、民法の規定が適用されます。そこで、商工業の見習い10年という部分を削除するという内容です。

もっとも、労働基準法がほとんどの場合に適用されるので、労働者は労基法137条で一年過ぎたら何時でも退職することができることになっています。

まあ本当は、すべて労基法と同一の規制をすることのほうが良いのでしょうが。この雇用と労基法、労働契約法の統一(統合)は今後の課題です。

■今後について

約2年間にわたり、労働弁護団の意見書を法制審部会に提出したり、弁護士会の委員会を通じて意見を述べたり、また「連合」選出の法制審部会の委員もこの点について強く訴えていました。これらの努力の結果、上記のとおり、現行規定を踏まえた、より良い案が提案されています。

今後、債権法改正の中間試案を、さらに注目する必要があります。中間試案が提案されてから、少しずつ、このブログでも検討していきたいと思います。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2013年2月 | トップページ | 2013年4月 »