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2012年12月27日 (木)

2012年12月の衆議院選挙結果に思う

■自民党の圧勝?

自民党の議席は294議席(小選挙区237[得票率43%]、比例代表57[得票率27.6%])で圧勝です。もう民主党と組む必要はなくなりました。自公政権が参議院で過半数を持たなくとも、3分の2で再議決できますから。

ただ、この自民圧勝は小選挙区効果による結果です。この議席占有率が「民意」を表しているとはとは言えません。

投票で示された「民意」が反映しているのは、比例代表での結果です。

自民党  27.60%(前回26.73%)
維新   20.37%(前回 -    )
みんな   8.67%(前回 4.27%)
公明党  11.80%(前回11.45%)
民主党  15.90%(前回42.41%)

共産党   6.10%(前回 7.03%)
社民党      2.30%(前回 4.27%)
未来の党  5.60%(前回 -    )


投票率  59.3% (前回69.2%)

自民党の比例代表での得票率は、前回を1%程度上積みしただけにすぎません。ですから、自民党が圧勝したわけではない。しかし、維新の会が大躍進で、20%を超えました。みんなの党も倍増して8%です。この三党で56.7%もの支持を得ているのです。

■憲法改正派が過半数を超えた

この3党の基本政策は、ほぼ同一です。憲法改正について積極派です。つまり、憲法改正派の合計が56.7%で過半数を超えた(前回は30.1%)。これが今回の総選挙の最大の特徴だと思います。

安倍自民党総裁は、「憲法改正」、自衛隊の「国防軍」化、「日米関係の修復」、「原発維持」を強調していました。また、デフレ脱却を目指す金融緩和策とインフレ・ターゲット政策、10兆円補正予算による公共事業増大を唱えていることも大きく報道されていました。

維新の石原慎太郎代表による対中国強硬策、憲法改正(破棄)、原発容認の姿勢は明瞭です。みんなの党も、憲法改正派でした。

そして、三党に共通するのは、「小さな政府」志向と、官僚・公務員叩きです。
国民は、このような争点を理解した上で、自民党、維新の会、みんなの党を選択したと考えるのが素直な見方でしょう。

■「民意」=多数の内容

その「民意」が示すところは、「憲法改正・国防軍化の容認」、「日米同盟への支持」、「官僚(公務員)支配の打破」だと言えます。

特に、「憲法改正、国防軍、日米関係の修復(強化)への支持」に関しては、この間の尖閣諸島での中国の攻勢、北朝鮮の核兵器開発・ミサイル実験などのアジア情勢の緊迫化が大きく影響しているのでしょう。

国民は、中国の経済的・軍事的な脅威に対して、平和主義・協調主義路線では安心できず、米国との軍事同盟と自国の軍事的強化を容認したと言って良いでしょう。

そうでなければ、比例代表での自民党の微増、維新の会やみんなの党の躍進は説明できません。

■戦後民主主義消滅の区切りの選挙

共産党、社民党の得票率は、前回11%あったものが、今回8%に減少をしています。未来の党の5.6%を加えても、13%程度にしかなりません。

もはや戦後民主主義の論理では、中国の経済的・軍事的な急成長、北朝鮮の核武装という東アジア情勢の根本的変化に対して、憲法9条を念仏のように唱える共産党や社民党の


政策では、国民に受け入れられない状況になったと思われます。
今回の総選挙によって、戦後民主主義を国民自ら葬り去った区切りの選挙だったと後世の歴史家が評するように思えます。

■今後

第二次安倍次内閣は、当面は経済政策を集中することでしょう。10兆円規模の公共事業拡大、金融緩和インフレターゲット政策で、少なくとも来年7月までの短期間なら、日本経済を上向きにする可能性は高いでしょう。

その勢いで参議院選挙で、自民党や維新の会、みんなの党が参議院で3分の2を超える勢力になる可能性も高いことでしょう。そして、憲法改正が着手されます。

中国と日本の間で、尖閣諸島衝突は日常化し、軍事衝突に至る危険性が高まっています。数年以内に両国間にて武力衝突が起こるでしょう。これが国防軍化を促進します。
また、中東ではイスラエルがイランの核武装を阻止するために、イランを攻撃する可能性が高まっています。イランが核兵器開発を断念しない限り、この一、二年以内にイスラエル・イラン戦争が勃発する可能性が大。国防軍化した自衛隊は、第二次安倍内閣の下で、イスラエル・イラン中東戦争に派兵されることになるのでしょう。

このような事態を想定して戦後民主主義の遺産を少しでも残すような方策は何か。
個人的には危機感を覚えています。

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2012年12月 2日 (日)

零細企業経営者或いはブラック企業経営者の労働法知識の誤り

次の御仁の発言って法的知識が全くない零細事業主や労働法無視の確信犯的「ブラック企業」の典型ですね。

私も中小企業を経営しているが、社員は全員委託契約だから、最賃も解雇規制も無関係だ。最賃が適用されるような雇用契約をしているIT企業はまずない。ほとんどの労働者はオフィスにも出てこないでPCで作業しているので、時給という概念もない。一般の製造業でも、最賃や解雇規制を守っているのは大企業だけで、そういう規制を強化すると大企業が雇用を減らし、契約労働者が増えるだけだ。
http://agora-web.jp/archives/1504292.html

