「維新の会」の「雇用」に関する公約 最低賃金廃止・解雇の規制緩和
■先週金曜日朝日新聞の記者から、「維新の公約で、最低賃金制度の廃止と給付付き税額控除制度での所得保障が提案されているが、これをどう考えますか?」と電話で問い合わせがありました。
■維新の基本方針-「労働市場の流動化させる」
政策実例:「非正規・正規の公平性、解雇規制の緩和、最低賃金制度の廃止=給付付き税額控除など負の所得税の考え方で一定の所得保障」
解雇規制を緩和し労働市場を流動化しても、「非正規」の雇用不安や低労働条件は改善されません。「正規」が「非正規」並みの雇用不安と低労働条件になるだけです。低い方の非正規の基準で公平性が実現するということになります。
■最低賃金制度の廃止について
「最低賃金制度は、憲法25条の生存権(健康で最低限度の文化的生活)、憲法27条2項の(勤労条件の法定原則)によって定められているから廃止は、憲法違反になる。また、最低賃金制度に関するILO26号条約を日本は批准しているから、廃止はILO条違反。給付付き税額控除制度で補填するのは非現実的。」と一応コメントしました。もっとも、記事には引用されませんでしたが。
■給付付き税額控除制度
この制度は、英米だけでなく、フランス等でも導入されています。この給付付き税額控除制度の考え方は、所得税控除するだけでなく、課税最低限に達しない場合には、差額を現金として給付するというもののようです。
例えば、課税最低限度を年間所100万円だとして、年間80万円しか勤労所得がない人は、勤労所得を税務申告すれば、差額20万円を国庫から給付されるというものです。
■最低賃金制度の問題点
給付付き税額控除制度は、働いている人にのみ給付されて、働いていないと給付されないものですから、生活保護受給者の雇用促進のためという面がありました。
近年は、低賃金労働者を保護するための政策として注目されています。低賃金労働者の保護する政策の代表的制度は、最低賃金制度です。ただ、最低賃金制度を大幅に引き上げると中小零細企業が支払うことができず、かえって低賃金労働者の雇用が縮小してしまうという問題点があることが指摘されてきました。最低賃金が時給1000円とする場合には、中小零細企業への補助金が膨大に必要となると言われています。
これを回避するためには、給付付き税額控除制度が合理的ではないかという提案は確かにあります。国庫からのお金を事業主に渡すよりも、労働者に直接に渡した方が簡明ということです。
■最低賃金制度と給付付き税額控除制度と納税者背番号制
諸外国においては、米国でさえ、最低賃金制度と給付付き所得控除制度がセットになっています。それぞれの政策目的に応じて両者が組み合わされているようです。
最低賃金制度は賃金の下支えとして重要です。税務申告をしなければ、支給されない給付を待っていては、日々の生計は不安定ではないでしょう。
また、給付付き所得控除制度を導入するためには、納税者総番号制を導入しなければ、不正受給問題に対応できないでしょう。給付のための予算がどの程度になるのかも不透明です。
やはり、「最低賃金制度の廃止=給付付き所得控除制度」という政策は、「給付付き所得控除制度」の内容が具体的ない以上、無責任な暴論ではないでしょうかね。
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コメント
おっしゃることがよく分かりません。
労働市場が流動化すれば、待遇の悪い会社には人が集まらなくなります。
最低所得保障があればなおさらですね。
だから、市場全体で賃金水準の相場が形成されます。
よく言われる「同一労働同一賃金」ってこのことです。
解雇がほぼ自由なアメリカやシンガポールは、労働者がみんな貧乏なんでしょうか。違いますよね。
投稿: ぶひくん | 2012年12月 2日 (日) 06時57分
コメントありがとうございます。
先ず、法律論として、残念ながら、日本では「同一労働同一賃金の原則」を定めた法規範は存在してませんでした。 したがって、同一労働であろうと、契約で別の合意をすれば、賃金は別であっても法的には問題になりませんでした。
労基法4条は男女同一賃金の原則を定めたものであって、同一労働同一賃金の原則ではありません。今般の労働契約法の改正によって、来年4月から施行される改正労働契約法20条で、はじめて、有期労働契約による不合理な労働条件の格差を禁止する条文ができて、やっと同一労働同一賃金の原則に半歩進んだ状態です(維新の会の基本方針では論理的にも政治的にも、このような法律は絶対、制定されません。自民党ではなく、民主党だからこそ制定された法律でしょう。)。
