アベノミクス 「アメリカは日本経済の復活を知っている」(浜田宏一著)と「不況は人災です」(松尾匡著)
■アベノミクス
日銀が政府の圧力により、なんとかインフレ目標2%をかかげる。13兆円の補正予算が衆議院では成立。2割の円安の達成。株価の上昇。
麻生財務相が、何もしないでアゴをなでただけで円安、株高だと言ったと新聞に出ていましたが、そのとおりです。民主党政権が3年たっても実現できなかったことを2ヶ月で成果をだしました。これが今年の7月の参議院選挙まで続くのでしょうか。たぶん、続くでしょう。
■浜田宏一著「アメリカは日本経済の復活を知っている」
安倍首相のブレインの本を読みました。しかし、著名なアメリカの経済学者と著者の親密な関係にあることの披露が鼻につき、金融緩和策が有効な理屈は、経済学音痴の私にはよく分かりませんでした。唯一、ソロス・チャートの話が記憶にのこっただけ。
円・ドルレートは、日米の通貨の交換比率なので、日本の通貨量が増えれば円安になり、アメリカの通貨量が増えれば円高になる。
リーマン危機のあと、米英がいわば緊急避難として、めちゃくちゃに通貨量が増加させたが、日本銀行は無策のままであった。
■松尾匡著「不況は人災です」
これは2010年発行です。アベノミクス前のアベノミクスですが、経済学の素人にもわかりやすかった。著者は、置塩信雄(マルクス経済学)の弟子です(本人もマルクス経済学)。でも、いわゆる「近代経済学」(古いか)を駆使するマルクス経済学者のようです。
2002年が不況のどん底で、2006年まで実質GDPが良くなったという経済統計を用いて金融緩和とインフレ目標が景気を良くすることを説明しています。
この期間、設備投資が増えて、実質GDPが増加したそうです。
設備投資(企業の生産設備の投資)が増加するのは、収益率が利子率より高い場合である。
利子率が上がると設備投資は減る。利子率が下がると設備投資は増える。
2002年に前年比マイナス5.2%という落ち込みをを見せていた民間企業設備投資は、03年には4.4%の増加、04年には5.6%、05年には9.2%に拡大し、景気回復をもたらしたのでした。
なぜ、このような設備投資が増えたのか。
その理由は、予想インフレ率が上がるという予想が広がったことと、日銀の「量的緩和」という金融緩和策がはじまったからといいます。
これを実施したのは、福井敏彦日銀総裁です。ところが、この金融緩和は、2006年3月に打ち止めされて、その結果、不景気がさらに深刻化した。
英米は、積極的に金融緩和策に打って出たが、日銀は、消極的。
この本にも、ドイツの話がでてきます。
戦前のドイツで、大恐慌に際して、ドイツ社会民主党の蔵相ヒルファーディング(著名なマルクス経済学者)らが財政均衡にこだわり、失業問題を深刻化したことで、結果的にナチスの台頭を招いた
■インフレ目標、金融緩和と公共事業は日本の不景気を救うか
経済は、「消費」(家計)と「投資」(設備投資)と「政府支出」と「輸出」が基本(総需要)と言われています。
小泉改革以後、一貫して、労働者全体の給与取得は減少しています。企業の収益や内部留保、株式配当は急増してきました。
ですから、需要(消費)を増加させるために労働者の給与所得をあげることが必要です。
でも、労働者の所得を増加させるためには、企業が設備投資を行い収益をあげることができなければ、労働者の給与はあがりません。政府から給与は払われないのですから。
とすると、まず投資(民間企業の設備投資)と政府支出(公共事業)を増やす方法しかないのでは。
左派は、アベノミクスを批判して、「労働者の給与や所得をあげることが必要だ」と非難します。でもどうやってか。その方法論がありません(最低賃金アップくらいか)。
計画経済の共産主義国家であれば、政府が賃金あげろと企業に命令できるでしょうが、資本主義国家では、財政政策や経済政策を通じて行うしかないでしょう。
その方法論としては、インフレ目標と政府支出(公共事業)を増加させるしかないように思います。もちろん、政府支出は無駄な公共事業は回避し、本当に必要な社会基盤の国土強靱化や福祉に支出されるのか、自民党だから心配ですが。これは各論。
民主党は、この補正予算に反対するそうですが、民主党政権の3年間には増税が決まり、景気はまったく良くならなかった。アベノミクスは、現段階では結果を出しており、方向性は間違っていないことを証明しつつあるように思いいます。
民主党や左派が、補正予算を、財政均衡のためにだけ反対すれば、さらに参議院選挙では惨敗することでしょう。
■労働者の賃上げの第一次的責任は労働組合にある
ヨーロッパの社会民主義政権だと、こういうときには、政労使の円卓会議を開いて、賃上げについての合意を呼びかけるでしょうね。民主党はそれさえできず、決めたのは増税だけ。
安倍首相は、経営者団体に、労働者の報酬を増やすように要請しました。なかなかやりますね。
労働者の賃上げに、もっとも責任を負っているのは、労働組合でしょう。政府が、民間労働者の賃上げを直接、命令できない以上、労働組合が、ストライキをくんで賃上げを要求しなければなりません。
それもしないで、アベノミクスを非難する労働組合って、どうでしょうか?
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コメント
私が、安倍政権を支持し、労働組合を非難していると受け止められる方がいらっしゃるようです。
でも、そういう趣旨ではありません。
私は、安倍政権の憲法改正や自衛隊の国防軍化などには反対です。
でも、だからといって、アベノミクスの経済政策として有効な部分までを攻撃するのはおかしい、という趣旨です。
労働組合としては、企業に対しては、「インフレ目標を掲げるアベノミクスを支持するなら、賃上げをしろ!」と、ストライキを構えて賃金闘争をするべきだ。
また、政府に対しては、アベノミクス反対という総論ではなく、「賃上げをする企業を税制的に優遇しろ」とか、「最低賃金を上げろ」、「生活保護を切り下げるな」という具体的要求をしたらという極めて、シンプルな微温的な左派的な要求をしたらと言っているだけです。
投稿: 水口 | 2013年2月17日 (日) 06時03分
先生のご意見に全く同感です。
アベノミクスというよりかはアベノミクスに含まれるケインズ政策に支持的な左翼学者・活動家のサークルをご存知でしたらご紹介いただけませんでしょうか?
日本の左翼・「社会民主主義者」が反ケインジアンであることを憂いています。
先生の投稿を拝見して少し勇気付けられました。
投稿: 海野 弾 | 2013年4月 6日 (土) 03時30分