■基本的な誤解
「社員は全員委託契約だから、最低賃金も解雇規制も無関係だ」と断言していますが、これは労働基準法を全く誤解したものですね。

「委託契約だと労働契約ではない」と誤解しているようです。おそらく、この人が経営する会社では、社員には労働基準法の適用がないと考えて、割増残業手当も払っていないのではないでしょうか。年次有給休暇を付与することもなく、育児休業も認めていない可能性もありますね。また、社会保険(雇用保険、労災保険等)も社員に適用していないのかもしれません。

事業者と従業員との契約が委託契約書や請負契約書など、どのような名称であろうと、実質的に使用従属関係があれば、当該契約は、あくまで労働契約であって、労働基準法などの労働法が適用されます。

この人が経営する会社は、社会保険事務所や労働基準監督署が労基法違反等の事象がないか臨検すべき企業の筆頭になりそうですね。

■文章が論理的におかしい
「一般の製造業でも、最賃や解雇規制を守っているのは大企業だけ、そういう規制を強化すると大企業が雇用を減らし、契約労働者が増えるだけ」っていう文章は、論理的におかしい。

大企業が最賃や解雇規制を守っているのであれば、規制を強化しても大企業には影響がないはず。これを言うのであれば、「最賃や解雇規制を守っていない中小零細企業が、規制強化を免れるために、労働者を委託契約社員(この御仁は「契約労働者」と思い込んでいる。)に転換して、委託契約社員が増加するだけ」と言わなければおかしいでしょう。現に、この御仁が経営する中小企業は、社員全員を委託契約にしているのですから。

■だからといって
中小企業は別として、零細企業の経営者の中には、法的な知識がないために、このような明らかな誤りを発言する人が、まだまだ多いのが現実です。

だからといって、私は、この御仁のことを「彼の頭が悪いのはしょうがないが、せめて知らないことには口を出さないほうがいい。」なんていうつもりは毛頭ありません。

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「維新の会」の「雇用」に関する公約 最低賃金廃止・解雇の規制緩和

■先週金曜日朝日新聞の記者から、「維新の公約で、最低賃金制度の廃止と給付付き税額控除制度での所得保障が提案されているが、これをどう考えますか?」と電話で問い合わせがありました。

■維新の基本方針-「労働市場の流動化させる」
政策実例:「非正規・正規の公平性、解雇規制の緩和、最低賃金制度の廃止=給付付き税額控除など負の所得税の考え方で一定の所得保障」

解雇規制を緩和し労働市場を流動化しても、「非正規」の雇用不安や低労働条件は改善されません。「正規」が「非正規」並みの雇用不安と低労働条件になるだけです。低い方の非正規の基準で公平性が実現するということになります。

■最低賃金制度の廃止について
「最低賃金制度は、憲法25条の生存権(健康で最低限度の文化的生活)、憲法27条2項の(勤労条件の法定原則)によって定められているから廃止は、憲法違反になる。また、最低賃金制度に関するILO26号条約を日本は批准しているから、廃止はILO条違反。給付付き税額控除制度で補填するのは非現実的。」と一応コメントしました。もっとも、記事には引用されませんでしたが。

■給付付き税額控除制度
この制度は、英米だけでなく、フランス等でも導入されています。この給付付き税額控除制度の考え方は、所得税控除するだけでなく、課税最低限に達しない場合には、差額を現金として給付するというもののようです。

例えば、課税最低限度を年間所100万円だとして、年間80万円しか勤労所得がない人は、勤労所得を税務申告すれば、差額20万円を国庫から給付されるというものです。

■最低賃金制度の問題点
給付付き税額控除制度は、働いている人にのみ給付されて、働いていないと給付されないものですから、生活保護受給者の雇用促進のためという面がありました。

近年は、低賃金労働者を保護するための政策として注目されています。低賃金労働者の保護する政策の代表的制度は、最低賃金制度です。ただ、最低賃金制度を大幅に引き上げると中小零細企業が支払うことができず、かえって低賃金労働者の雇用が縮小してしまうという問題点があることが指摘されてきました。最低賃金が時給1000円とする場合には、中小零細企業への補助金が膨大に必要となると言われています。

これを回避するためには、給付付き税額控除制度が合理的ではないかという提案は確かにあります。国庫からのお金を事業主に渡すよりも、労働者に直接に渡した方が簡明ということです。

■最低賃金制度と給付付き税額控除制度と納税者背番号制
諸外国においては、米国でさえ、最低賃金制度と給付付き所得控除制度がセットになっています。それぞれの政策目的に応じて両者が組み合わされているようです。

最低賃金制度は賃金の下支えとして重要です。税務申告をしなければ、支給されない給付を待っていては、日々の生計は不安定ではないでしょう。

また、給付付き所得控除制度を導入するためには、納税者総番号制を導入しなければ、不正受給問題に対応できないでしょう。給付のための予算がどの程度になるのかも不透明です。

やはり、「最低賃金制度の廃止=給付付き所得控除制度」という政策は、「給付付き所得控除制度」の内容が具体的ない以上、無責任な暴論ではないでしょうかね。

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