したがって、正社員と非正社員とが同じ労働をしていようと、契約で異なる賃金を合意すれば、法的には有効です。これは契約の自由の範疇で、司法や法律がとやかく言える問題ではないというのが、日本の裁判所の大勢です(丸子警報器事件長野地裁上田支部判決だけがこれに異を唱えた。あと全部負け)
「解雇自由」になれば、もちろん「賃金」は労働市場で決まります。この場合には、なんらの法的規制がなければ、労働条件は、どんどん低くなるのが現実です。このことは19世紀にすでに実証されています。
現代においては、グローバル経済が進展し、ベトナムの労働者と日本の労働者が比較されるのですから、結果は目に見えています。ベトナム労働者と日本の労働者が同一賃金であれば、日本人は安くなるし、安くならないのであれば、日本から企業はベトバムに工場を移すだけです。これが自由な市場経済と企業の合理的な行動です。
よって、「維新の会」の解雇規制の緩和と雇用の流動化、最低賃金制度の廃止によって、日本の労働者の賃金水準は下落することは間違いないのです。それが、労働力の流動化、自由市場の帰結です。そうなったほうが、経営者にとって都合が良いのです。
シンガポールが労働者がみんな 貧乏かどうかは知りませんが、アメリカの労働者は、ヨーロッパに比較して、不景気になれば、みんな貧乏だと思います。何しろ、いつ解雇されても文句はいえまえせん。
これまで、アメリカが、そこそこの生活水準が維持できたのは、解雇自由のおかげではなく、アメリカの経済成長のおかげでしょう。でも、それももはや、維持できなくなったと思います。
まさか、解雇自由であったから、アメリカ経済は好調なのだ、なんてことは言わないでくださいよ。
投稿: 水口洋介 | 2012年12月 2日 (日) 09時52分
「階級闘争史観」って奴ですね。
19世紀とは違い、国境すら無意味になりつつある現在、一物一価の法則は成立しやすくなっているでしょうね。当然、新興国との間で収斂していくことになるでしょう。
と言って、雇用規制が今のままであれば、正社員の今の雇用・賃金は守られるかもしれませんが、労働需要が減るので、非正規の人はより劣悪な状況に追い込まれます。
失業者も増えるでしょう。
たぶん弁護士さんにも色々いらっしゃるとは思いますが、この宮本督氏のように、きちんと現状認識し、正論を述べておられる方もおられます。
http://matome.naver.jp/odai/2135358080478564501
法律・判例が実態経済に合わなくなっているのであれば、そちらを変えるのが筋だと思われますが。
投稿: ぶひくん | 2012年12月 2日 (日) 11時44分
はあ。現時点で、解雇規制緩和をすれば、労働者の労働条件が低くなるって、当たり前じゃないのでしょうか。これは「階級闘争史観」とか「唯物史観」かんとかは何の関係もないと思います。
まともに過去の歴史に学び、現状を見れば当然の帰結だと思います。
その弁護士さんて、最高裁判決が間違っているってホームページで自分の見解を書くのはもちろん自由です、
ただし、解雇権乱用法理は、既に労働契約法16条が制定されており、単なる判例法理ではありません。この法律を改正しない限り、解雇規制はかわりません。この労働契約法16条の廃止を公約するのが、維新の会ということですね。使用者は、いつにても労働者を解雇することができるというわけです。
日本の労働者の賃金が高すぎるから、解雇の規制を緩和・自由化して成長軌道にのせようというのが、新自由主義で、たぶん貴殿の考え方なのでしょう。
私は、その道は、歴史的に見て、何度も試され済みのの道で、そうなれば、ただただ労働者の労働条件が低下して、社会の不安定化が促進して、経済的にもうまくいかなくなると思っています。
両者は平行線ですね。最終的に、今回の選挙で、国民自身が選ぶのでしょう。そして、維新の会や自民党が勝利するのでしょう。
投稿: 水口洋介 | 2012年12月 2日 (日) 12時58分
給付付き税控除と最低賃金の撤廃は混ぜ合わせるととんでもないことになります
最低賃金制度がない時代にスピーナムランド制度という最低生活費を支給する制度がありました
当初はうまくいっていたんですが、企業は賃金を切り下げてしまいました。その結果、財政負担が大幅にましてしまいました。おまけに低所得者層はいくら働いても賃金が上がらないということで労働意欲が大幅にそがれてしまい、数年で廃止されてしまいました
ちなみに企業が賃金全く支払わない場合、7兆円近い財源が必要になります
(詳しいことはリンク先を見ればわかります)
投稿: こねこねこ | 2012年12月 8日 (土) 12時38分